第3話 俺はとんでもスキルで無想する
突然の魔王軍勧誘に言葉も出ない。
勇者の荷物持ちの次は、魔王の娘から下僕の勧誘だ。
俺の異世界ライフはどこに向かっているんだ?
異世界の就職先はブラックしかないのか?
「ねえ、ちゃんと聞こえた? アテシの仲――下僕に成れって言ってるんだけど」
「聞こえたけど、魔王軍に入れって事だよな? 俺が力になれるとは思えないんだが?」
俺がいくら異世界転移者と言っても、チート勇者ノエルとは雲泥の差だ。
レベルアップもできない俺が魔王の娘の力に成れるとは思えない。
と言うか、この世界でレベルアップできるのが異世界転移者だけなのだろうか。
マオキナの肩から、髭先を指でねじるニンジンが偉そうに見下してくる。
「異世界転移者は、特異な能力を秘めた稀有な存在。その能力が無駄にならないように、マオキナ様が有効活用なさってくれるということだ。有難く立場を受け入れよ」
「う~~~ん…………悪いけど、魔王軍に入るのは、ちょっとな」
「ええええ!? なんでよどうしてよ!」
どうしてって、魔王軍に入ると言うことは、あの冷酷チート勇者ことノエルの敵対戦力に加わるということだ。
直ぐにでも魔王を倒して元の世界に還ると言っていたノエルが、その変の魔王幹部より弱いとは思えない。
あの勇者を相手にするのは無謀だ。
「いや、だって普通にブラックそうだしな……って、え!?」
「……うっ……グズグズッ……」
マオキナの瞳に、涙がウルウルと溜まっていく。
おいおい、さっきまで嬉々と笑ってただろ。
マオキナの表情を見ていると、何故か俺の胸に罪悪感という刃がぐさりと刺さる。
まるで少女をいじめているかの様な気持ちだ。
拉致監禁され、泣きたいのは俺なのだが。
「ふむ。仕方ありません。マオキナ様、遠回りになりますが、まずは街で人間を襲い、どれだけ本気か分からせてやるのです。目の前で首を捥いで見せれば、こ奴も立場を理解するでしょう」
「グズッ……うん、わかった」
「は?」
「一番近い町なら。ここから森を抜けて四時間です。今から出ればちょうど夜に着くでしょう。バレずに攫えます」
「うん……キャーロット、アテシ、頑張ってみる」
「ダメだ! そんな事、許されないだろ!」
マオキナが檻を荒々しく蹴る。その瞳からは今にも涙が流れそうだ。
しかし怒りが滲み出ている。
「あんたの許しなんて要らない。アテシは、どうしても強くなりたいの。お兄ちゃんよりも強くなって、真の魔王になって新しい魔界を創る! そのためなら、人間くらい幾らでも殺してやる! 100人でも1000人でも!」
「真の魔王? お兄ちゃん? なんだそれ、兄弟喧嘩かよ。そんなの黙って見過ごせるか!」
もう騙されない。
可愛かろうが泣いていようが、マオキナは魔物なのだ。
目の前に居るのは邪悪な魔物。人間とは価値観も論理感も全く違う。
俺が首を縦に振らなければ、どれだけの人々が犠牲になるか分からない。
「『ステータス』!」
レベルアップが出来なくても、何かできることがある筈だ。
俺だって異世界転移者。
ニンジンが言っていた”特異な能力”と言うものに望みをかけるしかない。
俺は何か出来ることがないかと、ステータスの表示に望みをかけた。
するとある表示を発見する。
【スキル】だ。
◇スキル:エクス・プレス・カリバー(全てを叶える万能の具現)
「これだ、間違いない!」
その名前が俺の心に希望を灯す。
あの有名な聖剣の名前に瓜二つ。間違いなく最強クラスのスキルだ。
俺は覚悟を決めて、全力で檻の鉄格子を蹴る。
すると錆び切っていた鉄格子は、バキバキと音を立て簡単に外れた。
マオキナとハーピィが悲鳴を上げる。
「きゃああああ! どうやって壊したの?」
「キャアアアア! わたしの檻が!」
「この反応。思った通りだ」
薄々感じていた。
実はマオキナは、とっても弱いのではないかと。
怯えるマオキナを見る限り、その予想は当たっていたようだ。
「観念しろ、悪い子はお尻ぺんぺんだ!」
イメージする。
無力なこの手に強さを。
狂暴な敵に打ち勝つ強さを。
守りたい物を守れるだけの、我儘な強さを。
「『エクス・プレス・カリバーー』ッ!」
目の前に現れる、光の渦。
微かに光の渦から、棒状の何かが飛び出している。
俺は迷わず、それを光から引き抜いた。
現れたのは、輝く剣だ。
「いいぞ! やっぱりチートスキルだった!」
俺も異世界転移者。捨てたもんじゃない。
剣を握りしめ、マオキナへ向かって一直線に走る。
マオキナは泣きながら、手と尻尾をバタバタさせていた。
「ダメダメやだやだ! こないでバカハゲ!」
「俺はまだ高校生だ、禿げてない!」
「助けて、キャーロット、ペッティー!」
「そんな、マオキナ様、わたしでは……マオキナ様、抱き着かないで下さい、飛べません!」
キャーロットが目の前に立ちはだかる。
「人間よ。マオキナ様にその切っ先を向けようものなら……ッグフッ!」
「きゃああああ! キャーロット!」
俺はキャーロットをボールの様に蹴り飛ばした。
こんな小さい魔物、またく問題にならない!
