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八 嵐の前

 灰色の空の下、国都は遠く南に望まれる。

 沈んだ夕暮れの空気の中を男が石畳を徒で行く。供は剣が一本あるきり。しかし、彼はこの一本の剣だけを頼りに今日までやって来たのだ。大勢の供まわりよりも腰に吊した冴えた鋼の輝きの方がはるかに信頼ができるということを男は知っている。

 ルイ・グランデール。

 機士の中の機士と言われたこの人物は品格があり、身のこなしも典雅で貴族的であったが、実の所、彼の体内には貴族の血は一滴として流れていない。本人がそのように公言するのであるから間違いはあるまい。だいたい『グランデール』という姓からして実はルイの父親が乗っていた飛竜の製造元グランドエイル社から引っ張ってきた仲間うちのあだ名であるのだ。通り名を姓として流用するような人物であるから名家の出自であり得るわけがない。一説によればグランドエイルのドレイクに乗っていた名無し男は刑を減免されるかわりに当時激戦が続いていた南方戦線に送られた重犯罪者であるとも言われるが、このことについては機士の中の機士は一切のコメントをしていない。

 ルイ・グランデールは非常に自分に厳しい人物であり、自らが赤貧の中で育ったことや、学費を稼ぐために決闘代行という血生臭いアルバイトをしていたこと、生きるために父親と同じように南方戦線で血みどろの激戦を戦い抜いたことなども包み隠さず率直に語るような性格の男であったから、おそらくは彼は父親の前半生について本当に何も知らず、そのためにコメントすることができなかったのだろう。

 そのような血反吐を吐いて泥中を走り回った人物が貴族よりもよほど貴族らしいというのは何とも奇妙なことであるが、つまるところルイ・グランデールという人間そのものが魂の重さというものが出自とは全く関係がないということの証左であったのだ。

 綺麗な口髭を生やした中年男はゆっくりと坂を昇っていく。

 すでに彼が歩く道は公のものから私の物となっている。右手にはブナの林があり、どこかで鹿の鳴く声が聞こえる。やがて男は高台に立つ古めかしい邸宅にたどりついた。広く青い三角屋根を持つその屋敷こそステアネーゼ王家の二分する派閥の一つ、王弟クリーエフの別邸であった。屋敷の側には警護の兵の姿は無く、しんと静まり返っている。機士の中の機士はまるで肩に何か荷物でも背負うように重々しい足取りで屋敷の戸口に立ち、そのまま扉を開いた。

 「お待ちしておりました、機士殿……」

 屋敷の中から声があった。五十過ぎの小柄な中年女。品の良い女中はどうやら機士がやってくることを予期していたようである。謹厳な機士は時間に対しても正確であり、迎え入れるほうとしては算段を立てやすい相手であるのだろう。ウグイス色の衣服をつけた中年の女中は毎度のように機士の中の機士を中へと招き入れた。

 建物を入ったすぐの所に広い吹き抜けの空間があり、左手は二階に通じる階段が見える。 中年女は髭の機士を廊下を奥へと導く。

 「どうぞ、こちらへ……」

 機士は軽く頭を下げると五十女の後をついていく。

 「グランデール様、ハーディ様のご様子はいかがにございますか?」

 女中は歩く道すがらに尋ねた。王弟クリーエフと夫人のヒルカの間にはハーディという一男があった。王家のならいとしてクリーエフも妾妻を何人か置いていたが、授かった子宝は正妻ヒルカが産んだハーディがただ一人であった。王弟にその他に隠し子がないことは機士の中の機士だけは知っている。何故ならばお忍びで愛妾の元に向かうクリーエフの護衛はいつでもグランデールと決まっていたからである。愛人巡りの供回りなど歴戦の機士としては面白くもなくまた不名誉な任務であったが、彼はこの任務を文句一つ言うことなくこなしていた。

 「ヒルカ様もハーディ様のことを心配しておられてましてねえ」

 中年女は何か言いたいのをこらえるようなそぶりを見せた。長い間、王弟夫人に仕えた女性である。クリーエフの一家がどのような状態になっているか、女は十分に了解しているのだろう。何かを尋ねたい中年女にも機士は応える。

 「殿下とはつい先日も剣の稽古でお会いしましたが、王立機士学校でお元気にされておりますゆえ、心配には当たらないかと」

 ルイ・グランデールはハーディが子供の頃から剣の指導をしている。ハーディが王立機士学校に入学した後も、機士は月に一度は弟子に稽古をつけに行っている。

 「そうでございますか……」

 中年女は憂鬱の色を横顔に表した。彼女は事実をなんとなく察していたのかもしれない。

 ――王弟の子息ハーディは王都で必ずしも行状よろしからず。

 案外狭い貴族の『業界』ではそのような噂が語られているとか。

 もともと憶病で気の弱かった王弟ご令息は長ずるに及んで、いじけた人物となっていた。

 学業ははかばかしくなく、つまらない取り巻きに囲まれて酒を呑み、売春宿に入り浸っている。実はグランデールも先般、ハーディに会った際にその行状を改めるように諭したのである。だが拗けた若者の心には機士の忠言は届かなかった。

 ――父上も同じようなことをしているではないか!

 くだらない策士に囲まれている父クリーエフと同じことをして何が悪い。グランデールとしては耳の痛いことである。出来の悪いな仲間と昼から酔っ払っている息子と反乱計画を立てる父親。どちらが罪深いかは機士も身に染みて理解していたのだ。それでもグランデールには役目と言うものがある。若者の反発にグランデールは根気強く、王弟の子息としての立場を考えるようにと訴え続けたが、ハーディはただいきり立つだけであった。

 ――私が努力していったい何がどうなると言うのだ。国王陛下に睨まれるだけではないか!

 国王にも男児が一人あり、つまりは彼が王太子ということになるのだが、この王太子はどもりがひどく、何を言っているのかほとんどの人が理解できないという実に厄介な問題を抱えていた。

 ――比べてみれば、駄目なハーディのほうがまだまし!

 廷臣や国の枢要を担う大貴族達がそのように語るほどであるか、これは相当深刻である。 当然、国王も国王妃も実子のことを気に病み――同時に『まだまし』なハーディの存在をきわめて不安に思っているのだという。

 今でさえ国王と王弟はぎくしゃくしている。もしも国王が亡くなった場合、王太子としては困ったことになってしまうことは目に見えている。国王妃としてはそれが心配でならないのだ。

 ――何を言ってるのか分らない国王よりは、多少気が弱くても話ができる若者を国王にした方がいいのではないか。

 そのような意見があちこちから出てくるのは間違いない。心配が昂じた国王妃は大人げないことであるが甥っ子にことあるごとにつらくあたるのだ。宮殿で行われる祭典に出席させなかったり――外国の公使の前で従兄弟を並べるとどちらが次期国王か分らなくなってしまうからである――他の大貴族の子息とハーディが親密にならないように、大貴族の側に王立機士学校に入らないように圧力――エンティ家の次男はハーディと同学年にならないように強引にも一年入学を延期させられた――をかけるなど様々な策を弄し、甥っ子が王太子に勝る場面を作らないように心を砕いていた。もちろん、そのような小細工をされる方が面白いはずが無い。 

 ――私は努力しない方が良いのだ!

