第三章:学院編 22話:週末デートウォーズ(2)
すっごく遅くなりました。
ごめんなさい。
22話:週末デートウォーズ(2)
朝のまだ店が開き始めるくらいの時間、智春は一人で噴水に向かう。
昨日、急にセリアとレイラに待ち合わせを要求され、誘ったメイアとエリーゼには涙ながらに断られてしまい、通りを一人寂しく歩い行くのだった。
レイラが噴水に着くと見たことのあるような後ろ姿を見つけた。
「あれ?バローナさんですか?」
「ん?ああ、レイラか。奇遇だな。」
振り返ったのはやはりバローナだった。
しかし、いつものパンツルックの軽装備にポニーテールな見た目と違い、赤い綺麗な髪をまとめず背中に流し、ひざ下にかかるくらいの(この世界の基準での)ミニな黒いスカートと大人なデザインのブラウスといった感じのまるでデートに来たような服装だった。
そう言うレイラもウニクロで買った真っ白のワンピースにいつもはあまりしない軽い化粧をして、香水まで振っていた。
レイラはバローナも誰かを待っているのだろうと思い、そしていつもと違いおめかしをしたバローナに嫌な予想が一つ立ってしまった。
「あの・・・・バローナさんも待ち合わせですか?」
「あ、ああ、も、ってことはレイラもか?・・・・・!」
バローナは照れ臭そうの聞き返した。
しかし、首肯するレイラの複雑そうな表情に何かに思い当たったようだ。
「ま、まさか、相手は・・・・」
「はい、おそらく想像の通りだと思います・・・・」
「「はぁ~」」
二人はあの鈍感な人懐っこい笑みの少年を思い浮かべため息をつく。
「もしかしたら私たち二人だけではないかもしれんぞ・・・」
「む・・・そう言えばセリアが何か怪しい動きをしていましたね、私は今日の事に夢中で気にしていませんでしたが・・・」
「ん?怪しい動きとは?」
「はい、この2,3日セリアはメイアやエリーゼさんに週末に用事を頼みつけて、対価に結構なものを渡していたようなんです。」
「ふむ、それは気になるな・・・っと、エリーゼというのは?」
バローナは初めて聞く名前に嫌な予感を携えながら聞く。
「ああ、そう言えばバローナさんは面識ありませんでしたね。エリーゼさんは学院に入って私たちとトモハルさんを巡ってひと悶着あった巨乳の兎人族の方で、トモハルさんを溺愛していて正直かなりの強敵です。」
レイラはどこか悔しそうな表情で、特に巨乳に力を入れてエリーゼの特徴を話す。
「そうか・・・」
バローナはどこか絶望したような表情でつぶやく。
彼女の名誉のため言っておくが、決して彼女の胸は小さいわけでは無い。
ただ、セリアやレイラと比べると少々見劣りがする程度だ。
メイア相手には・・・・まあ、メイアにはメイアの魅力があるのだとだけ言っておこう。
バローナがメイアの胸を思い出して少し元気が戻った(←おい!)ところで、噂の三人目が現れた。
「あら?レイラにバローナじゃない。」
白の上着と紺のスカートに赤いスカーフという地球でおなじみのセイラー服に身を包んだセリアがご機嫌そうに近づいてきた。
「セリア・・・その、残念なお知らせがあるのですが・・・」
「ん?どういうこと?」
セリアは自分の根回しを信じて疑わないようで、レイラの言葉に不思議そうに小首を傾げた。
「じつわー、その・・・」
「すまん、遅くなった。」
レイラが控えめに切り出そうとしたとき、この問題の当事者が現れた。
「あら、トモハル。私も今来たところよ。」
セリアは上機嫌で智春を振り返ると、天使のような微笑みを浮かべた。
「そうか、ならよかった。っと、三人ともそろってるな。じゃあ、行くか。」
「へ?さ、三人・・・?」
セリアの笑顔が凍り付き、その場の温度が少し下がった気がした。
