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俺だけに物理法則が厳密適用される楽しい異世界ライフ――今回の死因は「断熱圧縮」です――  作者: かっぷ


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2/5

2:奴はアホだけど根性だけは無駄にある

 世界の全てが静止して、辺りが静寂に包まれる。

 二度目の時間停止。

 初回はワケも分からないまま死亡した真田だったが、今回は違う。

「お、オごォ!?」

 意味を理解した上で、死につつあった。

「ぐえぇぇぇ……っ!!」

 背を預けた壁へ、凄まじい勢いで押し付けられる。

 骨という骨からミシミシと嫌な音が響き、筋肉が潰れて内臓が拉げる。

 初回は激突死だったが、今回は圧死するのか。少しでいいからスカートの中を覗きたかった……。

 薄れ行く意識の中で真田はそのように考えていたが――。

「……くはっ!」

 ギリギリのところで辛うじて耐えきった。

「うぐぅ……! 壁にめり込んだから、ちょっとだけ衝撃が吸収されたのか……助かったぜ」

 背を預けていた壁が少し柔らかかったが故の奇跡だった。

「よ、よし……これで自由に動ける。満を持してスカートの中を……」

 痛みを堪えて安堵の息を吐き、息を吸おうとして――動きが止まる。

「……!?」

 息が、出来ない。

 より正確に言うなら、息を吐けるが吸うことが出来ない。

 例えるならラップで口と鼻を塞がれたような感覚。

 空気を吸おうとすると僅かに吸えそうな感覚はあるのだが、肺まで吸い込むことが出来ない!

「ぐ、あァ……! はぐゥ……っ!!」

 金魚のように口をパクパクさせ、目の前に存在する空気を吸おうとする。しかし確かに存在するソレは、まるでガラスを舐めているかのようで全く微動だにせず、そこに在り続ける。

「あ、あっ!? はぐっ……うぅあぁーーー……ぐぇ」

 数分後。短い断末魔を残し、真田は意識を手放す。

 異世界に転生して、二度目の死亡だった。


「……はっ!」

「あら、おかえりなさい。忘れ物ですか? まだ何分も経ってませんよ」

 再びの白い空間で目を覚ました真田は、のんびりお茶を飲んでいたエントロピアに食ってかかる。

「なんか息が出来ないんですけど!?」

「でしょうね、空気も止まりますから」

「教えて!? ねぇ、そういうの先に教えといて!? けっこうキツいから! いくら復活すると言っても死ぬのマジでキツいから!!」

 目に涙を浮かべて訴える真田から少し鬱陶しそうに顔を離したエントロピアは、はいはい、と適当な相槌を打ちながら湯飲みをテーブルに置いた。

「仕方ありませんね……じゃあ少しだけ手助けしてあげます」

「おぉ、流石は女神様! 慈愛に溢れてる……!」

 真田に褒められて悪い気はしなかったらしいエントロピアは、小さく鼻を鳴らして眼鏡をクイッと持ち上げる。

「スタート地点を砂漠のド真ん中にしましょう。そうすれば時間を止めても周囲にぶつかる物がないので、長い距離を使って慣性による速度を殺せる筈です」

「おぉっ!」

「そして空気に関しても、時を止める前に深呼吸しておくのはどうですか? そうすれば息が続く間は行動出来る筈ですよ」

「そうか、なるほど! 流石に賢い……眼鏡キャラは伊達じゃない!」

 それほどでも、と微笑して、エントロピアは湯飲みの茶を啜った。

「それでは、早速ですがスタート地点に送って差し上げましょう」

「あー……ちょっと待って、聞きたいコトあるんだ。空気のことなんだけどさ」

 クロールでもするような動作をしながら真田が尋ねる。

「なんか時間を止めて動こうとすると、空気がネバ付くっていうか……重たい水の中にいるみたいな感じになるんだけど、アレはなんで?」

「ああ、それはですね……真田さんが触れた物は、時が止まってても動かせる設定にしてあります。なので触れた部分の空気だけ押し退ける感じが、水の中にいるような感覚になってるのでしょうね」

 なるほどと真田が頷くと、エントロピアは人差し指をピコピコ動かして得意気に言った。

「せっかく時を止めても動けないし、動かせない。これではあんまりでしょう? なので、ちょっと面倒ではありましたが、そのように設定しました。これは女神の慈悲ですよ?」

「ありがとうございます! 流石は女神エントロピア様っ!!」

 深々と頭を下げる真田。スカートの中を覗けるという可能性が、彼をどこまでも謙虚にする。

「では、質問は以上で構いませんか? 送りますよー……」

 女神の声が最後まで耳に届くよりも前に、真田の肉体は一瞬にして白い部屋から灼熱の砂漠へと転送された。

「仕事が早いな。確認事項に漏れがあるような気もするけど、まぁいいや。えと、ここは……」

 さんさんと照りつける太陽。両脚は細い砂にめり込んで、そこへ濃い影が落ちる。

 一瞬にして肌が灼け、汗が噴き出す。だがその汗も瞬時に乾き、不思議と体感温度はそれほど高くない。

「見渡す限りの広大な砂漠……よし、ここならイケる。俺の能力をフル活用出来る……!」

 なるべく平らになっている場所へと移動した真田は、何度も深呼吸をして空気を肺いっぱいに取り込んだ。

 そして心を研ぎ澄まし、精神を集中させて――。

「時間停止!」

 三度、世界が止まった。

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