18:水魔法と凝縮熱と結露と脱水症状
早朝、薄靄の掛かるポックロ村。
「ってワケで、今日から丸洗い大作戦だ! OK?」
「もちろんOK! ここまで出番ナシだったから、張り切っちゃうよ!」
「私もOKです。問題ありません」
芋畑に集まった三人が気合いを入れる。
「じゃ、予定通りに役割分担だ。サリエルは芋が枯れないよう定期的に回復。んで合間で町に行って石灰を買ってきてくれ」
「石灰とはグラウンドに線引く白い粉と認識。ポックロ村体育祭を開催?」
「異世界にも体育祭あるんだ……でも今回はグラウンドの線引き用じゃない。土から悪いモノを引き剥がす為に、土へ混ぜ込む用だ」
エントロピアのメモを確認しつつ真田が続ける。
「石灰を土に混ぜて悪いモノを引き剥がしたら、水をぶっかけて土を洗う! この水を出すのがノエラの役目だ……頼むぞ!」
「任せてよー! こう見えて水系統も習得してるから!」
ノエラが自信満々で魔法のスタッフをくるくると回している。嫌な予感しかしないが、今回の作戦における真水の重要度は高い。
「石灰を散布して畑を耕すのと散水作業は俺がやる。ってか俺がやんないとファンタジックにふわっと処理されて土壌改善出来ないからな」
真田が鍬を担ぎ、ジョウロを構える。
「サリエルが回復しても芋が枯れちゃう原因は土にある! だから土壌を改善し、それから回復! これならイケる! 成功間違いなし! では、作戦開始!!」
そして彼の号令で、夫々に活動を開始した。
まずはノエラだ。
「地面が抉れないように空に向けて打つから、落ちてくるヤツをアイテムボックスでキャッチしてね。んじゃ、行くよ!」
言ってノエラが真上に水魔法を放つ。
「ウォーター・ブリッツ!!」
「オーライ! 良い感じだ……!?」
野球のフライよろしく無数の水弾が空へ打ち上げられ、真田はそれをキャッチすべく構えるが――。
「ンぎえぇぇぇぇッ!?」
ノエラ周辺に噴き出した謎の熱波が彼を容赦なく襲う!
「熱ッ! あちっ、アチいッ!! 何で水魔法なのに熱風が出てんだよ!!」
「さあ? 毎回だけど私に聞かれてもススムにしか影響ないから分からないよ。もっかいやろうか? ウォーター・ボール」
「答えを聞く前にやるな!! うぁっ! また灼熱の……え? あれっ!?」
熱波に身構える真田だったが、今度は何かが違う。
「ぐあぁぁぁッ!? 寒っ! 冷たっ!! 凍る……身体が凍るうぅぅッ!?」
瞬く間に彼の皮膚には霜が付き、足裏が地面に張り付いて、パキパキと音を立てながら全身が凍り付いて行く。
「ひぎいぃぃぃ……凍え死ぬうぅぅ……! 何で水を出してるだけなのに真逆の影響が周囲に出てんだよ! おかしいだろ!!」
「もう一回やったら分かるかな? ウォーター・カッター」
「だから即座にやるなって言っ……!? けはっ! あガっ……!」
三度放たれた水魔法。天高く打ち上げられる刃状の水を見上げる地面の上で、真田は一瞬にしてヒョロガリのミイラのようになっていた。
「うわぁ……ススム、干した椎茸みたいになってるよ」
「い、異世界にも……干し椎茸、ある……のね」
異世界転生から十八回目の死亡は、熱傷と凍傷、極度の脱水という合わせ技による物となった。
――いつもの女神部屋。
傘を差したエントロピアの前で真田が目を覚ます。
「アイテムボックスに水を収納するというから傘を構えてましたのに……死ぬ方が先でしたか」
「なんか今回、三パターンでダメージ受けたんだけど! 何で! アレ何で!!」
にじり寄る真田を傘でガードしつつ、エントロピアが答える。
「水魔法で放つ水を、どこからどのように集めるかでバリエーションが出たのですね。最初の熱は空気中の水分を集めた際の凝縮熱。気体が液体になる際に発生する熱さがあなたを焼きました」
傘で真田を押し返し、エントロピアが続ける。
「次の冷気は……空気を冷やしていくと、ある温度より下で水蒸気が水滴として現れます。そのようにして水を取り出した為、周囲が冷えてあなたを凍らせました」
そして傘を畳んで丸め、代わりに乾物――おそらくスルメだ――を取り出し、彼女は言う。
「最後のミイラ化は、何となく分かりますよね。水魔法が周囲の水分を強制的に徴収し、結果的に真田さんが干涸らびた……というワケです」
「ミイラ以外はよく分からないけど、エアコンの原理? 快適な生活は死と隣り合わせの中にある……!」
「まあ水を調達する方法は無数に考えられるので……安全性を重視するなら、まずは真田さんの物理適用が、どの程度の距離まで働くのかを検証するのが賢明でしょう」
「えっ……めんどくさい」
「言うと思いました」
彼が賢明であるなら十八回も死んでない。
「水キャッチの難易度は上がるけど、ノエラから離れておくようにするよ」
「そうですね、そうしてください」
再び傘を開きながら、エントロピアは真田をファンタジアへと転送させたのだった。
そして何やかんやで真水の確保は完了した。
「やれやれ、なんとか水は調達出来たけど水弾キャッチですっかり水浸しになっちゃったな……お、サリエルお疲れ!」
びしょ濡れの真田が空を見上げると、サリエルが町から戻ってくる所だった。
「真田、石灰を調達しました」
「ナイスだ! やっぱ空を飛べると早いな!」
石灰の入った袋を抱え、サリエルがパタパタ飛んでくる。
だが――。
「あっ」
袋に付着した粉で手を滑らせ、真田へ盛大にぶっかけてしまう。
「ごめんなさい、謝罪します真田……!?」
「ははっ、気にすんなァえエぃいいぃぃぃッ!? 熱ッ!! なんか熱いんですけどおぉォォォ!?」
石灰を被った真田が、突然悶え苦しみ始めた!
「熱っ! あぎいぃぃぃ熱いィィィっ!! 熱が身体中に絡み付くうぅぅぅーーー……ッ!!」
「熱傷を確認。回復を……いや、違います。ここは……!」
転げ回る真田を見てサリエルは考えた。下手に回復すると彼は死ぬ。ならば先に状況を整えるべき!
天使は学習し、改善する。アホの子ノエラとの違いを見せるのだ!
「聖水による冷却を選択! 真田を助けます」
純白の翼から迸る光の粒が、聖なる力に満ちた水滴となって真田に降り注ぎ、彼を冷やす。
「ギョエェェェェ!! もっと熱くなったアァァァァーーーッ!!」
「何故!?」
彼女の疑問に答える者は居らず、程なくして真田は全身火傷によって異世界転生より十九回目の死を迎えたのだった。




