残された時間と残る約束
「……ぐっ、早くしろロム! この扉、いつまで持つか分からねえぞ! 先に行け!!」
ルードの怒号が響く。魔法無効の鎧が、背後からの凄まじい衝撃に悲鳴を上げていた。扉の隙間から漏れ出るコピーたちの殺気は、すでに皮膚を刺すほどに濃い。
ロムは、じっとルードの背中を見つめていた。
世界崩壊まで、残り一時間。
そのあまりにも残酷なタイムリミットを、ロムはあえて口にはしなかった。ここでそれを告げれば、ルードの決死の覚悟を鈍らせるだけだ。
ただ、呪いのように、あるいは祈りのように、ロムは万感の想いをその言葉に込めた。
「必ずだ。あとで必ず来いよ」
ロムは右足を引きずり、一歩、前へ踏み出した。
ルードの「必ず行く」という言葉が、親友を先に逃がすための優しい嘘などではないことを、ただ狂おしいほどに願いながら。ロムは二度と振り返らなかった。振り返れば、理性が揺らぐ。
ゆらゆらと空間を歪める、半透明の光の輪。
ロムはその渦の中へと、躊躇なく身体を滑り込ませた。
一歩、その境界線を越えた瞬間。
ドォン、と鉄扉を叩きつける悍ましい破壊音が、水の中に飛び込んだ時のように一瞬で遠ざかり、完全に遮断された。ルードが必死に扉を押さえる息遣いも、地上のコピーたちの狂気も、すべてが世界の裏側へと置き去りにされていく。
重力が失われたかのような、奇妙な浮遊感。
右足を酷使し続けたあの焼けるような激痛さえもが、冷たい麻酔に浸されたように薄れていく。
(ルード……絶対に、死ぬなよ)
半透明の魔力の光が、爆発的な輝きとなってロムの視界を真っ白に染め上げた。
五感が完全に消失し、空間の歪みに身を委ねる。
光が収まり、次にロムの足が踏みしめる地面は、一体どこなのか――。




