第14章 株主優待、いよいよ世間にお披露目です
俺は、瑞樹ちゃんが考えてくれた株主優待券の条件をもとに、共同印刷へBPOの正式な見積もりを依頼した。
数日後。
共同印刷から、見積書が届いた。
前提となる条件は、
株主数:約22,500人。
優待対象:100株以上。
実施回数:年2回。
優待額:1回5,00円×2枚。
形状:紙のお食事券。
そして、株主データの処理から、お食事券の印刷・発送、問い合わせ対応までを共同印刷に委託する。
その条件で提示された金額は、
初期設計・事務局構築費――100万円。
年間運用費――260万円。
「年間260万円か……」
俺は、見積書を眺めながら呟いた。
もちろん、これだけで終わりではない。
俺の担当するシステム改修費用も必要だ。
POSや加盟店精算システムへの支払方法・売上区分の追加などを含め、初期費用として100万円。
そして、佐伯からも見積もりが上がってきた。
「俺のほうは、加盟店への説明費用だ」
佐伯が資料を見せる。
対象となる加盟店は、約100店舗。
各店舗への説明や導入時の確認などに必要な費用を積み上げた結果――。
「1,000万円だ」
「1,000万円……」
思わず、俺は数字を見返した。
そして最後に、瑞樹ちゃんが計算した優待そのものの金額。
22,500人の株主に、年間2,000円分のお食事券を配る。
つまり、
22,500人×2,000円。
年間4,500万円だ。
三人で、それぞれの数字を並べてみる。
まず、初期費用。
BPOの初期設計・事務局構築費が100万円。
システム改修費が100万円。
加盟店への説明費用が1,000万円。
合計――1,200万円。
そして、年間の運用費は、
株主優待の額面4,500万円。
BPO費用260万円。
合計――4,760万円。
「……結構な金額になったな」
佐伯が呟く。
「うん」
俺も頷いた。
決して、小さな金額ではない。
俺たちは、この数字をレポートにまとめ、社長へ報告することにした。
◇
そして、数日後。
社長への報告が始まった。
俺たちが費用の内訳を説明し終えると、社長はしばらく資料を眺めていた。
「財務や広報担当の役員とも相談したが……」
社長が口を開く。
「正直に言えば、優待利回り6%超というのは、財務面だけを考えれば、かなり思い切った水準だと思う」
俺たちは黙って、社長の言葉を聞く。
「だが、今回の目的は、単純な株主還元ではない」
社長は、資料の一番上にある「個人株主の増加」という文字を指でなぞった。
「個人株主を増やすという目的に照らせば、十分に納得できる数字だ」
「はい」
「優待をきっかけに店舗を利用してもらい、会社や商品のファンになってもらえる可能性まで考えれば、額面だけでは測れない価値がある」
社長は、手元の資料を閉じた。
「この案で進めてくれ」
「はい!」
俺たち三人の声が重なった。
こうして、株主優待の制度設計は正式に承認された。
ここから先は――。
本当に、株主の手元へお食事券を届けるための仕事が始まる。
◇
俺たちは、株主優待の運用開始に向け、走り出した。
俺は、システム改修と共同印刷との具体的な仕様決定に取り組み、佐伯は営業部のメンバーとともに、加盟店への説明へと繰り出していった。
そして、瑞樹ちゃんは広報と連携して、俺たちの株主優待を世間に公表する活動に移った。
まずは、『株主優待制度の導入に関するお知らせ』を作成。
社内で内容を確認したうえで、東証の適時開示システムであるTDnetに開示した。
それと同時に、同じ資料を会社のIRページにも掲載する。
あとは、世間の反応を待つだけだった。
そして、その反応は、俺たちの予想をはるかに上回る速さでやってきた。
TDnetの開示情報をもとに、株式情報サイトが、
『本日の株主優待情報』
『株主優待新設銘柄』
といった記事で、俺たちの会社を取り上げ始めた。
さらに、投資家の間ではSNSや掲示板でも話題になった。
株価300円で100株なら、投資額は3万円。
そこに年間2,000円のお食事券が付く。
優待利回りは、6.67%。
どうやら、この数字がかなり目を引いたらしい。
そして、予想外の出来事まで起こった。
「新設した理由と、なぜお食事券にしたのか。それから、6.67%という優待利回りについてコメントが欲しいって」
瑞樹ちゃんが、広報から受け取ったメールを見せてくれた。
「これ……株式情報サイトからの取材申し込み?」
佐伯が目を丸くする。
「そうなの。まさか、取材まで来るとは思わなかったわ」
俺は、佐伯と顔を見合わせた。
ここは、瑞樹ちゃんの出番だ。
俺と佐伯がそろって推薦すると、
「ええ。わたし?」
瑞樹ちゃんは、驚いた顔をした。
「だって、株主優待に一番詳しいのは瑞樹ちゃんだろ」
「二人とも、そういうところだけ息ぴったりね……」
そんなわけで、瑞樹ちゃんが取材を受けることになった。
そして、数日後。
件の株式情報サイトのニュースコーナーを開いて、俺は思わず声を上げた。
「うわ……」
そこには、瑞樹ちゃんの写真とともに、大きな見出しが載っていた。
――『株主優待の中の人は、美人庶務さんだった!』
「……なんだ、このタイトル」
俺が苦笑すると、隣から佐伯が身を乗り出してくる。
「いや、これはバズるだろ」
実際、その記事は予想以上の反響を呼んだ。
瑞樹ちゃんの写真がSNSで拡散され、記事の閲覧数も30万PVを突破した。
さすが、我らがマドンナにしてプロジェクトリーダーである。
……なんだか、俺たちの株主優待より、瑞樹ちゃんのほうが話題になっている気もするけど。
◇
そして――。
株主の動きは、俺たちの想像以上に早かった。
株主優待制度の発表後、買い注文が相次いだ。
「やったな」
「ああ」
「この調子!」
俺たちは、すっかり浮足立っていた。
そんなある日の朝。
「大変! 大変!」
瑞樹ちゃんが、大騒ぎしながらプロジェクトルームに駆け込んできた。
「なになに?」
「どうしたの、瑞樹ちゃん!」
きょとんとする俺たちの前に、瑞樹ちゃんがスマホの画面を突き出した。
ニュースサイトの記事らしい。
「これ、今朝、サイトにアップされたんだけど!」
瑞樹ちゃんが叫ぶ。
そこには、大きな見出しが躍っていた。
――『村山ファンド、メガ・ディッシュの株主優待に待った!』




