『黄金色の王都観光』
アイガス王国の王族への挨拶を無事に終えた翌日、式典の本番を前にして、一行には丸一日の自由時間が与えられた。
張り詰めた長旅の緊張を解きほぐすように、ステルたちは、プロット王子を連れて活気あふれる王都の街へと観光に繰り出した。
そこには、辺境国ジンとはまた異なる、洗練されたアイガス王国の豊かな文化が広がっていた。
白亜の石造りの建造物が並び、大通りには見たこともない色彩豊かな果実や、精巧な民芸品を並べる露店がどこまでも軒を連ねている。行き交う人々は誰もが穏やかな笑顔を浮かべ、平和な時代を謳歌していた。
「ステル、見てごらん。あの出店にある魔導具、あんなに小さな魔石で動いているよ」
普段は国を背負う神童として、大人顔負けの冷徹な品格を保っているプロット王子。だが、珍しい異国の光景を前にした今日の彼は、瞳をキラキラと輝かせる、十三歳の瑞々しい少年そのものの顔を覗かせていた。
「本当ですね、殿下。アイガス王国の魔科学の技術は、ジンの職人たちの技とはまた違った合理性がある。実に興味深いな」
ステルはそんな主の様子に目を細め、凛とした調子の中にどこか父親のような温かさを滲ませながら、その歩みに寄り添った。
「おいカル、お前また美味そうなもの買い込んでるな!」
「何言ってるんだよ、異国の美味いものを食うのも戦士の教養だろ?」
後ろでは、カルたち部下の精鋭たちが、戦場のピリピリとした空気を一切忘れてフランクに笑い合い、王都名物の串焼きを頬張っている。道中、地竜の不意打ちを喰らいかけたことなど、もう笑い話の種にしかなっていなかった。
昼下がりには、王都の美しい中央広場のベンチに座り、皆で冷たいエールや果実水で乾杯をした。
神童プロット王子が、珍しく口元を緩めてカルたちの冗談に声を上げて笑う。その無邪気な笑顔を見つめながら、ステルは聖槍を傍らに置き、心からこの国の一番槍として彼らを、この平和を、生涯をかけて守り抜こうと静かに誓っていた。
「本当に、楽しい一日だったね。ステル、カル、みんな。連れてきてくれてありがとう」
馬車の揺れに身を任せながら、プロット王子がぽつりと呟いた、心からの感謝の言葉。
良かったことも、楽しかった思い出も、すべてはこの一日に凝縮されていた。
この温かな絆が、この輝かしい黄金色の記憶が、明日の朝、この世で最も悍ましい「左右反転の悪夢」によってすべてすり潰されてしまうなど――。
幸福の余韻に浸りながら眠りについた彼らは、微塵も、想像すらしていなかった。




