20:威嚇だけで奴は死ぬ
ポックロ村、丸洗い大作戦を終えた三人。拠点である真田ハウス(ノエラ命名)への帰り道。
「ごめんなさい。私ばかりがもて囃され、二人の功績が過小に評価されてしまいました」
「気にすることないよー! 元々そんなつもりもなかったから」
「そういうコト。天使に助けられたって方が納得感あるだろ? 人助けは出来たし初取れの芋もお礼に貰って万々歳さ! 芋、蒸してあるけど食べる?」
真田から受け取った蒸し芋をサリエルが頬張る。
「もぐもぐ……元はと言えば私個人に対する依頼。お二人には、ご協力に感謝という他ありません」
「協力も何も、もっと元を正せばサリエルの方が先に俺たちを助けに来てくれたじゃないか。結果的には死んだけど」
「むしゃり、もぐもぐ……正確には真田を助けに訪れたわけではありません。エネルギーの異常を検知し、確認に訪れたのです――ごちそうさまでした」
芋は美味しかったらしい。
「忘れがちだけどススムって転生者だもんねぇ。エネルギー異常の原因?」
「否定します、真田が原因ではありません。検知した異常は、世の理を乱すものです」
「意図しない物理適用で世の理を乱しまくってる気もするけど……ん、なんだあれ?」
真田ハウスまであと少し、という所まで辿り着くと、何やら人だかり目に入った。
白銀の鎧兜を身に纏う集団が家の周りでウロウロしているのだ。
「あのぅ……ウチに何かご用?」
「貴公が家主か。転生者との噂だったが……ふむ、至って普通の男だな」
そう言って集団から進み出たのは年若い女性だった。
明るいブラウンの長髪をポニーテールにした真面目そうな雰囲気の美少女で、周囲の男性と同じく白銀の鎧を身に着けて腰に帯剣している。
「申し遅れた。私はオルフィア・オファーラント――王国の騎士だ」
「うおぉっ! 本物の女騎士! 初めて見た!!」
色めき立つ真田を無視して彼女は続ける。
「貴公が家を建てたこの場所は領主が管理する土地だ。悪いが即刻の立ち退きを願いたい」
「えぇっ!? まだ殆ど住んでもいないのに! 建ててる最中は何も言ってこなかったじゃん!」
「こちらの管理不行き届きは認めよう。というか、まさか毒沼のド真ん中に家を建てる輩がいるだなんて思わなくて……」
視線を逸らして論調を弱めるオルフィアだったが、すぐに襟を正して正面へと向き直る。
「しかしルールはルール。そちらにも言い分はあるだろうが、不法占拠は認められない。もし立ち退かない、というのであれば――」
少女が剣をスラリと抜き、腰だめに構える。すると周囲が慌てて彼女を止めた。
「オルフィア様! いきなり武力行使はあまりに――」
「なに、心配するな……当てはしない。それに相手が転生者だというのなら、舐められるワケにも行くまい?」
コソッと仲間内で言葉を交わし、オルフィアが気迫を強める。
「見るがいい転生者! 我ら騎士の剣技――ナイト・ザッパー!」
振り抜いた剣から迸る剣閃。斬撃の形をなぞった三日月形のエネルギー波が真田に向けて放たれた!
「剣士お約束の衝撃波か! このくらい避ければ……え、速っ!?」
驚く間もなく命中する。
「ぐああぁぁぁッ!!」
「フッ、貴公を傷付けるつもりはない。十分に加減してある。だが従わない場合は本気で――」
オルフィアが手加減した旨を呟くが、それを言い終わるよりも早く真田はボコッと一瞬圧縮された後に黒焦げとなりつつボコンと膨らんで服が弾け飛び、次の瞬間には身体中の穴という穴から凄まじい勢いで謎の気体と体液がラッパのような音を立てて噴出し、その推進力で空中を錐揉み回転してペチャンコになりながら地面に叩き付けられる!
「えっ? えっ!? なんで!? 単なる威嚇なのに! 私、ちゃんと手加減……う、うそっ……!」
慌てるオルフィアに周囲の同僚が「あー、やっちまった」的な視線を送る。
「ススム! ススムうぅぅぅーーーっ!!」
「真田の死亡を確認。原因は剣技ナイト・ザッパーで確定」
「ち、違うの……こ、殺すつもりは……!」
血飛沫が雨のように降り注ぎ、白銀の鎧を鮮血に染める。
「いやあぁぁぁぁーーーっ!!」
青い顔で走り去るオルフィア。その後を追い、他の者たちも姿を消した。
そして、その頃の女神空間――。
「普通さあ、剣の技とか食らったらズバッと真っ二つに両断されたりするもんじゃないの? なんかエグい死に方したんだけど」
「剣技ではありましたが、真田さんが受けたナイト・ザッパーという技で飛んできた三日月。あれは超高圧と超低圧の複合波なのですよ」
エントロピアが剣に見立てたホウキを構えながら語る。
「剣を超高速で振った際、前方の空気が猛烈に押し潰されます。これにより剣の軌道に合わせて断熱圧縮された超高圧・超高温の空気の壁が発生。これが三日月の先端部です。同時に剣が通過した直後には高度な負圧――真空に近い空間が生まれ、三日月の内側を形成します」
振り下ろしたホウキが弧を描く。
「この『高圧の壁』と『真空の塊』がペアになって慣性で前方へ飛んでいく。これが『三日月状をした衝撃波』の物理的な正体です。そしてこの衝撃波を受けた真田さんは、まず高圧の空気に激突されてベコッとへこみ、ジュバっと高熱の空気に焼かれます。ここまでが三日月の先端部分のダメージですね」
「それだけで十分に死ねるんだけど」
「続けて真空に近い空間が真田さんの身体を包みます。周囲の気圧が急激に下がるので体内の空気が『ボイルの法則』に従って爆発的に膨張。肺胞は内側から引き裂かれ、胃腸の中のガスは逃げ場を求めて上下の出口へと殺到。勢い良く噴出して天使のラッパを鳴り響かせた……というワケです」
何処からか取り出したラッパをパプーと鳴らし、エントロピアは晴れやかな笑顔を見せた。
「ふぅっ! 久々に解説が出来て満足です。皆さんがお芋を育ててる間、殆ど出番がありませんでしたからね」
「そりゃ良かった……そういやあのオルフィアとかいう女騎士、なんか手加減したらしいんだけど」
「あー……彼女的にはナイト・ザッパーを受けた真田さんが『くっ! 加減してこの威力だと!?』とか言って怯む展開にしたかったのでしょうけれど、いくら手加減しても衝撃波が発生してる時点でキル確定みたいな所がありますから。勢い良くダンプに轢かれるか、ゆっくりダンプに潰されるかの違いみたいな?」
死ぬことには変わりがないらしい。
「そんな所ですかね。では、そろそろお仲間の所へ転送しましょうか」
「うん、お願い。でも何か忘れてるような……そうだ、土地の件だ! エントロピア様が紹介してくれた毒沼の土地! そもそもオルフィアが来たのだってアレのせ――」
瞬間、視界が暗転して周囲の景色が切り替わる。
「真田の出現を確認――おかえりなさい。先の騎士たちは一時撤退後、戻っていません」
「くっ、逃げられたか……いや、さっきの連中じゃなくて女神の方ね」
「女神様のことはよく分からないけど、あの人たちなら近いうちにまた来るんじゃないかなって思うよー」
「来なくていいんだけどなぁ」
真田の願いは天に届かず、数日後。ノエラの予想通りにオルフィアたちは再び姿を見せたのだった。




