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極秘戦隊マスクトナイツ  作者: 筆折作家No.8
第二章 コイノハナシ
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第九話 「いさみの恋」 その①

【登場人物】

■津野(つの) 深矩(しんく)■

  杜陸高校1年生。竜都市外からの転校生で、変身能力なし。

  母親が何者かに襲われ、意識不明の状態が続いている。一人称は「俺」。


■八百神(やおがみ) あさみ■

  杜陸高校1年生。深矩のクラスメイトで、≪仮面の騎士(マスクトナイツ)≫のメンバー。

  変身能力はないが、戦闘能力は抜群に高い。一人称は「私」。


■千橋(ちばし) 奥菜(おくな)■

  杜陸高校2年生。小柄で幼く見えるが、いちおう生徒会長。

  深矩のことが気になっているらしい?一人称は「わたし」。


■八百神(やおがみ) いさみ■

  華山高校1年生。あさみとは双子のきょうだい同士。

  喧嘩っ早く、言葉遣いも乱暴な少年。一人称は「オレ」。


■堀辺(ほりべ) トール■

  ニート。一人称は「ボク」。



 学術研究都市・竜都(りゅうと)の街中、集合住宅の屋根の上に一人の人間が立っていた。


 青いボディスーツと鎧で全身を包み、腰からはスカートのような布がたなびく。顔には球面の遮光板、側頭部から上方後部にかけて角のような突起物を備えた“仮面”。鎧と同じく青い髪を風に揺らし、少年・八百神(やおがみ)いさみは地面を見下ろしていた。


 その足元では、一組の男女が巨大なハチのような化け物を相手に激闘を繰り広げている。黒く、大きな盾を手に赤髪の少女を庇(かば)うように立ち向かうのは黒髪の少年。赤髪の少女の方は右手に一振りの剣を持っている。


「俺はお前の盾だよ、レッド。だから、お前は攻撃だけに集中してくれ。」

「私は、あなたの剣だよ。だから、全力で突っ込んでいい。」


 二人はまるで、合わせて一人の戦士のようであった。大柄の剣士が、盾で相手を押さえつけながら剣でとどめを刺すように、二人は息を合わせて怪物に対峙しているのだ。その眼差しがあまりにも真剣だったから、逆にいさみは手出しするのをためらってしまった。


 いさみがこの場に到着したのはほんの数秒前のことだ。久々に人口密集地に現れた怪物≪デオキメラ≫を倒すため、補習をサボってまで飛び出してきた。自分の通う華山(かざん)高校から全速力で走り、やっとここまでたどり着いたのだ。


 だが、そこで目にしたのは黒髪の少年・津野(つの)深矩(しんく)が、イメージ力を盾としていさみの妹の八百神(やおがみ)あさみを守っている姿だった。今まで無力だと思われていた深矩が必死で戦う姿は心に響くものがあり、見入ってしまった結果いさみは助けに入るタイミングを失った。でも、彼は見ていたかった。この戦いの行く末を、見守っていたかった。


(だけど万が一ってこともあるしな。)


 それでもいさみは武器を取り出す。棒状の装置から光とも流体ともつかない粒子が噴出し、大きなメイスを形成する。イメージ力を武器とする兵装≪イド・ウェポン≫がいさみの心象武器を具現化したものだ。武器を構えると、いつでも跳びだせるような姿勢で待機した。が、心配は杞憂(きゆう)であったらしい。


「うおおおおおおおおおおあああああ!!」

「―――!!」

「テアアァァァッッ!!」


 深矩の盾が相手を制し、あさみの剣が切り裂いた。敵の血液が滝のごとく溢れ出し、視界を赤に染めていく。出来上がった血の池に倒れる深矩。その向こうでは怪物に追撃を加え、ついに敵の紅玉(コア)を抉り出すあさみがいた。


 戦闘はいさみの出る幕なく終了。身体能力を大幅に向上させる“変身能力”を持たない二人が、怪物を倒して見せたのである。


「ブルー、なにをしてるんですか?」


 不意に背後から声をかけられた。いさみと同じような衣装を身にまとった青年。デザインは似ているが、色は緑。仮面の後ろから覗く髪の色もまた緑であった。割と身長が高く、小柄ないさみとは正反対の体格だ。