「せ、セリア、どうしたんだ?」
「ねえ、トモハル・・・どうしたと思う?」
セリアの絶対零度の視線ににらまれて、智春は寒気を感じ身震いする。
セリアの背後にある噴水の水が凍り始めレイラやバローナも慌て始めた。
「せ、セリア、落ち着いてください。」
「早まるな、セリア。」
あたふたする二人を歯牙にもかけず、セリアは一歩ずつ智春に近づく。
「せ、セリア、待ってくれ、な、何が悪かったんだ?」
「ふふふふー、大丈夫よ、ただ・・・・」
「ただ?」
背筋の氷ような笑みを浮かべたセリアは言葉を切り、周囲は固唾をのむ。
「一回ぶっ飛んできなさーーーーーーーい」
そんな言葉と共にセリアは中威力物理型の氷魔法である『アイスハンマー』を智春めがけて放った。
「な、いや、死ぬーーーーーーーー」
朝の活気に包まれていたはずの噴水広場にそんな智春の悲鳴が響き渡のだった・・・・。
-------------END?------------
っと、まあ、そんなこんながあり、
現在、何とか骨折だけで済んだ怪我をレイラに治してもらった智春は不機嫌な表情で一言も話さないセリアとそれよりもう少しはましな態度のレイラとバローナの四人で鍛冶屋に向かっていた。
先行するバローナは後ろを歩く三人をチラチラと見ながらうらやましそうにため息をつく。
「その、三人とも済まん・・・まさか、一人ひとりがよかったとは思わなかったんだ。」
智春が今までにないほど落ち込んだ表情で謝罪の言葉を口にする。
しかし、セリアはじろりと智春を一瞥するとまたそっぽを向き、それをレイラとバローナはうらやましそうに見つめる。
「確かに、ちょっと考えれば分かることだったよ。複数人で行くと全員の行きたい場所に行けないし、時間もかかってしまうもんな・・・・」
「「「分かってないじゃない(ですか)‼」」」
「イタッ」
しんみりと呟く智春の的外れな言葉に三人は同時に突っ込み、セリアは腕をつまむ。
「へ?違うのか?」
智春の間の抜けた言葉にセリアが目を怒らせる。
「わ、私たちがそんなことで怒るわけないじゃない。私たちはただ・・・・・・けよ。」
最期の方は声が小さくなり、智春の耳には届かない。
「そうですよ。そんな些細なことで私たちは怒ったりしません。っと、それよりセリアはいつまでそうしているつもりですか、いい加減うらやま、はしたないですよ!」
「ふ、ふん、別にいいじゃない。それにうらやましいなら貴女もすればいいじゃない。もう片方が開いてるんだし。」
「わ、私は別に・・・・」
レイラはセリアの反撃に尻すぼみになる。
しかし、レイラの目線はまだうらやましそうにセリアの方を向いていた。
何を羨ましがっているのかと言えば、いわゆる腕組みというやつである。
セリアは智春に視線を向けないながらもその右腕をガッチリホールドしていた。
実はさっきの魔法で智春が骨折したのがこの右腕である。
思いがけず大怪我をさせてしまったが、セリアは思わず魔法を使ってしまったことに少し罪悪感を覚えており、レイラの治療が終わるや否や右腕をいたわるように抱き着いて離れないのである。
「むぅ、と、トモハルさんも歩きにくいですよね、セリアに離れるように言ってください。」
「い、いやー、こうなったのも俺のせいでもあるしな・・・」
智春はそんな二人の様子を見て苦笑する。
だが、智春がセリアに離れるように言わないのは、セリアがまだ違和感の残る右腕を氷の精霊としての力を使って冷気で包み込むことで冷やしてくれていたからである。
それに今回の事は智春に負い目あるので離れてくれとは言えない。
だから決して右腕に当たるセリアの胸の感触を離したくないからなどではないのだ・・・・な、ないったらないのだ!
