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株主優待の中の人 ~下っ端SE、株主優待プロジェクトに放り込まれました~  作者: しばたろう


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第10章 株主優待、ここからが本番です

 第一〇一会議室が『株主優待検討プロジェクト』のプロジェクトルームとして、あてがわれることになった。


 俺たちは、翌日から、この部屋を拠点に株主優待の導入に向けて動くことになった。


 その夜。


 俺たちは、社長報告の打ち上げと称して、会社近くの居酒屋へと繰り出した。


「社長報告、おつかれー!」


「かんぱーい!」


 俺たちは、座敷の座卓を囲み、杯を重ねた。


「それにしても、俺たち三人だけで、やりきることになるとは思ってもみなかったよ」


 佐伯がビールをあおる。


「三人だけとはいっても、三人とも本来の仕事を離れて、このプロジェクトに専念するんだから、会社にとっては、それなりの経営資源を投入することになると思うわよ?」


 瑞樹ちゃんがそう言うと、佐伯が頷いた。


「なるほど。ってことは、のんびりしてられないってことだな」


「そういうこと」


 俺たちは、改めて気を引き締めた。


「とりあえず、役割分担を決めようか」


 俺が佐伯と瑞樹ちゃんを見る。


「瑞樹ちゃん。どういう分担にすればいい?」


 すかさず、佐伯が瑞樹ちゃんに振る。


 あまりにも自然なパスだった。


「そうねえ……」


 少し考えてから、瑞樹ちゃんが答える。


「お食事券の詳細は私。必要なシステムと業務委託(BPO)の検討は常盤くん。加盟店調整は佐伯くん。これでどう?」


「了解」


「異議なし」


◇


「とはいっても、まずは、どんなお食事券にするか決めないと、システムやBPOの検討も、加盟店への説明もできないと思うんだけど?」


 俺がそう提案すると、瑞樹ちゃんが大きく頷いた。


「たしかに、そのとおりね」


 そして、少し考えてから口を開く。


「私の中では、お食事券の詳細は、ほぼ固まっているわ」


「ほう」


「すなわち――」


 瑞樹ちゃんが、はっきりと言った。


「紙の券に金額が印字されている、シンプルな形態よ」


「なるほど。バーコードもQRコードもなし、だね?」


「そのとおり」


 佐伯が腕を組みながら、頷く。


「つまり、全世代の使いやすさに全振りするってことだな?」


「そのとおり。それに、この形なら、導入までの時間も一番短くできると思うの」


「たしかに」


 俺も納得した。


「会計時にQRコードやバーコードを読み込む必要がないなら、それ専用のシステムを用意する必要もない。たぶん、POSの設定変更くらいで対応できると思うよ」


「そうでしょう?」


 瑞樹ちゃんが嬉しそうに笑う。


「将来的には、デジタル化も検討すればいいと思う。でも今は、少しでも早く運用を開始することを優先したほうがいいかなって」


「了解」


 俺は頷いた。


「じゃあ、俺も、その前提で進めていくよ」


 すると、佐伯も大きく頷いた。


「瑞樹ちゃんの案なら、加盟店にも説明しやすいしな。俺も、その案に賛成だ」


「決まりね」


 瑞樹ちゃんが、満足そうに笑った。


「じゃあ、二人とも、『紙のお食事券』を前提に、それぞれ進めていきましょう」


 こうして、俺たちの株主優待検討プロジェクトは、具体的な制度設計へと動き始めた。


◇


 俺は、唐揚げをつつきながら、ふと疑問を口にした。


「今の時代、『紙のお食事券』って、オワコンだったりしないの?」


「そうねえ」


 瑞樹ちゃんが、少し考える。


「たしかに、最近はお食事券もデジタル化が進んでいるから、昔ながらの紙の券は、以前ほど主流ではなくなってきているわね」


「やっぱり、そうなんだ」


「でもね」


 瑞樹ちゃんが、人差し指を立てた。


「吉野家やマクドナルドは、今でも紙の株主優待券を使っているのよ」


「ええ! あの外食業界を代表する二社が?」


「そう。これは、紙の優待券にも、まだまだ根強い需要があるってことなんじゃないかな」


「なるほどねえ」


 俺は、妙に納得した。


「お食事券、奥が深いなあ」


 またひとつ、賢くなった夜であった。


◇


 翌日。


 俺たちは、『株主優待検討プロジェクト』のプロジェクトルームに集まった。


 これまで、俺は情報システム部、佐伯は営業部、瑞樹ちゃんは総務部と、それぞれ別々の部署で仕事をしていた。


 こうして三人で机を並べて仕事をするのは、なんだか新鮮だった。


「なんか、変な感じだな」


 佐伯が、隣の机を見ながら笑う。


「そうね。三人とも同じ部署にいるみたい」


 瑞樹ちゃんも、少し楽しそうに笑った。


 俺も、改めて部屋を見回した。


 昨日までとは、まるで違う場所にいるような気がする。


 今日から、ここが俺たちの仕事場なのだ。


 俺たちは、それぞれの机に向かい、さっそく課題に取り組み始めた。


◇


 俺は、まずBPO、つまり、業務プロセスの外部委託の検討から始めた。


 その第一候補として考えていたのが、前回調べた共同印刷株式会社の「株主優待運営業務支援サービス」だった。


 株主優待の事務局運営から、金券の発行・印刷、発送、問い合わせ対応まで、幅広い業務をBPOとして請け負ってくれる。


 これなら、社内で専用のシステムや運用体制を一から構築する必要もなさそうだ。


 少なくとも現時点では、有力な選択肢だった。


 とはいえ、実際にどこまで任せられるのか。


 そして、どれくらいの費用がかかるのか。


 ネットで調べただけでは、そこまでは分からない。


 そこで俺は、共同印刷株式会社のWebサイトから、サービスについて問い合わせを送った。


 すると、数日後。


 担当者から連絡があり、具体的なサービス内容について話を聞くため、初回の打ち合わせを行うことになった。


 打ち合わせは、オンラインで行うことになった。


 俺は予定を確認すると、打ち合わせに必要になりそうな資料をまとめ始めた。


 いよいよ、外部の専門会社との具体的な話が始まる。

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