「……トールか。戦闘なら、もう終わったぞ。」

「そのようですね。驚きましたよ、あの二人だけで倒したんですか?」

「ああ、そうみたいだな。」


いさみはそうつぶやくと、武器を解除して腰の位置に元の装置をしまう。屋根の上に胡坐(あぐら)をかいて座り込み、頬をついて深矩たちの様子を眺めていた。


「で、あなたは見ていただけですか?」

「オレも着いたばかりだったんだよ!……それに。」

「それに?」


 いさみは自分の拳をまじまじと眺めながら、目を細める。


「オレを守ろうとしてくれたヤツのことを思い出しちまってさ……。見惚れて、手が出せなかったんだよ。」


 懐かしむように、彼は微笑んだ。




 ではこれから、八百神いさみがまだ≪仮面の騎士(マスクトナイツ)≫になる前の話をしよう。


――――――


――――


――



 日が傾き始めた竜都の街は今、全体が黄色を帯びている。霞む空に乱反射した夕日が作り出した幻想的な情景。日中すこし暑さも感じ始めたものの、これから先、夜にかけてはまだほんの少しだけ冬の残り香を感じることもできる。


 神竜川の堤防に沿って、工業団地が続くのが華山(かざん)区の特徴だ。方角の関係で団地側から夕陽が差し込み、堤防の付近にはその影が長く伸びる。加えて堤防を川側へ下ると、堤防そのものが日差しを遮ってしまうために、日は沈んではいないのにとても暗く感じられる場所となる。


 同じ神竜川堤防なのに、対岸はよく日が当たって明るい。河川敷の広場は子供連れや犬の散歩をしている老人などの憩いの場所となっていた。


「おい、八百神ィ!」

「……あァ?」


 堤防の西側、つまり暗い方の道を歩いていたいさみは、背後から突然声をかけられた。振り返ると、そこにはいかにもやんちゃそうな少年3人が木刀を片手に立っているのだった。


「てめぇ、今日という今日はぶちのめしてやるからなァ!」


 はあ、とため息をつくいさみ。ここ最近、よく不良に絡まれる。正確に言うと、絡まれ体質のいさみが不良といざこざを始めた時期というのはずいぶん前の話なのだけれども、頻度が跳ね上がったのはここ数か月なのだ。どうやら以前気まぐれで喧嘩を買った三人組はとても執念深い性格だったようで、ここ数日は三日おきくらいに喧嘩を吹っ掛けられていた。


「やるのはいいんだけどさー、お前ら武器がないと喧嘩もできねぇの?」

「うるせェ!!やるのかやらねぇのかどっちだァ!!」

「……だからやるっつってんじゃん。面倒くせえ。」


 身構えるいさみに、猛然と突っ込んでいく不良たち。


 数分後。


「つ、つえェ……。」


 そこには武器を奪われた挙句、返り討ちにあって身動きの取れなくなった不良(三人前)が出来上がっていた。鼻を鳴らして武器を投げ捨て、悠然と、行きとは逆方向に歩き去っていくいさみ。ちょっとした散歩のつもりがとんだ体力の無駄遣いになってしまった。ある意味これも運動と言えば運動なのだが。家に帰ってシャワーでも浴びよう、そんな気持ちで夕暮れの中を歩く。。


 いさみは思う。喧嘩が増えたのはいつからだろうかと。少なくとも小学生の頃までは、周りより少し活発なだけの子供だったはずだ。行ってはいけないと言われていた廃墟に侵入したり、入ってはいけないと柵で囲まれた池に入り、カメやコイを捕まえて遊んだり、自転車で勝手に県外まで遠出し、海で日が暮れるまで遊んだりと、そういう普通の子供だったはずなのだ。


「いさみ」


 再び背後から声をかけられる。先ほどの不良たちが転がっている方向から呼び止められたわけだが、その声は少女のものだった。


「ん?……ああ、あさみか。」


 声の主は妹のあさみであった。あさみといさみは双子なので、生まれた順で上下が決められてしまっている。しかも、日をまたいで生まれてきたらしく、誕生日まで異なっているという変わった双子だ。髪の色も青と赤で正反対、顔つきと瞳の色が似ている程度。


 なお、本来は「麻実」と「勇実」という感じがあてられる予定だったものを、誕生日まで変わってしまった二人に統一感を持たせるため、あえてひらがなにしたというのが名前の秘密である。これは両親も伝えていないため、本人たちは知らないはずだ。


 そんな二人は性格まで正反対だ。攻撃的ないさみと、ドライなあさみ。その学校生活の様子もまるで違うようである。


「なんだよ、今帰りか?」

「うん。仮入部期間終わって本入部したから練習が終わるのが少し遅くて。いさみは結局部活は入らないの?」

「そういうメンドクセーことはしたくないんだよ」


 実は中学の時、いさみはあさみと同じ剣道部に入っていた時もあった。しかしすぐに辞めてしまった。理由はいろいろあるのだが、練習に飽きてしまったというものも主な要因に含まれる。入りたての頃はひたすら素振りと足さばきの練習の繰り返しで、打ち合いなどは滅多にさせてもらえなかった。素行の良くなかったいさみはなおさらである。基礎練習しかさせてもらえないことに腹を立てたのだ。


