第4話 本当のチカラ!
「うわああぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁーー!」
まるで高層ビルの中を落ちているよだ。
空気が全身を打ちつ。腕や足、指先に至るまで全ての筋肉に"硬くなれ"と脳から直接信号が送られる。
長い!! ながいながいながい!!
落下時間が長い!!
この高さは助からない。
これは……マジでバラバラになって死ぬ!
異世界に来たばかり。まだ名前負けのスキルを使っただけなのに。俺の異世界ライフは早くも打ち切りになりそうだ。
「ごめんなさいーーッぶたないでーー!」
マオキナは落下中も謝罪を続けていた。
ピーピーと泣くその姿に魔王の娘という風格は毛ほども感じられない。
こんなに軟弱で魔王の娘が務まるのかと、こっちが不安になってくる。
俺は躊躇しながらも、そんなマオキナに手を伸ばし引き寄せた。
あの時もそうだった。
ドラゴンの屍が火球となって迫ったときも、呆然と立ち尽くすマオキナを見捨てることができなった。
「えっ? なにっ……どうして?」
マオキナは俺の腕の中でぴたりと泣き止み、きょとんとした表情で俺を見ていた。
この感じ。なんだか懐かしい。
しかし感傷に浸る余裕はない。
このままじゃ2人とも、無慈悲な重力に押し潰されて、ぺちゃんこだ。
いや、マオキナなら大丈夫なのだろか? 魔物なら無傷ということもあり得る。それなら俺がマオキナを引き寄せたのも意味なぁぁぁーーーーッ!!
ダメだ、余計なことを考えるな。集中しろ!
俺は一縷の望みをかけて、片手を下にかざす。
「エクス・プレス・カリバーー! 出ろーー!」
パラシュート? トランポリン?
いいや、違う。
どうせまともに使える物は出てこない。
しかし、ある。
例えハリボテでもこの窮地を脱するためのアイテムが。
俺の手の平が輝き、光ともに現れたのはダンボール箱だ。
「でっ出た! ダンボール箱ッ出たーー! もっと、もっと出ろーー!」
俺は重ねてスキルを発動させる。
何段にも重なるダンボール箱が、茶色い塔を作り出す。
俺はマオキナを抱きしめながら身を固くし、そのままダンボール箱の塔に突っ込んだ。
鼓膜を打つ、連続する破裂音。
潰され、裂け、次々にくしゃくしゃになっていくダンボール箱。
ダンボール箱をひとつ潰す事に、確実に落下速度が減少していく。
ここまで来たら神頼みだ。
叫ぶこともできず、アドレナリンが心臓を強打する。
突如、鈍い音と共に全身が打ち付けられる。
亀裂が走るような鋭い痛み。
薄らと目を開けると、そこには石の地面。
意識が朦朧としながらも執拗に襲ってくる痛み。
この痛み、どうやら命だけは助かったらしい。
マオキナが、ヘビのようにするりと俺の腕から抜け出す。
「なんでアテシを庇ったの? おっ、お礼なんか言わないからね。床に穴を開けたのはあんたの剣なんだから、アテシは悪くないもん!」
「……俺の剣? いや、床はお前の石頭が……」
俺の剣が石床を破壊できる訳が無い。
あのハリボテで壊せるのは豆腐やプリンくらいだ。
マオキナは自分が石床を割ったことに気付いていないようだ。
尻尾を地面に打ちつけ、そっぽを向いている。
頭上に視線を向けると、落ちてきた穴が小さく光っている。
どうやら石造の塔の中を落ちていたようだ。
いまの部屋もさっきまでの部屋と違いはない。
いや、一回り大きいくらいだろうか。
「オレの眠りを妨げるのはお前らか」
突然、暗がりから響く人外の声。
声の主は闇から現れた。
猪の頭を持った魔人だ。
大木の様な四肢は筋肉が隆起し、蹄は鈍器のようだ。
全身に巻き付けた堅牢な鎖の先には、血に染まり、ぴくりとも動かないハーピィのペッティーの姿が。
