第三章:学院編 21話:週末デートウォーズ(1)
21話:週末デートウォーズ(1)
智春たちが盗賊団を壊滅させた翌々日、智春は冒険者ギルドの応接室のソファーに一人座っていた。
智春はもう湯気の立たなくなったケール(地球で言うコーヒーに似た飲物)を口に運びながら、渡された資料を読んでいた。
内容は今回の盗賊団関係の事と智春の暗殺計画の事に付いてだった。
今回の盗賊団は、盗賊団としては中堅クラスだったがこの街を根城としていて、この街の衛兵が血眼でアジトを探していた者たちだった。
その為、智春の元には衛兵からだけでなく領主からもお礼状が来ていた。
また、智春の暗殺計画にはあのダラス侯爵家のバカ息子が関係していたらしく、それについての説明をこめて近々ダラベスト領主、ラベスト侯爵家に呼ばれることになっていた。
何とも迷惑な話である。
智春が何とも言えないため息をついていると、応接室にバローナが入って来た。
「すまない、待たせてしまったな。」
「いや、今これを読み終わったところだったからちょうどよかった。」
「そうか、それは良かった。」
バローナは申し訳なさそうな表情で智春の向かい側のソファーに腰を下ろす。
「姉さんは今回の事の事後処理に追われていて手が離せないから私から説明させてもらう。まあ、今回の事件に関してはその資料に乗っていることだけだ。」
バローナは智春の目の前にある資料を差す。
そして、急に表情が厳しくなる。
「でだ、トモハルが今回一番気になっているだろう彼らの刑に付いてだが、まず、盗賊団の男たちは全員処刑が決まった。彼らは、彼女、カノン君を捕まえた事件、『アーテラリスの悲劇』で、当時かなりの豪商だったカノン君の父と母、また家に仕えていた使用人と警護で雇われていた傭兵の全ての者たちを殺害した過去があったからな。で、その事件の最期の生き残りであるカノン君は、隷属魔法が使用されていたこともあり、処刑は無いが奴隷落ちだ。流石に無罪にするには罪が多すぎた。」
「そうか・・・・でも、奴隷落ちってことは俺が買い取ることもできるのか?」
智春は縋るように聞く。
「いや、それが無理なんだ・・・一般ではあまり知られてないが今回のような場合、被害者が加害者に不当な仕返しができないように被害者による加害者の購入は禁止されているんだ。」
バローナは申し訳なさそうな表情で語る。
「そんな・・・じゃあカノンは・・・」
「まて、トモハル、お前の場合は方法が無いわけでは無い。」
「なに!本当か!?」
「むぅ、そんなに反応するなんて・・・妬けてしまうじゃないか・・」
「ん?なんだって?」
智春の勢いにバローナは小声で愚痴るが、智春の耳には届かない。
「な、なんでもない!それより方法についてだが、トモハル、『9番目の月』に開催される帝都での拳闘大会で優勝するんだ!」
「は?どうしてそうなるんだ?」
智春は意外な答えに首を傾げる。
『9番目の月』とは地球で言う9月の事である。
「ああ、実はな、この大会の優勝者には皇帝に一つ願いを聞き入れてもらえる権利が与えられるんだ。まあ、あまり不敬に当たるものや犯罪行為なんかは無理だが、お前の状況なら話さえすればきっとかなえてもらえるはずだ。幸い、優勝者の願いは皇帝と本人以外には知らせないという決まりもある。」
「それはありがたい話だが、大会があるのが半年後じゃあその前にカノンが他の奴に買われてしまうかもしれない、そうなったら元も子もないじゃないか。」
「それに関しては安心しろ。犯罪で奴隷に落とされたものは、まず、国の奴隷として労働する義務があるんだ。労働の長さはそのものが犯した罪によって変わるが、カノン君の場合は一年の労働だから大会の前に売れてしまうことは絶対にない。」
不安そうな智春にバローナは自信をもって答える。
「そうか、それは良かった。」
「ふふ、大会で優勝できるかについては不安はないんだな。」
「い、いや、別にそう言うわけじゃないんだが・・・」
「あはは、冗談さ。でも、トモハルはなんでそのカノン君にそこまで執着しているんだ?」
慌てる智春を笑うバローナだったが、少し不機嫌そうに聞く。
「んー、執着というか、カノンは初めて俺に好意を伝えてくれた相手だし、あいつの境遇を聞いて助けてやりたいと思ったんだ。」
智春は何となくすがすがしい表情で話す。
それを見てバローナは少し眉を寄せるが、智春に気付かれないようにすぐに元に戻す。
「そ、そうか・・・・まあ、大会では応援しかできないが、その、それまでの特訓などは手伝える。なにかあったらいつでも頼ってくれ。」
「ああ、それはありがたい、頼らせてもらうよ。」