 心が弱い王弟令息は自分の不運を全て他人のせいにすることですっかり腐ってしまっていたのだ。否、結局彼には、自分の背負うものの重さに耐える器量が最初からなかったのだろう。

 「若いうちの苦労はいずれ役に立つ時がくるでしょう」

 グランデールは廊下を歩きながら、ハーディに諭して聞かせたのと同じ呟きを漏らし、そしてその言葉に対する王弟令息の暴言を苦く思い出していた。

 ――私は王弟クリーエフのまことの子であるのか?

 諫める機士にハーディはそのような叫びを投げつけていた。

 ――父(王弟)には大勢の妻妾がありながら実子は自分一人。こんな馬鹿な事があると思うか?

 王弟クリーエフは若い頃の遊びがもとで一時重い性病を患っていたという話も聞かれる。そのせいで子供ができないだというのだ。確かに、多くの妻妾を抱えながら王弟の実子はハーディただ一人である。もしかしたらという疑念が差し挟まれる余地が確かに存在しているのだ。ハーディはいったい誰の子供であるのか?

 ――本当は自分は貴様の子供ではないのか?

 ハーディはグランデールにそのような疑惑をぶつけたのだ。煙の原因は他もある。

 ――グランデールは王弟夫人に思いを寄せている。

 そのような噂が巷間で語られているという。ハーディはそのことをすでに知っていたのだろう。

 ――王弟の令息などというが、実は、不倫の結晶が自分ではないのか?

 機士の中の機士は若者の疑念に無言で答えるほかなかった。事実と違っていたとしても返答を避けなければならぬ問いというものがこの世には存在する。一方、拗けたハーディのほうは応えることができない機士をその場に夜の街へと逃げるように出ていった。

 以降、機士は凡庸な若君とは会っていない。

 「おつらいでしょうねえ……」

 中年女は慰めるようにいった。彼女はいったい誰を『つらい』と言ったのだろうか。ハーディだろうか、王弟妃であろうか。グランデールかもしれない。

 無言のまま機士と中年女は歩き続け――やがて屋敷の一階奥の部屋へとたどりつく。

 大きな扉の向こうは屋敷の現在の主の部屋となっていた。中年女は二度ほどドアをノックし、それに内側から返答があった。

 「ささ、どうぞ……」

 中年女は扉を開き、機士を中に招き入れる

 扉の向こう、東側に面した広い部屋には屋敷の主となる女性の姿があった。気品のある女性であった。大きなガラス窓を背に、女はソファから立ち上がろうとしていた。ソファの横のテーブルには帽子であろうか編み掛けの毛糸が転がっている。

 「お待ちしていましたよ、機士殿」

 ヒルカは言った。背が高く、物腰の軟らかい王弟夫人はステアネーゼの貴族の一つブレゼルの出身で年は四十になっていた。 

 ――一位はブレゼル。二位と三位はポルトブラン。四位がクライツ。

 王弟夫人は、若い頃、そのように国都の人々に容姿を讃えられていたという。

 美少女の序列一位。これは並大抵のことではない。一時は、ヒルカが国王妃になるのではないかと噂されたこともあったほどなのだ。だが、ブレゼルの娘は格式が低いということで――ブレゼル家は貴族ではあったけれど、エンティの分家で格式が劣っていた――結局、国王妃の候補から外れ、かわりに王弟クリーエフがこの格式の低い娘を妻として迎え入れた。ファーラが国王と王弟の間で女性をめぐっていさかいがあったと言いふらした根拠は恐らくそのあたりにあるのだろう。もちろん、ファーラの言うようないさかいは実際にはなかったのであるが。

 ちなみに序列二位と三位のポルトブランの娘達はそれぞれがリオンに行った。この二人が後にリンツとビーステアを産むことになる。

 そして最後のクライツ家の娘が現国王の妃となった。かつて四位でぎりぎり入賞していた娘が座る椅子の高さでは逆転で一位となったわけである。

 これは下衆の勘ぐりであろうが、国王妃王弟の子息ハーディにひどくあたるのは、実は若かりし日にヒルカに女としての評価で負けていたことへの意趣返しであるともいわれている。

 政治的ないきさつはともかくとして――。

 若き日に都の人々に美神とも讃えられた美少女は二十数年を経てなおその美貌を十分に保っている。確かに肌のつやは失われ、皺も目立つようになったが、その代わりに人生経験で磨かれる内面的な魅力が容貌に加わっている。

 「……お座りになってくださいな、機士殿」

 たおやかな夫人は語り、そして機士はいつものように申し出を固持した。

 「時間があまりありません。このままで結構」

 「お茶をお出ししましょう……」

 「それも結構。すぐにおいとまいたしますゆえ」

 機士は言った。王弟クリーエフは百パーセントの馬鹿ではなかったが、人の心の機微の分らないという致命的な欠点を持っていた。これはつまり独りよがりな人物だということである。だからこそグランデールを公私混同で使用人のように使い、自分が寄りつきもしない奥方のところに機士を連絡係として遣わすのである。当然のことであるが、独善家の王弟殿下は自分の奥方と機士の関係が怪しいなどとは思ってもみない。クレティア大使ペドロワはこのような王弟のことを次のように評している。

 ――百パーセントの馬鹿ではないが、八割がたの馬鹿。

 「いつもお忙しいのですね、機士殿は」

 夫人は笑った。機士は冷静に応える。

 「貧乏な家の出身の悲しさというものでしょう。暇を潰す方法を教わらなかったのですよ」

 ヒルカは穏やかに言った。

 「私の実家のブレゼルも貴族とはいえ裕福ではありませんでした。領地は湿地が多く、嵐が来ると家も畑も皆流されるというところでしたからねえ。そうなると一族総出で堤防を直して……。しんどいことばかりでしたがこの頃ではあの時のことがよく思い出されます。年を、年をとったのかも知れませんね」

 そのような出自だから編み物なのであろう。

 ポルトブランの令嬢やクライツの令嬢であれば、そのようなこまごましたことなど間違ってもやらないだろう。彼女たちにとっては衣服というものはモデルを連れてやってくる最高の職人が作るものであり、都の洒落た店で棚の端から端までまとめて買うものなのであるのだ。帽子もそうだしジャケットもスカートも靴もコートも皆同じである。気に入ったものは高いものから順に買っていく。王弟夫人のようにわざわざ自分で毛玉を編み上げるようなことは目を背けたくなる恥ずべき内職に映るのに違いない。そして、それが王弟クリーエフが夫人のもとに戻りたがらない理由であるのだ。

 ――辛気くさい女だ。

 王弟は自分の妻を評してそのように言い、夫婦間で交わすべきやりとりまでも部下の機士に押しつけるようになっていた。一方、グランデールに言わせれば、王家の人々が目を背けたがるヒルカの貧乏臭さは美点であった。

