第6章 お食事券、意外と面倒です。
続けて俺は、株主優待として『お食事券』を導入する場合の手順について調べることにした。
ここで想定しているのは、紙媒体のお食事券だ。
今の時代ならデジタル化したほうが便利なのだろうが、株主には高齢者も多い。
デジタルに不慣れな層を取りこぼさないためにも、紙という選択肢は残しておいたほうがいい。
もっとも、紙の券だからといって、裏側までアナログでいいわけではない。
誰に何枚送ったのか。
どの券が、いつ、どの店舗で使われたのか。
未使用の券はどれだけあるのか。
そうした情報を管理するシステムが必要になる。
さらに、店舗のPOSや会計システムでも、お食事券を決済手段として扱えるようにする必要がある。
やはり、これも一から自社開発するとなれば、相当な時間とコストがかかるだろう。
そこで俺は、デジタルギフトと同じように、既存のサービスを活用できないか調べてみた。
すると、こちらも、それらしいサービスがちゃんと存在していた。
ひとつは、共同印刷株式会社の「株主優待運営業務支援サービス」。
株主優待の事務局運営から、金券の発行・印刷、発送、問い合わせ対応まで、BPO(業務プロセスの外部委託)として請け負ってくれる。
つまり、お食事券を作って、株主に届ける。
そこまでの業務は、かなり外部に任せられるわけだ。
さらに調べていると、面白いサービスも見つかった。
株式会社impact mirAIが提供する、株主優待システム「eかぶゆう」だ。
こちらは、株主に専用カードを配布し、そこに優待ポイントを付与する仕組み。
株主は店舗で会計するとき、そのカードをかざしてポイントを利用する。
スマートフォンを操作する必要がない。
これなら、デジタルに不慣れな株主でも使いやすそうだ。
「へえ……」
紙のお食事券だけではない。
電子ポイントをカードで利用するという方法もある。
専門会社というのは、いろいろな仕組みを考えているものだ。
俺は感心しながら、さらに調査を進めた。
◇
どうやら、お食事券についても、株主に届けるところまでは、外部サービスをかなり活用できそうだ。
だが――。
その先には、まだ自社で対応しなければならない仕事が残る。
株主が加盟店でお食事券を使えば、その利用実績を管理しなければならない。
店舗側のPOSで、お食事券を処理できるようにする必要もある。
そして、本部と加盟店との精算や、会計・経理処理も必要になる。
つまり、
「株主に券を届ける」ことと、「その券を加盟店で使えるようにする」ことは、別問題なのだ。
この残業務の存在は、『デジタルギフト案』と比較したとき、『お食事券案』の大きな弱点になりそうだった。
とはいえ、それを上回るメリットがあるからこそ、外食企業ではお食事券が定番になっているのだろう。
「さて……」
俺は、パソコンの画面を眺めながら考えた。
社長は、こうした手間やコストを承知のうえで、それでもお食事券を選ぶのだろうか。
少し、興味が湧いてきた。
◇
俺は、ひとまずここまで調べた内容を簡潔にまとめ、佐伯と瑞樹ちゃんにメールで送った。
要約すると、こんな感じだ。
――デジタルギフト
外部サービスを利用して導入可能。ただし、具体的な費用については、サービス提供会社への見積依頼が必要。
――お食事券
株主への発行・発送など、届けるところまでは外部サービスを利用可能。ただし、こちらも具体的な費用については、見積依頼が必要。
――お食事券の利用後
店舗での利用処理や利用実績の管理、加盟店との精算、会計・経理処理など、自社で対応しなければならない業務が残る。
詳細については、次回のプロジェクト会議にて。
送信。
すると、すぐに瑞樹ちゃんから返信が届いた。
『もうできたの? すごい。さすが、常盤くん』
「……ふふ」
思わず頬が緩む。
瑞樹ちゃんに褒められた。
それだけで、やった甲斐があったというものだ。
しばらくして、今度は佐伯から返信が届いた。
『すまん。俺のほうは、まだ手つかずだ』
「……」
平謝りする佐伯の姿が、目に浮かぶ。
まあ、そうなるよな。
俺は、パソコンの画面を見ながら苦笑した。
◇
それから三日後。
第三回株主優待検討プロジェクト会議は、ガストで開催された。
そう。
すかいらーくグループが展開する、あのガストである。
なぜ、わざわざガストなのか。
きっかけは、佐伯だった。
「他社の株主優待である『お食事券』が、実際にどう使われているのか見てみたい」
そう言い出したのだ。
すると――。
「じゃあ、私のすかいらーくのお食事券を使っているところ、見せてあげる」
瑞樹ちゃんが、あっさり快諾。
そんなわけで、仕事帰りに会社近くのガストを訪れ、ディナーを兼ねた「現場検証」をすることになった。
「なんだか、私たち、スパイみたいね?」
瑞樹ちゃんが、なぜか嬉しそうに笑う。
完全に楽しんでいる。
卓上のタブレットで注文すると、しばらくして、ネコ型ロボットが料理を運んできた。
このネコ型ロボット、いつ見ても、なぜかロマンを感じてしまう。
「いただきます」
三人で料理に箸をつける。
俺はガストおすすめのチキンソテーを頬張りながら、先日の調査結果について話した。
「なるほどな」
佐伯がハンバーグを頬張りながら、うなずく。
「つまり、『お食事券』は『デジタルギフト』と比べて、株主へのアピール力は高そうだけど、その分、導入や運用に手間とコストがかかるってわけだな」
「そういうこと」
俺が答える。
瑞樹ちゃんは、ミックスグリルをつつきながら、少し考え込んでいた。
「でも、私たちって、そもそも株主優待の導入や運用に、どれくらいまでコストをかけていいのか、聞かされていないのよね」
「そうなんだよな」
「たぶん、最初から予算に縛られるんじゃなくて、まずは自由に発想してほしい、ってことなんだと思うけど……」
瑞樹ちゃんが、少し不満そうに口を尖らせる。
俺は、その言葉にうなずいた。
「だから、前回決めた方針どおり、ここまでの調査結果をまとめて社長に報告して、最後は社長に決めてもらうのがいいと思う」
「そうね」
「俺も賛成だ」
瑞樹ちゃんと佐伯も、そろってうなずいた。
すると、瑞樹ちゃんが佐伯を見る。
「そうしたら、佐伯くんの調査結果も聞かせてもらえる?」
「ああ。俺が調べたのは二つだ」
佐伯はナイフとフォークを置いた。
「ひとつは、お食事券を導入する際の加盟店への説明や説得にかかるコスト」
「もうひとつは、加盟店を利用する客の属性だ」
佐伯は、そこで一度言葉を切る。
「特に――高齢者が、どれくらいいるのか」
俺と瑞樹ちゃんは、佐伯の次の言葉を待った。