智春が感謝を込めて微笑むのを見て、バローナは顔を赤く染めた。
「あ、ああ、いつでも頼って来い・・・・っと、そうだトモハル、そ、そのだな、こ、今週末にだな、その、鍛冶屋のところに行かないか?そしてそのあとに一緒にランチなんてどうだ?」
「ん、『雲雀』の修理の件か、週末なら大丈夫だ。こっちから頼まないといけないのにありがとな。っと、それと午後から街の案内をしてくれよ。」
「!そ、そうか!では、『光の日』の朝に学院からここに来る途中にある噴水の前で待ち合わせにしよう!それで、いいか?」
「ああ、了解だ、ありがとな。」
嬉しそうに提案するバローナに智春はもう一度礼を言うと席を立った。
この世界での1週間は8日間であり、ひと月は4週間で32日ある。
そして、ひとシーズン4か月で、春夏秋冬の四季が存在している。
つまり1年間、512日あるのだ。
これは古代に全種族の長が決めたため、この世界ではどこに行っても通じるのだ。
ちなみに現在は春に当たる『聖歴1196年、芽吹きの季節、3番目の月、第2の週の土の日』である。
季節にあたるのが『芽吹き』で、他に夏は『新緑』、秋は『収穫』、冬は『整地』という。
また、月は1番目の月から16番目の月という数え方をする。
そして、週は第何週と数え、『風、火、水、土、雷、氷、光、影』の8日で数える。
この世界で使われている年号は『聖王歴』と呼ばれ、古代の各種族の長達が互いに平和の約束を結んだ日がその元年になっていて、聖歴何年というように数えるのだ。
つまり、この日から3日後の光の日にバローナは智春とデートの約束を取り付けたのである。
閑話休題
入学してから4日目、智春の学院生活はすでに一つのサイクルが出来上がっていた。
学院のカリキュラムはもともと全属性適性者の想定がされていなかったこともあり、智春は多くの授業の取捨選択を余儀なくされた。
なので智春は思い切って、基本の12属性とバナードの『魔法工作』以外の授業を捨てて、空いた時間を新しい魔法や魔道具の研究、作成に費やしているのである。
ちなみに、エリーゼは空いた時間の全てを智春と共に過ごせるように授業を調節し、かいがいしく智春の世話を焼いているのだった。
バローナと約束をしたその日も智春は研究室に向かう。
研究室にはいつものようにエリーゼがいた。
「おかえり・・・トモハル・・・お茶にする?研究にする?それとも、ワ・タ・シ?・・・」
エリーゼは頬を赤らめながらかわいらしく首を傾げる。
「そ、それ、どこで覚えた?」
「ん・・・セリア・・・今週末に頼み事を聞いてあげる変わりに教えてもらった・・・いい取引だった。」
「そ、そうか・・・」
ほくほく顔で話すエリーゼに智春は若干げんなりとする。
エリーゼは初日の夜這いからずっと、こうやって智春を誘惑してくるのだ。
「ん?そう言えば、エリーゼ週末はじゃあ予定が入っているのか?」
「ん・・・取引の結果・・・どうかしたの?」
「ああ、よかったら一緒に街に行こうかと思ってたんだが用事があるなら無理だな。」
「ん!・・・不覚・・・トモハルとのデートを逃すなんて・・・くっ、もう報酬をもらってるから後戻りできない・・・」
ガックリとうなだれるエリーゼに智春は苦笑を浮かべる。
「まあ、そう落ち込むなエリーゼ、来週に一緒に行ってやるから。」
「!・・ホント!?」
エリーゼはものすごい勢いで復活する。
「あ、ああ、もちろんだ。」
「ホント?・・・二人っきりでデート?」
「ああ、二人だけがいいならそうするよ。」
「そう・・・嬉しい!・・・絶対約束・・・」
エリーゼはそう言うと、嬉しそうに耳と尻尾を揺らしながらお茶を沸かし始めた。
かわいく、鼻歌も歌っている。
智春はその背中を楽しそうに眺めるのだった。
週末を明日に控えた氷の日、授業が終わったセリアたちは寮の自室への帰路についていた。
「ねえ、メイア、ちょっと頼みごとがあるのだけれど聞いてもらえないかしら?」
「ん?内容にもよるわよ。」
メイアは訝しげにセリアを見つめた。
「いえ、その、明日なのだけど私は少し用事があるから、図書館で代わりに探してもらいたい本があるの。」
「ふーん、本ねぇ、それで、どうして私に頼むの?私のメリットは?」
メイアは怪しむような目線を向ける。
「私はちょっと外せない用事があるの、だからお願い!次の夜這いの私の番をあなたにあげるから!」
「乗った。絶対だからね!」
「ええ、もちろんよ。」
破格の条件にメイアはすぐに飛びつく。
(ふふふ、智春の事だからきっとみんなも連れてこようとするかもしれないけれど、これで残す邪魔者はレイラだけよ・・・絶対に二人っきりのデートをしてみせんだから!)
