第二章:クルーぺ編 11話:豚に真珠、猫に冠?
どうも、一週間ぶりです外山です。
これからこの間隔で投稿することになると思います。
では、11話をどうぞ
11話:豚に真珠、猫に冠?
智春たちの初めての依頼は『アボットマッシュルーム』と呼ばれるキノコの採取依頼だった。
さらに、なんだか急を要する依頼らしく取ったキノコを依頼主の家まで運んで、あらかじめギルドが依頼主に渡している依頼達成証明カードをもらってギルドに提出すれば完了らしい。
どうやら依頼主の家族が病気みたいで、万病の薬である『アボットマッシュルーム』が大量に欲しいらしく、依頼物の成功基準量が『できるだけたくさん』とかなりアバウトに書いてあった。
ギルドで説明を受けた智春たちはキャンプ用の重たい荷物などはギルドに預け、『アボットマッシュルーム』の採れる、バーシュ村とクルーペの間の森、『泉の森』と呼ばれる森へ向かった。
『泉の森』はその名の通り泉がたくさん湧き出しており、大量の水を必要とする『アボットマッシュルーム』はその泉の近くに二、三本しか生えていないとても貴重なキノコである。
『泉の森』自体も最高で中級下位の獣しかでてこないかなり簡単な依頼であった。
智春たちはその場その場で『アボットマッシュルーム』が根絶やしにならないように気を付け、場所を奥に移動しながら採取を進める。
持ってきた籠の半分くらいまでたまったのを見て智春たちは少し休憩することにした。
「結構貴重な物だと聞いてた割にはいっぱい生えてるな。」
「はい、私も驚きです。大体は森の獣に食べられてしまうものなんですが、」
「ふーん、そうなのか。そう言えば、全然獣に会わなかったな。」
「確かに、私も少しそれが気になっていたの。」
「言われてみれば、そこらへんにいそうな『クローバーラビット』すら見てませんね。」
『クローバーラビット』とは下級下位の獣で草食の生き物であり、その名の通り体に三つ葉のクローバー模様を持っておりたまにいる四つ葉のものを見ると幸せになれるといわれている。
「うーん、なんかあるかもしれないから注意していくか。」
「ええ」
「はい」
短い休憩を終えた智春たちは来た時とは別ルートを通ってクルーペの街に帰りながら採取の続きを始めた。
一方その頃、ギルドのある一室で、
「はあ、てことは何にもわかんなかったわけか。」
「ええ、本人は自称記憶喪失で、あの『氷姫精霊』とも東の森で契約したみたいよ。」
「うーん、あの魔法の才能を見る限り『置き土産』ってことはなさそうだな。」
「いえ、家が没落した貴族が息子だけでも逃がしたという事もあり得るわ。」
『置き土産』というのは、様々な理由で貴族が自分の子どもを森の中に捨てることである。
昔、まだこの国が荒れていた時代にはよくあったことだが、最近はあまり見られない。
「でも、貴方が直接話して性格的に問題ないと判断したんだからいいじゃない。この件は取り敢えず置いときましょう。」
「そうだな・・・まあ、何か起こった時のためにある程度の行動は記録させて、報告書でも作っておくよ万一に備えて。」
「ふふ、大変ね。ギルドマスターは」
「ああ、大変だよ。」
二人、ディベラとシャリアはつい数時間前に現れたとんでもないルーキーのおかげで苦笑いを浮かべるのであった。
クルーペに帰るつもりがなぜか森の奥に迷い込んでしまった智春たちはもと来た道を引き返していた。
いつもの癖で来た道に目印を付けてきたことが幸いし道に迷うことはない。
そんな中智春は風の中に違和感を見つけた。
「ん?この匂いは・・・」
「どうしたのトモハル?」
「いや、セリア、レイラ、少しここで待っててくれできれば逃げる準備をして。」
「は?どういうこと?」
「ちょっと、トモハルさん?」
二人の返事を聞かず智春は森の中に駆けていく。
