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探偵の花園 【ミステリー短編集】  作者: 遊川遊
File 1 アドリブの殺人
2/3

探偵はどこにいる?

「佐藤くん! 鈴木くん!」


 ドアを叩きつける音で目が覚めた。

 寝ぼけたままだけど、あまりにうるさいので先に返事だけすることにした。

 スマホで時刻を確認すると、朝の六時だった。

 外はまだ真っ暗だった。

 とりあえずパジャマのまま部屋を出た。

 ほぼ同時に鈴木くんも顔を見せた。

 彼も同様にパジャマ姿だった。


「ついてきて」


 ポチ丸くんに言われるがまま、二階へと上がった。

 朝から駆け足はつらかった。

 神代表と龍宮寺くんがトイレの前に立っていた。

 二人とも神妙な顔つきをしている。

 鈴木くんがトイレの中を覗いた。

 僕も後ろから覗き込む。


「あぁぁ」


 遊川遊が死んでいた。


「あぁぁぁ、あぁぁぁ」


 言葉にならない声が出た。

 息苦しく、呼吸がおかしくなる。

 身体を支えてくれたのは鈴木くんだった。


「警察は?」

「もう呼んだ──」


 鈴木くんの問い掛けに神代表が答えた。


「──けど、場所を伝えたら、大雪ですぐには行けないと言われた。また後で折り返し電話がくる。それまで現場を保存してほしいと頼まれた」


 救急車ではなく警察を呼んだということは、すでに助かる見込みがないということだ。そこで泣きたくもないのに涙が勝手に頬を伝った。


「女子への連絡は?」


 心配する鈴木くんに神代表が短く答える。


「まだだ」

「連絡しようか?」

「いや──」


 ポチ丸くんの提案を鈴木くんが却下する。


「──いま呼び寄せると現場が荒らされる可能性がある。警察の指示に従って、しばらくは保存に務めよう」


 鈴木くんが冷静なので、僕も落ち着きを取り戻すことができた。


「もう、大丈夫。ありがとう」

「無理する必要はないから、休んでてもいいよ」

「みんなと一緒にいるよ」

「そうしてくれると、ありがたい」


 そう言って、僕の寝癖を直してくれた。

 そこで鈴木くんが誰にともなく質問する。


「発見した状況は?」


 昨日と同じ服装の神代表が答える。


「発見したのはポチ丸で、すぐに俺んところに報せにきて、見に行ったら、完全に冷たくなってた。これは手遅れだと思って、急いで警察に電話した。何時だったっけな? あぁ、そっか、スマホに残ってる──」


 握りしめていたスマホを確認する。


「──あっ、五時五十分だな。それから龍宮寺を叩き起こして、ポチ丸に一階の二人を連れてきてもらうように頼んだんだ」


 昨日と同じ服を着た第一発見者のポチ丸くんが答える。


「ションベンがしたくなってトイレに行ったら倒れてたから助けようとしたんだけど、冷たくなってて、脈もないからダメだと分かった。それですぐに部屋に戻って代表を連れてきたんだけど、そこから先は話した通りだよ。あっ、佐藤くんたちを呼びに行く前に一階のトイレに寄ったから、それでちょっとだけ遅れたんだ」


 鈴木くんがパジャマ姿の龍宮寺くんに尋ねる。


「夜中に異変はなかった? 物音を聞いたとか?」

「なにも。まったく、ごめん」

「謝る必要はないよ。他のみんなは?」


 誰も心当たりがない様子だった。


「とりあえず着替えてこようか」


 鈴木くんの指示で、パジャマの者は普段着に着替えて、代表と副代表はこの場に残り、再度集合してから今後の行動計画を立てることにした。


 着替えを終えてから、鈴木くんと一緒に歯磨きをして、彼だけ丁寧に洗顔までするものだから、まるで事件なんて起こっておらず、夢でも見ていたかのように錯覚した。


 しかし、二階で再集合してから殺害現場を再確認すると、嫌でも現実に引き戻されてしまった。


 現場に踏み込まずに、廊下から遺体を観察しながら神代表が詳しく説明する。


「首の索状痕さくじょうこんから一目で他殺だと俺たちでも分かるけど、いくら触っちゃいけないって言っても、助けようとしたポチ丸は悪くない。第一発見者なんだから、むしろ正しい行動だっと断言できる」


 ポチ丸くんがホッと胸を撫で下ろすも、龍宮寺くんが険しい目つきで指摘する。


「問題は、誰に殺されたかということだ」


 五人が互いの顔を見合うが、神代表が冷静に答える。


「俺たちの中に遊川を殺したいなんて思ってるヤツはいない。そうだよな?」


 ポチ丸くんが深く頷きながら同意する。


「そうだよ。殺す理由もないし、殺される理由もない」


 そこで鈴木くんが提案する。


「そうなると外部犯ということになるので侵入経路や逃走経路を調べておく必要があるが、まずは家捜やさがしするついでに遊川くんの部屋の中も見ておきたい。どうだろう?」


 異論はなかった。


「ちょっと待って。手袋を嵌めるから」


 鈴木くんが防寒用に用意していた綿製の白手袋を装着した。


「白いから鑑識さんみたいだね」


 僕の思いつきに真剣に答える。


「護身用のために持ち歩いてるんだ、こういう時に疑われないためにね。みんなも警察がくるまでは余計なものに触れない方がいい。犯人の指紋が壊れるかもしれないから」


 犯人が手袋を装着していたら? と言おうとしたけど、それは警察の仕事なのでアドバイスに従うことにした。


「それじゃあ、始めようか」


 鈴木くんがトイレの隣にある遊川遊の部屋のドアを開けた。しかし部屋に入ったのは彼と神代表の二人だけで、僕たち三人はドアを押さえつつ、廊下から中の様子を見守ることにした。