 ――私の母親もああやって、子供の衣服を作ったものだ。

 機士は王弟夫人に尊敬の念を抱いており、それだからこそ国王夫人を嫌い、同時に主である王弟のことも実は心の中で軽蔑しているのだ。

 「機士殿、ハーディはどうしていますか?」

 母親は剣の師匠に尋ねた。機士は世間話をしている暇はないのだが、ヒルカのほうは話をしたいようである。グランデールがそう思うように、王弟夫人も夫よりは平民出の部下に共感を覚えるのだ。共感を覚えるだけではない。絶対的に信頼もしている。もし今火事がありヒルカとハーディの二人か取り残されたとして、王弟は何かをしてくれるだろうか?せいぜい部下に指示を出すぐらいで、それだけであろう。一方クランデールはそうではない。どれほどの猛火であろうと機士の中の機士はヒルカとハーディの元に駆けつけてきてくれるだろう。絶対に。『助けよ』と命令を出してくれる者と自らが火の中に飛び込む者ではいったいどちらに心を許すかは考えるまでもない。

 「つつがなく」

 グランデールはヒルカの前では言葉がどうしても短くなる。昔からそうであったのだが近頃はその傾向がいっそう顕著になっている。

 「隠さなくても分っていますよ。ずいぶんと心配をかけているのでしょう」

 憂えるヒルカは言った。母親には何にもかもお見通しであるのだ。

 「そのようなことは……」

 髭の機士は目を閉じた。 

 「きっと迷っているのでしょうね。自分が行く道を。不憫な子です」

 ヒルカは悲しげに言った後、王弟妃として、貴族の業界に生きる先輩として続ける。

 「けれどハーディも男です。王家の男なのです。いずれは自分の道を自分で切り開かなければなりません。今ここで、まだ巣の中にある段階、世界に一歩を踏み出す以前の段階で自分の運命に押しつぶされていては到底これからの人生を、波の荒い宮廷での人生を乗り切ることなどできはしません……」

 ヒルカの意見は母親としては厳しいものである。その険しさは彼女のこれまでの半生によって培われたものなのだろう。

 「さようにございますか……」

 機士は頭を下げ、母親の顔に戻ったヒルカは言った。

 「機士殿、ハーディをよろしくお願いします。主従の遠慮はいりませぬ。自らの子供であると思って厳しく躾けてくださいますように」

 王弟夫人の言葉に機士は黙って頭を下げた。そして、そこまできてようやく機士は彼がやって来た理由を語りはじめる。預かってきたぼんくらな主人の命を口にしたのである。

 「……ハーディ様のことはお任せいただくとしてです」

 機士は淡々とし、しかしばさっと本題に斬り込んだ。

 「ヒルカ様。突然ではございますが、領地のオルバンお戻りくださいますようにと王弟殿下からのご命令にございます」

 「オルバンに?」

 王弟領は都から北に百キロほど離れた場所となる。山あいの盆地で、夏暑く冬寒いということであまり気候風土は芳しくないが、すぐ近くにはヒルカの実家となるブレゼル領もある。王弟妃としては安心できる地であった。

 「それはまた……ずいぶんと急なことなのですね」

 夫人にとっては寝耳に水であったろう。彼女は策士達が何をしているのか全く知らされていないのだから。

 「今晩中に出立なさるようにとのことにございます」

 髭の機士は言い、一方、ヒルカが驚いていたのも最初の数瞬だけであった。

 王弟の別邸は都の郊外にあり、ヒルカの情報源も時々尋ねてくるエンティやレーネスの奥方との会話程度である。それでも、夫人は夫とその周辺になんとはない不穏な空気が流れていることに感づいている。

 ――嫌な予感がする。

 もともと夫である王弟と兄王の仲がしっくりいっていないことはヒルカも重々承知している。もうずいぶんと昔のことであるが、兄のことを悪く言う夫に王弟夫人は『何故そのような事を言うのか』と諫めたことがあったのだ。その時に王弟が言ったことをヒルカは良く覚えていた。しばらく何故自分が兄を嫌っているのか考えていたクリーエフは、ぼそりと、

 ――きっと何もかもが伯仲しているからだろう。

 と、言っていた。容姿も知能も雅量もほぼ同じ程度。どちらかに優れているところがあれば一方が負けを認めて折れるのだが、国王と王弟は同じ程度のところで争っている。しかもかなり程度の低い次元で、である。同質でその待遇に差があるから憎しみが湧くということなのだろうか。

 「いったい何が起こっているのでしょうか?」

 ヒルカの問いに機士は言った。

 「それについてはお尋ねになりませぬように」

 「私には尋ねる義務があります」

 王弟夫人は強い調子で言ったが、機士のほうはついに真実について語らなかった。語ったところでどうなるものでもない。

 「どうも何か良くないことが起こっているようですね」

 口の重い機士への尋問を諦めて夫人はため息をつき、騎士のほうは事務的に話を続ける。

 「……ハーディ様はすでにオルバンに向かっております」

 グランデールは拗けきった若君に言う姪の部下をつけて王弟の領地に送り出している。本当は自分がハーディを王弟夫人の元に連れていき、二人を揃えて一緒に部下に送らせようと思っていたのだが、先般のいさかいの後ということもあって、機士は若君に顔を会わせることが躊躇われたのだ。

 「ハーディもオルバンに……」

 いよいよ事態は容易ではない。夫人は険しい顔をしている。そこまでしなければならないような事態は生半可なものではない。食うか食われるかというレベルのものであろう。

 「あくまで危険を未然に防ぐための予防策お心得くだされば幸い」

 機士は誤魔化したがヒルカは暗い顔を作った。

 そして、ここに至って王弟夫人は自分に舞台袖から危険を知らせた人物が誰であるのかに気がついた。

 「ああ……」

 得心がいったようなため息を美女は漏らした。

 「機士殿、うかがいます。もしも私の予測が正しいのであれば、どうぞ沈黙でお答えください」

 髭の機士はうなずいた。ヒルカは尋ねる。

 「オルバンに戻るように勧めるのは夫の意思ではなく、これは、機士殿のお考えではありませんか?」

 グランデールは冷静にかつ即座に言った。

 「さにあらず。王弟殿下のお考えにございます」

 ヒルカは鋭い女性であった。グランデールは否定をしたが、王弟夫人の勘は確かに真実をとらえていたのだ。

 夫人が思った通り、実は王弟は細君のことなど思い出しもしなかった。陰謀の露見を恐れた小心なクリーエフはそれどころではなかったのだ。自分の命が危ういのである。妻子のことなどとっくの昔に頭の中から吹き飛んでいる。

 ――奥方をオルバンに戻してはいかがか。

 そのように話を振ったのは機士グランデールであり、その言葉でようやく王弟は自分が妻帯者であることを思い出したのだ。ちなみに王弟のグランデールへに下した命令の正確な内容は、

