↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/40

第四章:王都訪問編  33話:祭りの前(5)

ご無沙汰しております。

外山です。

今回は少し長めです。

では33話、どうぞ。

33話:祭りの前(5)



「クソッ!こいつらきりがねぇ!」

トモハル(・・・・)はん、こっちもヤバイで!」

智春とガネットは背中合わせで悪態をつく。


ギギィ


そんな鳴き声と共に体長50センチくらいの茶色い無数の蟻が二人を取り囲んでいた。

エリーゼと同じようにトラップにより遠方に投げ出された二人は運の悪いことにこの『チョコアント』の巣のある真上に落ちたのである。

着地時、智春がガネットをお姫様抱っこして地面に降り立ったのだが、その時の振動で巣を攻撃されたと思った蟻たちが無数に湧き出し、現在、何度魔法で焼き払ってもとどまることの無い蟻の群れに二人は追い詰められていたのである。

「ホンマやばいわ・・・ホントやったら喫茶店のデザートのためにこいつらも捕獲したんやけど、その前にうちらが捕食されてしまいそうや。」

『チョコアント』は名前の通りその外殻にチョコレートをまとっている低級の魔物だが、直接巣に来てしまった事で個々の弱さを数の暴力で覆されそうになっているところである。

「っち、ガネット、周りに大量の水を散布できるような魔法のその指輪にあるか?」

「ん?いやそんな魔法は無いわ。でもうちは水属性の適性もっとるさかい少し待ってくれたらできるで。」

「そうか、なら頼む。」

「まかせとき。」

ガネットは智春の頼みに首をかしげるも、すぐに頷き詠唱を始めた。

「じゃあ、俺が魔法を放ったらすぐにその魔法を発動してくれ。」

そう言って智春も詠唱に入る。

それを見た蟻たちは「攻撃の手が止んだ今が攻め時だ!」とでもいうように二人に向かって一斉に突撃を始めた。

そして、先頭の蟻が智春たちに到達しようとしたところで智春の詠唱が終わる。

「その罪を贖え『炎獄』!」

「っつ、『インテンスデリュージ』」

二人ほぼ同に魔法を発動する。

その一瞬で智春たちの周りの半径一メートルを残して半径数十メートルの森が焼け野原となり、現在大雨に流されている。

「ちょっ、トモハルはん!?なんや今の魔法。それになんでうちらだけ平気なん?ぴくしゅッ」

かわいらしいくしゃみと共にガネットが智春に詰め寄った。

ガネットはさっきの魔法が衝撃過ぎて、自分が濡れたことで制服がぴったりと張り付き非常に目のやりどころに困る状態であることに気がついていない。

智春は視線をガネットのその決して小さくない胸のふくらみに奪われないよう明後日の方を向きながら簡単に説明した。

「今のは俺が作った三属性複合魔法で『炎獄えんごく』って言うんだ。使った属性は〈炎、風、無〉の三つで、炎属性の『バーストフレア』の爆発を風属性の『サイクロン』で半径十メルの爆炎の渦を作る魔法なんだ。そしてその中の中心と指定個所を無属性の『テリトリー』で指定して、これまた無属性の俺が作った『ボックス』っていう空間干渉魔法的防御魔法で守ることで術者とその仲間は被害を受けないっていう領域殲滅型魔法りょういきせんめつがたまほうなんだ。ただ自分の意思で炎が消せないのが玉に瑕なんだ。」

