21:剣を抜かずとも奴は死ぬ
オルフィアたち王国騎士が姿を見せたのは、三人が朝食を終えてのんびりとくつろぎ始めた頃合いのことだった。
「せ、先日は大変なご迷惑を……わた、わたっ……私の不手際で真田殿を死なせてしまい、申し開きの言葉もなく……」
先頭に立つオルフィアは開口一番そう言って頭を下げ、菓子折を差し出した。
「その上、何の謝罪もないままに現場から逃げ出してしまっ……えっ? あ、あれっ?」
「あ、この前の女騎士だ」
「い……生きてる!? そんなハズは……よく似た別人? 双子か何か!? 何がどうして……」
そんな彼女はコーヒー片手にくつろぐ真田の姿を見るや目を白黒させて唇を戦慄かせた。
「なぁノエラ、連中に俺のこと説明してねぇの?」
「だって、ここから出て行けとかいう意地悪な人たちだよ。お話したくない」
珍しくご立腹のノエラ。それに同意するかのようにサリエルが黙って頷く。
そうする内、オルフィアは真田生存の衝撃から立ち直ったらしい。
「あんなグチャグチャの状態からどうやって生き延びたのか知らないが好都合! 真田進、領主の名の下に貴公を拘束し強制退去させて貰う!」
言うが早いか彼女は右手を突き出し聖句を唱え始めた。
周囲の騎士たちは前回同様、慌てて止めようとするが――。
「今度は大丈夫、傷付ける技ではない――聖なる力よ彼の者を縛れ! 聖鎖術!!」
「うぉおっ!? なんだコレぇ! 床から鎖がっ!!」
光り輝く太い鎖が真田の足下から何本も飛び出し、彼の身体へ幾重にも絡み付く。
「聖鎖の出現を確認。その太さと量から、かなりの使い手と推測」
「ふふっ、そこの天使は気付いたらしいな。自慢ではないが神聖魔法ならば騎士団で私の右に出る者はいない! 我が拘束、抜けられるものなら抜けてみろ!」
「ンぎえぇぇぇェェェーーー……! く、鎖が……重い! 食い込む……腕が! 脚が! アバラが折れぇアァァァ……ッ!!」
ベキボキと骨が折れ砕ける音と真田の絶叫が重なった。
「ええっ、いまの音は何!? ただ拘束するだけの魔法なのにどうして骨折するの!?」
「ギャアァァァっ! 腰が! 背骨がッ!!」
「真田の全身骨折を確認。回復を実行します」
傍らに控えるサリエルがすかさず回復を行い、聖なる燦めきが真田の骨折を瞬く間に癒やす。
「ナイスだサリエル助かっ……てねえェェェェェ!! く、鎖が解けてないからまた折れ……ッ! ぎぇっ! んぎゃああぁぁぁぁッ!!」
再び折れ砕ける真田の全身。回復によって間引かれた骨は先よりも脆く容易に砕け散る。
「ひぎいぃぃ……い……胴が締め付けられて、息が、呼吸が……ひっ、ヒぃっ……ひぐっ……!」
「なんで!? どうして!? か、解除? そうだ、魔法を解除すれば……!」
状況を把握したオルフィアがようやくホーリー・バインドを解除すると、輝く鎖は光の粒へと分解されて虚空へと消え去った。
床に残るのは鎖に押し潰され、踏まれたカエルのようになった無残な男の死体のみ。
「真田進の死亡を確認」
「う、うそ……ウソよ、そんな筈ない……聖鎖術は非致傷性だもの、傷付く筈が、死ぬ筈が……こんな轢死体みたいになる筈が……ないのに……!」
慄くオルフィアに騎士団の面々は「やっちまった」と顔を覆って天を仰ぐ。
「わたっ、私のせい!? また私!? え……ち、違うよね? だって拘束魔法しか使ってなぃ……剣も抜いてないのにぃ!!」
納得がいかない様子で声を上げるオルフィアを尻目に、騎士団の面々はノエラとサリエルへ恭しく頭を下げる。そして彼女を引き摺って、真田ハウスからそそくさと立ち去った。
「ただいまー……いやぁ、鎖って重いんだな。今回の死因、全身骨折によるショック死と窒息死のどちらにする? って女神様に聞かれちゃったよ」
「あ、ススム。今回は生き返るの早かったね」
「鎖で圧殺されただけで解説の必要がなかったからな。今回が二十回目の死亡だってさ」
「では二十回死亡記念日としてお祝い……否、お悔やみ?」
「どっちでもいいよー! 貰ってたお芋でパンケーキ作る!」
「そういや連中が菓子折を持ってきてたな。それも開けようぜ」
真田ハウスから甘い香りが漂い始め、異世界転生より二十回目の死亡が祝われたのだった。
数日後。
「我ら騎士団の度重なる不手際、誠に申し訳ない」
またもやってきた王国騎士団は、一同で深く頭を下げて謝意を示す。
先頭に立つのはオルフィア……ではない。白い髭をたくわえた年配の男性だった。おそらく彼女の上長であろう。
「まぁ気にしないで……とは言い辛いけど、事情は薄ら察したんでお構いなく」
「ひぃっ!? な、なんで生きてるの……!?」
何食わぬ顔で佇む真田の姿に、年配騎士の隣でしょぼくれていたオルフィアが驚愕に目を見開いた。
「絶対に死んだハズ……そこの天使だって死亡確認とか言ってたのに!」
指差されるサリエルだが表情一つ変えやしない。死亡確認(実は死んでない)など、ファンタジーではよくある話ではないか。
「ねえススム、事情は察したって何のこと?」
「多分だけど騎士団としてはオルフィアに実績を積ませたいんだ。簡単な仕事を任せて成功させ、昇進への足掛かりにさせるとか。だからこの立ち退き案件も、折り合いの良い折衷案があるんじゃないか?」
「理解しました。折衷案の提示で簡単にまとまる交渉。なのに女騎士は交渉相手を殺害してしまう為、有り得ない失敗が発生。仕方なく上長が同行した、ということですか」
三人の考察に騎士団は黙して語らないが、その沈黙こそが雄弁に「肯定」を示していた。
「そっかぁ、オルフィアはポンコツ女騎士なんだね」
「ち、違っ……! 手加減したんだ、当てるつもりもなかった! なのに真田殿は見たこともないような死に方で爆散したり、死ぬ筈のない魔法に潰されて死んでしまったり……!」
「その気持ちは少し分かるよー。ススム、味方には当らない魔法で死ぬ」
「肯定です。真田は回復魔法で死ぬ」
「死……えっ? でもいま生きて……えっ?」
交流が進む程に混乱が深まるオルフィアを捨て置いて、髭の年配騎士が口を開いた。
「またウチの者がやらかす前に、そちらのご理解に甘えて折衷案を提示させて欲しい。こちらには、とある調査への同行報酬として、この地を明け渡す用意がある」
「仕事手伝ったら住んでて構わないってことね。OK、じゃあ交渉成立だ!」
真田と髭の騎士が握手を交わす……と、隣で見ていたオルフィアが「ひっ!」と息を呑んだ。
「危険です! この男、また爆発四散するやもしれませぬ!!」
「ははっ、握手しただけで爆発するわけないだろ?」
「そうだよー、人は爆発したりしないよ?」
「過度な妄想を検知」
「わ、私が変なのか……!?」
こうして真田たちは、騎士団が行う調査に同行することになったのだ。




