第6話 飛べよ! ドラゴン!(実際の商品とは異なります)
「お前たち兄妹に勝つ! そうすれば私が次代の魔王!」
「……ッ」
「嘘だろ、さっきまであんなに仲良くしてたじゃないか……本当に殺し合いうのか?」
強さだけを求める本能が作り出す弱肉強食の世界。
さっきまで仲良しだった友達が、今では嬉々として命を狙ってくる。
マオキナの肩が震える。小さな手は硬く握られていた。
俺はマオキナが泣いてしまうのではないかと思った。
魔王の娘と言っても、誰だって親しい友人から裏切られれば深く傷つく。
しかし、マオキナの瞳は光を失うことはなかった。
小さな背中に背負う、魔王の娘としての運命。
「分かったわ。アテシ、ペッティーと戦う」
気負いもなく、不安もない。恐怖すらもない。
幼さの中に見え隠れする、挑戦を受ける王者の風格。
マオキナは、紛れもない小さな魔王なのだ。
ペッティーは大きな口を歪ませ、壁に空いた大穴から、暁の中へ飛び出す。
「もう狭い所に閉じこもる必要もない。キュラララララ! これが空、私の世界だ!」
耳に刺さる鳴き声が首筋を舐める。
悠々と空を飛び、マオキナを待ち構えている。
相手は翼を持つ一角獣。
戦うって言っても不利だろ。マオキナは空なんて、そう思ったときマオキナがネズミのように素早く駆け寄って来た。
「お願いがあるの」
拗ねる女の子のように口をとんがらせ、そわそわと動く尻尾。
さっきまでの威厳は何処に消えたのか。
笑ったり、泣いたり、怒ったり。
相変わらずころころと表情が変わるな。
「アテシと一緒に戦って欲しの」
「え?」
「あなたの剣を持つと、アテシは何だか勇気が湧いてきた。戦いの時は、いつも恐くてたまらない。でもあの剣を持った時、何でもできるって、そんな気がしたの」
俺は自分のスキルの特性を理解していない。
もう一度、あの剣を作れるかどうかさえも分からない。マオキナが思う程、俺は頼りにならない。
しかしマオキナを見ると蘇る。妹の花音との思い出が脳裏に過る。
妹の為なら何だってした。それがお兄ちゃんだと思った。
何もしないで諦めるなんて、土産話で花音に話せる訳がない。
俺は全力で唱えた。
「『エクス・プレス・カリバー』ッ!」
光の中から剣の柄が現れる。
成功だ。どうやら、まぐれじゃないらしい。
「俺が出来ることなら何だってやるよ。俺の名前はセツネ。よろしくなマオキナ
「まかせてセツネ、この剣があれば絶対に負けないから!」
突然、身体がずんと重くなる。
そして眩暈。足元が覚束ない。
「あれ――もしかして、これが魔力切れってやつか」
このスキル、燃費が悪いのか、そう何度も使えるものではないらしい。
「大丈夫。後はアタシに任せて、セツネ」
早速、マオキナが光の中から剣を引き抜く。
「ペッティー、アタシが相手になるわ!」
「おっおい、待って! 考え無しに、一本しかないんだぞ!」
マオキナは呼び止める間もなく、穴から外へ飛び出した。
俺は何とかその後を追う。
壁の外には、赤い夕陽がの得ていた。
そびえ立つ三つの塔が、血塗られた槍の様に輝く。
アデルの塔。三つの塔それぞれを石橋が繋ぎ、大きな三角形を形作っている。まるで古城。いや城そのものがダンジョンのようだ。
三角形の中心で、マオキナをペッティーが苛烈な戦闘を繰り広げていた。
「キュラララララ!」
待っていたとばかりにペッティーの攻撃が始まる。
突風と共に、無数の羽が放たれる。
「わっ、きゃああ!」
マオキナは、素早い身のこなしで手投げナイフの様な羽を躱す。
雨のように止まないペッティーの攻撃。
マオキナが避けきれない羽を剣で払い落とす。
すると剣は形を保てずあっという間に崩れた。
「わあああ! もう壊れたわああぁぁぁぁ!
「だから考え無しに突っ込むなよ!」
俺は唇を噛む。
やっぱり強度が全然足りない。攻撃する前に壊される。
身体は鉛のように重い。スキルを使えるのはあと一度っきりだ。
「でも、作るとしても、武器よりも防具を作った方が」
俺は妹にコスプレの衣装も作っていた。
もし俺のスキルがそのことが関係しているのなら、作れるのは武器だけではない。
「キュラララララ! 何もできないまま、終わりになるわよマオキナ」
「もう、ズルいじゃない。一人で飛んでばっかり!」
「うお! あっぶね!」
足元すれすれに突き刺さる。黒羽。
硬化した羽は、深々と地面に突き刺さる。
こんな攻撃をまともに受ければ、俺の体ぐらい簡単に貫通する。
「こんな羽アリかよ。しかも無限に降って来る」
しかし俺は気付いた。一角獣に姿が変わっても、ペッティーの羽は鳥類の羽だ。どんなに硬くなっても、繊維質の羽であることに変わりない。
「なあ、キャーロット、マオキナは強いんだよな? その時になったら本当は何だってできるんだろ?
「いかにも。マオキナ様に出来ないことなどない」
それを聞いて覚悟を決める。
俺は自分とマオキナの未知なる力に掛け、大博打に出た。
大切なのはイメージだ。
このスキルは俺が思い描く物を作り出す。
俺は異世界に来て直ぐの事を思い出す。
そして出来るだけ鮮明に、心の中に思い描く。
イメージする。そして更にその先へ。
攻撃を跳ね返す硬い鱗を。
風を切り裂き、空を支配する翼を。
万象を焼き尽くす灼熱の業火を。
「『エクス・プレス・カリバー』ッ!」
俺は輝く両手を抱え、マオキナに向かって走り出す。
「マオキナーー!」
同時に、おびただしい数の羽が、俺目掛けて降り注ぐ。
「なんと愚鈍な」
キャーロットが悪態を付きながら、レイピアを抜いた。
「『男爵流剣術:夜な夜な衝き』」
幾度も繰り出される、鋭い突き。
キャーロットのレイピアが、迫る羽を打ち落とす。
「貴様を助けた訳ではないぞ」
「分かってる。でも、助かった」
俺は両手を頭の上に高く上げながら叫んだ。
「マオキナーー! ばんざーーい!」
「え? なに?」
マオキナはポカンとした表情だ。
「いいから、ばんざいしろ!」
「ばんざい? こう?」
マオキナが両手を空高くあげる。
俺は両手に抱えた光で一気に、マオキナの頭からつま先までを包み込ませた。
マオキナが光り輝く。
正に少女アニメの変身シーンだ。
「さあ、反撃するぞ。お前は今から最強のドラゴンだ!」
「アテシが、ドラゴン!?」
攻防一体の精製。
一度の生成に、残り全ての魔力を注ぎ込んだ。
俺が期待を寄せる中、光の中からマオキナが姿を現す。
姿を見せたのは真っ赤なドラゴンの着ぐるみだ。




