『一番槍の陥落』
カルのコピーたちが、猛然と牙を剥いて一斉に襲いかかってきた。
どれほど狂暴な殺意に満ちていようとも、その顔は、ほんの昨日まで王都観光で共に笑い合っていた大切な仲間たちそのものだ。戦士としての理性がいくら偽物だと叫ぼうが、ステルの優しさと仲間を思う心が、その槍の踏み込みを一瞬だけ躊躇わせてしまう。
(――カル……! くっ、これほど見事な連携を……!)
世界最強と謳われた技量をもってしても、見た目が仲間であるコピーたちの猛攻に対し、ステルは反撃の糸口を見出せず、完全に防戦一方へと追い込まれていく。
だが、戦場はそれ以上の感傷を許さなかった。
ザッ、と乱戦を割って滑り込んできた一つの『影』が、最悪の軌道で聖槍を突き出した。狙いは、カルたちの背後で必死に応戦している十三歳の主、プロット王子だ。
攻撃を仕掛けたのは――衣服の仕立てが左右反転した、ステル自身のコピーだった。
「殿下――っ!!」
ステルは躊躇いを吹き飛ばし、全力の踏み込みで王子の前に割って入った。
世界最強のオリジナルと、世界最強のコピー。二つの聖槍が空中で激突し、凄まじい衝撃波が周囲の石畳を砕き割る。己のすべてを賭した渾身の防御により、プロット王子への致命的な一撃を、ステルはかろうじて防ぎきってみせた。
しかし、その完璧な防御こそが、最悪の引き金となってしまう。
自身のコピーの強大な一撃を受け止めたその一瞬、ステルの両腕と意識は完全に固定され、全身に大きな隙が生まれていた。
――知性のタガが外れたカルのコピーたちが、その絶好の好機を見逃すはずがなかった。
「が, は……っ!?」
死角から、精度高く、容赦のない刃の雨がステルの肉体を次々と貫いていく。
かつて地竜の奇襲からカルを救った優しい一番槍が、いま、そのカルの姿をした化け物どもの一斉攻撃を浴び、血飛沫の中に染まっていく。
ステルの膝ががくりと石畳についた。
鮮血が口から溢れ、視界が急速に赤く染まっていく。全身の力が物理的に抜けていく中、ステルの瞳に映ったのは、目の前に静かに佇む「もう一人の自分」――ステルコピーの姿だった。
「……プロット……殿下……!」
ステルは薄れゆく意識のなかで、最後の力を振り絞って立ち上がった。
全魔力と命の灯火のすべてを一本の聖槍に注ぎ込み、神速を超える執念の突きを放つ。狙うは眼前の偽物の肉体。左右反転の仕様など知る由もないステルが、本能のままに狙い澄ましたのは、自らの利き腕と同じ側――すなわち、ステルコピーの『右腕』だった。
ドゴォォォン――ッ!!
激しい肉体の破壊音が響き渡る。
ステルの放った決死の一撃は、ステルコピーの右腕を根元から完全に粉砕し、吹き飛ばしてみせた。
「ガァァァァァッ!?」
右腕を失い、激痛と衝撃にステルコピーが初めて獣のような悲鳴を上げる。
だが、それと同時に、ステルコピーの左手に残された聖槍が、最後の力を使い果たした本物のステルの胸を深く貫いた。
ドサリ、と世界最強の一番槍と呼ばれた男の肉体が、冷たい地面に倒れ伏す。
仲間を思い、主を命懸けで守ろうとした本物のステルは、その右腕を道連れに、ここで完全に息絶えた。