 ――妻子を安全な場所に移すように。

 というものではない。クリーエフは機士にこう言ったのだ。

 ――適当にそなたのほうでやっておいてくれ。

 「あのお方のことです。きっと、妻子のことなど忘れていることでしょう。誰かに耳打ちをされてそれで妻と子があることをようやく思い出す。そんな人です」 

 王弟夫人まるで見てきたかのように真偽を見破り、機士のほうは渋い顔を作った。反論のしようもない。

 「分りました。オルバンに戻りましょう」

 ヒルカはあっさりと言った。

 妻子を領地に逃がすということは最終局面だということ。何の最終局面であるかは分らないが、いまや命の瀬戸際にあることだけは確かであるのだ。機士は静かに続ける。

 「妃殿下にあらせられましては何卒ご心配をなさりませんように」

 機士は恭しく頭を下げ、そして王弟夫人が差し出した手に口づけをした。ヒルカは寂し気に言った。

 「いつものことなのですが、私は本当に自分を思ってくれている人が誰であるのか気がつくのが一瞬だけ遅れるのです。そのせいでいつもいつも幸せに乗り遅れてしまうのです」

 ヒルカのため息に機士は顔をあげ、そこで強い決意をもって語った。 

 「……ヒルカ様。憚りながら、幸せとは乗るものはございませぬ。幸せとは生まれた時から全ての人が持っているもの。それを感じることができるかどうかですぞ」

 髭の機士は自分の胸を指で二度ほど叩いた。

 「ここにあるのを感じる。それこそが幸せにございます」

 グランデールはそこではじめて穏やかに笑った。

 「部下に送らせます。ご用意を!」

 機士は明るく言って踵を返した。一方、残された王弟夫人は自分のために多くの詩を書き名曲を作った男の背中を静かに見送るばかりである。


 水面下で国都の緊張が高まっているその頃――。

 カペルヴィアストの生徒達はいったい何をしていたのか?国の将来を憂い、議論を戦わせ、いざというときのために剣技の習熟にいそしむ――ような者は全くいない。

 これは彼らが悪いわけではなく、情報が学生達のところに下りてこないというそれだけのことであった。彼らは自分達が暮らしている国が卵の殻の上に乗っているなどとは夢にも思わず、そこで平気な顔で講義を受けたり、ダリエンで実技訓練を受けたり――王立機士学校の襲撃は無くなっていた。襲撃したくても機体はすでに売り飛ばされていたからである――講義をさぼって遊びに行くものも多かった。

 もとより恒例の創立記念祭の前ということもあって学生達はすでに気もそぞろになっている。記念祭があり、試問があり、それが済めば冬季の休暇となるのだ。だらけた学生達のなかにあって、必死な顔をしているのはだから記念祭の実行委員を押しつけられてしまった一部生徒達だけである。

 バアドクレア・アスペンブロウに関して言えば、彼もしくは彼女はだらけている他の学生と緊迫した王城内の人々との中間にあった。キメラの若者には金をむしり取るだけの嫌な叔母という頭痛の種があり、さらには性別の決定という大仕事も控えている。そこに持ってきて国の一大事である。キメラの若者としてみれば、とにかく何もかもが憂鬱で、そこで同じ部屋のルーム名とのようにぼんやりとベッドの上に横たわってビスケットを食べるなどということはとてもではないができないでいるのだ。

 「トリセルディ……」

 バアドクレアは言った。

 実はバアドクレアもいつもいつも苦言から話を始めることに疲れてきているのだ。講義の後、どこかに遊びに行くこともなく、夜歩きも無くなったが、それでもキメラの若者は黒い髪の野人の些細な言行がいちいち気にかかる。

 「君はどうしてそんなふうにのんびりしていられるんだ?」

 キメラの若者はほとほと呆れたようにベッドの上のトリセルディを見下ろした冬時間ということで講義はすでに終わっている。もっとも講義があろうがなかろうがエラートの若旦那はお構いなしであったが。

 「あ、ああ?」

 野人は仰向けのまま真剣な顔で何かを読んでいる。

 「この大変な時期に、よくそんなふうにぼーっとしていられるよな」

 陰謀の情報を持ってきたほうは平気な顔をしており、持ち込まれたほうがイライラしている。世の中どこかおかしくないか?

 国事のことや身内、自分の性別といろいろと頭の痛いことが多いが、バアドクレアには実はもう一つひどく気にかかることもあるのだ。エルマのことである。

 ――エルマはトリセルディが好きなんだ。

 バアドクレアはなんとなくそのことが面白くない。

  「ああ……」

 トリセルディは聞いていない。

 毎度のことだが、黒い髪の野人は一つのことに集中すると他のことができなくなる。バアドクレアはそのようなルームメイトに腹を立てることが多い。キメラの若者は器用な人物であり、自分の髪をとかしながら鼻歌を歌い、トリセルディのことを監視し、野人が探しているペンの在処を言って示すことぐらいはできるのだ。

 「何を読んでいるんだ?」

 バアドクレアはあるいは、それがエラートの実家から送られてきた秘密指令か何かかと疑ったのだ。キメラの若者は常識的であり、物事の優先順位にこだわる人物である。もしもトリセルディが国事についての実家からの指令書を読んでいるのであれば、バアドクレアも自分が黙殺されるのはこれは仕方がないことと理解している。そこまでキメラの若者も自己中心的な人間ではないのだ。だが……。

 ――ミューネ・バンクラフト。

 トリセルディが真剣に読んでいるノートの裏にはそのような名前があった。

 「何、それ……」

 バアドクレアは怪訝な顔をしてる。午前の授業が終わった後、トリセルディがミューネと何かを話していたのをバアドクレアも確認しているが……。

 「ああ、あの変なねーちゃんに借りた」

 トリセルディはミューネのことを名前では呼ばない。『変なねーちゃん』で通してしまうのだ。バアドクレアのほうもそれで理解している。

 「あ、それは……」

 バアドクレアの顔が毒ガスの入ったドラム缶を見るそれに変わった。ノートだと思っていたそれはノートにあらず。きちんと装丁がなされた本であった。ミューネは新聞に連載小説を書く傍ら、裏で別の小説を書いているという。

 ――男性同志の同性愛を極端に美化した作品。

 である。 

 ミューネのこのいかがわしい闇小説はカペルヴィアストルの学内一部女子に異常な支持をされ、希少本はブラックマーケットでとてつもない値段がつくこともあるという。

 ――赤、黄、青。

 ミューネの作品には内容の過激さからそのような上中下三段階のレベルがあり、そのレベルが分かるように背表紙の色が違うのだそうな。最も過激な上ランク本、赤本は投機の対象にすらなっており、名誉有る所有者の多くは自分が持っている作品の盗難を常に警戒しているという。

 「それ、ミューネの本……」

 バアドクレアは実は、一度だけ過激な上本を盗み見したことがあった。興味があったわけではない。ファーラがミューネから預かっていたものを見るとはなしに見てしまったのだ。それはバアドクレアにとっては後ろを振り替えることが躊躇われる恐怖の体験であった。まさしくパンドラの箱である。しかもパンドラの箱には希望が残っていたがミューネの小説には最後に希望など残されていない。最初から最後まで徹頭徹尾の悪夢なのである。

 バアドクレアがうっかりと触れてしまった物語の主人公は創作の人物ではなく、実在の人間の名前が流用されていた。それもバアドクレアが良く知っている人物であった。一人はハイメリオンの貴公子リンツであり、もう一人はバアドクレアの隣室のシエルであった。物語に出てくるのははっきり言ってその二人だけである。個人名をそのまま直に使ってしまう時点で相当に危険な匂いがするのだが、内容はそれに輪をかけて危険なものであった。つまり、貴公子リンツが紅顔の美少年シエルに性的な虐待をこれでもかこれでもかと繰り返すというそのようなお話なのである。ちなみにリンツにもシエルにもそのような趣味ははない。それどころか、二人には接点がほとんどないのだ。話をすることも稀であるし、プライベートで一緒に行動することもほとんどない。リンツは何かと忙しい人物であったし、シエルのほうはバアドクレアやエルマと一緒にいることのほうが多い。