「な、なんやそのどえらい魔法は・・・」

ガネットは呆然としてつぶやく。

次第にガネットの使った『インテンスデリュージ』の効果が切れて来たので、智春は『シャドウクローゼット』から防水性の外套を取り出してガネットに着せた。

「とりあえず、この雨の領域からはそれで出よう。乾いたところに行ったら魔法で乾かすから。」

「へ?・・・せ、せやな。移動しよか。」

智春の言葉で自分の状態に気付いたガネットは頬を赤らめながら早足にその場を抜ける。

「エリーゼは大丈夫かな・・・」

そのあとに続きながら智春ははぐれてしまった純白のうさ耳少女を思い浮かべる。

「まかせとき、うちも獣人族の端くれや兎人族とじんぞくにはかなわんけどエリーゼの気配は絶対に見つけたる。」

「あ、ああ。頼んだ。」

智春の呟きを拾ったガネットが安心させるように言葉を返した。

二人は雨の領域から出て服を魔法で乾かし、すぐに歩みを再開させた。

道中襲い掛かる魔物を倒し、その採取可能部位を集めながらも二人は先を急いだ。


ドッゴーン


歩くこと数十分、二人の左斜め前方の植物でできた壁の反対側から何か爆発音が聞こえた。

「ガネット!!」

「ん・・、エリーゼとは確定できひんけど人為的な音や。」

「そうか、とりあえず行ってみよう。」

二人はそう言うと壁に走り寄り、裂け目を探す。

「トモハルはん、あっちや。」

「ああ」

二人は見つけた裂け目に向かって全力疾走する。

「「なっ!!・・・」」

裂けめに到着した二人は中の様子に硬直してしまう。

そこには地獄が広がっていた・・・・



時間を少しさかのぼり

エリーゼは絶望に打ちひしがれ、その場に崩れ落ちそうになっていた。

智春とはぐれてしまい、走った先にたどり着いた広場で彼女を待ち構えていたのは地球でもおなじみの嫌悪の代名詞の奴だった。

「・・・・そんな・・・・もう嫌だよ・・トモハル・・・」


キシャャャャ


泣き言を言うエリーゼを見つけた奴らは地球産の物の数百倍の大きさの黒光りする体で威嚇をしてきた。

「・・・うぅ・・・帰りたい・・・」

エリーゼはそんな泣き言と共に腰の右側のガンホルスターから『魔拳銃マジックガン』を取り出して迷いなく引き金を引いた。

すると、マジックガンの先から火球が現れて一番手前に居た奴を吹き飛ばす。


カサカサカサ


仲間がやられたことで怒った奴らはそんな音と共にエリーゼに襲い掛かる。

察しのいい皆さんはお気づきだろう。

そう、奴らとは『いつもカサカサあなたの台所に這い寄る混沌、夏の夜の恐怖の代名詞、、G』である。

正確には『()クトウ(・・・)ローチ』と呼ばれる魔物の一種で、その名の通り5メートル近いその巨体が黒糖できているわけでは無く、巣に多量の黒糖をため込むが本人たちは肉食と謎の生態を持つ魔物なのである。

「・・いや・・いや・・いや・・」

余裕のない様子で引き金を引きまくるエリーゼの前はすでに本来必要な魔力を明らかにオーバーしてとんでもない威力となった火球が多量に打ち出され、阿鼻叫喚の様を晒している。


ちなみにマジックガンの弾として使われている魔石は智春の改良版であり、本来の使用可能回数を大幅に上回った使用と本来なら壊れるはずだた余剰魔力の返還を可能にしていた。

これは現在の魔法技術を大幅に超えた逸品なのだが智春本人は偶然の産物であるためそのすごさに気付いていない。

しかし、その弾も現在エリーゼが使っている物とその隣に弾倉に入っている水の魔石の二つだけである。

そして、このマジックガンはリボルバー式ではあるが、リボルバーの回転は使用者の意思で回すことができ、自動で回転する機能はついていないため、現在半錯乱状態のエリーゼは火球のその貴重な弾丸を使い続けているのである。

閑話休題

エリーゼはただ一心不乱に迫りくる巨大なGの群れに引き金を引き続けた。

あたりはすでに炎獄のような状態であまりの高温に周りの草木が激しく燃え盛っていた。


パリンッ


そんな音と共にエリーゼの銃撃が止む。

魔石が壊れたのだ。

Gたちはこれぞとばかりにエリーゼに飛び掛かった。

「・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

ただでさえ自分の作り出した炎獄の熱さで判断力も落ちてきており、またその熱波で皮膚も軽い火傷のようになっている。

そんな中、羽を広げて滑空するその姿にエリーゼの中で何かがぷつんと切れた。

エリーゼは出ない火球の代わりにリボルバーをひとつ隣に動かし、その弾丸にありったけの魔力を込めて引き金を引いた。


ドッゴーン


「きゃあ!」

突然起こった爆発に巻き込まれ、向かって来ていたGはすべて絶命し、エリーゼも身体にひどいやけどを負ってその場に倒れた。

気絶したのである。

Gも向かって来ていたもので全てだったようであの黒い影はもう見えない。

「「なっ!!・・・」」

そんな広場のわきの壁から二人の人影が現れ、その場で硬直した。

「!、エリーゼ!!」

そのうち一方が倒れているエリーゼに気付き駆け寄る。

「聖なる息吹のもとに、その体に残りし悪意を祓いたまえ『メゾ=ヒーリング』」

人影の一人、智春が中位の回復魔法でエリーゼを癒した。

「これはまた地獄のような光景やな・・・どうやトモハルはん、エリーゼの具合は。」

「ああ、ただ気絶しているだけだ。火傷の方もこうやってすぐに治療ができたから跡も残らないだろう。」

「そう、それはとりあえず合流もできたしまあよかったんでいいんやろな・・・」

「ああ、とりあえずエリーゼが起きるまで休憩にしとこうか。」

「賛成や。」

智春はエリーゼの頭を膝に乗せ、休息に入った。

二人がため息をつきながら見る目線の先は焼け跡と爆発でできたクレーター、爆風でなぎ倒された木々、そして無残に転がる巨大なGの破片が転がっておりまさに地獄のような光景だった・・・