「執筆中だったんだな」


 神代表の言う通り、机の上に置かれたノートパソコンは開いた状態で、電源も点いたままであった。


「ベッドは乱れてないから寝てねぇな」


 ベッドとデスクチェアとクローゼットが置かれているだけの質素な部屋なので、目新しいものは見つからなかった。


「何を書いてたの?」


 僕の問い掛けに神代表がパソコンを覗き込みながら答えてくれる。


「これは『双子山荘殺人事件』の冒頭だな。すでに二千字以上も書いてるよ」

「ってことは、ついさっきまで生きてたってこと?」

「いや、遊川なら二時間も掛からんだろ。何度も書き直すっていうから、これは下書きなんだろうけど」


 四百字詰めの原稿用紙一枚を文字で埋めるのに苦労してきたので、僕には理解が及ばない話だった。


「あっ、消えた。え? 俺は触れてないぞ」


 慌てる神代表に対して、僕の横にいる龍宮寺くんが冷静に指摘する。


「スリープ機能でオフになったんだ」

「あっ、そっか、そうだよな。ダメだ、頭がボケてる」


 そこで閃いた。


「だったらパソコンの設定を調べれば最後に触れた時間が正確に分かるんじゃない? 現在の時刻が六時三十分だから、逆算すれば正確な時刻が割り出せる」


 神代表が首を振った。


「パスワードがわかんね。わかっても触らない方がいいだろうし」


 そこでドアを身体で押さえているポチ丸くんが思い出す。


「三時間だよ。前にパソコン環境について話したことがあるんだ。考え事をしていると時間を忘れるから、その度に電源が落ちちゃってイライラするから、三時間に設定したって言ってた」


 そこで疑問が浮かんだ。


「時間通りだと、犯行時刻は三時三十分以降だけど、遊川くんが考え事に夢中だったら、その間は触れていないから、正確な時刻を絞り込むのは難しくなるね」


 神代表が腕を組みながら解説する。


「その心配は無用だな。俺たち物書きはセーブするクセがあるから、特に席を立つときは必ずセーブする。だから犯行時刻は三時半で間違いない。後で警察が調べれば一発で判るけど」


 三時半は眠りの中だったので、僕がアリバイを証明するのは不可能だった。


「それじゃあ、外部犯の侵入がなかったか、外を見てこよう」


 鈴木くんの言葉に従って、全員で階下へ降りた。



「いやぁ、こりゃ、また、すげぇ積もったな」


 神代表の言う通り、防寒着を着てから玄関のドアを開けると辺り一面新雪に覆われていた。まだ夜明け直後で薄暗かったけど、直感として、冷凍庫の中に閉じ込められたと感じた。


 玄関ポーチは屋根が深いのでドアがすんなり開いたけど、地上へ下りるウッドデッキの階段部分は丸ごと雪に埋まっていた。つまり膝上くらいの積雪があるということだ。


 昨日の夜に僕が雪かきした女子棟への一本道が気持ち凹んでいる程度で、誰一人として新雪を踏み荒らした者はいないことが一目瞭然であった。


 神代表が腕組みをして唸り声を上げた。


「ここも足跡はなしか」


 ここへ来る前に、建物の四方に足跡がないか、屋内から窓越しに見て回ってきたばかりだった。どの方角も窓枠にまで雪が積もっており、開けて外を覗いても、不自然な痕跡は一つもなかった。