 そのような事実はともかくして、真実を知ったバアドクレアはしばらくシエルとリンツの顔を涙なしには見られなかったものである。

 その悪名高いミューネ本がトリセルディの手にある!しかも背表紙は最悪の赤。

 バアドクレアとしては実に頭の痛いことである。

 「それ、ミューネの変態小説じゃないか!」

 「ああ?そうだな……」

 トリセルディはつまらなそうに言い、バアドクレアは情けなくて泣きそうになっている。

 「まったく……何を真剣に読んでいるのかと思えば……」

 バアドクレアは国の事を思っている。それはトリセルディがキメラの若者に教えてくれたからである。だが、国難を知らせたトリセルディのほうはそんなことはすっかり忘れてぼんやりと変態小説を読んでいる。バアドクレアは慨嘆したくなる場面である。

 「君にそんな趣味があるとはしらなかったよ!」

 バアドクレアは呆れて言った。だが、バアドクレアは気がついてない。本当の恐怖はまだこれからなのだ。

 「不潔だよ!何を考えているんだ!この大事な時期に、リンツとシエルの同性愛の本なんか……」

 トリセルディは本を脇にやって真顔で言った。

 「いや。リンツじゃねえ」

 「何だって?」

 「これはリンツの話じゃねえぞ」

 トリセルディはいつものようにぼんやりとした顔で言った。

 「こいつはリンツの話じゃねえ。おめえの話だ」

 「ふーん……何いーっ!」

 話をうっかりと流し掛けたバアドクレアの脳内温度が十度上がった。キメラの若者は真っ青になってトリセルディの手からミューネの変態本を引ったくる。ページを繰る指が焦りで上手く動かない。

 「な、な……」

 かわいそうなバアドクレアは目を皿のようにして呪われた文書を解読する。脂汗が金髪の若者の額に浮かぶ。

 「バアドクレアの裸身を……裸身を鎖でつなぎ、これに刺のある薔薇の花束で力任せに打ちつける……白い肌に傷が付き、血が滲むが、若者の表情は恍惚としている。さらに花束が振り上げられ、打ち下ろされ……」

 本のページの一説を読み上げたバアドクレアの顔が青くなりそれから炭火のように真っ赤になった。物語は構造的には、キメラの若者が以前に見たリンツとシエルの同性愛の話とほぼ同じである。男性が男性に性的に拷問を繰り返すというそれだけのものなのだ。ただ、前作の登場人物であるシエルの部分がバアドクレアになっているだけである。

 「な、なんだよこれ……」

 バアドクレアは寝転がっているトリセルディを鬼の形相で睨みつけた。黒髪の野人はぼーとしている。彼は一読者であって作者ではないのだ。怒りをぶつけられる立場にはない。

 「どうして、こんなものを平気でな顔して読んでいられるんだっ!」

 「どうしてって貸してくれたから……」

 トリセルディは平然と言った。バアドクレアはそのような野人が理解できずに絶叫した。

 「君の名前も使われているんだよ!」

 バアドクレアは気が違ったようになっている。物語にはもう一人の登場人物があった。以前、リンツであった拷問係の立場にトリセルディの名前が使われている。

 つまるところミューネの変態小説はトリセルディが男性となったバアドクレアを監禁して破廉恥な行為を繰り返すというそのようなものとなっていた。

 「ああ、そうだな……」

 トリセルディは興味がないのかあっさりと言った。

 「そうだなじゃないよ!学内の女子はみんこれを見ているんだ……あっ!」  

 キメラの若者はもうずいぶんと昔のことであるが、ダリエンでの実技訓練のことを思い出していた。バアドクレアを顔をあわせたミューネは何とも言えない曖昧な笑みを浮かべていたが、作品はすでにあのときに完成していたのだ!

 「もう何だよ!ミューネの奴!」

 これは完全な名誉棄損である。バアドクレアは大いにいきり立った。

 「トリセルディもちゃんと抗議してくれよーっ。変な噂が立ったらどうすんだよ!」

 ただでさえ、エルマのように絡んでくる相手が出てきてバアドクレアは辟易しているのだ。これ以上おかしなことがあったらキメラの若者はノイローゼになってしまうだろう。

 「心配すんな。俺は男にゃ興味はねー」

 トリセルディは退屈そうに言った。

 「興味とかそんなことを言ってんじゃないんだ!これは誹謗以外の何物でもないんだよ!」

 「いいじゃねえか。勝手にやらせておけば。どうせ読んでいるねーちゃん連中は本の内容が事実とは思ってねえんだろう。それに結構良くできてるぜ、その本。おめえの台詞なんか良く研究してあるぜ。理屈っぽいところとか、ぎゃーぎゃー喚くところとか。感心するぜ」

 トリセルディは知的財産に対する考えがルーズである。そしてバアドクレアの激昂は止まらない。

 「感心してどうするのさ!だいたい事実かどうかは関係ないっ!僕が、この僕が精神的な苦痛を受けているんだよっ!」

 バアドクレアは寮室の中を時計の秒針のようにぐるぐる回っている。それにしてもミューネといいファーラといい、何故、そこまで人に大迷惑をかけるのだろう。いったい何の恨みがあるというのだ?

 「ああ、どうしよう、どうすればいいんだ……そ、そうだ、教官にこの作品を提出してミューネを叱って貰おう……」

 教官による強制代執行。悪くない案のようにも思えるが……。

 「やめとけよ」

 「どうして?」

 バアドクレアはきっとなってトリセルディの横顔を睨みつけた。野人はこんなことをいまさらに言わなければならないのかと言いたげにぼそぼそっと言った。

 「教官や講師がそれを読むのをおめえ、我慢できるのか?」

 「うっ……」

 「学校内で問題が大きくなれば、事情聴取もされるだろう。あんまり面白くないことになるにきまってるだろう。おめえにとって」

 バアドクレアは泣きそうな顔になった。このまま泣き寝入りをしなければならないのか?かかる恥辱を、同性愛の本の主人公にされる屈辱にただ我慢しなければならない。こんな馬鹿なことが許されるのか?キメラの若者は悔しくてならない。

 「じゃあ、いったい、いったい僕はどうすればいいんだっ!」

 ヒステリックな少女にトリセルディは言った。

 「放っておけば良いのさ。どうせ向こうだって別におめえを貶めようという意思はないんだ」

 どんな場合でもそうだが悪意が無いのが一番たちが悪いのだ。ミューネにはバアドクレアを苦しめようという意思は無いはずである。ただ、手近な所に素晴らしい素材があれば、それを使いたくなるというのが職人の性というそれだけのことなのだ。

 ――この二人を使えば最高の作品が仕上がる!