「・・むぅ・・・」

「!・・おい、エリーゼ、大丈夫か?」

数時間後、うめき声をあげながら意識を覚醒させたエリーゼに智春は声をかける。

「・・・トモハル・・・っは!、や、奴らは?・・」

意識が戻り、気を失う以前の事を思い出したエリーゼが切羽詰まったように聞く。

「大丈夫だ。俺たちが来た時には全滅していたよ。それより、これは何があったんだ?」

「・・・ん・・それは良かった・・・これは、その・・・やり過ぎた・・」

「やり過ぎたって、でも確か今回装填していた銃弾に爆発系の魔法は入れてなかったよな?」

「・・・ん・・・私が使ったのは確か・・火球と水球の二つだった・・」

明らかに使った魔法と見合わない爆発の後に二人は首を傾げる。

と、智春が何か思いついたようにエリーゼに問いかけた。

「エリーゼ、もしかして火球を使いまくった後に水球を特大とかで撃った?」

「・・ん・・・無我夢中で魔力を込めてたから・・あたりは焼け野原だった・・それに水球も凄く大きいのが出た・・・」

「やっぱりか・・・これは『水蒸気爆発』の跡だ。」

「スイジョウキバクハツ・・・・?」

「トモハルはんなんやそれは?」

首を傾げるエリーゼとさっきまで智春に背を預けて仮眠をとっていたガネットがいつの間にか起きて話に参加してきた。

「ん~なんていうかな・・・そうだな、水を火にかけたら水蒸気になるのは分かるよな?」

「「スイジョウキ?」・・・・・ああ、水煙の事やろか?学者とかがそのスイジョウキって読んどった気がする。」

「ああ、たぶんそれだ。でだ、その水蒸気爆発ってのは簡単に言うと温度がかなり高い火の中に多量の水を加えるとそれが一瞬で水蒸気に変わり事で爆発が起きるんだ。」

「ん?なんでそこで爆発が起こるんや?」

「ん~、体積の急激な膨張とか言ってもわかんないよな・・・・まあ、すごい勢いで水が水蒸気になるからその勢いで爆発が起きるって思っていれば大丈夫だよ。」

「・・・?・・いまいち分かんないけど・・たぶん詳しく聞いても難しくてわかんない・・・」

話が難しかったからかエリーゼにうさ耳が力なく左右にふらふら揺れる。

ちなみにエリーゼはまだ智春の膝枕である。

「せやな。まあ、エリーゼも目を覚ましたことだし、今回の目的の『デフトチェリー』探しの続きを始めよか?」

「ああ・・・っと、あいつらの『黒糖』回収しなくていいのか?」

智春が抵抗するエリーゼの頭から膝を抜き取って立ち上がりながらした提案に場の空気が凍る。

「なんやトモハルはん、うちらにゴキ・・んっん、奴らの巣に入れって言っとるんやろか?」

「あ、いや、何でもない・・さ、先に行こう。」

ガネットのえらくドスの効いた声に智春は冷や汗をかきながら先に進み始め、ガネットもそれに続く。

「・・・・トモハル(・・・・)、はん?・・・」

最後尾を歩き始めたエリーゼは数刻前とは変わったガネットの智春への呼び方に不機嫌そうに首を傾げるのだった。



ゴキ・・・Gの地獄の広場から歩き始めてさらに数刻、陽が傾き始めた森の中智春たちは木やツタが絡み合ってできた森奥の大門の前にいた。

「ここが最奥部、『デフトチェリー』のおるボス部屋や。」

「ここが・・・・」

「・・・ん・・・強い気配がする・・・」

三人はそびえたつ大門を仰ぎ見る。

「まあ、陽も暮れんうちに帰りたいしな、ほな行くで。」

「ああ」

「ん」

三人は頷きあうと大門に手をかけた。


ゴゴゴゴゴゴ


そんな効果音と共に見えてきたのは広大な空間とその真ん中に一本そびえたつ大樹だった。

「あれが『デフトチェリー』・・・・」

大樹の上にはエリーゼの頭の二倍以上はありそうな大きさの赤い木の実がなっていた。


グォォォォォォ


しんと静まり返っていた空間を割るような叫びが大樹から発生された。

「っつ!!」


ドガッ


その叫びの中、一瞬で刀を振りぬいた格好の智春と真っ二つになった赤い実が現れた。

