第三章:学院編 26話:貴族様のとある依頼
遅くなりました。
26話どうぞ。
26話:貴族様のとある依頼
庭での模擬戦は智春とシスティーナお嬢様の両方が力尽きたことで終了した。
そのあと、智春はシャワーを借りて汗を流し制服を洗濯してもらっている間寝間着でいるわけにもいかず使用人の服を貸してもらい、そのまま昼食を済ませた。
昼食の時、アウガス侯爵は自慢の娘たちを紹介してきた。
まず、長女のシスティーナ(19)武術が好きではあるが脳筋という訳ではなく、ちゃんと勉強もできる才女で父の役職を継いでダラベスト領主の任を任せられるほどである、いわゆる完璧お嬢様ではあるが未だに独身なのが玉に瑕。
次に次女のソフィーア(17)姉とは違い運動は苦手だが、姉よりも頭がよく、常に落ち着いていて冷静沈着な軍師タイプ。姉の陽だまりのような美しさとは違い、氷の様で、しかしきつさの無い美女である。
まあ、そんなこんなで現在、智春はビビアとアウガス侯爵の三人だけで小さな部屋に入り今回呼ばれた理由であるダラス侯爵家の顛末やらなんやらの話をしていた。
ちなみにセリアたちはお嬢様方&奥様と別室でお話をしたりしている。
「でだ、君のおかげでダラス侯爵家はダラス準男爵家まで格下げ。これで次代の当主は貴族でなくなる。改めてお礼を言わせてもらうぞ、ありがとう。」
アウガス侯爵は嬉しそうに再びお礼を言う。
この世界での爵位は、『大公』、『侯爵』、『辺境伯』、『伯爵』、『子爵』、『男爵』、『準男爵』、『名誉男爵』、『騎士爵』の九段構造になっており、『準男爵』以降は一代限りの爵位となっている。
閑話休題
「えっと、確かに性格の悪いやつらでしたけど、そこまで喜ぶほどだったんですか?」
「ああ、もちろんだとも。っと、君はこの街の来歴は知っているかい?」
「いえ、お恥ずかしながら。」
「そうか、じゃあ、まずそこから説明させてもらおう。」
智春の返答にアウガス侯爵は嫌な顔一つせずに説明を始めた。
この街はかつてダラス侯爵家の領地の首都『ダラス』とラベスト侯爵家の首都の『ラベスト』という二つの街が大河を境界線にして存在していたものだった。
しかし、5年前、ダラス侯爵家の当主、ドレッド=G=ダラスが大河からとれる利益をすべて自領のものにしたいともくろみ、様々な手を使ってラベストを手に入れようとした。
しかし、アウガス侯爵はそのダラス侯爵の魔の手を打ち破り、逆に領地侵略の罪でダラス侯爵を訴えた。
その結果、王によって罰せられたダラス侯爵家はその伝統から侯爵位は死守しながらも領地をすべて取り上げられ、アウガス侯爵は賠償としてダラスをもらい現在の『ダラベスト』ができたという訳である。
「ご、5年前って、意外と最近なんですね・・・・」
「そうさ、『ダラス』『ラベスト』合併はシスティーナなしにはなかっただろうね。」
「そ、そうですか・・・」
アウガス侯爵は自信満々に言い切る。
「あはは、あの時のシスティーナちゃんの演説はすごかったよねー」
「ああ、私も実はあの娘があそこまでできるとは思ってなかったよ。」
「そ、そうですか・・・」
「っと、話題がそれていたね。まあ、この街が『ダラベスト』に合併してからもダラス侯爵家の面々は色々政治の邪魔をしたり、街で傍若無人を働いたりとはっきり言って目の上のたん瘤だったんだよ。」
「そうそう、長男のアニウスなんてシスティーナちゃんに振られてからって急に冒険者になったかと思ったら、バローナちゃんにちょっかいをだしたり、ギルドで騒ぎを起こしたりと散々だったのよ。」
アウガス侯爵に続いてビビアもため息をつくように言う。
「まあ、そんなこんなであの一家には手を焼かされていたところを君のおかげで黙らせることができたんだ。街のほとんどの者が感謝しているよ。」
「いえ、俺は自分の守りたいものを守った結果ですから。」
「うふふ~、トモハル君は男の子だね~」
恐縮する智春をビビアは楽しそうにからかう。
「べ、別にいいじゃないか!」
「私はダメなんて言ってな~いよ~」
「なっ、もういい、話を戻しましょう。アウガス侯爵、続けてください。」
からかってくるビビアにイラッとしながら智春は話の軌道修正を図る。
「ああ、もう一つ大事な話もあるしね。この件はさくっと終わらせよう。」
アウガス侯爵は一息間を入れて話し始める。
「では、今回のダラス侯爵家にくだった罰は、まず家自体にはさっきも言ったが侯爵家から準男爵家へ降格だ。次に当主ドレットには罰金徴収だ。この二つは『ダラベスト』への嫌がらせへの罰と長男の監督不行き届きの罰だな。で、今回の主犯アニウスは死刑が下された。彼は貴族や平民に対して盗難や殺人などを企て、自分が擁護している盗賊団に実行させる。と言った犯罪行為を数十も行っていることが調査で分かった。これが今回の事件の最終報告だな。」
