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終わる世界の落とし物  作者: 坂本 ゆみか
0章ステル編
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『王都からの招待状』

 ――すべてが反転し、地獄の産声が上がる、わずか七日前のこと。

 辺境国ジンの王室に、一通の不穏な、しかし当時の誰もが栄誉と捉えた連絡が届いた。

 送り主は、海を隔てた友好国であるアイガス王国。王都魔法研究所の最深部で進められている、国家規模の精密な大魔術プロジェクト――その大規模な実験をお披露目するにあたり、ぜひ主賓としてご観覧いただきたい、という内容だった。

 アイガス王国と辺境国ジンは、地理的に非常に遠い位置にある。そのため、直接的な大軍の行き来や大規模な接触をすることは滅多になかった。

 だが、両国は古くから意外なほどに深い親交を結んでいる友好国だった。遠距離ゆえのセキュリティとして、連絡用の人員がお互いの国を行き来する際は、偽物の介入を防ぐために「本物である証」や「厳格な証書」を携帯して証明し合い、物資の交易も盛んに行われていた。

 この栄誉ある国家プロジェクトの招待に対し、ジンの王室が主賓として派遣を決定したのは、まだ十三歳の若き王子、プロットだった。

 まだ幼い子供の年齢でありながら、王子は大人顔負けの圧倒的な武の才能を持ち、国中から「神童」と呼ばれていた。

 そして、その大切な国の至宝であるプロット王子の護衛役として指名されたのが、国の一番槍であるステル、そしてその気心知れた精精鋭の部下たちだった。

「片道で五日間の長旅となる。プロット殿下のご身辺に万が一のことがあってはならない。すぐに出発の準備を整えろ」

 ステルは凜とした落ち着いたトーンで部下たちに命じた。

 遠いアイガス王国の王都へ辿り着くためには、道中にある広大な運河を渡る必要がある。水路を使ってアイガス王国の国境へと入るまでに三日、そこから陸路で王都へと至るまでに二日。実験の当日に間に合わせるためには、一刻の猶予もなかった。

 当時の世界は、非常に平和だった。

 移動の道中、野党や盗賊団といった人間の悪意に襲われる心配など、滅多にない穏やかな時代。稀にモンスターが姿を現すことはあったが、その出現数は極めて少なかった。

 だが、数が少ない代わりに、この世界に現れるモンスターは一体一体が例外なく、異常なまでに強力な質量を誇っていた。そのため、国や民を守るためには、その圧倒的な単体の脅威を真っ向からねじ伏せることのできる、屈強な戦士たちが絶対に不可欠だったのだ。

「一番槍ステルが共にあるのだ。どのような脅威が来ようとも、殿下の髪の毛一本すら触れさせはしない」

 部下たちの頼もしい言葉を背に受けながら、ステルは静かに聖槍を携え、十三歳のプロット王子を乗せた馬車と共に、ジンの国境を越えていった。

 これから向かう先が、世界そのものを塵へと還すバグの爆心地であることなど、この時の彼らは知る由もなかった。



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