『これは血の匂いじゃないか?』
智春は不安な気持ちを抑え込んで、気配を消しながら走る。
森の中の少し開けたところにその原因があった。
そこには獣同士が戦った跡と喉をかき切られたホングルの死骸、そして見たことの無い大型犬くらいはありそうなパールホワイトの猫の死骸が倒れていた。
どうやら争って、共倒れになったらしい。
「こいつらの匂いだったのか・・・・」
智春は危険が無かったことへの安堵のため息を吐く。
「っと、このままではたちの悪い獣が集まってきちゃ良くないから回収しとくか。」
智春は二体の死骸を縄でくくろうと猫の体を持ち上げた。
すると、その死骸に守られるようにして一匹の子猫が眠っていた。
「っつ、こいつを守るためにこの母猫は身を挺したのか・・・・」
智春は母猫に敬意をこめて合掌しホングルと共に縛って、運びやすいようにした。
子猫は衰弱しているようなので放っておくこともできず懐に入れて、急いでセリアたちのところに戻る。
二匹の獣を引きずって帰って来た智春にセリアたちは驚く。
「そ、それどうしたのよ。」
「いや、その先に倒れてたからとりあえず回収してきた。さすがに放ってはおけないだろう。」
「そうだけど・・・まあそれもそうね、特に危険でもなかったからそれで良しとしましょう。」
「ああ、それとこの白い猫みたいな獣の子どもが弱ってたから連れてきた。」
智春が懐で眠る子猫を見せる。
「そうだったんですか、じゃあ急いで帰りましょう。」
「そうね、急ぎましょう。」
「おう」
三人は頷きあうと、駆け足で森の出口を目指した。
獣の死骸なんてものを持ってるから守衛に止められるのではないかという智春の心配はギルドカードがあったので杞憂に終わった。
三人は依頼を受けるときの説明で聞いていた家へ向かった。
「すみませーん、依頼を受けた冒険者の物ですが。」
「はい、」
家の中から17,8歳の少女が出てきた。
「アボットマッシュルームですか?」
「はい、今日採取したものです。」
「へ?こ、こんなに。」
「はい、結構残っていたもので。」
「あ、ありがとうございます。あの、お名前を伺っても?」
「はい、私はレイラと言います。あと、仲間が二人あっちの方で待機しています。」
さすがに獣の死骸を持ったままでは変に視線を集めるので、智春とセリアは少し離れたところで待機していた。
「はい、レイラさんありがとうございました。私はリリィと言います。他のお二人にもよろしく言っておいてください。では、こちらが達成確認カードです。」
「はい、確かに受け取りました。では。」
「はい、本当にありがとうございました。」
依頼人、リリィから達成確認カードを受け取りレイラは智春たちの方に戻って来た。
「ありがとなレイラ。じゃあ、早いとこギルドに戻るか。」
「ええ、このままずっと見られ続けるのは勘弁よ。」
「はい、では行きましょう。」
通行人から向けられる視線から逃げるように、三人はそそくさとその場を後にした。
昼間と違い夕方になったギルドは喧騒に包まれていた。
「エリナさん依頼終わったよ。」
「はい、と、トモハルさん?確かキノコ採取の依頼ではなかったですか?」
エリナさんは智春の持っている二匹の獣を見て顔を引きつらせる。
「ああ、森で拾った。」
「石かなんかみたいに言わないで下さい。」
「ああ、ごめんごめん。っと、これ鑑定できる?」
「はあ、お預かりいたします。少々時間が掛かるので飲み物でも飲みながら待っててください。」
「おう、ありがとな。」
「いえ、仕事ですので・・・でも今度からはちゃんと必要部分だけを持ち帰ってくださいね。」
エリナさんはほかの職員と協力して智春が持ってきたホングルたちを奥に運んで行った。
智春たちは飲食物カウンターでケールを買ってテーブルに座って拾った子猫の様子を見ていた。
