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探偵の花園 【ミステリー短編集】  作者: 遊川遊
File 2 白鳥湖畔の悲劇
7/10

真相

 花園くんが誘い出したのは蜂屋流左衛門くんだった。僕も二人に同行して、呼び出した理由を聞くことにした。


 湖岸に面した雑木林で座長は背中を向けたまま、振り返りもせず、立ち止まったので、探偵が後ろ姿に向かって問い掛けた。


「この事件は、このまま警察の捜査が始まると、いくつか不明瞭な点、かつ不自然な状況があったとしても、聴取のみに頼らざるを得ないから、真夏さんは自殺として処理されるだろう。君に疑いの目が向けられたとしても、嫌疑不十分で逮捕にすら至らない」


 何を言ってるのか、僕には分からなかった。


「俺は、君が真夏さんの死に深く関与していると思っている。しかし、証拠がない。なぜなら殺人でもなく、自殺でもないからだ。君の口から真実を語らなければ、真相が解き明かされることはないんだ」


 自殺ではない?


「さらに、君に協力した人が二人いる。事件の隠蔽を手伝ったのは、小夜さんと朝日さんだ。その二人が真夏さんから電話連絡を受けたが、その時には既に彼女は生きていなかった。二人が君のアリバイを偽装したんだ」


 なぜ、そんなことを?


「君が人目につく浜辺にいる間、二人は真夏さんのスマホを使って、本人になりすまして電話することで、死亡時刻をずらした。誰もが厳重にスマホをロックしているわけではないから、単純な思い付きと、得意な芝居で誤魔化せると思ったのだろう」


 では、なぜ花園くんは見破ることができたのだろう?


「しかし、その芝居がいけなかった。朝日さんは〝色欲〟なのに、スマホばかり見て気はそぞろ。終いには、予定もないのに俺たちの前から逃げ出したんだ。明らかに、芝居の質が変わった。つまり、演じている役柄が変わったということだ」


 花園くんに芝居のスイッチが入ったわけじゃなかった。


「小夜さんも同様だ。他の劇団員が役に徹したように、〝怠惰〟を演じているのだから、慌てた姿を見せてはいけなかったんだ。仮に台本じゃないにしても、スマホで連絡できるのだから、わざわざ足を運ぶ必要はなかった」


 彼女も別の役を演じてたわけだ。


「蜂屋くん、君は『想像力を働かせろ』と言っていた。今回の事件では、君のアリバイ作りに協力した二人だが、現在の関係性が壊れたら、どうなるだろうか? ある時、共犯者が脅迫者に変わる時が来るかもしれないんだぞ? 彼女たちをそうさせないためにも、いま、真実を明かすべきだ」


 そこで高橋くんが現れて、蜂屋くんの正面に回り込んだ。


「座長、彼の話は本当なのか? 何があったんだ? 隠してることがあるなら教えてくれ。彼女はお前だけのものじゃなく、オレたちの仲間でもあるんだぞ? 彼女の初舞台を観にきたご両親の喜ぶ顔を、お前だって見ただろう」


 高橋くんが泣いている。


「これが本当に自殺じゃないなら、彼女のご両親に何て説明するんだ? 真相を知ってて、嘘をつくつもりか? そんなことのためにオレたち、芝居をやってきたわけじゃないだろう。ご遺族は観客じゃないんだぞ? お前が書いたシナリオなんて望んでないんだよ」


 探偵が優しく語りかける。


「蜂屋くんは今回のゲームで『罪と向き合ってほしい』と言っていた。いまの君は、それができているのか?」


 そこで小夜さんが現れて、花園くんの正面に回った。


「これ以上、蜂屋を追い込まないで。この人、死のうとしてたの。だから、私たちは一緒の罪を背負うことにしたの」


 朝日ちゃんが彼女の横で思い出しながら語り始めた。


「わたしたちが発見した時には手遅れでした。座長に尋ねても答えてくれず、湖に身を投げようとしたんです。それを二人で必死に止めて、とにかく、死なせてはいけないと思いました。スマホを悪用したのも、彼女を自殺に見せ掛けたのも、全部わたしです」


 蜂屋くんが振り返り、膝をついた。


「誰も悪くない。すべて俺一人の責任だ。二人で心中をする芝居をしたら、途中で深くなり、溺れてしまった。先に意識を失った彼女を岸に連れ戻すだけで時間が掛かって、どうすることもできなかった。全部、俺が悪いんだ」


 気がつくと、劇団員が座長の周りに集まっていた。

 高橋くんがしゃがみ込んでで、座長の肩に手を回して、語りかける。


「同じことを、ご家族にも正直に話そうな。一生懸けて、償わなきゃいけないんだ。オレたちが立ち上げた劇団なんだから、オレにも責任はある。だから彼女の後を追うな。一緒に償っていこう」


 梅本くんが声を掛ける。


「ご家族の元には、僕も一緒に行きます」


 文香ちゃんも声を掛ける。


「みんなで償っていきましょう」


 探偵は、何一つ証拠を見つけられなかった。しかし警察が到着するまでに花園くんが何もしなかったら、彼らはどうなっていただろうかと、そんなことを僕は考えていた。


 謎の自殺や事故があり、それが何十年もの間、未解決事件として扱われる。関係者が詳細を語らなければ、様々な噂や憶測が飛び交い、僕たち全員にも疑いの目が向けられていただろう。


 違いは、探偵の花園、彼がいたかどうか、それだけでしかない。



 それから数日後、合宿地として私有地を貸してくれた千華さんにお礼をいうために、花園くんと一緒に紫苑しおん家を訪れた。


 サロンから見える裏庭は初夏の彩りを見せており、紅茶を飲むお嬢様の美しさをより一層引き立たせていた。


「これで何度目よ?」


 花園くんと出会ってから事件続きなので、正直憶えてなかった。


「今回は事件ではなく事故ですから」

「そのようね」


 千華さんには既に詳細を伝えていた。


「うちの弁護士に訊いてみたんだけど、自殺幇助や自殺教唆にはならないだろうって。合宿中に起きた事故だから、業務上過失致死で捜査を進めるけど、おそらく起訴猶予が妥当だって教えてくれた」


 それがお嬢様には不満らしい。


「ひと一人が死んでるのよ? そんなのってある?」

「そういう事故の法定刑は軽いですからね」

「軽すぎよ」

「あとは民事でどうなるかってところですね」


 それも裁判で争うのか、和解するのか、僕には分からなかった。


「それで朝日ちゃんとは、その後どうなの?」

「それっきりですよ」

「花園くんは?」

「昨日、電話で少し話した」


 意味が分からなかった。


「何を話したの?」

「なんでもないさ、話し相手が欲しかったんだろう」

「どうしてシュウくんじゃないの?」

「それを俺に訊いても解らないよ」

「アンタ、探偵でしょ?」


 きっと、それが理由だ。

 そうに違いない。

 そういうことにしておこう。

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