「そ、そうだ!また、こんど時間があるときに三人とも別々に出かけよう。あ、あと今日の昼飯は俺のおごりだ!・・・・・これじゃダメか?」
智春はレイラのジト目から逃げるように提案し、最後に縋るようにセリアを見る。
「はあ、もう分かったわよ。その代り次は絶対に二人っきりなんだからね。」
「あ、ああ。もちろんだ。」
セリアはため息をひとつつくとを智春一瞥し、前を向いた。
腕にしっかり抱き着いたままではあるがとりあえず、今日のデートは開始された。
「で、バローナこれはどこに向かってるの?」
「ん?ああ、今日はトモハルの剣を鍛冶屋に預けに行ってから街の案内をしながらぶらぶら歩くのが今日の予定だ。」
「そう、まあ、貴女の場合はトモハルが勘違いした理由が分かる気がするわ・・・」
「そうなのか?・・・あとで教えてくれないか?」
「ええ、敵に塩を送るようだけどまあいいわ。」
「そうか、それはありがたい。っと、着いたここだ。」
バローナが立ち止まったのは大通りから少し入った一つの建物だった。
建物の外には店の内容が分かる看板などは一切ないが、ドアには『本日営業』のプレートがポツンとかかっていた。
「ん?ここであってるのか?」
「ああ、間違いない。っと、ブリジッドーー!」
バローナは返事半分、店に入りながら誰かの名前を呼ぶ。
「はーい。って、バローナ姉さんか・・・なに?新しい剣でも買いに来たの?」
店に入ると、奥からバローナによく似た顔立ちの赤髪の少女が出て来た。
「いや、今日は私では無く彼の剣の修理に来たんだ。親方はいるか?」
「ん?彼?」
「初めまして、俺はトモハル=アオヤマだ。一応、C3ランクの冒険者だ。」
「へ?バローナ姉さんが男と?・・・って、春が来たわけではなさそうね・・・っと、私はブリジッド=ロードヴィヒ。バローナ姉さんの妹で鍛冶屋見習いをやってます。」
ブリジッドは智春の腕にくっつくセリアを見て少し残念そうにしながら自己紹介をした。
「えっと、剣の修理でしたね。師匠ーーバローナ姉さんの紹介で修理が一件だよーー」
「おう、少し待ってろ!」
ブリジッドが奥に呼びかけると、中年くらいの男性の声が帰って来た。
「はぁ、せっかくのお客なのにいつもこうなんだから。」
ブリジッドはため息をつくと、世間話を始めた。
話してみて分かったのだが、この鍛冶屋は実力が認められた人のみをギルドの関係者が紹介する形でしか客がやってこないので大体いつも暇らしい。
なので親方はいつも暇つぶしのように剣などを打っていて、客が来ても作りかけの時は絶対に出て来ないそうだ。
「ふーん、ってことはまだ姉さんにもチャンスはあるってわけね・・・もう、第二妻でもいいから積極的に行かないとビビア姉さんみたいになっちゃうよ。」
「よ、余計なお世話だ!お前は私よりも自分の心配をしたらどうだ!」
「私は大丈夫よ。きっといつか私にふさわしい人が現れるんだから、それを今は待ってるのよ。」
「はあ、そんな事言ってると姉さんみたいになるぞ。」
こうして見ると二人は仲の良い姉妹である。
「っと、終わったぞ。で、客ってのはお前さんか?」
「ああ、冒険者のトモハル=アオヤマだ。で、これが打ち直してほしい刀なんだが。」
智春は『シャドウクローゼット』の中から黒い刀袋を取り出した。
この刀袋はクルーペを出る前の晩にレイラが縫ってくれたものである。
「おう、じゃあ少し失礼して・・・ほう、これは見たことの無い造形だが素晴らし剣だ。其れに剣がここまでまだ戦いたと言っているのは初めてだ。この仕事させてもらおう。」
智春の刀『雲雀』はかなりバラバラに砕けてひどい状態だったが、親方はその刀を見た瞬間目の色が変わった。
「すごい、師匠が二つ返事で仕事を受けるのなんて初めて見た!」
「俺だって、そう言うこともあるわ!っと、お前さん、トモハルと言ったか?この剣は誰が打った?」
「ん、これは俺の祖父が俺のために打ってくれたものなんだ。」
「そうか、この剣、刀といったか?まあいい、だがこれほどの物を打てる刀鍛冶は俺ら土魔族にもそういないぞ。完全に元通りにしてやろう。っと言いたいとこなんだが、残念ながらこれは損傷が激しすぎる。この刀の破片を使って新しい刀を作るというのでいいか?」
