第5話 株主優待、外注という手がありました。
俺は自分の席に戻ると、早速、瑞樹ちゃんから出された宿題に取り掛かった。
まずは、デジタルギフトの導入方法だ。
せっかくデジタル化するのだから、株主が優待を受け取るまでの手続きは、できるだけネット上で完結させたい。
となれば、何らかのシステムが必要になる。
もちろん、一から自社開発する方法もある。
だが、それには相当な時間とコストがかかる。
これまでの経験から考えても、開発費は数千万円規模。期間も、最低半年程度は見ておいたほうがいいだろう。
株主優待のためだけに、そこまでのシステムを一から作るのは、あまり賢明とは思えない。
「となれば、既存のサービスを探すしかないな」
俺はパソコンに向かい、さっそく調べ始めた。
株主優待をデジタルギフトで提供する方法。
そのために利用できるサービス。
いくつかの条件を入力し、情報を探していく。
すると、思ったよりも簡単に、それらしいサービスがいくつも見つかった。
その中でも、俺の目に留まったのが『デジコ』だった。
デジコは、企業が顧客や従業員などにデジタルギフトを配布するためのサービスだ。
そして、株主優待にも利用できる。
株主に専用のURLなどを案内し、そこからデジタルギフトを受け取ってもらう仕組みらしい。
しかも、交換できるギフトは一種類ではない。
PayPayマネーライトやAmazonギフトカード、Apple Gift Card、QUOカードPayなど、複数の選択肢から株主自身が好きなものを選べる。
「なるほど……」
瑞樹ちゃんが言っていた、
――株主が自分の好きなギフトを選べる優待。
まさに、それを実現できるサービスだった。
さらに調べていくと、株主優待の業務そのものをまとめて委託できる「株主優待まるごとおまかせパッケージ」というサービスまであることが分かった。
株主からの問い合わせ対応や、二次元コード付き案内状の作成・発送など、面倒な業務まで任せられるらしい。
「ここまでやってくれるのか……」
俺は思わず感心した。
これなら、メガ・ディッシュが株主優待専用のシステムを一から開発する必要はなさそうだ。
問題は、いくらかかるのか。
俺は料金を確認した。
「……なるほど」
通常のデジコは、初期費用がかからない。
月額費用もない。
基本的には、必要な分だけ発注し、ギフトの額面に応じた発行手数料を支払う仕組みらしい。
発行手数料は、ギフト額面の一〇%。
「一〇〇〇円分のギフトなら、手数料は一〇〇円か」
俺は電卓を叩いてみる。
仮に、一万人の株主に一〇〇〇円分ずつ配るとすると――。
ギフト代が一〇〇〇万円。
発行手数料が一〇〇万円。
合計で一一〇〇万円。
「なるほど……」
もちろん、株主優待向けの追加サービスを利用すれば、別途費用がかかる可能性はある。
だが、少なくとも基本的なデジタルギフトの発行だけなら、かなりシンプルな料金体系だ。
最低発注金額や最低発注件数もなく、必要な分だけ発注できる。
「これは分かりやすいな」
さらに調べると、発行方法にはCSV形式でのデータ連携があり、APIによるシステム連携にも対応している。
「API連携もできるのか」
SEとしては、ここも気になる。
ただし、API連携を利用するなら、こちら側にもシステム開発が必要になる。
「完全にシステム開発ゼロというわけではないか」
とはいえ、自社で基幹システムを一から作るのとは話が違う。
必要な部分だけ既存サービスと連携すればいい。
あるいは、もっと簡単な方法で運用することもできる。
メガ・ディッシュ側の負担に応じて、いくつかの選択肢があるわけだ。
俺は、さらに株主優待向けのサービスページを確認した。
そこには、先ほどの「株主優待まるごとおまかせパッケージ」が紹介されていた。
株主からの問い合わせ対応。
二次元コード付き案内状の作成・発送。
さらには、電話での問い合わせを自動音声で受け付ける自動音声応答システム(IVR)で用意できるという。
「ここまで任せられるなら、社内の負担もかなり減らせそうだな」
俺は、サービス内容をメモにまとめた。
初期費用――通常サービスはゼロ。
月額費用――ゼロ。
発行手数料――ギフト額面の一〇%。
そして、必要に応じて株主優待の運用業務まで外注できる。
「……思っていたより、現実的だな」
数千万円をかけて、自社でシステムを一から開発する。
それと比べれば、既存のサービスを利用するほうが、はるかに現実的に思える。
ただし――。
「問題は、最終的な総額だな」
発行手数料だけなら計算できる。
でも、株主への案内状の作成や発送、問い合わせ対応まで外注したら、いくらになるのか。
そこは、公開されている基本料金だけでは分からない。
「これは、見積もりを取るしかないか」
俺はメモの最後に大きく書き込んだ。
――デジコに見積もり依頼。
「さて……」
俺は、もう一度検索画面に戻った。
◇
「ほかに同じようなサービスはないのか?」
調べてみると、もう一つ気になるサービスが見つかった。
『giftee for Business』。
こちらも法人向けにデジタルギフトを発行・配布するサービスで、株主優待への導入実績もあるようだ。
実際、ヤマハ発動機では、約45万人の株主を対象とした株主優待に採用されている。
「こっちも、かなり本格的だな……」
デジタルギフトの提供だけでなく、株主優待のデジタル化や運用まで幅広く支援しているらしい。
ただ、料金については、ネット上では具体的な金額までは分からない。
「こっちも見積もりを取る必要がありそうだな」
俺は、メモに「giftee for Business」と付け足した。
どうやら、デジタルギフトの株主優待は、思っていたほど大掛かりなシステムを自社で作らなくても実現できるらしい。
専門のサービスを利用すれば、発行から配布、問い合わせ対応まで、かなりの部分を外部に任せられる。
SEとしては、これは大きい。
何でも自社で作ればいい、というわけではない。
既に世の中にある仕組みをうまく利用し、自社でしか作れない部分にリソースを集中する。
それが、システム開発の基本でもある。
「よし」
俺はパソコンの画面を閉じた。
デジタルギフトについては、こうした外部サービスを最大限に活用する前提で、具体的な株主優待案を組み立ててみることにした。