「とりあえず、ここもカメラを回すか」

「もう、撮ってるよ」


 代表が指示を出すも、すでにポチ丸くんがスマホ撮影を行っていた。


「密室殺人ではないけれど、似たようなもんだね」


 龍宮寺くんが顎をさすりながら呟いた。


「今日は僕が雪かきするよ」


 鈴木くんが玄関に入り、立て掛けていたスコップを持って戻ってきた。


「手伝うよ」

「僕一人で大丈夫」


 僕の申し出をやんわりと断った。


「昨日、佐藤くんが頑張ってくれたおかげで、今日は労力が半分で済みそうだ」


 僕の働きを優しく労ってくれる鈴木くんとは、一生の友でいたいと思った。


「俺は警察からの折り返し電話を待つことにするよ──」


 神代表が仕切り始めた。


「──他の三人は一緒に朝メシを作ってくれ。誰か毒を入れないか見張っておくんだぞ。ガハハハハっ」


 と豪快に笑うのだった。他の者はとてもそんな気分じゃなかったので、愛想笑いすら浮かべなかった。


「やめなよ、友だちが死んだんだ」


 幼なじみのポチ丸くんに咎められたので代表がしょげてしまった。



 鈴木くんが雪かきから戻ったタイミングで、僕たち三人も朝食のサンドイッチを作り終わった。気が重たいが、そこで女子チームにも連絡することにした。


 鈴木くんがシャワーを浴びると言うので、リビングに四人で集まって、神くんが代表して電話を掛けることにした。


「ちゃむからだ」


 電話を掛けようとしたタイミングで彼女から着信が入った。


「どうした? ──落ち着け。なに言ってるかわかんねぇ。──あっ、早乙女か、俺だ。どうした? 何があった? ──え? ──え? 嘘だろ。──助かる見込みは? ──だったら救急車は呼ばなくていい。──いや、警察にも報せなくていいんだ。いや、そうじゃなくて、もう通報済みだ。──とにかく、他のヤツを連れてコッチに来てくれ。わけは後で話す」


 電話を切った神代表が告げる。


「灰村が死んだって。いや、殺されたらしい」


 一瞬、あまりにも現実離れしているので、何を言っているのか理解できなかった。灰村さんまで殺された?


 不謹慎ながら、舞台人の性なのか、みんなで僕のことを騙しているのではないかと思ってしまった。


 遊川くんの死体をちゃんと確認したわけじゃないし、警察に通報したのは神代表だし、もう一度二階に行って死体を確認したい衝動にかられた。


 しかし、泣きはらした目をしたちゃむを見た時、一瞬でもみんなを疑ってしまった自分を恥じた。演技で流せる質の涙ではなかったからだ。


 リビングに八人が集まって、神代表が事情を説明している間、オロチがちゃむの肩を抱いていた。


 前日の夜会と同じ座り位置だったが、二つの空席を見て、僕も胸が引き裂かれるような痛みを感じた。


「さて、これからについてだが、どうすべきか話し合おう」


 仕切りは神代表だが、サークルの頭脳だった遊川くんを失ったので、今後の予定を丸投げした。そのことを理解している龍宮寺くんが提案する。


「殺人であることは明白だけど、外部犯の可能性は極めて低い。だったら警察の取り調べを受ける前に、記憶を失くさないためにも、一人ずつ昨夜から今朝にかけての行動を話してみてはどうだろう」


 全員が無言、または黙って頷き了承したのを受け、龍宮寺くんが先陣を切った。


「夜会の後、遊川くんと少しだけ話をした。どちらが先に風呂を使うかって。『軽くシャワーを浴びるだけ』って言うから、先に歯を磨いて、交代で風呂に入った。その時も『これから軽く本を書く』ってにこやかな表情で言ってた。『いいアイディアを思いついた』って。そのまま部屋に直行したから、それが遊川くんの最期の言葉だったかもしれないね」


 全員しんみりとする中、龍宮寺くんが続ける。


「風呂から上がって髪の毛を乾かして、キッチンの冷蔵庫から飲み物を取って部屋に戻った。十一時半を過ぎていたと思う。いつもは寝る前にスマホをいじって過ごすけど、昨夜は夜会の話が頭から離れなかったから、ベッドの中で色々と新作ミステリーのトリックを練っていた。最後にスマホにメモしたのが一時前で、それ以降は憶えていない。夜中に目が覚めることもなかったし、物音を聞いた記憶もない。ポチ丸くんに起こされてからは一人になってないので、それくらいかな」


 次に神代表が話す。


「俺が誘ったりしなければ、遊川と灰村がこんな目に遭うことはなかっただろう。ご両親には、俺が頭を下げに行く。本当に申し訳ない。誰が殺ったか分からねぇが、俺とポチ丸はやってない。夜会が終わってから今の今まで、ずっと一緒にいたからな」


 完璧なアリバイだ。


「殺害されたのが三時半だろう? その時も俺の部屋で二人一緒にいたんだ。スマホでゲームしながらくっちゃべってたから、後で警察がスマホの中身を調べれば証拠が出てくるよ」


 完璧すぎるアリバイだ。


「俺たち、寝てねぇんだ。行きの車でたっぷり寝たからだろうけど。俺が一人になったのは、朝方になってようやく眠くなってきたから、それで寝る前にポチ丸がトイレに行ったわけだけど、その時だけなんだよ。それだって、すぐに戻って来たから一瞬でしかない」


 完全なシロだ。


「急いでトイレに駆けつけたけど、触れた瞬間、冷たすぎて、もうダメだと思ったな。助けようがなかった。触れただけで身体は動かしてないから、殺害現場は洗面所で間違いない。もう、眠気も吹っ飛んで、ポチ丸にみんなを起こすように言った後、警察に電話した。事情を話したけど、除雪作業が大変で、場所が場所だし、今日中に行けるかどうか向こうも予測できない感じだった。目途が立ち次第、折り返し電話するって話だが、今のところ掛かってきていない」


 次にポチ丸くんが話す。


「神くんがほとんど喋っちゃったから特に付け加えることはないんだけど、僕は遊川くんが倒れていたから、かなり強く揺すっちゃったんだ。いま考えると手遅れだったんだけど、冷たいとか、正直わからなかった。頬も叩いちゃったし、その感触が今も手に残っている。たぶん、これから先も忘れることはないんだろうな。なんか、申し訳ないよ」


