第三章:学院編 18話:とある魔法の研究室
名前が紛らわしかったので変更しました
内容
セシリア→エリーゼ
18話:とある魔法の研究室
少女、エリーゼは小さいころからその美貌と家が村長の家系であることもあり、同年代の友達は少なかった。
幼き頃のエリーゼは一人の時間を魔法書を読むことでで補うようになり、もともと獣人族の中でもとびぬけていた魔法の才能に拍車がかかっていた。
獣人族は魔法の適性が無いと言ってもそれは魔族と比較しての事であり、決して獣人族全体の魔法水準が低いわけでは無い。
しかし、エリーゼの魔法適性は少し適性がある魔族くらいは軽く凌駕すものだった。
そのことがエリーゼを一人にすることにさらに拍車をかけていたことは想像しやすい。
彼女の両親がそんな彼女を不憫に思い、早々と縁談を決めようとした矢先、エリーゼは星読みに目覚めたのである。
エリーゼは星読みに目覚めたことで、村のためにいろいろな予言をしながら暮らしていた。
そんなある日、黒髪に黒い瞳の優しそうな少年の隣に立つ自分の姿を予言に見たエリーゼは両親を説得し、星読みに示されたとおりにダラベストにある魔法学院に入学したのである。
エリーゼは学院に入ってからも周りとあまり関わることもなく、魔法の才を高めながら運命の相手が現れるのをただ待っていた。
そして、入学してきた智春を見た瞬間思ったのだ
(ああ、私はこの人に会うために生まれて来たんだ。)と・・・
水魔法の授業をレイラとエリーゼに挟まれながら何とか終えた智春はエリーゼに次の時間の授業を尋ねる。
ちなみにレイラは次は授業が無いそうで、新しい友人に引きずられて学院のカフェテリアに連行されていった。
「ん、次は『氷魔法』と『炎魔法』、後『魔法工作』・・・・」
「そっか、じゃあエリーゼは授業が無いんだな。」
「ん・・・だから付き添いする・・・途中入学者は一週間、付き添い者をクラスの中から頼める・・・」
「ふーん、そっか、ありがとな。じゃあどの授業がいい?」
「ん・・・『魔法工作』推奨・・・」
「了解。じゃあ、案内頼むな。」
「ん・・・任せて・・・」
エリーゼは自己主張の激しい胸をひとつ叩き歩き始めた。
この学院の授業は選択制になっており、一コマ一時間くらいの午前三時間午後三時間の六時間制である。
授業は同時に3~4種類の授業が並列して行われており、選択したい授業が被ってしまう者のために午前と午後は同じ内容の授業が行われている。
また、授業は基本元素に沿ったものだけでなく『魔法工作』や『薬品調合』など多種多様な授業がある。『魔法工作』には〈鉄、無〉の両方の属性が必須のため、〈水、雷、無、影〉のカルテットであるエリーゼは受けられないのだが、エリーゼが言った通り途中入学者の付き添いであれば教室にいることができるのだ。
生徒は制服の胸と左肩の位置に学生証のバッチと同じ紋章が刺繍されるので、それを使って履修可能かが判断されるのである。
ちなみに、智春は採寸すらやっておらずまだ制服ができてないので一週間くらいは私服だ。
制服の描写はまた後ほど・・・
『魔法工作』の教室は地下にあり、机は他の教室の物より大きいうえに一人ようなので教室がかなり狭く感じる。
エリーゼは教室の隅に置いてある予備の椅子を持ってきて智春と同じ机に着いた。
受講者は〈鉄、無〉のデュエットを強いられるためかあまり多くない。
教室が閑散とした空気のまま、授業開始の鐘と共に中年の白衣を着た頭の寂しい男性教師が教室に入ってくる。
「ふむ、今日は新顔がいるようだね。では、自己紹介をしておこう。私は『魔法工作』の担当のバナード=サスナリアだ。私は〈鉄、影、火、無〉のデュエットだ。では、授業を始める。」
バナードはテキパキと話す人で、説明も的確でとても分かりやすい授業だった。
内容は、魔法道具の基本や仕組みを教科書に載っている物から紹介、説明をするものだった。
「ふむ、では今日の教科書の進行はここまで。では各自今日の説明で思いついた魔法道具や回路についてまとめておくように。実習に進んだ時にそのアイディアが生きてくるからな。」
