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極秘戦隊マスクトナイツ  作者: 筆折作家No.8
第二章 コイノハナシ
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第十一話 「ドラグナイト・オンライン」 その②

『じゃ、みんなで楽しんで来いよ』

「残念だよ。次は一緒にやろうな!」


 深矩しんくは、いさみとの通話を終了した。


 VRゲーム機“トランステーション”は非常に高価であり、ゲームを愛するファンの中にも手が出せずに悔しい思いをしているものは少なくない。中には複数台所有する人もいるが稀である。


 また、トランステーションの五感再現度はまだまだ発展途上であり、最もフルダイブ型RPGの世界がリアルに体感するには、ゲームセンターや一部のネットカフェに設置された大型マシンが必要だった。あまりに緻密な感覚再現は、一度プレイすると病みつきになってしまうとも言われ、その筐体を自費で購入する猛者もいるらしい……その一人がトールだった。


 トールがマシン以外に1台のトランステーションを所有していたのと、深矩の母親が記事の作成用に購入していた1台があったため、3人まではこのままドラグナイト・オンラインに接続可能。もう2台必要だが、高価なので簡単には手が出ず、店舗に設置されているマシンは予約が必要なので今すぐには無理。料金も馬鹿に高い。


 結局、それでもプレイしたい様子のあさみが新規で1台購入し、4人でプレイする運びとなった。いさみは今回は参加を見送った。八百神やおがみ姉妹二人の軍資金を合わせてようやく1台購入できたのだ。もう一人は留守番と決まっている。そしていさみはあさみの希望を叶えることを人生の喜びとしている。不参加は必然だった。


『あさみ、言っとくけど小遣いは貸しだかんな!絶対返せよ?』

「わかってるよ、いさみ。行ってくるね」


 〈騎士ナイツ〉の面々は今、トールの自宅でゲームの準備をしていた。彼の家が一番回線が安定しているからだ。流石はゲーマー、この時代に今時有線でネットワークに接続できる環境が整っていた。無線技術が進歩したとはいえ、有線の安定性と速度に勝るものはないのだ。


 ダイブ用大型マシンはトールが普段から使用しているため、今回もトールが使う。その他のトランステーションは個人別に設定が必要なので、トールは今、その設定を手伝っている最中だ。新規購入のあさみは割とサクサクと設定を済ませたが、別のユーザー登録してあった残りの2台は意外と手間取った。


 そして、ようやくのことでログインにまで漕ぎ着ける。床に寝ころび、ゴーグル付きのヘッドセットを装着した各人には、既にプロジェクション・ビューアのように空間に投影されたスクリーンが見えているはずだ。もっとも、このスクリーンは実際に空間内に描写されているのではなく、ゴーグル越しに見えている見せかけだけのものだ。あとはスクリーンを操作してダイブするだけで、ゲームの世界へ行ける。


「準備ができたらログインしてもらって構わないのですが、ダイブ中の体に悪戯する不届きものがいないとは限らないので、皆一緒に音声認識ダイブで行きましょう」


 フルダイブ接続中は、体を動かすことができず、無防備となってしまう。ヘッドセットとは別に、首に装着した装置のおかげでプレイ中は体が反応しないのだ。もちろん異常があれば強制的にシャットダウンして体は自由を取り戻すのだが、トールは音声認識でのダイブを提案したのは、女性メンバーへの配慮であった。


 現在の家電は音声による操作が可能なものが多く、トランステーションもその例に漏れない。普段からTVのオンオフやPMSでの通話などを音声認識で過ごす人にとっては、スクリーン操作によるダイブは逆に億劫に感じてしまうだろう。


「それではみなさん、行きますよ?」


 落ち着いて深呼吸する間もなくトールから声がかけられた。皆知識としてはあるものの、初めてのVR空間だ。全員に緊張が走る。あとはダイブのキーワードとなっている単語をつぶやくだけ。分かっているのだが誰もリアクションを取れずにいたので、トールがカウントを開始した。


「3・2・1――」


「「「「ダイブ・スタート」」」


 瞬間、世界から音も光も消失した。真っ暗な空間には回転する光の玉だけが浮かんで見える。光球は視界の中を8の字を描くように飛びまわると、急激に発光して視界を白く染め上げた。同時に表示されるのはトランステーションのロゴマーク、そしてその後にはドラグナイト・オンラインのタイトル画面が表示された。