 責める者はいないし、やれることをやったのだから仕方がない。


「遊川くんに恨みを持つ者なんていない。絶対にいない。ありきたりな言葉だけど、本当に、人に恨まれるような人じゃなかったんだ。この中に犯人なんていないよ。どこかに隠れていた別荘荒らしがいて、見つかったから殺されたんじゃないのか? それ以外に考えられない」


 外部犯の存在は否定できない。でも、それだとまだこのコテージに潜伏していることになるし、女子棟で起こった殺人の説明がつかないが、僕の番なので当夜の行動を思い出すことにした。


「昨夜は、夜会の後に雪かきをした。向こうのコテージまでの一本道。その時は大して積もってなかったから苦にもならなかった。僕が鍵を預かってるけど、どちらのコテージも施錠は必要ないと思って掛けなかった。ずっと玄関のドアは開いていたけど、こんなところに泥棒が入るとは思えないんだよな。もちろん外部犯の可能性は否定できないけど。でも、いま思えば鍵を掛けておけば良かった」


 ずっとモヤモヤしている後悔が、それだった。


「寝る前に鈴木くんと話して、部屋に戻ってから本を読もうと思ったけど、眠くなったので一ページも読めずに寝ちゃった。熟睡してたから朝まで目を覚ますことはなかった」


 僕のアリバイはない。


「ポチ丸くんに叩き起こされて、良くないことが起こったって思ったけど、それでも遊川くんが倒れているのを見て、取り乱した。正直、それほど時間が経ってないのに、よく憶えていない。でも、人生で一番悲しい出来事だって、今は思ってる」


 そう言いつつ、自分は潔白だとアピールしているみたいで、自己嫌悪に陥った。


「それからコテージの持ち主である友人にメールしたけど、反応が怖くて返信は見ていない。鍵を預かっているのは僕一人だけど、これは大切な友人から預かっているので、不安だろうけど誰にも渡せない。勝手に部屋のドアを開けたりしないって約束するから、そこは信じてほしい」


 現場は鍵のない洗面所だったので、異議を唱える者はいなかった。


「僕は信じてるよ」


 それを言葉にしてくれたのが鈴木くんだった。そのまま当夜の行動を話す。


「死亡推定時刻前後のアリバイはない。遺体発見時、履いていたチノパンに失禁の跡があったので、ドッキリとか、そういったイタズラではないと判断した」


 簡潔に答えたけど、完全なシロではなかった。それでもドッキリを疑ったのは僕だけではなかったようで不思議とホッとした。


「今朝、雪かきをしたけど、二つのコテージの間に足跡は一つもなかった。足跡を消した痕跡もなかったから、事件後に外を出歩いた者はいない。スマホで撮影したから、観たい時は言ってほしい」


 続いては女子の番だが、仲良しコンビが口を開かないので、空気を察した早乙女さんが当夜の行動を話す。


「夜会が終わった後、四人でコテージに戻って、お風呂を使う順番をじゃんけんで決めて、先に使わせてもらうことになり、リビングで本を読んでいた灰村さんに声を掛けたのが、彼女を見た最期でした。特に会話はしませんでしたが、何か話せば良かった」


 早乙女さんも自分を責めるように後悔していた。


「部屋に戻ってから本を読もうとしたんですが、疲れもあり、八時に目覚ましをセットして眠りました。夜中の出来事については何も分かりません。朝になって、いえ、朝かどうかも分かりませんでしたが、ちゃむに起こされて、その場で灰村さんが洗面所で亡くなったことを知らされました」


 記憶を辿るように、ゆっくり丁寧に話している。


「オロチの姿が見えなかったので、どうしたのかと尋ねたのですが、部屋の中で怖がってると言い、それで警察に通報したのかと尋ねました。通報するにしても住所が分からなかったので、それで先に代表に電話をしたんです。電話をしたのはちゃむですが、ずっと泣いていたので、途中で電話を代わりました」


 しっかりしてそうな二人がパニックになり、気が弱そうな早乙女さんが落ち着いた行動を取る。普段のイメージとは真逆だった。


「それから男子と合流するために移動しようとしたんですが、オロチは着替えもできない状態だったので、彼女をちゃむに任せて、先にコテージを出ました。こちらでも事件が起きていたというのは未だに信じられません」


 次に、ちゃむが当夜の行動を話す。


「夜会が終わってから、ずっとオロチと一緒にいました。薄気味悪くて怖いから、トイレやお風呂も一緒に入りました。部屋に戻ってからも一緒で、朝方までベッドの上でずっと喋ってました。先にオロチが寝たので、私も隣で眠りました」


 彼女たち二人も完全なシロだ。


「すぐに目が覚めて、トイレに行きたくなって、でも眠っているオロチを起こすのは可哀想だと思って一人で行きました。そこで倒れている灰村さんを見つけて、急いで救急車を呼ぼうと思って部屋に戻り、オロチを起こして一緒について来てもらいました。そこでオロチが首の痕を見て『殺されてる』って言ってパニックになり、部屋に閉じこもったんです。一人にされた私もパニックになっちゃって、それで早乙女さんを起こしに行きました」