メイアが嬉しそうに笑っている横で、セリアは黒い笑みを浮かべるのだった。
寮に帰るとセリアはいったん自室に帰って荷物を置いてからレイラの部屋に向かう。
廊下に出ると、セリアは智春に会った。
「おう、セリアどうしたんだ?」
「い、いえ、ちょっと散歩よ・・・そうだ、智春ちょっといいかしら?」
セリアはとっさのひらめきに智春を部屋に引っ張り込んだ。
「!っと、どうしたんだセリア急に?」
智春はとっさの事に目を白黒させる。
「あの、トモハル、明日のデートなんだけど、朝一緒に行くんじゃなくて待ち合わせにしない?」
「ん?別にいいけど・・・じゃあ、街の噴水で待ち合わせな。」
「ええ、ありがとう♪楽しみにしてるわよ。」
セリアは寮を出るときに他の娘に智春と一緒に出掛けるのを見つかる可能性を考えたのである。
そして、それを見事回避したセリアはルンルン気分でレイラの部屋に向かった。
「は、はーい。」
レイラの部屋をノックするとレイラが少し慌てたように応えた。
「レイラ、私だけど、今ちょっといいかしら?」
「セリア!ちょ、ちょっと待ってください。」
慌てた声と共に部屋の中でバタバタと何かを片づける音がする。
少ししてレイラの部屋の戸が開いた。
「ごめんなさい、もういいですよ。」
レイラはすまなそうにセリアを招き入れた。
「いいわよ、別に。それより、何をしてたの?」
「あの・・・それは・・・えっと・・・そう、明日友達と遊びに行く服を選んでいたんです!」
「ふーん、気合入ってるわね。」
どもりながら答えるレイラにセリアは訝しげな視線を向ける。
「は、はい、ちょっと気合が入りすぎてしまいました・・・っと、セリアはどうしたんですか?」
レイラは追及を逃れるように話題転換をする。
「ああ、それなら別にいいわ。明日ちょっと頼みたいことがあったのだけれど、友達との用事があるなら別に大丈夫だから。ごめんなさいね。じゃあ、また明日。」
セリアは追及を恐れてそそくさとレイラの部屋を後にする。
セリアは自室に逃げ込むように入ると思いっきりガッツポーズを取った。
(やった、念願の二人っきりデートができる!)
セリアはニヤニヤの止まらない顔で部屋備え付けのクローゼットを開く。
(ふふふ、これで明日の計画は完璧よ・・・)
セリアのクローゼットには、白い上着と紺のスカート、赤いスカーフという地球おなじみの服装が掛かっていたのだった。
セリアがあわただしく出て行った後、レイラは再び服を取り出して明日のデートの服装を考える。
お婆様からもらった数少ない指輪やネックレスなどの装飾品も出して、服に合わせたり、姿見の前で一度着替えて見たりなどして帰って来てシャワーを済ませてからかなり長い時間悩んでいた。
明日のデートが待ち遠しくて仕方ないのである。
今日の昼には、リリーとフェリーナに言われて智春と待ち合わせをするように頼みに行ったりもした。
彼女ら曰く『デートとは、待ち合わせで相手のハートをつかまなければデートにあらず。』という事らしい。
まあ、そんなこんなで明日の待ち合わせの時に智春のハートをつかむための服を現在捜索中なのである。
そして、レイラはやっとのことで自分の納得できる服を見つける。
あくる日、少女たちの思惑の渦巻いた戦争が幕を上げた。
このお話を読んでいただきありがとうございます。
今回は話の流れの関係で短めになってしまいました。
次回の週末デートウォーズ(2)をお楽しみに。
お知らせです
投稿日を土曜日に帰るかもしれません、変わる場合は来週の水曜日までに活動報告に投稿します。
もし、来週の水曜日の23時までに次話の投稿が無い場合には、お手数ですが活動報告のほうをご覧ください。