「こ、これが奴の最大の攻撃や。音が聞こえる頃には得物に当たっとる、音を追い抜く砲撃や。」

「・・全く見えなかった・・・」

盛大に表情を引きつらせながら解説するガネットと智春が防いだ攻撃に気付くことさえできなかったことにエリーゼは落ち込む。

「クソッ、なあガネット、この砲弾も奴の実なんだよな?」

「ん?せやけど・・ああ、あかんで。これは成熟する前の実やから食べられへんのや。」

予想より手ごわい敵の攻撃に智春は消極的になるが、残念ながら世界はそう甘くはない。

「奴が一度に成熟させる実はひとつだけや。そしてそれ以外はこういう風に攻撃で使うんや。」

「その成熟した実が今回の目的なのか・・・あの攻撃のなか二人を守れる自信が無い、すまないが二人とも外で待っててくれないか?」

「ええで、というかそうさせてもらわんとうちは即死決定や。っと、トモハルはん、ここは保護していダンジョンやから間違っても奴を殺さん?ようにな、一応魔物やから気絶とかするみたいやで。」

「ああ、分かった。エリーゼも悪いが避難してくれ、っと」


ドガッ


話している間に再び来た砲撃を智春はまた真っ二つに切り裂く。

「悪い、早く避難たのむ。」

「ああ、分かった。行くでエリーゼ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・ん・・」

エリーゼに多少間があったが、二人は部屋の外まで退避した。

「さあ、ここからが本番だ。」


ゴォォォォ


智春ともはるの言葉が届いたかのようにデフトチェリーから雄たけびが上がる。

智春はその声がまだ途切れないうちに全力でその根元に接近する。


ドガッ


「っと、危ねぇ!!、この距離でぎりぎりだな。」

デフトチェリーの音速を超える砲撃を智春は刀で切り払う。

しかし、接近したことで音速を超えるときの爆音から着弾までのほんのわずかなタイムラグも減少し対応が難しくなっている。

しかし、デフトチェリーからの砲撃はさらに勢いを増した。


ドガッ


「チッ!」

余裕のない智春は斜め前方に飛び込んで回避し、その勢いのまま受け身の要領で一回転して再び走り出す。

「やばい、もうこれ以上はよけられねぇ・・・盾に宿りし聖なる力、何人たりとも通るあたわず!・・・」


ドガッ

「『ホーリーシールド』、っつ!!」


智春は行動による回避に限界を感じ無属性最強の防御魔法である『ホーリーシールド』を詠唱待機で砲撃のタイミングに合わせて使った。

しかし、砲弾の予想以上の威力に魔法は破られる。

幸い『ホーリーシールド』は領域防御魔法のため使用時に立ち止まる必要があり、そのおかげでとっさに真横に飛ぶことで事なきを得たが、そのタイミングはまさに間一髪であった。

「あ、あぶねぇ、クソ、このままじゃジリ貧だ・・・」

額に流れる冷や汗をぬぐいながら智春は『ホーリーシールド』を再び展開し、回避に専念しながら策を考える。

「・・・っつ、ぶっつけ本番になるが一か八かだ!!、望みし領域に我旗を立てん、『セレクト=フィールド』、我望みし場所は何処いずこにかあらん『イレギュラー=ゾーン』、盾に宿りし聖なる力、時に神とて拒む盾とならん『ホーリーシールド・絶』!!・・魔術混合!・・複合魔法『流鱗りゅうりん』!!!」

智春はまだ開発段階のオリジナル魔法や既存の魔法のアレンジ版をこれまたオリジナル魔法で掛け合わせ即興の魔法で可動式の盾を四枚作り出し四方に展開した。


ゴガァァァ

ドガガッ


魔力の大きな動きを感じたのかデフトチェリーは雄たけびをあげながら二発の砲弾を撃ち出した。

「くっ、維持するのには結構魔力を食うがこれなら行ける!!」

前方二枚の盾で二発の砲弾を左右に受け流した智春はその間を走り抜けるようにして再び接近する。

走りながら使わなかった後方の盾二枚を前方に移動させ、受け流しに使った二枚は入れ替わるように後方に着く。


ゴガァ!?