 僕も他の人がいなかったらパニックになっていたと思う。冷静に対処することはできなかったと、今回の事件でハッキリと自覚した。


「部屋の外から呼び掛けても返事がないし、私も部屋に入らないと着替えもできないから、それで合流するのが遅れました。ごめんなさい」


 最後にオロチが当夜の行動を話す。


「ちゃむの言った通りです。灰村さんが首を絞められて殺されていたのを見て、ここに強盗がいると思っちゃって、ちゃむのことも考えずに引きこもっちゃった。本当に、ごめんね。自分勝手だった」


 全員で続きを待ったけど、それ以上の言葉はなかった。


「俺とポチ丸が一緒にいて、ちゃむとオロチも朝まで一緒にいたわけか」


 神代表が暗に自分たち四人は潔白だとほのめかした。事実、外部犯じゃなければ容疑者は残り四人に絞られたわけだ。


 僕は犯人じゃないので、実質、三人。いや、鈴木くんはサークルメンバーと接点がないので龍宮寺くんと早乙女さん、その二人のいずれかということになる。その二人が仲間を殺すとは思えなかった。


 神代表から見れば僕も容疑者の一人だけど、ここでは犯人捜しをせずに、注意事項と今後の予定について語った。


「警察が来るまでは殺害現場に入らないこと。二件ともトイレが現場だから、もよおしたら一階のトイレを利用しよう。遺体だけど、毛布だけは被せておいた方がいいかもしれないな。それは俺とポチ丸で何とかしよう」


 トイレで一人になるのは怖いので、なるべく飲食は控えようと思った。


「みんなには悪いけど、その作業が済んだら俺とポチ丸は仮眠を取ることにする。昨日から一睡もしてないので、警察が来るまで起きてたら、身体の方が持ちそうにない。電話が掛かってきたら取るけど、それ以外では起こさないでくれ。三、四時間も寝れば充分だと思うから」


 そこで、ちゃむも話に合わせる。


「私たちも寝てないから、一緒に部屋で休む。警察が来たらここに戻ってくるので、その時に呼んでください。お願いします」


 今は二人でいるのが安全だ。


「他のみんなはどうする? 強制はしないけど、全員で把握しておいた方がいいだろう」


 そこで鈴木くんが手を上げる。


「ご遺体にシーツを被せるのは僕と佐藤くんが引き受けるよ。今は休息が必要だと思うから。その後はリビングで過ごそうと思う」


 神代表がコクリと頷く。


「じゃあ、頼むわ。そうしてくれるとありがたい」


 そこで僕を見る。


「作業が終わったら、部屋にいようかな。鍵を預かってるから肌身離さず見張っておくよ」

「これで事件が続いたら、お前が犯人だな」


 と冗談とは区別がつかない真顔で言われた。


「僕も部屋にいる。トイレに行く時はリビングにいる鈴木くんに声を掛けるとしよう」


 龍宮寺くんに続いて、早乙女さんが答える。


「部屋に戻ります。トイレは……どうしよう?」

「一人だと不安だよな」


 そう言ったものの、神代表は無策だった。


「その時はウチらに言ってよ。一緒に行ってあげるから」


 オロチが助け舟を出した。


「じゃあ眠くて頭が回らないし、一旦解散するか」


 こうして朝会が終わった。



 鈴木くんと二人で女子棟の殺害現場に行ったら驚愕した。それは灰村さんが遊川くんと全く同じ状況で殺されていたからだ。


「どういうこと?」


 口にせずにはいられなかった。


「同じように首を絞められて、同じような体勢で床に倒れているよ?」

「犯行の手口が一緒なんだ」


 鈴木くんは特に驚きもせずに言った。


「そっか、同一犯なら、それほどおかしくないか」

「調べたわけじゃないから、そうと決まったわけじゃないけどね」


 それはそうだけど、外部犯にしろ、内部犯にしろ、殺人鬼が複数いるとは思えなかった。


「でもさっきの朝会で容疑者が四人に絞られちゃったね」

「四人? 僕たちも含めて八人もいるじゃないか」

「え? だって半分は二人一緒にいたんだよ?」

「だから八人のままさ」


 そうか、共犯である可能性を考慮すれば、完全なシロは一人もいないことに気がついた。その間にも鈴木くんが灰村さんのご遺体にそっとシーツを掛けてあげるのだった。


「でも、犯行現場は二つあって、一緒にいた二組はそれぞれ別のコテージにいたから、男子棟にいながら女子棟で殺人を犯すなんて不可能だよね?」


「それは供述が全て事実だった場合さ。二人で一緒にいたと言われても、目撃情報や証拠がなければ確かめようがないからね」


 僕は警察や探偵になる素質はないようだ。


「神くんはスマホを調べれば分かるって言ってたけど、一人で二台のスマホを操作することだって可能なんだ。女子のペアだって、常に二人でいたわけじゃない。証言だけで容疑から外してくれるほど警察は甘くないよ」


 それでも引っ掛かることがある。


「でも、足跡の問題があるよ? 新雪は踏み荒らされてなかった。それだと、どうしたって二つのコテージを行き来できない。共犯者がいるとしても、男女のペアじゃないと不可能なんじゃないかな?」