「げへへ、お嬢ちゃんたち見ねー顔だが新入りか?」
「なんなら、俺たちとチーム組まねーか?そのひょろい兄ちゃんより頼りになるぜ。」
まだ夕方なのに明らかに酔った様子の男たちが声をかけてきた。
「ひっ、と、トモハルさん。」
セリアは軽蔑の目線を送るだけだったたが、レイラは怯えた様子で智春にしがみつく。
まあ、あんなことがあってすぐなのだからしょうがないだろう。
「おいおい、嬢ちゃん、怯えるこたーねえぜ。」
「てめーもなんかしゃべったらどうだ。」
片割れが智春にも声をかける。
あらかた智春をビビらせてセリアたちに愛想をつかさせる心づもりなのだろうが、生憎智春はそんな軟な性格ではなかった。
なんたって進路先に『異世界』なんて記入するような図太い?神経の持ち主だ。
「はぁ、連れが迷惑してるんだどっかに行ってくれないか。」
「あぁ、なんだと。俺たちが誰だか分かって言ってんのか?」
智春の反応が気に食わなかったのか酔っ払いA(勝手に命名)が凄んでくる。
「生憎最近村から出てきたばかりでな。お前らなんか知らんし興味もない。」
「っつ、坊主、良い度胸してんじゃねーか。」
「俺たちはな、この街では一番高いC3ランクの冒険者なんだぜ。」
酔っ払いA、Bは智春を馬鹿にしたような顔で懐からCランクを表す青色のギルドカードを出した。
「そうか、俺は今日冒険者になったばっかりのE3ランクだが。」
「へっ、ニューピーが両手に花とはいいご身分だな。」
智春のランクが最下層だと分かり酔っ払いたちはいっそう智春を馬鹿にした態度をとる。
「ああ、いいご身分でもなんでもいいからどっかに行ってくれ。」
智春はもしもの時のことを考えて猫をテーブルの上におろし、すぐに立てる姿勢をとった。
「へっ、気に食わねーガキだぜ、こんなガキほっといて俺らの相手しろよ嬢ちゃん。」
「きゃ、い、いや。触らないで」
酔っ払いAあれB?が智春の陰に隠れていたレイラの腕をつかみ強引に引っ張る。
「へっ、やっぱいい女じゃねーか。」
酔っ払いがレイラを片手に抱いていやらしく表情を崩す。
『あれ、なんだ?なんか胸がモヤモヤする。』
智春は心の中に湧く黒い感情に首を傾げながら無意識に体が動く。
レイラを抱きしめて隙だらけの酔っ払いAの喉に突きを入れて一瞬息が止まってレイラを離したところの襟を腕を交差させてつかみ、担いで背中から床にたたき落した。
「がはぁ」
酔っ払いAは何が起こったかを認識する前に意識を失う。
「って、テメー何しやがる。」
怒った酔っ払いB智春に殴りかかるが、一瞬で上下がさかさまになり頭から床に落ちてそのまま意識を失った。
智春は無言でレイラを抱き寄せると椅子に座らせ、さっき浮かんだ黒い感情は何だったのかと首を傾げた。
「トモハルさん、鑑定が終わりましたのでカウンターにお越しください。」
まるで図ったかのようなタイミングでエリナさんから呼び出しがかかった。
智春たちは床で伸びている男たちをきっぱりと無視したカウンターに向かった。
「お待たせしました。今回の依頼の達成報酬とその他を含めて22万2500ピクルになります。お確かめください。」
エリナさんはお盆に金貨二枚と大銀貨二枚、小銀貨二枚と大銅貨五枚を乗せて渡してくる。
「は?22万?ちょっと待って、依頼の報酬確か1500ピクルだったよね?」
「ええ、それとホングルが1000ピクルもう一体が22万ピクルになります。」
「は?えっと、どうしてそんなに?」
「はい、それの説明にまたお時間をいただきたく思うのですがよろしいでしょか?」
「ああ、というかこっちが頼みたいぐらいだ。」
「はい、ではあちらから入ってきてください。」
エリナさんは事務側への入り口を指す。
「ああ。」
扉をくぐると、智春たちはまたギルドマスターの執務室に通された。