ドガガガガガッ

パリンッ


ここで初めて焦りのような声を発したデフトチェリーは急に砲撃を五連発してくる。

「ッチ!、だがまだ三枚はある、今ならいける!・・追い風よ我に速さを『フェザーステップ』!!」

砲弾の数の関係で二発を同時に受けてしまった盾が一枚砕けるが智春はデフトチェリーの動揺に勝機を見出し風魔法でおもいっきり加速した。

智春は残りの距離を一気に詰め、デフトチェリーの枝に下に入り込む。


ガ、ガァア!


入り込んできた智春にデフトチェリーは慌てて枝による攻撃を仕掛けたがもう遅い。

「ったく、手こずらせやがって、一気に行くぞ!!」

智春は腰の刀、『雲雀ひばり』抜き放つと、足でブレーキを掛けながら右足を引き『八相はっそうの構え』をとった。

「一撃で決める!!安元流剣術三陣三目、砕剣さいけん鉄槌割てっついわり』!!」

八相の構えから左手を握りこむように回し刀の刃を外側に向けながら腹を肩に添える。

両腕に力を溜め、今度は右手を開くようにひねりながら峰打ちを竹を切るように斜めに叩き込む。


グガァァァァァァ


バキバキッ

ドッスン


「え!?、や、やっちまった!!」

刀を叩き込まれたデフトチェリーは短い断末魔をあげながらその50メートルはあろう巨体を横倒しにした。

叩き込まれた場所は放射線状に亀裂が走り、横幅3メートルほどの幹が半分くらいまでへこんでいた。

もしかしなくても、デフトチェリーを殺してしまったようである。

「や、やべー、確かダンジョンボスは一度死んだらもう復活しないんじゃなかったっけ・・・」

智春は一人頭を抱え空を仰いだ。

「よ、よし、やってしまったものはしょうがない。うん、しょうがないんだ。うん、だからさっさと実を採って帰るか・・・」

いつものように早い切り替えというか現実逃避で智春は次の行動に移した。

木の枝が生い茂る幹の頂点に砲弾に使われていたものとは比べ物にならないくらい大きく赤い木の実がなっていた。

「こ、これが『デフトチェリー』・・・」

智春は唾液を飲み込みながらその実と木をつないでいるヘタを切り取る。

こうなると見た目はもう巨大なただのサクランボであった。

「はあ、とりあえず『デフトチェリー』も獲得したことだしエリーゼたちと合流するか・・・っと、一応ダンジョンコアを探すか・・・」

デフトチェリーを『シャドウクローゼット』にしまい、智春は思い出したようにあたりを見回す。

『ダンジョン』も『モンスターボックス』と同じくそれを形成するための『コア』が存在し、そこから魔物や魔獣、また『ダンジョンコア』は財宝やそれに類するような食用植物などを作り上げる。

そして、その『コア』を回収されると消滅してしまうのである。

閑話休題


あたりを見回した智春は『コア』ではなかったがさっきまで見なかった異常な物を発見した。

「な、なんだあれは・・・・・花、か?・・・」

そう、そこには人が一人入れそうなほど大きい一輪の花のつぼみがあった。

そしてその蕾はゆっくりとその花びらを開き始めた。

「っつ、くそ、何でも来やがれ!!」

智春は素早く『雲雀』を抜刀し、中段に構えた。


「ふぁぁぁ、なんじゃ、久方ぶりの来客かえ?」


そんな気の抜けるような言葉共に花の中から黄緑色の髪と目をし、草色の裾の短いワンピースを着た見た目16歳くらいの女の子が出て来た。

「ん?お主がわっちに会うために『森林の試練』を抜けて来たのかえ?」

「へ?・・・えっと、誰・・・・・?」

突然出て来た美少女に智春は戸惑いの言葉を返した。

「ほっほっほ、わっちが誰とな、それはわっちの方の質問であろう。まあそれは良い。わっちは『樹木妖精ドリアード』の姫、ティターニアじゃ。この世界ができてからずっと土地に眠り、試練を抜けた者に力や知識、そして恵みを授ける者じゃ。それで主はわっちに会いに来たのではないのかえ?」

「え、えっと、俺は冒険者、智春青山ともはるあおやまだ。俺は、その、こいつの木の実を採りに来たんだが・・・こいつ殺しちゃったみたいだけどその、試練とかは大丈夫なのか?」