 それには見解が同じようだ。


「確かに新雪を歩き回った者はいない。でも、コテージを繋ぐ道はあったんだ。もしかしたら堂々と歩いて往来したのかもしれないね。逆の可能性も同じくらいあるけど。まだ、何も解らない──」


 その悩まし気な顔も美しかった。


「──それより僕が気になったのは、殺害計画を実行するにも、なぜわざわざ冬の大雪の日の選んだかってことなんだ。今回は下見をするだけで、夏に実行すれば、外部犯の可能性をもっと高くすることができたんだ。これだと、まるで捕まることを恐れていない感じだ──」


 確かに。


「──おかしな話だけど、奇妙な建物があったから殺人をした、それが理由だとしても僕は驚かないよ」


 おふだの件といい、やはり鈴木くんはオカルトにハマっているようだ。


「それじゃあ、帰ろうか」


 それから男子棟に戻って、鈴木くんをリビングに残して、僕は部屋に戻って仮眠を取ることにした。警察が夜中に来たら睡眠時間を確保できなくなるからだ。



 昼寝のつもりだったけど、目を覚ましたら、まだお昼前だった。そこでリビングへ行くと鈴木くんの姿はなく、代わりに神代表とポチ丸くんと龍宮寺くんの三人がいた。


 薪ストーブの前にソファーを移動させて、顔を付き合わせながら話し込んでいるのだった。そこに混ぜてもらおうと、僕も龍宮寺くんの隣に座った。


「おっ、ちょうどいい時にきた」


 神代表が歓迎してくれた。


「俺たち物書き連中ってのはさ、こういう時に頭を捻らなきゃいけねぇんだ。どう考えても不可能犯罪だもんな。でも、そこには必ず何かしらのトリックがあるんだ。だから謎を解くんじゃなくて、手前てめぇでトリックを考えればいいんだよ。そこで佐藤くんにも考えてもらいたいんだよ」


 無茶なことを言う。


「問題は足跡だ。二つのコテージの間は五十メートル。これが結構な距離だぞ? 都内の住宅地に置き換えると、間に戸建てが三軒か四軒は建っている計算になる。隣同士の家で二階の窓から行き来できるわけじゃないんだよ」


 だから不可能犯罪だと言っている。


「それでもトリックを生み出しちゃうのが俺たち物書きなんだ。ポチ丸、何か良いアイディアが浮かんだか?」


 ポチ丸くんが無茶ぶりに嫌な顔をする。


「本来は駐車場だって聞くから、車の屋根を伝うってのはアリだと思う」

「現状と違う話を訊いてるんじゃないんだよ」

「じゃあ、二階の窓からロープで繋ぐとか?」

「どうやって五十メートルも通すんだよ?」

「そこは色々と方法はある」

「ロープで繋いでどうするんだ?」

「忍者みたいにしがみついて移動するんだよ」

「泳ぐのとはわけが違うんだぞ」


 そこで僕も思いついた。


「氷を並べておくのはどうだろう?」

「おっ、どういうことだ?」


 神代表が食いついた。


「氷のブロックを等間隔に置いて、その上を飛び跳ねて行けばいい」

「それ、氷である必要はあるのか?」

「ない」

「んなもん、無かったしな」

「じゃあ、モグラのように積もった雪の中を這って移動するのは?」

「いいね」

「うん」

「でも膝上くらいの積雪じゃ這った跡ができるな」


 僕にはそれくらいが限界だった。


「現実的に考えるなら、アリバイを疑うべきだ」


 ミステリー上級者の龍宮寺くんが話を変えた。


「どういうことだ?」


 代表の問い掛けに、時間を使って頭を整理しながら説明する。


「昨夜から新雪に覆われていたけど、道が存在する時間帯があった。それは夜会の後と朝会の前だ。その時だけ二つのコテージを自由に往来することができたんだよ」


 僕と鈴木くんが雪かきした一本道だ。


「ちゃむとオロチの話に違和感があったんだ。それは何かっていうと、本当にオロチは向こうのコテージに戻ったのか? そのまま、ここのコテージに残ることもできたんだ。そうして夜中に遊川くんを殺して、親友のちゃむに頼んでアリバイ作りに協力してもらった。オロチがコテージを行き来した姿は見ていないんだから、そういうことも可能なんだよ」


 筋は通っていた。


「動機はおそらく恋愛のイザコザだ。浮気した遊川くんと、浮気相手の灰村さんを同時に殺すというのが事件の真相だ」


 断言するには早いけど、説得力のある話だ。確かに二つのコテージの玄関ドアはフリーパスで、玄関ホールの出入りはリビングから確認できない。二階への階段もあるけど、途中で折れているので上の階からは見えなくなっている。