 再び照度を落とした視界の中で、1枚の鏡が浮かび上がってきた。そこに映し出されているのは自分だ。性別も自分と全く同じで、汎用の素体キャラクターの姿をしている。あたりを見回してみると、空間にはいくつもの衣装やら、染毛剤やらが浮かんでいる。


「これは……なんだ?」

「あ、深矩の声」


 周りには人の姿が見えないが、ログイン前に友達設定をしていたからだろう、声だけは聞こえてくる。


「みなさん初期設定画面ですよね?適当に着替えちゃってください」


 トールはおそらくこの画面を見てはいないだろうが、通信は可能らしい。


「なんか、こう……パパッと設定できないものなの?」

「この状態である程度操作をすることで、体の動きをシステム上で認識・補正していくんです。毛染めなんか、付けるふりをするだけで色が変わるので実際は楽ですよ」


 本来は説明書を熟読すべきだが、目を通さずにダイブしてしまった3人にとって、トールの解説はありがたい。トールとしては、自分が説明すればいいと思っていたのであえて説明書を渡さなかったわけだが。


「性別変えてもいいの?」


 あさみが尋ねた。これは深矩も気になっていたが、男の自分が言い出すと変態チックに聞こえるので聞くに聞けなかったのだ。もちろん興味があるだけで変える気はさらさらない。


「あまり推奨しませんね。体のサイズや筋肉量も変更可能ですけど、やっぱり初めは自分の体と同じか近い状態にしておかないと違和感だらけでろくに動けませんから」

「胸のサイズくらい落としてもいいよねっ?普段動きづらいから」

「先輩、嫌味ですか」


 奥菜おくなの発言に対し、あさみが冷ややかに問うた。


「あ……っ(察し)。なんか、ゴメン……」


 それから奥菜は何も言わずに胸のサイズを2ランク落としたのだった。あさみの方も何も言わなかったが、こっそり少しだけサイズアップしたのは彼女だけの秘密である。


 その後、髪の色や瞳の色、肌の色から耳の形、声質に至るまで細部を細かく設定していく。一度ゲームが始まってしまうと、変更は困難なのでかなり慎重にならざるを得ない。ゲーム内で自由が利くのは髪型と各部位の色変更、後はトレーニングによる体格の変化くらいだ。それはドラグナイト・オンラインの竜騎乗システムとの兼ね合いもある。急激に体格が変わってしまうと操作感の違いから墜落の危険性が高まる。そんなことで死亡するなんてのは避けたい。


 結局たっぷり1時間をかけてキャラメイクが完了した。


 各人、胸のサイズ以外はほぼ現実世界と同じ。違うのは美男・美女化した容姿と、深矩とあさみの髪の色くらいだった。あさみの髪の色は紫。これは参加できなかったいさみの髪の色と、自分の髪の色を両方イメージしたからだ。赤+青=紫、というわけだ。深矩の髪は赤色になっていた。深矩→しんく→真紅のイメージらしい。


 始まりの広場に降り立った3人は、お互いの姿を見比べて、現実世界とあまり変わり映えしていないことに気付き、笑った。そして暇つぶしに薬草採取に出かけていたトールが帰ってきたとき、彼の容姿に驚き、何も言えなくなってしまうのだった。


「「「ち、違いすぎっ!!」」


 そこにいたキャラクターの姿は、髪の色と体格こそトールだが、顔は渋いオッサンになっていたのだ。アゴにはうっすらと髭を生やしたその顔は、それでいて超絶イケメン。まるで洋画で壮年の俳優を見ているかのよう。


「やあ、初めまして。オレはミョルニル。かつて王都で名を馳せた近衛騎士団の副団長をやっていた。“怒槌イカヅチ”の二つ名で知られている。よろしくな」

「「「――って、誰だお前!?」」」


 口調まで変わっていた。皆のツッコミを受けると、ようやくいつものトールの口調に戻り。


「まあまあ、最初くらいロールプレイしてもいいじゃないですか」


と、悪戯っぽく笑うのだった。その表情筋の動かし方は、まぎれもなくトール。顔つきは全然違うのに、それとわかってしまうから不思議だ。


「皆さんも、自己紹介お願いしますね。キャラネームで呼び合わないといけないので、覚えるという意味も込めて」


 キャラクターネームは、数秒相手のキャラを見つめると自動的に表示されるようにはなっているが、初対面の人だけでなく仲間内でも自己紹介するのは、いわば儀式的な一面も持つ。要はこの世界に来た以上、この世界のキャラクターとして振る舞おう、という事だ。間違ってもリアルネームなど呼んではいけない。いつどこで会話ログが抜かれてしまうかもわからないのだ。