智春は何とか自己紹介と目的を話、今一番の懸念を聞く。

「ほっほっほ、最後の番人の恵みを採りに来ただけかえ?、それはまた愉快な、どうやらわっちのことはとうの昔に忘れ去られていたようじゃな。まあ安心せい、こやつはまだ死んではおらんよ、今の体は壊れ朽ちてもすぐに元の体よりも強靭の体が芽吹き明日には元通りじゃ。」

「そ、そうか・・・それは良かった・・・」

智春は安心と共にさらに強くなると聞いて少し不安も感じたが何とか返した。

「ふむ、まあわっちが目的でなかったにしても試練を達成したのじゃ、ほれ、これを持ってゆくがよい。わっちはまたこの地に潜って最近の人の動きというものを調べようと思う。その宝珠があればまたいつでもすぐにわっちと会えるからに、何か知りたいことや力が欲しいことがあればまた来るとよかろう。」

「あ、ああ、そうさせてもらうよ。」

ティターニアがどこからともなく取り出した深緑色の宝珠を受け取りながら智春は頷いた。

「では、またの。次来るのを楽しみにしておるからの~」

そんな呑気な言葉と共にティターニアは再び花のつぼみへと帰って言った。

「な、なんだったんだ・・・・」

その場に残された智春はずっと圧倒されたままで嵐のように去って行ったティターニアに呆然としていた。

ただ、智春の手の中で深緑色の宝珠だけが若草のようにキラキラと輝いていた・・・・



「それで報告って?」

ダラベストの街のギルドの最奥、ギルドマスターの執務室でビビアは苦虫を噛み潰したような表情で自分の子飼いの諜報員である『犬人族けんじんぞく』の青年から報告を受けていた。

「はい、先に連絡したようにやはり奴ら(・・)が動くようです。すでに街中でその構成員と思われる者たちの目撃例が『目』から寄せられています。」

「うわーん、こんなに忙しいのに!!全く空気を読んで欲しいよね!!」

ビビアはプリプリと怒り出し、『犬人族』の青年に同意を求めるが青年は苦笑いを浮かべる。

「まあ、奴らの目的を考えたらしょうがないでしょう。では、私は引き続き調査と見回りに戻ります。」

青年はビビアに一礼するとさっさと執務室を出て行った。

すると、それと入れ違うように別の職員が執務室の扉を叩いた。

「はいは~い、開いてますよ~。」

気の抜けた返事のビビアに少し慌てたような職員が扉を開く。

「ビビア様、冒険者、アオヤマ様たちが戻られました。そしてこれが報告書なのですが・・・」

「ん~何々~」

職員の差し出す報告書を受け取りビビアは視線を落とした。

「ええええええええええええ!!、ちょっとこれは大発見というかなんというか・・・とりあえず過去の資料や古文書を片っ端から調べなさい!!」

「は、はいっ!!」

智春の報告書はもちろん謎の妖精のお姫様についてである。

「もーーーー、この忙しいときに仕事を増やしてくれちゃって!!」

この後ビビアが小一時間ほどいじけてバローナに怒られたり、職員が少ない人数を割いて泣きながら色々な資料を調べるはめになったのはまた別の話である。



住民が寝静まり静かな夜のダラベストの街、一人のフードを目深にかぶった男が早足でくらい路地裏を進んでいた。

その男はとある廃教会の裏口の前で止まるとその扉を叩いた。

すると、中から60代後半くらいの長い白いひげを生やした老人が顔を出す。

「おや、これはこれは侯爵様お待ちしておりましたよ。」

「っく!!元は不要だ!わしは絶対に返り咲くのだ!!っつ、それより暗黒卿、私が協力するからには成功するのだろうな?」

老人、暗黒卿の言葉に激高した男だったが、何とか自分を抑え込み念を押すように質問をする。

「まあまあ、そう焦らずにちゃんと準備は進んでおりますとも。何のご心配にも及びませんぞ。」

「ふっ、そうか、では私も正式に貴公の教義を信仰し、その一員となろう。」

男は安堵したように軽い笑みを漏らすと宣言した。

「そうですか、歓迎しますぞダラス侯爵(・・・・・)殿・・・・・」



今日もまたダラベストの夜は更けていった・・・








このお話を読んでいただきありがとうございます。

今回はほぼ一か月とかなり期間が開いてしまい申し訳なく思っています。

長くなった『祭りの前』もつぎの(6)でラストになる予定です。

次の投稿はなるべく早くしたいと考えています。

これからもお付き合いよろしくお願いします。


皆さんの感想心からお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。