「なるほどな、それが正解なんじゃねぇの?」


 神代表の言葉を龍宮寺くんが爆速で否定する。


「いや、神くんだって犯人の可能性があるんだよ」

「はっ? 本気で言ってんの?」


 龍宮寺くんの顔は本気も本気だった。


「僕は可能性の話をしているだけだ。夜会が終わった後、君たち二人が一緒にいることにして、もう一人が向こうのコテージに行くんだ。そこで灰村さんを殺して戻ってくる。ここで大事なのは、スコップを持って行くことだ。帰りに道を地ならしするように足跡を消していけば、朝には消えているだろうからね。積雪量の違いなんて目視じゃ分からないし、これで足跡問題も解決ってわけだ」


 神代表は納得していない。


「ちょっと待て。それがアリなら全員に二つの事件を起こす可能性が出てきちゃうんじゃないか? 龍宮寺、お前だって容疑者の一人になっちまうぞ?」


 賢い龍宮寺くんは承知済みなので動揺したりしなかった。


「もちろん可能さ。だから大雪の足跡も深夜のアリバイも意味がないんだよ。全員に二人を殺す機会があった。そして、誰一人として鉄壁のアリバイを持つ者はいないってことさ」


 女子棟のコテージにもスコップがあるので、彼の言葉には説得力があった。


「ってことは、俺たち物書きの出番はないってことだな」


 それから気になることがあったので、場を抜けて、ちゃむとオロチに話を聞くためリビングを出た。


 すると玄関ホールで鈴木くんとバッタリ出くわしたので、行き先を告げると同じ目的だったらしく、二人で一緒に女子棟へ向かった。



 コテージに行くと、ちゃむとオロチの二人がリビングでソファに座りながら薪ストーブに当たっていたので、僕たち二人も空いているソファに並んで座った。


「聞きたいことって?」


 鈴木くんの問い掛けに、すっかり元気をなくしたちゃむが訊き返した。


「昨夜の行動をもう少し詳しく聞いておきたいんだ」

「私たちのことを疑ってるの?」

「いや、形式的なものだよ」

「刑事さんみたい」


 そこで力なく笑った。


「いいけど、全部話したけどね」


 そこで思い出す。


「あっ、そういえばトイレの照明が暗かったのを憶えてる。夜の一時過ぎにオロチと一緒にトイレに行ったんだけど、その時は明るかったよ、確か」


 オロチも頷く。


「うん。ウチも記憶にある」


 鈴木くんが念を押す。


「一時で間違いない?」


 代表して、ちゃむが答える。


「正確には一時半かな? ちょうど朝の目覚ましをセットしようとしてたから憶えてる」


 女子棟のトイレだけやけに暗いと思っていたけど、電気を節約していたわけじゃなく、犯人が意図的に暗くしていたわけだ。


「オロチは何か気づいたことはない?」


 鈴木くんの問い掛けに、懸命に思い出そうとする。


「灰村さんと最後に会話をしたのって、ウチが最後かもしれない。お風呂上りにキッチンに行ったら彼女がいて、ペットボトルに水を入れてたの。『そんなに飲むの?』って訊いたら、『どれくらいで凍るか実験する』って言ってた。たぶん、ミステリーの研究をしていたんだと思う」


 同じ趣味を持つちゃむが切ない表情で呟く。


「そんなことしてたんだ。新しい本を書かせてあげたかったな」


 そこへ神代表がポチ丸くんと龍宮寺くんを連れてやってきた。


「吉報だ。警察から連絡が来たんだけど、夕方の日没前には到着できるってよ」


 二人の女子が声を上げて喜び合う。強張っていた顔が一気に緩んだので、相当ストレスを抱えていたのだろう。


「警察が来れば安心だ。生き残った俺たちだけで事件を解決することはできなかったけど、現実はこんなもんだよな」


 ポチ丸くんが神代表に同調する。


「現代におけるクローズドサークルの限界だよね。遊びで書く分にはいいけど、当事者からしたら探偵よりスマホの方がありがたい」


 隣の龍宮寺くんも頷いているので同意見のようだ。


「フィクションに置き換えるなら、今回はかなりの好条件だったけど、それでも僕たちは助かった。あとは警察に任せよう」


 と言ったものの、自分たちで解決できなかったので悔しそうではあった。


「早乙女さんにも報せなきゃ」


 ちゃむが元気に立ち上がったのを見て、座ったままではまりが悪いので僕も立ち上がった。オロチや鈴木くんも同じように感じたみたいで、結局七人全員で二階へ行くことになった。