 トリセルディとバアドクレアのコンビを見いだしたミューネは自分自身に喝采し、同時に読者の喜ぶ顔を脳裏に思い描いたに違いない。自分も楽しいし、まわりも大いに喜ばせることができる。物語書きにとって当たると分っているものを書くなというほうが無理な話なのである。かくしてミューネは狂ったように暴走し、かかる同性愛小説の金字塔を勝手に打ち立ててしまった。

 バアドクレアはこの不思議少女の歪んだ情熱によって大いに迷惑することになったのだが、しかし、ミューネのほうにも弁護の余地は多少残されている。ミューネ本人は特段にモデルの実名をそのまま流用することに思い入れはない。むしろそれは読者がそれを望んでいることなのだ。それが証拠に初期のミューネ作品には明らかにリンツと分る描写の主人公の名前は別のものに置き換わっている。これに読者がケチをつけ、煽ったのだ。

 ――実名でないと面白くないよ!

 読者達の不平不満がミューネに禁断の一線を踏み越えさせてしまったのである。それにしても女ということでエルマにジャブをたたき込まれ、今度は男ということでミューネにカウンターを浴びせられる。バアトクレアはほとんど人間サンドバッグのようになっている。

 そして、ここで事態をさらに混乱させる事態が発生した。寮室の扉がぎいと音を立ててわずかに開いた。戸のすき間から部屋の中を覗いているのはミューネ・バンクラフトその人であった。きっとトリセルディの反応が気になってやってきたのだろう。

 「な、なんだよ、ミューネ……」

 バアドクレアが直ちに沸騰しかかるのを制してトリセルディがのんびり言った。

 「何だ、おまえか……」

 トリセルディはベッドに横になったまま言った。黒い髪の野人は他人を名前で呼ぶことがあまりない。たいていはおまえとかきさまで済ませてしまうのだ。奇妙なミューネは無言のまま恐る恐る虎口に飛び込むようにして部屋の中に入ってくる。

 「……あ、あの……」

 ミューネ・バンクラフトは言った。素面のときのミューネはとても目立たず、蚊の鳴くような小声で話すのだ。あまり身の回りのことには構わず、栄養不良と貧血のダブルパンチを貰っていつも青白い顔をしている。長い赤茶けた髪の毛はいつもぼさぼさ。男子生徒もミューネのことを恋愛対象と考えておらず、むしろ古戦場に現われる亡霊のように考えている。ミューネにはラブレターを書くよりも、お祓いをしてやるべき。生徒達はそのように考えている。

 「……ほ、本」

 ミューネは浮遊する鬼火のように戸口のあたりでたたずんでいる。トリセルディは言った。

 「まだ最初の所しか読んでねえけど」

 その読みかけの本は怒りに顔がひきつったバアドクレアの手の中にある。だが、ミューネは他人の感情の動きに鈍いのか、不快感を表すバアドクレアを前にしても床の一点を見つめてじっとしている。否、そうではない。ミューネは真剣であったのだ。はじめてモデルから感想を得られるのだ。こんなことは滅多にあることではない。 

 それにしても、自分が同性愛本のネタにされながら、平気な顔で、その本を読んでいるトリセルディも変わった男であるが、自分の過激文書を設定その他無断で丸写しとなる相手に謹呈するミューネもミューネである。二人の非常識人にバアドクレアもそろそろ理性が分解しそうになってきている。

 「ミューネ、おめえは天才だ。最高の変態少女小説家だ」

 トリセルディはずばりと称賛の宣言をし、ミューネは顔を紅潮させた。最高の変態少女小説家という褒め言葉もすでに相当訳が分らないが、その褒め言葉で顔を輝かせる作者も異様である。

 「……そ、そう……」

 ミューネはむにゃうにゃむにゃと寝言のようにぼそぼそと口の中で言っていたがバアドクレアには何を言っているのかよく分らなかった。もっとも別に分る必要もなかったが。トリセルディは相手を褒め讃えて、それから不意に何かを思い出したように言った。

 「けどよ……」

 黒い髪の野人は真剣な顔で言った。ミューネは赤い顔のまま黙り込む。こういう小さな疑問やリクエストを地道に拾い集めることが明日の名作変態少女小説に結実するのだ。 

 「俺がバアドクレアをやっちまうのもいいけれど、逆だってあるだろう?」

 「……え?」

 ミューネは蚊が鳴くように呟き、バアドクレアのほうは多分トリセルディがろくなことを言わないだろうと知っていたので目を閉じ、口元の筋肉をひくつかせたまま天を仰いだ。恐れを知らないトリセルディは続ける。

 「だからよ、男同志なんだから、俺がやるばっかりじゃなくて、俺がやられるって話も書けるだろう?そういうのはないのか?」

 「……」

 「俺がやるばっかりじゃなくて、やられる話があってもおかしくねえだろう」

 トリセルディは淡々と言った。

 ――馬鹿じゃないのか?そんなもの読みたいのか!

 バアドクレアはトリセルディのあまりの阿呆さ加減に爆発しそうになった。だが、キメラの若者の怒りは炸裂しなかった。もっと恐ろしいことが起こったからである。

 「……駄目」

 ゆらりと鬼火が揺れた。トリセルディもバアドクレアもミューネの異常に気がつき、口を閉ざした。何かおかしなことが起ころうとしていた。

 「……そんなの。エラート君がそんなことになるなんて、そんなふうに立場が変わるなんてそんなの……」

 ミューネの双眸に狂った激情の色が浮かんだ。トリセルディは沈黙し、バアドクレアのほうは相手の変異に恐怖を覚えて後ずさった。そして変態少女小説家は大爆発した。

 「そんなの駄目ーっ!」

 鬼火の娘は髪の毛を振り乱し、聞く者の魂を凍らせるような絶叫を残して部屋から走り去っていった。トリセルディもバアドクレアも呆気にとられて引き留めることはおろか声をかけることすらできない。

 「駄目ーっ……」

 ミューネの叫び声とばたばたという足音が遠ざかり……そして、寮室のほうに急速に戻って来た。羅刹の形相のミューネは物凄い勢いで部屋に飛び込み、呆然としているバアドクレアの手から自分の名作をむしり取った。ちなみにミューネの新作のタイトルは『獣道』。タイトルからして覚悟がすさまじい。

 「駄目ーっ!」

 鬼の娘は気が違ったように叫んで再び走り去りついに再び戻らなかった。後にはトリセルディとバアドクレアが残される。二人とも何が何だか訳が分からない。やがてベッドの上のトリセルディが呟いた。

 「おめえの友達、変な奴ばっかりだな」

 バアドクレアも目を点にしたまま応えた。

 「君もね……」


 国都モーゼル街十四番地。

 くすんだ茶色の壁に蔦が絡む三階建ての建物。

 そこがクレティアの在ステアネーゼ大使館であった。ステアネーゼとクレティアはとにかく年がら年中殴り合いをしており、休戦条約を結んでも、それが長く保たれるということは稀であった。当然、在ステアネーゼのクレティア大使が難職であることは言うまでもない。ステアネーゼとの折衝に情報収集、宣戦の布告に、布告と同時に始まる終戦に向けての協議。敵地に取り残された大使館に対する都の人々の反感はすさまじく、建物に反クレティアの抗議デモが殺到するなどというのはまだ良いほうで、頻々として起こる火炎瓶や投石による攻撃など、よほどの気概とずぶとさがなければやっていけないような荒れた職場なのだ。