「魔王の小娘だな。オレの贄を檻から出して逃がそうとするとは」
「主……さま……わたしは逃げるつもりはーー」
「ふん!」
魔人が鎖を力任せに引き寄せ、ペッティーを足元に叩き付ける。そしてペッティーの頭上に太木の様な足を上げた。
ペッティーが潰される寸前。
「ダメ!」
間一髪、マオキナの尻尾がペッティーを引き寄せ、魔人の蹄が空を切る。
「小娘が、オレ達の邪魔をするつもりか」
「……マオキナ、様」
「た、たとえ誰であってもアテシの友達を傷つけさせたりしないわ」
「グララアアガアアア! 生意気な小娘め、その震える体で俺と戦うつもりか? オレはヘルカウ。アデルの塔の主。これ以上邪魔をするのなら、お前から肉片に変えてやるぞ」
「ーーひいいい!」
マオキナはヘルカウのひと睨みで涙を滲ませ、その場に小さくなった。威勢がいいのはほんの一瞬だ。
無理もない。もし俺があんな化物に睨まれたら、縮み上がるだけでは済まないだろう。
良くて気絶だ。最悪の場合は……あまり考えたくない。
「マオキナ様、どうかこちらをお使い下さい」
どこからともなく"髭ニンジン"が現れた。
マオキナに素早く駆け寄ると、武器を手渡す。
「キャーロット? え? これって――」
「はい。異世界転移者が生み出した剣です。その威力はご存知の通り。一撃で硬床を砕くほどです」
髭ニンジンが手渡したのは、俺がスキルで生成したハリボテの剣だ。
嫌な予感がする。まさかその剣で戦うつもりか?
「やばい! ちょっと待――ぐッ」
叫ぼうとしたが、身体中が痛みまともに声も出せない。
何も知らない髭ニンジンが口元を引く。
「必ずやマオキナ様に勝利を齎すでしょう」
剣を受け取ったマオキナが火花を散らし、にやりと牙を見せる。
そして自分の十倍はある魔人を前に、威風堂々と立った。
「にっしっし! アデルの塔の主、ヘルカウ。よくもアテシの友達を随分と痛めつけてくれたわね。ペッティーに代わってアテシが、ぎったんぎたんにしてあげる!」
さっきまで泣きべそをかいていたマオキナは何処へ行ってしまったのだろうか。マオキナは相手を挑発するように、切先をヘルカウへ向けた。
「この剣の錆になるがいいわ! アテシの剣の威力を思い知れ!」
「グラララアガアアアアア! やってみろ小娘!」
雄叫びと共に、ヘルカウが身を屈める。
獣が狩りをするときの前傾姿勢。
その巨躯は、まるで大岩の塊だ。
眼は赤く燃え、曲角がギラギラと怪しく光る。
その体制からの騙し討ちはない。
必ず突進が来る。それも、恐らく迅い。
魔物でも、俺のスキルのせいで誰かが死ぬのは見たくない。
俺は必死に声振り絞った。
「ーーマオキナッ! その剣はダメ……だ。避けろ!」
「アテシに取られて悔しいの? 返さないもんねーー!」
「バカ、違う。その剣は――ッ!」
「グラララアガアアアアア!」
ヘルカウが動く。
石床を容易く踏み砕き、火が付いたように疾走する。
障害物は意味をなさない。
迫り来る、岩よりも強固な筋肉の塊。
それを、マオキナは怯むことなく迎え撃った。
「バカね! 向かってくるなら、正面に振り下ろせばいいだけ!」
「バカは、お前だ! 逃げろ、マオキナ!」
「えくす・なんたらーー」
マオキナがハリボテ剣を振り上げる。
「なんだこれッ!」
すると突然、ハリボテ剣が黄金に瞬いた。
光はマオキナを包み込み、やがてハリボテ剣が輝く。
「――カニバーー!」
振り下ろされる、ハリボテ剣。
すると光が部屋の暗闇を消し飛ばす。
ヘルカウ目掛けて放たれる、黄金の斬撃。
ヘルカウの曲角を砕き、鎖と分厚い筋肉の層を突き抜ける。
「バオオオオオオオ!」
斬撃は更に伸び続け、後方の石壁に大穴を穿つ。
テンポ感、描写量に注意。
情報も出しすぎない。この話で語りたい最低限の内容に止める。