「早乙女さん」


 ちゃむがノックしても中から反応がなかった。


「寝てんのか?」


 前に出てきた神代表が強めにドアをノックした。


「おいっ、起きてるか!」


 反応を待ったが、返事はなかった。


「どっか行ってんのかな?」

「どこに?」

「トイレとか」

「声を掛けてって言ったよ?」

「我慢できなかったんだろ」


 オロチがトイレの前に行って、ドアをノックした。


「反応はないよ」


 それを受けて全員が不安そうに顔を見合わせたので、神代表がポチ丸くんに相談する。


「開けてみるか?」

「うん。早い方がいいと思う」

「そうだな」


 そこで僕の方を見る。


「鍵はあるか?」

「うん」


 と返事をしたが、そこで鈴木くんが前に出てくる。


「鍵は掛かってないと思うから、僕が開けるよ」


 すると白手袋を装着した手でノブを回すのだった。

 ドアが開いた瞬間、ちゃむが悲鳴を上げた。

 廊下からでもハッキリ見えた。

 クローゼットのハンガーパイプ。

 そこに括りつけられたロープで首を吊った早乙女さんの姿が。

 神代表と鈴木くんが急いで飛び込む。

 二人で首に巻き付けられたロープを解く。

 生きている人の反応ではなかった。


「しっかりしろ!」


 早乙女さんを床に寝かせた二人が交互に心肺蘇生を行った。

 僕も含めて、他の者は祈ることしかできなかった。


「あとは警察に任せよう」


 助けられなかったことを自分の責任であるかのように項垂うなだれている神代表の腕を引っ張ったのはポチ丸くんだった。


 それから七人全員で男子棟のリビングに集まることにしたのだが、鈴木くんが灰村さんの部屋に寄ったので、僕も付き合った。



「オロチが言っていた実験って、これのことだったんだ」


 鈴木くんが見つけたのは、サッシに挟まれた買い物袋のことだった。持ち手が屋内にあり、ペットボトルが入った袋の方が窓の外に出されていた。その袋にも雪が積もっていたので、実験結果を見ることなく亡くなったのだろう。


 彼女はミステリーを書くために凶器になりえる実験を行っただけであって、灰村さん自身は誰も傷つけていないので狂人ではない。


 悪いのは殺した犯人であって、彼女ではない。そこを絶対に履き違えてはいけないと改めて思った。



 警察が来る前に七人で昼会を行った。リビングの座席はそのままにしてあるので、二人掛けのソファーが一つ空席となった。


「結局、犯人は早乙女だったわけか」


 神代表が、やるせない思いを吐露した。


「肝心の動機は不明だけどね」


 サークルメンバーの龍宮寺くんが解らないのだから、僕に解るはずがない。


「推理モノなら真犯人が自殺に見せ掛けて殺してるパターンだけど」


 ポチ丸くんの発言に誰も反応しないので、仕方なくといった感じで龍宮寺くんが話に付き合う。


「ちょっと考えにくいな。自殺を偽装するって、そう簡単じゃない。すでに二件も殺人が起きてるんだ。しかも内部犯の可能性が高い。その状況で他人を部屋に入れるとは思えないんだ」


 神代表が腕を組みながら感じ入る。


「それもそうだな。早乙女が無実なら、犯人はちゃむかオロチ、もしくは二人の犯行だと思うはずだ。なんせ、あっちのコテージは四人しかいないんだからな。にも拘わらず、自分の部屋があるコテージに戻れたってことは、ちゃむとオロチは犯人じゃないって知ってたんだ」


 ここに来て初めてまともな推理を聞いた気がした。

 ポチ丸くんが尋ねる。


「じゃあ、早乙女さん……、彼女が遊川くんも殺したの?」


 神くんが探偵のように推理する。


「当然だろう。俺たちは足跡がないから二つのコテージを移動した者はいないと思い込んだが、龍宮寺が言った通り、そもそも目の前に道はあったんだよ。遊川を殺した後にスコップで足跡を消して自分の部屋に戻った。こうして犯人が判ってしまえば、謎でも何でもなかったってなるけど、自殺する前に見抜けなかったんだから、俺たち全員、探偵失格だ」


 それには返す言葉もなかった。


「いや、早乙女さんが犯人じゃない可能性はあるけどね」


 龍宮寺くんの発言に神くんがツッコむ。


「さっきと言ってることが違うぞ」

「さっきはさっきだよ」

「じゃあ、真犯人が俺たちの中にいるってことか?」


 龍宮寺くんが推理する。


「そこまでは言っていない。ただ、早乙女さんの身になって考えてみたんだ。部屋を訪ねたのが一人や二人なら警戒するけど、三人や四人で来たら、ドアの鍵を開けちゃうんじゃないかって」


 その状況なら僕もドアを開けていたかもしれない。


「朝会の後はリビングにいた鈴木くん以外、全員が自室に戻って仮眠を取ったので全員のアリバイがない。犯人グループが四人以上なら、簡単に三人を殺すことができるし、足跡の問題すら気にする必要がなくなるんだ」


 そこで急に自説を否定する。


「でも、みんなで三人を殺したなんて、ありえないだろう? この中に早乙女さんを殺した人はいないんだ、いるわけない。僕たちには殺す動機がないからね。つまり、推理がいかに虚しいかって話さ」


 確かに、彼の言う通りかもしれない。事件は警察が調べてくれるので、とにかく今は一刻も早く到着してくれるのを待つしかなかった。



 コテージの持ち主である友人との電話を誰にも聞かれたくなかったので、玄関ホールに出てから電源を入れた。見てみると、スマホがぶっ壊れるんじゃないかって思うほど鬼のように着信が入っていた。


「あの、僕です。すみません。──はい。寝てました。ごめんなさい。──すみません。──すみません。──すみません。──はい。簡単に説明すると──」


 友人に事件の概要を伝えると、彼女が推理を始めた。


「え? 秘密の通路? ──二つのコテージは地下室の通路で繋がってるってこと?」


 どうやら探偵は、クローズドサークルの外にいたようだ。


「いや、でも、それだと犯人は……」

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