 この荒みきったモーゼル街の二十五代目の主がペドロワであった。ペドロワ。名前はアイバンになる。クレティア王国を支える十二の古い氏族の一つユグー家の分家がペドロワであり、アイバンはペドロワ家の五人兄弟の末っ子になる。男ばかり四人も続いて生まれ、一人ぐらいは娘が欲しいと願った母親の願いむなしく男として生を受けたアイバンは、母親の趣向として、十五の時まで女として育てられたのだという。髪を結い、スカートをはき、女言葉を使う。ペドロワの兄弟はみな筋骨隆々たる大丈夫ばかりであったが、末のアイバンだけはどういうわけか体の線が細く、優美で、髭もほとんど生えず、そのために女装姿が並の女性よりも冴えたという。

 ――ペドロワのおかま野郎。

 奇妙なアイバンのことを貴族の子弟の中には、そのように揶揄するものがいたが、彼等が思っていることを直に本人にぶつけるということはなかった。アイバンはおかま野郎であったが、同時に右手に長剣、左手にナイフという『本当の意味』での両刀使いの達人でもあったのだ。クレティアでは国法で貴族の決闘が認められており、侮辱されれば剣で対抗する権利を貴族は生まれながらに持っていると考えられていた。

 ――ひとこと侮って、なますにされるのでは割にあわない。

 のである。 

 結局のところアイバン・ペドロワは全ての面で抜きん出て優れていたのだ。まずなによりも美男であって、物腰が軟らかく、典雅なことこの上なかった。頭も切れる。特に語学の才能に優れ、特に誰かに習ったわけでもないのに十五の時にはステアネーゼのアルン語を自在に操れるようになっていた。絵を描かせても上手いし、詩も優れたものを作る。芸術的なセンスがとにかく抜群で、アイバン体という字体までも作り出している。

 ――文武に優れた嫌味な美男。

 だからこそ羨望と嫉妬をもっても彼はこう言われるのだ。『おかま野郎』と。

 当然、この秀才が大学を卒業したあとどのような方面に生きる道を選ぶのかは、人々の耳目を集めることになった。

 アイバン・ペドロワの元には、一方で軍からの誘いがあり――彼を侮るものは多かったが、彼を評価する者はさらに多かったのだ――一方で、ユグー当主が大臣を勤めている大蔵府からの誘いもあったという。ところがアイバンは二つの誘いを断り、外務府に入り、そして何を思ったのかもっとも荒んだ職場モーゼル街十四番地行きを志願したのである。駐ステアネーゼ大使館は重責ではあるが必ずしもうまみのあるポストではない。費用と効果が一致しないのである。そのことが分ってるので、皆、アイバン・ペドロワの決意に、

 ――何もそのようなどさ回りのようなことをしなくても、あの切れ者であればもっと良いポストが手に入るのに。

 と、戸惑うばかりであったのだ。

 だが、本人は回りの意見にほとんど耳を傾けないままに笑って敵国に書記官として乗り込み、そして、その十カ月後、大使が持病の眼病を悪化させて帰国したことで大使に昇格した。クレティアによる麻薬作戦が始まる四年の昔のことである。


 「閣下、失礼します」

 モーゼル十四番地の三階。大使の鎮座する大部屋に若い書記官が入ってくる。背の高い優雅なペドロワは椅子ではなく机に腰を下ろして、窓の外を眺めているところであった。

 「お申しつけの調査書が仕上がりました」

 書記官は言った。ボルフという名前の若い書記官は、ペドロワのように自ら志願したのではなく、本省の命令でやむなく敵地に入った不運な人物であった。もしもボルフが名家の出身であれば、おそらくこのような貧乏くじは引かなかっただろう。彼は市民の階級に属しており、実家は貿易商をしているという。

 「ご苦労様」

 ペドロワは愛想良く言った。傲岸な貴族が多い中、アイバン・ペドロワは相手の身分の貴賤で態度を変えるということが決してなかった。

 ――誰にでも穏やかに優しく。

 おかま野郎と陰口を言われる大使は、しかし部下からは非常に信頼されている。美形の男性職員は愛の詩を送られたり花を送られたりといろいろと悩みが多いというが、ボルフに関して言えば彼は凡庸な顔だちで、ペドロワ好みの華麗で才走った人物ではなく、手堅く慎重で与えられた仕事をこつこつとこなす愚直な人物であったから、愛の詩攻撃や花爆弾に恐れおののくいわれはなかった。

 「調査書はそこに置いといてください」

 ペドロワはウェーブした黒髪を手で弄んでいる。ボルフは大使がそのようにしているときはくつろいでいて、どちらかと言うと愉快な状態にあるということを体験的に知っていた。何かの策がうまくあたったのだろう。そこで、書記官は控えめに尋ねた。彼は上司に前々から一度聞いてみたいことがあったのだ。

 「閣下。一つ質問をよろしいですか?」

 「構いませんよ」

 灰色の空の下にはステアネーゼの冬の陰気な風景が大地に張りついている。間もなく雪が降り始めることだろう。書記官は尋ねた。

 「どうして、閣下はステアネーゼを赴任先にお選びになったのですか?閣下ほどのお方ならば、何処へでも任官がかなったでしょうに」

 「何処へでも任官がかなう人間が一番厳しい任務につかなくてどうします」

 ペドロワは笑った。ボルフは頭を下げた。ステアネーゼもそうだが、クレティアでも金持ち貴族の堕落は著しい。危険な仕事には毛色の悪いものを向かわせ、自分たちはのうのうとしている。クレティアには兵役義務があるが、貴族達は金でいくらでも兵役を逃れている。ペドロワのような自ら泥をかぶる人間はほとんど絶滅種であるといってもいい。

 「なんてね。実は、そんな高尚なことなど考えていません」

 「はあ……」 

 大使はひどく愉快そうであった。

 「恋。そう、恋をしていたのですよ」

 「はあ?」

 書記官は自分の耳を疑い、次に相手の頭の中身を疑った。

 「何ですと?」

 わからんちんめ。ペドロワは左の口の端を持ち上げ、歯を見せて笑った。悪戯小僧の笑みである。

 「恋ですよ。まあ、ボルフには無縁でしょうが」

 「恋ですか?」 

 ボルフは朴念仁であり、ペドロワの言っていることの百分の一も理解していない。アイバン・ペドロワは男性女性関係なくさまざまな相手と浮名を流してきており、つまりは恋こそ我が人生という人物であった。激情をそのまま人の形にきりとったような人間である。一方、ボルフは畑の芋のような若者であった。  

 「そう。恋ですね」

 「いったいお相手は誰なのですか?」

 朴念仁は朴念仁ゆえに普通は聞かないような質問を大使にぶつけた。非常に驚くべきことであるが書記官も恋をするのに相手が必用だということは知っているらしい。そして大使のほうはボルフの誠実さに免じて秘密を明かす。