バナードはそう言って生徒たちにアイディアを書かせている間に何かを影から取り出して準備する。
「よし。では最後に恒例の私の発明品をお見せするとしよう。今回の作品は『少ない魔力で夏も快適君』だ。」
バナードが取り出したのは智春が知っている扇風機そのものから電気コードとけが防止の柵を取ったものだった。
「これは私の無属性魔法の『流動』の回路を刻んであって、ここの魔石に魔力を溜めるとこのプロペラが回転し、風を送り出してくれるから暑い日も涼しくなるという訳だ。」
バナードの説明をクラスの皆は食い入るように聞いており、智春も例外ではない。
ただ、エリーゼだけは授業の間中飽きもぜず智春の顔を眺めていた。
「ふむ、誰か実際に動かしてみたいものはいないか?」
バナードの言葉にクラス中の手が上がる。
智春も例にもれず手を上げる。
「ふむ、では新顔の君にやってもらおう。」
「は、はい。」
バナードに指名され、智春は嬉しそうに前に出て行った。
智春は医科系志望だったとはいえ理系である、物作りはかなり好きな方だった。
「では、手をこの魔石の上に置いて魔力をこめてみるんだ。」
「は、はい。」
智春は言われたとおりに魔力を込める。
魔力操作はギルドで借りた教本で習得済みである。
「ふむ、そのくらいでいいだろう。では、魔石を前に滑らせるんだ。」
智春が操作すると扇風機の羽が回りだして、風を送り始めた。
「「「「「うぉぉぉ。」」」」
クラス中から驚き、拍手を送るものまでいた。
「ふむ、ありがとう。では、席に戻っていいぞ。」
「はい、ありがとうございました。」
智春は珍しく敬語でお礼を言うと席に戻った。
「ふむ、これは今実践してもらったように簡単に作動することができる。さらに、魔力を込めるだけなのでどんな属性の者にも使えるという利点があるのだ。ただ、あまり暑すぎるところでは送り出される風も熱くなってしまうためあまり効果が無いのがまだ改良の余地があると言えよう。」
バナードの説明に何人かの生徒はメモを取り、自分のアイディアの糧にしている。
「ふむ、では、今日はここまでとしよう。各自、自分のアイディアを無駄にすることの無いように。可能性は無限大だが個人のひらめきは有限だからな。」
バナードがそう締めくくると、生徒たちは教室を出て次の授業に向かったり、その場で自分のアイディアを固めてたりと、休み時間に入った。
「トモハル・・・次、『影魔法』ある。・・・行こう。」
エリーゼは智春を次の授業に促す。
「エリーゼ、ちょっと待ってくれ。」
「ん?・・・分かった。」
智春は腕を抱こうとしていたエリーゼの肩に手を置いて押しとどめ、教壇の方に向かった。
「先生、質問していいですか?」
「ふむ、君は新顔君だったね。いいだろう。なんだい?」
「はい。その、さっきの魔道具なんですが、どうして風魔法の『ブリーズ』ではなく、わざわざ念動魔法でプロペラを動かすんですか?」
実際に風魔法の初級に『ブリーズ』と呼ばれるそよ風を起こす魔法があり、智春はその回路を使えばいいのではないのかと考えていたのだ。
「ふむ、良い質問だ。それはだな。魔力の消費効率の問題なんだ。」
「消費効率ですか?」
「ああ。これは魔法基礎の分野に当たるのだが、一般に無属性の魔法と思われている魔法は実は第ゼロ系統の魔法なんだ。」
「へ?ゼロ系統というのは?」
「うむ、このゼロ系統というのはな、念動や固定魔法といった魔法の事で最近『一般魔法』という名前が付けられたのだがな、あまり浸透していのだ。」
バナードは少し残念そうに話す。
「でだ、その一般魔法はな、普通に魔法として使うにはかなり燃費が悪いが魔法回路にすると他の魔法よりも魔力の消費効率がよくなるんだ。ああ、あと、なぜか無属性の魔力を使うと効率が良くなるから無属性の魔法と勘違いされていたんだよ。」
「なるほど。それで『フロウ』を使っていたんですか。」