「おう、来たか。とりあえず、初依頼お疲れ。」
「ああ、ありがとう。」
「「ありがとうございます。」」
ギルドマスターからの労いの言葉に三人は頷く。
「でだ、今回ここに呼ばれたのは少し聞きたいことがあったからなんだが。」
「ああ、あの二匹が争っていたところなら一応覚えているから案内はできるぞ。」
「ああ、だがその前に、お前らその近くで白い子猫を見なかったか?」
「ん?こいつの事か?」
智春はセリアに抱かせていた子猫を受け取りギルドマスターに見せる。
「あ、ああ。やっぱりか・・・・」
「なんだ?こいつなんかやばいやつなのか?」
「うーん、その質問の回答はYESでありNOだ。」
「は?どういうことだ?」
ディベラの煮え切らない答えに智春は首を傾げる。
「そうだな、順を追って話すと、まず、お前たちが回収した二匹の死骸なんだが一匹はお前らの知っての通りホングルで間違えないが、問題は二匹目のそいつの母親なんだが・・・・お前ら『プリンセスキャット』っていう魔獣は知ってるか?」
「知らん「「はい」」」
三人のそろった声とそろわない回答が執務室に響く。
「あ、ああ、じゃあ説明するが、『プリンセスキャット』は上級中位の魔獣で大体は危険区に指定されている密林や樹海に住む魔獣だ。『プリンセスキャット』は知能がとても高く人語も理解できるといわれている。そのためか、あまり人を襲ってくることはないが危害を加えられたら容赦はしない。そういう魔獣だ。」
「なんでそんな魔獣があんな人里のすぐ近くにある森なんかに居たんだ?」
智春は当然の疑問に首を傾げる。
「ああ、それなんだが『プリンセスキャット』は出産まじかになると低級の森に来てそこで出産、子育てをするんだ。まあ、一週間で子は一人立ちさせられるんだがな。」
「ふーん、それであの森にいたわけか。」
「ああ、だが最近ここらの生態系に乱れが出始めてな、本来いないはずのホングルに出産直後に襲をれたんじゃないかって推測している。」
「うーん、じゃあ俺らがこの子猫を飼ったらまずいのか?」
「いや、問題ないだろう。ただ、親の教育を受けていない上位の魔獣があの森に住み着いてしまったらいろいろ問題になるので子供の所在確認をしておきたかったんだ。」
「そうか、じゃあこいつは俺らが責任をもって面倒を見る。セリアもレイラもそれでいいよな?」
「ええ」
「はい」
「そうか、ならわからないことがあったら相談してくれ、できる範囲の事なら協力しよう。」
「おう、それはありがたい。じゃあ、早速、こいつに餌はなにをあげたらいい?」
「そうだな・・・・最初はそこらへんで売っているミルクにお前の血を混ぜてあげるといい。」
「血をか?」
「ああ、さすがにここらでは上級の魔獣のミルクなどは手に入らんからな。最初の三日くらいは子猫に見合った魔力の入った食事を与えないといけないんだ。まあ、四日目くらいからは普通の肉とかでかまわんだろう。」
「ふーん、餌の事はこれでいいとして、ペット同伴で泊まれる宿はこの街に有るか?」
「ああ、それならギルドから出て左に三軒行った先の『午後の木洩れ日亭』っていう宿が冒険者ギルドで運営している冒険者向けの宿だからそこに行くといい。」
「『午後の木洩れ日亭』だな。よし、ありがとな。」
「ああ、まあ例は冒険者としての稼ぎで返してくれればいいさ。」
「おう、そうさせてもらおう。」
「じゃあ、要件はこれくらいだな。時間をとって悪かったな。」
「いや、俺らも有用な話を聞けたし気にすんな。」
「おう、じゃあまた何かわからんことでもあったらいつでも聞きに来い。」
「ああ、そうさせてもらうぜ。」
「ありがとうございました。」
「失礼します。」
ディベラに礼を言って三人は執務室を後にした。
一階に戻るとエリナさんが預けていた道具と数冊の本を持ってきてくれた。