一気に話し終えたアウガス侯爵はお茶を一口飲み一息ついた。
「えっと、じゃあもうダラス家の人たちが何か問題を起こすっていう事は無いという事ですか?」
「ああ、一応貴族位は残っているが二度も裁きを行けた身だ。そうそうおかしな真似は慎むだろう。」
「だろーね。あー、あのウザったいのが来なくなって清々するわ。」
智春の疑問をアウガス侯爵が肯定し、ビビアは心底清々した表情で同意する。
「なるほど、この件に関しては俺が口出しすることはほとんどありませんから次のその大事な話っていうのに移りましょう。」
「そうか、じゃあまず、『今から聞くことは絶対に外では言いふらさない』って内容で『血の盟約』を結んでくれないかい?」
「えっと、その『血の盟約』って何ですか?」
「ん?『血の盟約』を知らないのかい?これは重要な約束や契約の時に使われる最上位の契約魔法で、効果は『契約を破ったものの命を奪う。』というものだ。まあ、契約さえ守れば何の害のない魔法だ。」
「い、命を奪うですか・・・まあ、『他人に言わない』って契約なら問題ないです。その契約ってどうやってするんですか?」
「そうか、無理を言ってすまない。契約に関しては、契約の盟主が自分の体のどこかにナイフで切り傷を入れ、自分のフルネームと契約内容を宣言する。そして、相手は盟主の血がついたナイフで盟主と同じ位置に切り傷を入れ、自分のフルネームと契約を受け入れることを宣言しながら血を盟主の傷に垂らせば完了だ。じゃあ、契約を始めよう。」
アウガス侯爵はそう言ってソファーの肘掛を持ち上げる。
すると、そこには小さな隠しスペースがあり、中には鞘に収まったナイフが入っていた。
アウガス侯爵はそのナイフで自分の右手のひらを切る。
「我、アウガス=ジャファス=ラベストの名のもとにこの血の盟約を執り行う。今から聞いた内容を私が許可しない者に故意に話すことを禁じる。」
アウガスは宣言しながらナイフを智春に渡す。
智春はそのナイフで右手のひらを切り、自分も宣言する。
「トモハル=アオヤマ。その盟約を謹んでお受けいたします。」
宣言と同時にアウガスが出した手に自分の血を垂らす。
すると、急に手のひらに熱が走り、一瞬で治まる。
「っつ、これで終わりですか?」
「ああ、ありがとうトモハル君、っと、ビビア頼めるかい?」
「ええ、かの者を癒せ『ヒール』」
ビビアは二人の手を取ると魔法をかけた。
すると、二人の手から傷痕が消え去り、元通りになった。
「ありがとう、ビビア。じゃあ、本題に入ろうか。トモハル君、君に受けてもらいたい依頼があるんだ。」
「依頼ですか?」
「そうだ。ただ内容が内容だけに人格が保証されていて、なお強い者でないと頼めないことなんだ。」
「えっと、前提に色々言いたいことはありますが、それは置いておいて内容を聞かせてもらえますか?」
「ああ、来月の半ばに行われる予定の『ダラベスト創立5周年記念式典』に来賓として『コウテイヘイカ』が参加することになったんだ。そこで君たちに現場の警備を頼みたいんだ。」
「へ?『コウテイヘイカ』さんという有名な方が来るんですか?長い名前ですね。」
「ん?何を言っているんだ。『コウテイヘイカ』だよ。『ハンガリア帝国第81代皇帝マルカス=A=A=ハンガリア』様だよ。」
「え?えーーーーー!!」
智春は全く予想外の内容に驚きの声を上げる。
「いや、でも、俺、素性とかめっちゃ怪しい自信あるし、強さもC3ランクになたばっかりだぞですよ。」
あまりの驚きに気が動転して言葉遣いがかなり怪しくなっている。
「ははは、落ち着いてくれトモハル君。」
「いや、でも・・・」
「大丈夫だよ。君の事はかなり調べさせてもらったうえでこの依頼を持ってきているんだ。」
「へ?あのどこくらいからですか?」
智春は自分のついた嘘の矛盾に冷や汗をかきながら聞く。
「ん?私が調べてのはクルーペのあたりからだよ。それより前はバーシュ村っていうところから来たってことしか分かってないね。」
「そ、そうですか。」
智春は内心安堵のため息をつく。
実は智春、バーシュ村での記憶喪失の設定に少し無理を感じ、クルーペからは『隠れ里出身の世間知らずで、里の場所は里の掟で話すことができない。』という設定のもと極力嘘を避けていたのであり、バーシュ村とクルーペでの食い違いの露見を恐れたのある。
閑話休題
「まあ、出自が不確かなのは事実だけど、精霊の力を使ってではあるけど『亜竜』を単独撃破したのは事実だし、まあ、ギルドマスターの思惑とはいえ過去に例を見ない速さでのランクアップなんて事実があれば実力に関しては駆け出しのC3ランクでも問題ないよ。それに人格についても『クルーペのギルドマスター』を始め、『|我が街のギルドマスター《ビビア》』、『魔法学院学院長』からのお墨付きをもらっているんだから心配はないだろう。他に何か否定材料が見つかるかい?」