 結局剣道部をやめてからは他の部に移ることもなく、近所のボクシングジムへと通うことになった。それからのち、高校に入ってからも部活動をする気にはなれなかったので仮入部にすら参加していないのだ。授業が終わるとそそくさと帰宅し、川沿いなどを散歩しながら喧嘩にふける毎日を送っている。


「やっぱり……私のせい?」


 あさみが心配そうに聞いてくる。


「あん?カンケーねぇよ」


 部活をやめた原因というのは、練習メニューに不満を抱いただけではない。実際のところは、最初は基礎から始めることも億劫ではあるが承知の上だったのだ。細々(こまごま)とした要因が積み重なった結果の今、という訳である。そして原因となった一連の騒動について、あさみは申し訳なく思っている。謝っても謝りきれないと思っているのだ。


 きっかけは二人が中学1年の時。同級生の男子があさみをからかったところを、竹刀で小突いたことがあった。人を守るためであったのだが、得物を持って相手に応対したことは当然顧問の先生にしこたま怒られることになる。怒られたいさみは人を守るためだったのだから仕方ないと食って掛かかるも、どのみち剣道部に飽きていたので辞めてしまった。


 そして、騒動は部活を辞めても終わらない。


 中学2年の時。あさみが学校内でいじめを行っている先輩の不良グループをいさめたことから再び騒動が起きた。いさみの件もあって竹刀は使わなかったものの、体を張っていじめられている生徒を守った際、あさみは思わず手を出してしまった。すると、今度はいじめの標的があさみへと移ることになったのだ。


 そのことを知ったいさみは燃え盛る炎のようであった。何とたった一人で先輩不良グループを返り討ちにしてしまったのだ。しかしその事が大きな問題となる。


 また、自分の学校だけの問題にとどまらず、他校の不良グループにまで飛び火し、暴力を振るい、振るわれる毎日が始まった。あまりにひどい状況だったために、ボクシングジムからも締め出されてしまった。これにより、いさみのスポーツの道は閉ざされた。


 いさみの強さがある程度広まると、さすがに手を出してくる奴らは減った。だがいさみはスポーツだけでなく、何かに一生懸命取り組むこと自体がなくなってしまった。


 当然内申にも影響し、基礎学力は高いくせに上のランクの高校は受験できなかった。受験させてもらえなかった。


 あさみは、そもそもの原因が自分にあるのだと悔いた。自分の力を伴わない正義感がいさみを傷つけたのだと嘆いた。その罪悪感は、今でも消えずにいる。


「ほら、オレは飽きっぽいし、喧嘩っ早いし、どのみち何も続かねぇよ。」

「でも……」

「なんも気にすることねぇよ。あさみはお淑(しと)やかに構えとけば良いんだ。お前になんかあったら、そん時はオレがどうにかしてやるんだから。」


 妹を守るのが自分の役目だと、いさみは主張する。役目なのだから気にすることはないと。あさみにとってはいさみに“役目意識”を持たせてしまっていること自体に申し訳なく思っているわけなのだが、いさみは気づいていなかった。


「私は、いさみに守られてばっかりの存在じゃない!」


 あさみが声を荒げた。普段は物静かな彼女が感情をむき出しにすることなどあまりないので、いさみも思わずたじろいでしまう。


「私、剣道強くなったよ。一人でも戦えるよ。だから―――私を守るだとか、私のためにだとか、そういうのはもういらないの。もう自分の好きなことに生きて欲しいんだよ」


 好きなことといっても、いさみには何も思いつかない。いさみの世界、視野はかなり狭い。自分の手に収まる範囲のことしか見えておらず、そもそも周りのことに興味がないのだ。


「そんなこと言われてもな。」

「別に部活でも、勉強でも、何でもいいと思う。……恋、とか。いさみがそういうことに夢中になってる姿を見たことがないから。」

「恋ねぇ……。」


 いさみは恋愛映画だとか、恋愛小説には一切興味を持ったことがない。現実でもこれだ!と思った人はいない。ただ、女子にはよくモテる。何人かには告白もされたし、気まぐれで付き合ってみたこともあるのだが、やはり趣味ではない(・・・・・・)と思ってすぐに別れている。


「レンアイとか興味ないし、それ言うならあさみだって……。」


 あさみにも男の気配がないことを言いかけて、思いついたかのように


「じゃああさみに彼氏ができたらオレもちょっとは考えようかな」


と、いさみは続けた。あさみは足を止めていさみを睨み付ける。別に彼氏がいないと指摘されたことについて不快に思ったわけではない。


「怒った?」

「うん怒った。彼氏がどうとかじゃなくて、言い訳に私が使われている気がして。」


 いさみの行動理念が、すべてあさみを理由にしている気がしたからこそあさみは怒ったのだった。いさみは言われて初めてそのことに気づいた。何でもかんでもあさみを引き合いに出していては、いくら双子とはいえ彼女に対してあまりに無礼な行為だ。いさみは素直に反省する。