マオキナとペッティーは抱き合って固まる。
相手は、可愛くても魔物だ。情けは必要ない。
「くっ――!」
でもダメだ。剣を振り下ろせない。
ピーピーと小動物のように泣く姿が、花音と重なってしまう。
”判断が遅い”そんな声が聞こえてきそうだ。
躊躇した一瞬、マオキナが両手を高く上げる。
「しまった平手打ち――じゃなくて、魔法か?」
マオキナは魔王の娘。魔法を使えると考えるのが自然。
レベル1の俺には、下級魔法でも致命傷だろう。
俺は後ろに飛んで距離を取り、防御態勢をとる。
盾ではないが、鉄の剣なら魔法を少しは防げるだろうか。
「ん……なんだ? 刃の側面に穴が、あれ?」
その時、俺は異変に気付く。
剣の見た目が異様に安っぽい。
そして軽い。まるで鉄の重みを感じない。
そういう剣なのだろうか。
軽くて扱いやすさに長けている分類の。
俺は注意深く剣を観察する、そして息を呑む。
「やっぱり変だ。この剣、段ボールで出来たハリボテだ!」
刃の側面の並ぶ無数の穴。
これはどう見ても段ボールだ。
鍔は発泡スチロール。
「装飾は……レジンか!?」
まるで妹の為に作る、コスプレの小道具そのもの。
俺のスキルは、俺が想像した物を造り出せる。
しかしそれは全て、手作りのコスプレ衣装、小道具となってしまうのだ。
鋼の盾を造り出しても、魔法どころか矢も防げない段ボール製。
魔法の杖を出したとっころで魔力が上がる訳もなく、強く振れば装飾がバラバラ落ちるほども脆い……そんなスキル。
「くっそ、外れスキルか。なんなんだエクス・プレス・カリバー(全てを叶える万能の具現)って名前は。見栄を張り過ぎだろ!」
こんなハリボテ剣で魔法を防げるはずがない。
躱すか? いや躱せるのか?
この世界ですら、まだ一度も魔法を見たことないのに。
今度こそ助からない。俺は死を予感し内心、縮こまる。
頭の中は身の毛もよだつ恐ろしい想像ばかりだ。
焼死か。感電死か。木端微塵で肉片と化すのか。
マジで漏らすかも……怖すぎる。
その時、マオキナが全身を使って、勢いよく両手を振り下ろす。
「ごめんなさーーい!」
「え?」
謝罪の言葉を叫びながら、何度も土下座を繰り返す。
「ごめんなさい。ごめんなさい。悪いことはしないから、許して下さい。ごめんなさい!」
何度も。何度も……。
その度に、マオキナの額が石床に打ち付けられる。
ついにマオキナの額が石床を割った。
「マジかよ! どんだけ石頭なんだ」
突然、猛獣の雄叫びが轟く。
「グラララアガアアアアア!!」
骨まで響く轟音に、堪らず耳を塞ぐ。
「なんだ……これ、下の階からか?」
「ーーキャアアアアアッ!」
ペッティーが悲鳴を上げながら、薄暗い階段へ引きづり込まれていく。
何者かが、下の階でペッティーの鎖を引いているのだ。
マオキナの土下座はその間も続き、遂に石床に穴を開けた。
穴は更なる崩壊を呼び、部屋中に亀裂が走る。
やがて床が抜け落ち、闇が大きく口を開いた。
「うわあああああ!」
俺たちは、部屋の中のガラクタと共に、真っ逆さまに落ちていく。
「ごめんなさい……ぶたないでーー」
マオキナは落下中も泣きながら謝罪を続けている。
俺達はそのまま落ち続けた。
冒頭から進み物語が進行。
それに伴う文章量、描写量の変更に感触が掴めていない。
無駄な心理描写は大きく削った。その為主人公の価値観が薄くなっている。
正しい事なのかまだ分からない。
11/8 スキルの補足を追加。マオキナの印象の変更。
キャラクターの魅力を引き出すシーンが、プロットの時点で設定出ていない。今後の課題。




