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第7話 恐れ入りますが返品は致しかねます

 マオキナを包み込む輝きが、徐々に最強の生物を形作る。

 鉄を容易く切り裂く爪。

 嵐を切り裂く翼。

 一振りで町を瓦礫の山に変える尻尾。

 俺のこれまでのゲーム、アニメ、映画で培った知識と印象を注ぎ込む。


 期待と興奮で胸が弾む。男子なら誰でも憧れるドラゴンをこの手で造ろうと言うのだ。

 チート勇者ノエルが葬りし邪竜、ヴェラトリクス。

 その姿が、いま…………っとそんな事を脳内で解説しつつ俺はぐっとガッツポーズを決める。


 しかし、俺の期待はすぐさま裏切られた。


「キャーロット、見てみて! アテシ、ドラゴンの尻尾がある!」


「なっっっ! え!? どうしてだ!?」


 目を輝かせるマオキナを見て、俺は頭を抱えた。


「どうしてだ。頭の中のイメージは完璧な紺色のドラゴンだったのに」


 ドラム缶にドラゴンの頭と尻尾が生えた様な寸胴なフォルム。

 背中にある小さな両翼ではどうみても飛べない。

 短い手足では、動きが大きく制限されてしまう。

 まりでハム。ボンレスハムの如し。

 大きく開いたドラゴンの口の奥から、興奮した様子のマオキナが顔を出す。


 俺の想像のフォルムと全然違う。

 ドラゴンのコスプレ衣装は、空中戦も可能にする攻防一体の一手だった。

 しかし実際はコスプレ衣装とはとても呼べない代物。

 これでは的が大きくなっただけだ。


「マオキナ、直ぐに脱ぐんだ! 破ってもいい。早く着ぐるみから出るんだ!」


 着ぐるみなら、背中にファスナーがある筈。

 俺はマオキナの背後に回ろうとした。


「うっ――!」


 しかし足が動かない。視界がぐるぐると回る。

 これが魔力切れか。気持ち悪い。立っていられない。


「マオキナ、早く」


 俺はその場に倒れ込んだ。


「キャーロット、見てみて! 見て!!」


「これは素晴らしい! マオキナ様がより輝いて見えます!」


 マオキナは着ぐるみの尻尾を抱きしめる。


「すごいすごい! アテシは今、ヴェラと同じ、ドラゴンなのね!」


「戦えるのか?」


「もちろん! ドラゴンは強いんだから!」


 夕日が染める赤い空。

 痺れを切らしたペッティーが猛攻撃を仕掛けてくる。


「なんのつもりか分からないけど、そんな姿で死ぬなんて惨めね。さようならマオキナ。キュラララララ!」


 夥しい数の羽が、手投げナイフのように迫る・


「くそ、動けねえ」


「大丈夫。セツネはアテシが守るわ」


 マオキナは大きく息を吸った。

 ドラゴンの着ぐるみが膨らんでいく。


 一体どんな構造なんだ? 生み出した自分でも不思議に思う。

 全く俺が想定した構造じゃない。


「『ドラゴン・ファイア』ッ! があああおおおおお!」


 マオキナが叫んだその瞬間、ドラゴンの口から放たれる炎の渦。

 迫り来る羽を焼き尽くし、灰にする。


「そんな……そんな、私は進化したはずなのに!」


「があああおおおおお!」


 マオキナは無邪気に雄たけびを上げる。

 全くついて行けない。一体どうなってるんだ?