「ああ、私の目標は魔道具で人々の生活を豊かにすることだから一般向けに考えていたのだ。」
「すごい目標ですね。」
「ふむ、そうだ新顔君、名前は何というのかね?」
「はい、トモハル=アオヤマです。」
「ふむ、トモハル君。君は良い発想の持ち主だがこれからもこの授業を取るかね?」
「はい、もちろんです。」
「ふむ、ふむ、君からは私と同族の気配を感じるよ。よし、では今から私の研究室を見てみる気はないかね?」
「い、いいんですか!?」
「もちろんだ。学長からも今回の入学生はなかなかに見どころがあると聞いていたからね。私としても同じ物づくりを好むものに協力は惜しまないよ。」
「はい、ありがとうございます。それと、実は新魔法や複合魔法なども作っているのですが、」
「ほう!道具だけでなく魔法もかね!ますます、私と同族ではないか!よし、研究室に行こうではないか。」
すっかりテンションの上がってしまったバナードは智春を連れて歩き出した。
智春は机で智春を見つめながら待っていたエリーゼに話しかける。
「ごめん、エリーゼ。次の授業でないことになった。」
「ん・・・分かった・・・先生、私も言っていい?・・・」
すまなそうに言う智春にエリーゼはなんでもないように頷き、バナードに話しかける。
「ふむ、君は確か『支援魔法』の授業に来ているエリーゼ君だったな。来るのはかまわんよ。ただ、怪我をするかもしれないから不用意に部屋の物には触らないでくれよ。」
「ん・・・分かった・・・トモハル行こ・・」
エリーゼが頷くと、バナード先導の元三人でバナードの研究室を目指した。
バナードの研究室は教室を半分に区切ったようなところで、壁の棚にはいろいろな薬品が、机や床には魔道具の部品などが並べられていた。
別に散らかしているわけでは無く、ただキャパシティーオーバー故に床まで置き場に使われているのだ、さらに隣の部屋も倉庫になっているというのだから驚きである。
「ふむ、では、私の研究室へようこそ。何か気になるものがあった言ってみたまえ。」
「はい。」
智春はラボの中を見回す。
すると、エリーゼが智春の袖をクイクイと引っ張る。
「ん?どうした?」
「トモハル・・・アレ・・・」
エリーゼは机の上に乗った『魔法陣』が書いてある大きな紙を指す。
「ほう。エリーゼ君いい目の付け所だ。」
バナードは嬉しそうに言うとその紙を取りに行く。
「これはだな、私が新しく開発した『射出魔法』だよ。属性は『一般魔法』、どういう効果かというと、論より証拠だ。見ててくれ。」
バナードは棚から魔結晶を取り出すと魔法陣の真ん中に置いた。
魔結晶とは使用済みの魔力の無くなった魔石を加工したもので、回路を書き込んだり、精霊に力を込めてもらうことで特定の魔法を記録し、そのあと一度だけ魔力を流すだけでその魔法が使えるようになるというものだ。
ちなみに、使用済みの魔結晶は再利用できるの優れものである。
「では行くぞ。」
バナードは智春たちに注意を促すと魔法陣に魔力を注ぎ始めた。
魔法陣に魔力がいきわたると同時に魔結晶から光の球が飛び出して空中ではじけて無くなった。
「おお。なるほど、この魔法は魔結晶の魔法を射出できる魔法という事ですね。」
本来、魔結晶は光を放ったり熱を放ったり燃えたりはできるが、魔法を撃ち出すことはできのだ。
なので、迷宮などで明かりや調理の火の代わりに使われていたりするのだ。
「うむ、その通りなのだが、私にはなかなか有用な使用法が思いつかなくてな・・・そうだ、トモハル君、一つこれで何か作ってみないか?」
「へ?いいんですか?」
智春は嬉しそうに、遠慮がちに聞き返す。
「もちろんだとも。ふむ、そうだな。これは入学祝いという事で君にプレゼントしようじゃないか。」
バナードは魔法陣を丸めると智春に差し出す。
智春は流石にはいそうですかと受け取るわけにはいかず、遠慮して手が出ない。
「ふむ、流石にもらいづらいか、では、これは君に一時預けよう。そして、できた作品を私のところに持ってきてくれ。もしそれが私の納得のいく出来だったなら、その魔法陣ごと君に譲ろう。これでどうだろうか?」