智春から見たアウガスの言い切った表情には『はい、論破!』と書かれていたが悔しいことに事実であり、智春にはそれを覆すことはできそうにもなかった。
「いいえ、そこまで言ってもらえるなら、謹んで依頼を受けようと思います。」
「そうか、それは良かった。じゃあ、依頼の詳しい説明に入ろう。」
アウガスは嬉しそうに頷くと説明を始めた。
「まず、護衛対象はさっきも言った通り『皇帝マルカス』様、そして『第二皇女マリア』様だ。期間は記念式典前日の昼から翌日の朝までが一応の依頼での期間だ。皇帝陛下ら近辺での護衛には王宮の近衛兵らが入る。君たち冒険者には会場内外での警備または私の護衛として賓客席付近での警備を頼みたい。これにはえっと、トモハル君の仲間は彼女たちで全部だよね?」
「え?いいえ。学院で出会った娘なんだけどもう一人学院に居ます。」
「へ?でもでも、その娘冒険者登録してないんじゃないの?」
ビビアはおそらく今朝あったエリーゼの事を思い浮かべ名がしゃべっているのだろう。
「ええ、だけど昨日のうちに近日中に冒険者登録してギルドにみんなでパーティー申請をしようって話を付けていますから問題ないです。」
「そうなのか。じゃあ、君たち5人を含んで全員で10人の信用できる冒険者で今回の警備をやってもらう。残りの冒険者の選出と依頼の説明はビビア任せたよ。」
「ええ、ビビアちゃんまっかせーなさーーい。」
「ああ、頼んだ。で、実はこの話はここで終わらないんだ。」
「へ?」
「ん?私も聞いてないわよ?」
唐突なアウガスの言葉に智春とビビアはそろって首を傾げる。
「ああ、まだ誰にも話していなかったんだけど実は第二皇女のマリア様が来年からこの街の学院に入学する。今回の式典に皇帝陛下がいらっしゃるのは実は、マリア様の学院見学を兼ねているんだ。だが陛下は公務でご多忙であらせられる。なので、マリア様とその側近の騎士を残して先に王都へご帰還なさってしまう。そこで、トモハル君たち現役学院生の強くて信頼のある冒険者にマリア様の学院での案内と王都までの護衛を頼みたいんだ。」
「お、俺たちにですか?」
「ああ、君たちにだ。」
智春の逃げ腰な質問にアウガスは力強く頷く。
「で、でも、俺は王都までの道のりなんてあんまり詳しくないですし。」
「ああ、そこは大丈夫だよ。マリア様の側近はかなり優秀だから問題ない。それに今回は時期も悪くマリア様をお任せできるような信頼のできる行商の部隊はほとんどいないし、早く帰る必要があるから少し厄介な道も通らないといけない。どうかな、引き受けてもらえないだろうか?」
「うーん、なれない道での護送は色々危険にさらしてしまう恐れがありますしね。」
智春はもしもの事を考えて返事を渋る。
「ははは、君にぜひとも頼みたいんだ。本当はこんな話を喜々として受けるような浅慮な者なら何とか理由をつけて依頼を取消、ビビアたち姉妹に丸投げするつもりだったんだがな。」
「えーー、何それ。ちょっとひどーい。」
不敵に笑うアウガスにビビアは抗議するがアウガスはサラッとスルーする。
「そうだ。トモハル君は王都の拳闘大会に参加するんだよね。それなら一度王都を訪れて下見した方がいいんじゃないかな?依頼を引き受けてくれるなら王都で案内してもらえるように私から頼んであげるよ。」
アウガスはこれはいい餌を見つけたとばかりに誘惑をしてくる。
「む・・・・・・・わ、分かった、その依頼引き受ける。その代わり帰りの護送ルートや起きる可能性のあることでの安全を守りたいから色々背後関係とかを俺の知ることのできる範囲くらいで教えてくれ。」
「勿論さ。これだけ重要な依頼なんだからこちらからもできるバックアップは全力でやらせてもらうよ。ああ、あとこの話は君のパーティーの4人には話すことを『許可』するよ。」
アウガスは目論見の成功ににっこりと笑い、片手を差し出す。
「色々大事なことをお願いして悪いね、トモハル君。夕食は近隣の下級貴族たちを招いた簡単なパーティーを開くつもりだ。たっぷりと堪能してくれ。」
「ああ、そうさせてもらいます。」
智春はアウガスの手をしっかり握り、握手をしながら返すのだった。
後ろでビビアが
「パーティー?パーティー!わーい、ご馳走万歳!」
と騒いでいたのは気にしないでおこう。
今回も遅くなり、すみませんでした。
色々フラグ立てるの難しっすね・・・
っと、いろいろと地道に立てたフラグやあからさますぎる物もありますが、皆さんが気付いていることを願います。
このお話を読んでいただきありがとうございます。
これからも智春君たちへの応援よろしくお願いします。
どんなことでもいいので感想をお待ちしています。