 

 俺が唖然としている間に、炎がペッティーを捕らえた。

 ペッティーの羽は焼け落ち、成す術もなく、火だるまとなって地面に落下した。


 ボンレスハムの様なドラゴンが、飛び跳ねる。


「今の見た? ねえキャーロット、ちゃんと見た? アテシ炎を出したわ!」


「しかと拝見しましたマオキナ様。正にドラゴンが放つ灼熱の炎の如し! その姿は最早、邪竜ヴェラトリクス様!」


「にっしっし。本当に? ヴェラみたいだった?」


 マオキナとキャーロットは抱き合ってくるくると回る。


「え? お前たち、あの邪竜を知ってるのか?」


「ヴェラトリクス様は、マオキナ様の憧れの存在だ」


「うん! ヴェラみたいに馴れて、とっても嬉しい!」


 ドラゴンの口から、マオキナが満面の笑みが見える。

 これも推し活というものなのだろうか。


 

 地に落ちたペッティーの身体が崩れ始める。

 塵となって徐々に虚空へと消えていく。

 それに気づいたマオキナは、ドラゴンの口からするりと飛び出した。

 ペッティーの元へ駆けよる。


「マオキナ様、やっぱりお強いですね。私が……どんなに頑張っても、敵いませんでした」


「ペッティー、そんな事ない。あなたは本当に強かったわ。アテシ一人だけじゃ勝てなかったもん」


「お優しいですね。私、マオキナ様を殺そうとしたのに……」


 マオキナは体が崩れかけたペッティーに抱き着いた。


「マオキナ……さま?」


「ペッティー、アテシね。必ず魔王になるわ」


「はい……きっとどの魔王よりも強い魔王に成って下さいね」


「それは違うの、ペッティー。アテシはね、強くて優しい魔王に成りたいの」


 マオキナの空色の瞳から、ぽろぽろと涙が零れる。


「もう二度とあなたと戦うのは嫌。アテシは家族と友達と一緒に暮らせる、そんな魔界を創りたいの」


「……」


「アテシは魔界を変える。強くなって、魔王になって、どの世界よりも優しい魔界を創るから、そしたら、ペッティーまた遊ぼう?」


「……え?」


「だって、アテシ達、もう友達でしょ?」


「ふふ。ありがとうございます。マオキナ様」


 ペッティーの身体は完全に消失した。

 魔物は強くなることが使命。その生涯で戦いは避けられない。

 マオキナは魔王となることで、魔界のルールを根本から作り替えようとしている。

 家族と友達と一緒に居たいというマオキナの願い。魔界では決して簡単な事では無い。マオキナが目指す強く優しい魔王。そんなことが可能なのだろうか。


「魔界へ戻ったようですな」


「魔界へ戻った? 死んだんじゃないのか?」


「神の加護を受けず魔物に殺された者は、魔界へ送られる」


「魔界へ? それって人間もか?」


「人間界で生まれた生物は皆、天界の神々の加護を受けている。人間や獣、植物に至るまで。そういう者達は死んでも魔界へは行かない」


「じゃあ、魔物以外は死んだらどうなるんだ?」


「さあな。私は魔物だ」


 天界、人間界、そして魔界。三つの世界から成るこの世界。

 いつか全部の世界に行ってみたいな。


「アテシが勝てたのはセツネのお陰。セツネが居なかったら、アテシは戦えなかった」


「俺だって一緒だよ。マオキナとキャーロットが居なかったら、とっくに死んでたさ」


「不思議……アテシ、こんな気持ち初めて

「はっ。いけませんマオキナ様。このような愚者に恋心など」


「え? な、何を言ってるのキャーロット」


 マオキナは顔を赤くして、隠れるようにドラゴンの着ぐるみに入った。

 ドラゴンがくねくねと身もだえる。


「違うもん! そんなんじゃ……そんなんじゃないもん!」


「何だかドラゴンと言うより、いも虫、ぐうええええ!」


 腹部に激痛が走る。内臓が破裂しそうだ。

 ドラゴン尻尾が俺の腹にジャストヒットした。


「セツネ? セツネーー!」


 マオキナの声が遠のく。


 泣いたり笑ったり、忙しい魔王さまちゃんだ。

 体が重たく成り、やがて感覚が無くなる。

 魔力切れはかなり深刻みたいだ。


 ちょっとだけ、ここで休もうかな。


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