「わたしはクナ。初めましてっ!得意な武器は、銃なんだけど……この世界にはあるのかな?」

「ありますよ。なんたってタイトルの由来は竜騎兵、つまりドラグーンマスケットを使用した銃兵ですから」

「え?ドラゴンに乗るからじゃないの?」


 奥菜改め――クナがそう疑問に思うのも無理はない。元々竜騎兵とはドラゴンとは無関係。ドラグーンマスケットという銃を使う兵隊のことだったからだ。銃弾(火)を噴くからドラゴンを連想させたのかもしれない。それがいつしかファンタジー作品などで、竜に乗って戦う騎士のイメージへと変貌してしまったのだ。


 上記のような旨をミョルニル(トール)から説明を受けると、クナは口をとがらせて、いまいち納得できていない様子ながらも一応理解はしたようだった。


「銃はありますが、先込め式の火縄銃みたいなやつなので注意してください。こっちじゃ()が遠距離武器として人気ですね。ボウガンみたいなやつです」

「なるほどねー」


 台詞とは裏腹に、やっぱりよくわかっていない様子である。


 続いて、あさみが前に出て自己紹介を始めた。


「私はワタリガニ。ワタリガニさんって気軽に呼んでね。得意武器は双剣」

「……わたりがに??」

「ど、どういうネーミングセンスなのかなっ」

「ワタリガニって、別名“がざみ”っていうよね。響きが本名と似てるし、それに私……赤いからカニっぽいでしょ」


 深矩はいさみから、昔あさみがカニと呼ばれてからかわれた話を聞いたことがあった。なのでこの名付けには違和感しかなかったのだが、本人が気に入って付けたなら文句をつける筋合いはないだろう。


「じゃあ、最後は俺だな。俺はガーネット。よろしく。得意な武器とかは特にないかな」


 ガーネットとは赤色の宝石で、ざくろ石ともいう1月の誕生石だ。ルビーとガーネットで悩んだ結果の名前である。髪の色と同じく真紅=しんくと掛けてある。


 彼の深層心理のどこかには、カラーズでないがゆえに変身できなかったという事実がトラウマのように刻まれているのかもしれない。パーソナルカラーというものにあこがれているのだ。そのうえで赤を選んだのは、名前だけでなく、同じ非変身組のあさみへの想いもあるのだろうか。


「ミョルニル、大きめの盾の武器種って何がある?」

「やっぱりランスじゃないでしょうか。城壁の警備兵が持っているような、大型の武器ですね。あまり騎乗向きの武器ではありませんが」

「そうか。でも、いざとなったら盾背負って槍を片手に持てば良いもんな!その武器の作成を目指すことにするよ」


 ランスというよりは盾へのこだわりから、そう宣言した。


 ドラグナイト・オンラインでいう【ランス】という武器カテゴリーは、【槍】とは別のカテゴリーとして存在している。槍は細身のロングリーチ武器で、軽くて扱いやすく、騎乗に向く。ランスは盾とセットで販売されている城砦防衛にも使われるの突撃用武器。盾でガードしながら敵軍めがけて特攻を仕掛けることができる。


「戦い方は自由ですから、今後研究していきましょう。地上での運用法は、たぶん、勘ですが・・・・ガーネットさんの得意とするところだと思いますよ」

「そうか、ありがとうミョルニル!」


 リアルでの深矩の戦い方は盾を構えた状態での突撃であり、味方を守りつつ敵の隙を作ることである。ミョルニルは“勘”だと言ったが、実際は深矩の戦い方を良く知っていた。なので先の台詞はロールプレイの一環だと思ってよい。ともかくこれで深矩の目指すところが固まった。


「よし!それじゃあ、さっそくクエストに……」

「行けませんよ?」

「……」

「……」

「……はい?」

「ですので、まだ行けません。チュートリアルをクリアしないと」


 初耳であった。



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