親方は興奮したようで少し残念そうな表情をして言った。
「ああ、流石にそれはしょうがないだろう、頼む。」
「引き受けた。代金は刀を引き取るときに持ってきてくれ。期間は一週間程度は待ってほしい。」
「ああ、了解だ。俺の相棒を頼む。」
智春はそう言うと鍛冶屋を出て、セリアたちとのデートを始めるのだった。
鍛冶屋を出たあと、智春たちは近くの食堂で早目の昼食をとり、現在、メインストリートの屋台を物色していた。
「トモハルさん見てください!このアクセサリー貝殻でできてますよ!」
「トモハル、見て!あのガラス細工綺麗よ!」
「トモハル!見ろ!あのナイフ美しい装飾だ!」
セリアたちは三者三様、自分の好きなもを見つけては智春を引っ張っていく。
ここになって再び、智春は三人一緒に来たことを後悔する。
三人が別々の物に目を付けるので、智春は一人てんてこ舞いの状態なのである。
「さ、三人とも待ってくれ。す、少し休憩。」
三人に引っ張られること一時間、ついに智春が音を上げた。
「ご、ごめんなさい。私たちだけで盛り上がってしまいましたね。」
「いや、いいんだ。ちょっと十分くらい休憩するから好きなところ見ててくれ。」
「全く、情けないわね。まあいいわ、息抜きが済んだら呼びなさい。」
「ああ、ありがとう、セリア。」
「べ、別にいいわよ。レイラ、バローナ行きましょう。」
セリアは顔を赤らめてそっぽを向くと二人を連れてさっさと行ってしまった。
智春は苦笑気味にそれを見送ると屋台で飲物を買って息抜きをする。
甘酸っぱい爽やかな味わいの果汁ジュースを飲みながら智春は何んとなく隣の屋台を覗いた。
そこは少し高めのアクセサリーショップで、目玉は魔石を使った色とりどりの指輪であった。
翡翠に紅、オレンジや青にゴール、いろいろな色の指輪を見つめながら智春はあることをひらめいた。
十分程度の休憩をはさみ、再びセリアたちと合流してウインドウショッピングを楽しんだ智春たちは、現在、バローナおすすめのカフェでお茶を飲んでいた。
「今日は楽しかったですね~」
「ええ、色々見たことの無いものを見れてとても有意義だったわ。」
「確かに、バローナ、今日は案内ありがとうな。」
「あ、ああ、こ、今度のデートはトモハルがエスコートするんだぞ。」
「おう、任せとけ!」
赤面するバローナに智春はサムズアップする。
「ふーん、じゃあ、私も期待しておこうかな。」
「あ、私もしてます。」
「お、おう、任せとけ。」
四人でお茶を楽しみながらまったりと会話していると、午後六時を知らせる鐘が鳴った。
「はあ、もうそんな時間か・・・楽しい時間はあっという間だな。」
「そうだな、バローナ今日は本当にありがとな。」
「ふっ、気にするな。私は大概はギルドにいるから次の日程が決まったら来てくれ。」
「ああ、そうするよ・・・っと、忘れるところだった。ほら、これがバローナでこっちがセリア、とこっちがレイラな。」
智春思い出したようにポケットから小さな箱を三つ取り出した。
箱はリボンでラッピングされており、それぞれリボンの色がバローナは青、セリアは翡翠、レイラが紅である。
「何ですかこれ?開けてみても?」
「ああ、もちろんだ。」
智春の了承を得て三人はリボンをほどく。
すると、中からはリボンの色と同じ色の魔石をあしらったシンプルな形の指輪があった。
「綺麗・・・これどうしたの?」
「ああ、さっき屋台で全員分買っておいた。今日のお詫びとお礼だ。」
「そう・・・ふふふ、ありがとう。」
「あれ?この色はもしかして・・・」
「ああ、みんなの目の色に合わせてみたんだ。」
「ふむ、なかなか粋な事を考えるんだな。」
「ええ、私も正直びっくりね。」
驚いて喜ぶ三人に智春は照れて頭をかく。
「「「ありがとう、トモハル(さん)」」」
その時の三人の笑顔が今日一番最高の笑顔だった。
ちなみに、学院に帰ってメイアとエリーゼにもそれぞれオレンジとゴールドの指輪を贈ると二人とも目に涙を浮かべ、飛び跳ねて喜んでいたのだった。
今回も目を通していただきありがとうございます。
本作品は常時感想をお待ちしております。