「は、はい。そう言う事なら喜んでお預かりします。」
バナードの譲歩に智春はやっと頷く。
「ふむ。やってくれるか。なら、私から学長に君専用の研究室の使用申請を出しておこう。」
「い、いえ。そこまで、」
「いや。自分のラボを持ってじっくり研究することが新しい発明には欠かせないんだよ。それにこの部屋を貸し出してしまったら、私の完成品を見るという楽しみがなくなってしまうからな。」
「は、はあ、そう言う事なら。」
「うむ。では、これはここまでにして、君の考えた新魔法という物を見せてくれないか?」
「はい。それはもちろんです。」
智春の研究が決まり、話がひと段落したところでバナードは目を輝かせながら提案する。
この後、白熱した二人は昼休みのほとんどをつぶして智春の新魔法について語り合い、しびれを切らしたエリーゼが智春引っ張って研究室を出るまで続くのだった。
昼の学生で賑わうカフェテリアで、レイラは一人不機嫌だった。
新しくクラスで仲良くなった『猫人族』のリリーや『森魔族』のフェリーナといろいろな話をするが、一向に智春にくっつく白髪の『兎人族』の少女が頭から離れない。
もうすっかり冷えてしまったケールを飲みながらため息をつく。
「はぁ。」
「ん?レイラ、やっぱり『白き兎姫』の事気になってるのー?」
「え?あ、はい。その、ほわいとぷりんせす?ってどんな人なんですか?」
「やっぱり気になるわよね。彼女は兎人族の族長の孫娘で、獣人族には珍しくかなり高い魔法適性を持った子のなの。ただ、そのせいで獣人族の集落じゃあまり馴染めてなくてね。私もあの子が他人にあんなにべったりなんてびっくりしたわ。」
リリーはしみじみと話す。
「そうだったんですか・・・でもどうしてトモハルさんなんでしょう・・・」
レイラの呟きにフェリーナが何か思い出した表情をする。
「そう言えば私、あの子が『星読み』だって聞いたことがあるわ。」
「そう言えば、そんな事言ってたわね。あ!確かあの子星読みで運命を見てこの学院に来たって聞いたことがあるわ。」
フェリーナの言葉に記憶を刺激されたリリーが思い出したように言った。
「星読みですか・・・むう、とりあえず一回ケンカせずに直接会って話すべきですね。」
「そうね、じゃあ放課後にでも行く?」
「いえ、一度他の仲間とも話し合って明日にでも行きます。」
「ふーん、他の仲間って?」
リリーは好奇の目で見る。
「トモハルさんの契約精霊のセリアとメイアです。」
「へ?あの人精霊契約してるの?」
「はい。二人とも上位の精霊なんです。」
「上位の精霊と二重契約なんてどんだけハイスペックなのよ、レイラちゃんの彼氏・・・」
フェリーナは額に汗を浮かべてつぶやく。
「はい、もうトモハルさんの事で驚くのはやめにしてるんです。ではそろそろ時間ですし、午後からの授業も頑張りましょう。」
レイラの声掛けで三人はカフェを後にしたのだった。
♢
暗い小屋の中、少女は盗賊団のかしらに呼ばれて部屋に入る。
部屋には、かしらの他にもう一人男がいた。
確か情報収集などの小間使いにされている男だ。
「おい、仕事だ。今回は盗みでも毒を盛るんでもない。暗殺だ。」
「っ!」
かしらの言葉に少女が動揺を見せる。
「ふん、初めてだからって失敗するなよ。いつも通り忍び込んでやることが少し変わるだけだ。」
少女はうつむいただけで他に反応は見せなかった。
「ターゲットは冒険者。今は魔法学院の寮で暮らしている。決行は二、三日以内に機を見てやれ。いいな?」
少女はかすかに頷く。
「ターゲットの名前は?」
少女はその鈴を鳴らしたような声で尋ねる。
「はっ、殺す相手の名前なんざ知っても意味ねえだろ・・・まあいい、そいつの名前は、トモハル=アオヤマだ。」
この小説を読んでいただきありがとうございます。
今回は少し短いです。
ごめんなさい。
では、また来週もよろしくお願いします。