「はい、こちらが初級魔法の教本と冒険者としての基本知識が書かれた本、それと獣や魔獣、魔物についての本です。」
「あれ?そんなに頼んだっけ?」
「いえ、トモハルさんには必要そうでしたので私の独断で持ってきましたがご迷惑でしたか?」
エリナさんは申し訳なさそうに肩を落とす。
「い、いや、助かるよ、ありがとう。」
「いいえ。返却はこの街にいる間ならいつでも大丈夫なので気にせず読んでください。」
「ああ、ありがとう。」
「いえ、お疲れ様でした。」
エリナさんに見送られ、三人はギルドを出て『午後の木洩れ日亭』を目指した。
『午後の木洩れ日亭』は智春たちの想像よりかなりいい建物だった。
中に入るとカウンターで店主のおじさんがグラスを磨いていた。
どうやら一階はレストランになっているようだ。
「おお、見ねー顔だが新入りか?」
「ああ、今日から冒険者になった。ここに一週間ほど泊まりたいんだがいくらになる?」
「おお、新入りなら安くしてやろう。Eランクじゃそんなにいい特典なんてないからな。」
店主はかなりいい人そうだ。
「おう、そうかありがとう。」
「いいさ、これからもこの宿に泊まってくれるようにな。」
かなり、計算されたやさしさだった。
「部屋は三部屋にするか?ツインサイズなら三人でも泊まれて安く済むが。」
「んー、三部「ツインサイズで。」ないかって、レイラ同じ部屋でいいのか?」
「はい、お金は節約すべきです。」
「せ、セリアもそれでいいのか?」
レイラの勢いに押されながらセリアに退路を求める。
「別にかまわないわ。」
退路は断たれた。
「じ、じゃあ、ツインサイズで頼む。」
「はっはっは、モテるな兄ちゃん。」
「そんなんじゃないよ。」
「まあ、いいさ。部屋は301号室だ。風呂は一階にある。場所は看板をたどれ。食事は朝は宿代に付いてるが夕食はここで食うならその都度金を払ってくれ。それで料金は一週間分前払いで3850ピクルでツインサイズだから二人分なんだが三人目の朝食の分はサービスでタダでいいぞ。」
「そうか、ありがとう。あと、猫もいるんだが。」
「ん?ペットか?なら家具を傷つけないようにだけは気を付けろ。」
「ああ、分かった。」
智春たちは店主から鍵を受け取って部屋に行った。
「おお、結構広いな。」
「はい、シーツなども綺麗ですので虫などの心配もないでしょう。」
「それはありがたいわね。っと、レイラお風呂行きましょ。」
「はい、そうですね、汗もいっぱいかきましたし。」
「おう、じゃあ俺が留守番してるから行って来ていいぞ。」
「はい、ありがとうございます。」
「悪いわね。」
二人は早速お風呂に行く準備をする。
「気にすんな。ゆっくりしてきていいぞ。」
「ええ、じゃあそうさせてもらうわ。」
「では、行ってきます。」
「ああ、いってらっしゃい。」
二人が出て行った後、智春は子猫を膝の上に乗せて、ギルドから借りてきた魔法の教本を読み始めた。
一方その頃
「ど、ど、ど、どうしましょう。セリアさん。い、勢いとはいえ、お、同じ部屋です。ベッドもひとつしかありません。」
「あら、あなたお得意の愛の力で何とかすればいいじゃない。」
「い、いえ、何とかできません。どうしましょう。」
「はあ、着いたわ。部屋が三階だとお風呂が一階にあると大変ね。」
「ちゃ、ちゃんと聞いてください!」
「はあ、さっさとお風呂に入りましょう。」
今更になって緊張し始めたレイラを無視してセリアは女湯と書かれた方の扉から入っていく。
お風呂は日本にもよくある大浴場になっていた。
「はあ、大きいお風呂はやっぱり気持ちわねー」
「そうですねー」
汗を軽く流してからセリアとレイラは湯船に浸かる。
「温まりますねー、」
「ええ、私も溶けてしまいそう」
「と、溶けたらまずいですよー」
温かいお湯の中で二人は気の抜けた会話を交わす。