「ごめん」

「いいんだよ」


 それ以上、何も言わなかった。性格は真逆の双子だが、心の奥底では通じている。それ以上何も言う必要がなかったのだ。しばし無言のまま道を行く。堤防沿いに北上し、華山区と沼智区の境界線あたりを目指す。そこが、彼女たちの家。


「いさみ、血が出てるよ?」

「ん?……ああ、それ返り血。」


 しれっと言ういさみに、ため息が出るあさみであった。




 ◇ ◇ ◇




 夜の闇に街が包まれ、西の空にうっすらと昼の名残が見られる頃。工業団地地帯は街灯も少なく、真っ暗な夜に街ごと溶け込んでしまっているようだった。灯りの全くない場所では道路の路面もブラックアウトしていて、歩いていても次の一歩に地面があるのかも判別しづらいほどだ。


 工場の一角には一日の役目を終えた重機やトラック、空になったコンテナ。何に使うのかもわからないような木材の破片、木箱、段ボールのゴミ。それらが一つの灯火で照らし出されているのが見える。そんな場所に、一つの集団がいた。


「で?誰にやられたって?」

「アイツっすよ、華山高校の八百神!アイツにやられたんす!」


 彼らは、夕方いさみにコテンパンにやられた不良のグループだった。1、2、3人。いや、4人。体を痛そうに抑えている3人組のほかに、大柄の男性が一人、木箱を積み上げた即席の椅子に腰かけている。


 まず目につくのは桃色の髪の毛だ。夜闇の中でも明るく目立つ色合い。その髪の毛をソフトモヒカンに仕立て、前髪はワックスで立たせてあるようだ。日によく焼けた黒い肌の、ところどころに切り傷の痕。黒の半袖ジャケットを薄手のTシャツの上に羽織り、同じく黒いカーゴパンツには、髪の毛のカラーを意識したのかピンク色のステッチが入っている。首には金色の派手なアクセサリーを付けていて、筋肉質の太い腕にも、金のブレスレットが備わっていた。



「八百神のやつ、調子に乗りやがってよ!!」

「あの野郎、人を馬鹿にしたような目で見やがって気にくわねェ!」

「……うるせぇぞ、てめぇら。」


 愚痴(ぐち)の止まらない少年たちを制止し、大柄の男は言った。


「そうキーキー喚くのは餓鬼のすることだぜ。だがまあ…八百神には因縁もあるし、お前らにも手ぇ出されたんじゃ黙っておけねえ。ケジメつけさせねぇとな」

「「「公太さん!!」」」


 男の言葉に、とてつもなく強力な味方を得たと喜びを隠しきれない不良少年たち。これであいつとの喧嘩にも勝てる、などと嬉々として話していた。が、男のやり方は少年たちの想像の上をいくものだった。


「喧嘩だぁ?お前ら、頭数揃えてやる喧嘩なんざぁ格好良くねぇだろうが。」

「え?じゃあ、一体何を……」


 男はニヤリと笑う。並びの良くない黄色の歯を見せつけ、凶悪な笑顔で少年たちを見る。その迫力に彼らはビビッて声も出ない。


「落とし前付けさせるんだろ?別に喧嘩じゃなくていいじゃねぇか。命(タマ)一個とりゃあ済む話だかんな。」

「そんな……」

「文句あんのか?俺様のやり方が気にくわねぇなら別にそれでもいいんだが?その代り、わざわざ呼びつけた礼はしてくれるんだろうなぁ!!」


 男は勢いづけて立ち上がると、積み上げていた木箱を思い切り蹴飛ばした。工場の金属壁にぶつかった衝撃音は、工場内部で反響して、大きく鳴り響く。周囲一帯に聞こえるのではないかという大音量。昼間の工場稼働時ならまだしも、夜の静けさの中ではとても目立ってしまう。現場を見ていない人は、爆発音か何かだと勘違いしてしまうだろう。


 そう言う理由もあって完全にすくみ上った不良少年たちは、男に従うほかなかった。まさか殺しの話になるとは。しかし、頭の緩い彼らは作戦を話し合っているうちに恐怖心を忘れていく。これでいける、絶対にバレない、しかも無抵抗で殺せる、と息巻くのであった。




第二章開幕。

物語的には幕間集のようなものですが、後半への伏線となっているところが多いので、本編としてまとめます。

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