 「十六の時のことです。ステアネーゼの詩を友達から見せて貰ったことがあるのです」

 「友達ですか……」

 ボルフは意識をせずに、自分の知っている一般的な『友達』を想像して頷いた。

 「ステアネーゼの男性が、女性に送った詩だと後に知りました。素晴らしい詩でした。私は、その作者にどうしても会ってみたい。会って話を聞いてみたい。そのように思いました。それで、その時にステアネーゼの大使館で仕事をしようと決心したのです」

 ペドロワは美酒に酔ったように言った。一方、ボルフは怪訝な顔をしている。自分がどちらかというと貧乏くじだと思っている職場に自ら進んでやってくる。それもそのことを十六の歳ですでに決めていたという大使の感覚が理解できないのだ。

 「あの……。それだけですか?」

 ボルフは胃が痛くて駆け込んだ医者で絆創膏を貰った患者のような表情を作った。

 「それだけなのですか、本当に?」

 「それだけ?」

 ペドロワは鸚鵡返しに聞き返す。大使のほうはそのように尋ねられるのが心外というよりは、尋ねられた質問そのものが理解できなかったらしい。そこでボルフは正確に自らの質問の真意を相手に伝える。

 「その……つまり、それは、詩の作者に会うためだけにここにやって来たと?」

 そういうことか。大使は質問の意図も、融通の効かない部下についても理解した。『会うためだけ』というボルフの発言は大使としてはなんとも聞き捨てならない台詞であるが、相手が畑の芋では怒ってみてもしようがない。

 「人を動かすものはあるいは富であったり名誉であったりします。権力というものもあるでしょう。そういった人を動かすものに友愛や尊敬、あるいは愛というものも含まれると私は思いますよ」

 「さようにございますか」

 大使の説明にボルフは理解することを諦めてしまった。よくわからんが本人がそのように言っているのだからまあ、そうなのだろう。書記官はそこであいまいに頷くと、さらに質問を続ける。

 「……それで、閣下は、その詩の作者にお会いすることがかなったのですか?」

 「当然です」

 「それでどうでしたか、その方と会われて」 

 ボルフは尋ねた。

 「これが、なかなか複雑でしてね。雨のち晴れといった感じでしょうか」

 大使の発言はなぞかけのようでもある。

 「作者本人と出会った時には正直がっかりしましたよ。こんな低劣な人物の作品に私は心を動かされていたのかとね。失意の余り私はもう少しで自分の手首を切るところでしたよ」

 「手首を切るとは穏やかにございませんな」  

 ペドロワは話が乗ってくるとエキセントリックな表現を使うことが多い。

 「けれど、すぐに分りましたよ。作者だと思っていたその人物は実は代筆を立てていたのです」 

 「なるほど」

 畑の芋は頷いた。ゴーストライターならばそのようなこともありえるだろう。

 「それで、代筆の方にはお会いになられたのですか?」

 もちろん。大使は胸を張って笑った。

 「一目見ただけで、ああ、この人物ならばと納得しましたよ。これは私の意見ですがね、ボルフ、文章というものは人間を如実に表すものですよ。荒れた物を書く者は荒れているし、矮小な文を書くものは心が拗けている。堂々と素直な人間が書く文はやはり素直で堂々としている」

 ボルフは大使のお話のお相手をしているという以上の意識が無い。ペドロワの趣味がそのまま敵国の政情撹乱に直結しているなどとは思ってもみない。一方、文章を熱く語っている大使はステアネーゼという舞台で影に日なたに活躍する踊り子の名前と顔を明確に頭に思い浮かべた上で話を続けている。王弟と、その代筆者となる機士の中の機士。ペドロワはステアネーゼの王弟クリーエフについては家柄については一流、才幹は三流という評価を下している。一方機士ルイ・グランデールについては才幹は一流半、家柄は語るべくもなしといったところだろうか。機士の中の機士が一流ではない理由は女性に対する敬慕の念が強いというところである。

 ――甘すぎる。

 のである。ペドロワは本当に一流の人間は目的のためならば実の妻子も平気で下水の側溝に流せる人物であると考えている。私情を殺せる人間。それが一流の条件である。もっともだからといってペドロワ自身はそのような一流の人物を好まない。友達ともしたくはないし、ベッドをともにするなどとんでもない。大使はどこか欠けている一流半のほうが魅力的だと信じている。それは、一流の人間の険悪さを一流の人間であるペドロワが知りつくしており、そのことに倦んでいたからである。

 「友を選ぶのであれば、まずその人間の書いたものを読んでみるのが一番でしょう。報告書といった定型文よりは、私信、特に恋文が良いでしょう。もっとも、自分が書いた恋文を他人に見せてまわるような人間は少ないでしょうが」

 ペドロワは器用な人物である。女性的な人物と言っても良いだろう。一つのことを語りながら、頭の中では別の思考を働かせることができるのだ。彼は畑の芋に講義するかたわら、これからのステアネーゼに対する干渉策を考察している。

 ――火が燻ってるところを煽ってやる。後は勝手に燃え上がる。

 手駒は揃っている。凡才の王弟とそれを取りまくあまり上等とはいえない反乱分子。それから忠節な機士。一流の切れ者は、機士の中の機士を尊敬し、愛してさえいたが、同時にそれを簡単に切り捨てる冷酷さも持ち合わせている。だが……。

 部下への講義と思考が止まる。大使には気にかかることがあったのだ。ひどく気になるというほどのものではない。小さな、しかし放っておくと後々に大きな穴となりそうな些末な誤差。

 「……どうかなされましたか?」

 不意に言葉をとぎれさせたペドロワに書記官は尋ねた。

 「ミイニですが……」

 ペドロワはステアネーゼ人の内通者の名前を不意に呼んだ。

 「彼にカールクエイツの動きを探るように言っておいたのてすが、報告はどうなっていますか?」

 大使はすでに武侠集団カールクエイツが動いていることを察知している。ワルデ湖畔で王弟派の機士が撃墜されたことも知っているし、撃墜が偶発的で、警告を含むなにがしの意図がないこともすでに報告で聞いている。さらに言えば、彼は王立機士学校の付属病院にあわただしい動きがあったということまで知っていた。麻薬の保管庫に部外者が立ち入ったという情報は入ってきていなかったが、怜悧な大使は、そのようなことはあるだろうと推察はしている。一方、国王の側は、人目につかずに都城に入り、警護が固められていると聞く。緊張は確実に高まっている。大使にとってはステアネーゼのごたごたが長引くことが最大の目的であり、今の所、計画は順調そのものであるといえる。ただ――。大使ペドロワは何となくひっかかっているのだ。カールクエイツに。武侠の第一党は平時には南方に本陣と称するわずかな兵力が展開しているだけである。その本陣が都近くに移っているのだ。大使はこの小さな戦力集団を気にしている。そこでスパイを送り込んだ。

 「ミイニからの連絡はございません」

 ボルフは淡白に応えた。

 「そうですか……」

 ペドロワは顎に手をやって思案顔を作った。そのような表情が恋多き一流人の『一人になりたい』という控えめな意思表示であることを書記官は知っていた。そこで彼は、

 「連絡があり次第御報告にあがります」

 と、言い置いて部屋を出ていった。考えをまとめるペドロワは部下の背中に声をかけることはなかった。

 

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