「で、レイラ、トモハルと寝る覚悟はできたの?」
「ぶは、そ、それを今持ち出しますか。」
「あら、今持ち出さなくてもすぐに直面する問題じゃない。」
「あ、その、えっと、ああ、もう、私がソファーで寝るのでいいんです。」
「あらそう、まあいいんじゃない。トモハルがそうさせるとは思わないけど・・・」
二人がまったりとした?時間を過ごしている一方で
一通り魔法の教本を読み終わった智春は早速魔法を試そうとしていた。
「うーん、何属性から練習始めようかな・・属性が多いと迷うな・・・っと、ん?」
本を見ながら悩む智春の膝の上で子猫がもぞもぞと身動きした。
「にゃぁーー」
「おう、起きたか。」
「にゃあ?」
目を開いた子猫は智春を見て首を傾げる。
「言葉が通じるんだったな。っと、俺は今日からお前の親代わりをする智春だ、よろしくな。」
「にゃあ」
智春の声に返事をするかのように子猫は鳴き声をあげる。
「腹が減ったか?」
「にゃあ」
智春の問いかけに子猫は首肯しながら鳴く。
「よし、じゃあえっと、名前が無いと不便だな・・・プリンセスキャットか・・・」
智春は子猫を抱き上げ目線を合わせる。
「真珠みたいな綺麗な白だな・・・よし、決めた、お前の名前は『ティアラ』だ。いいか、ティアラだぞ。」
「にゃあ」
子猫は嬉しそうに尻尾を一振りした。
「よし、ティアラ、今からお前のミルクをもらいに行くからおとなしく待っていてくれ。」
「にゃあ、にゃあ」
地面に置こうとするとティアラは智春の手にしがみつきながら嫌がる。
「ん?どうした?一緒にいきたいのか?」
「にゃあ」
「ふふ、可愛いやつめ」
首肯するティアラを一撫ですると、智春はティアラを抱えて部屋を出た。
一階のカウンターに着くと智春は店主に注文する。
「おっちゃん、ミルクをもらえるか?」
「おう、兄ちゃんか、なら、まだ懐が寒いだろうから特別にサービスしてやろう。」
「おお、ありがと、おっちゃん。いいってことよ。最近冒険者がこの宿を使わなくなってきてな、今は固定客をとるために必死なのさ。」
「ふーん、そうなのか。なら、俺は『午後の木洩れ日亭』を使うようにするよ。」
「おう、それはありがてえ。っと、ミルクはペットに飲ませるんだよな?」
「ああ、そうだ。」
「じゃあ、コップじゃなくて器だな。ほら。」
店主はカウンターの下から木の器を出すとそれにミルクを注いだ。
「おう、ありがとう。」
智春は店主から器を受け取り部屋に戻った。
部屋に戻ってもまだセリアたちは戻っていなかった。
「よし、ティアラちょっと待てよ。」
智春はバーシュ村でバルバにもらったサバイバルナイフで指の先を少し切り、血をミルクに垂らす。
「うし、できた。ティアラ飲んでいいぞ。」
「にゃあ」
ティアラは嬉しそうに一鳴きすると、ミルクをチビチビ飲み始めた。
ミルクを舐めるティアラを横目に智春は魔法の教本を開く。
「んー、何属性にしようかな・・・・」
智春が属性の優位性という項目を眺めながらつぶやいていると
「にゃあ」
ミルクを飲んでいたティアラが教本に足を乗せた。
「ん?どうしたティアラ、影属性がいいのか」
ティアラが置いた足はページの影属性の部分を指していた。
「にゃあ」
ティアラは首肯すると、またミルクを飲み始めた。
「よし、じゃあ、始めるか・・・・」
智春は影魔法のページを開くと基本的な魔力操作から始める。
「おっ、これは・・・・・」
智春は教本で何かを見つけたようで、そして・・・・・
はい、そうです、中途半端な終わりです。
長くなりそうなので元々1話分の予定を2話に分けました。
ごめんなさい
この話を読んでいただきありがとうございます。
少し話の進みがゆっくり気味ですがまあ何とかしたいと思います。
では、また一週間後にお会いしましょう。




