『果実の正体』
洞窟を揺るがした激しい衝撃の余韻が、ゆっくりと引いていく。
舞い上がる白煙の向こう側で、地べたにめり込むようにして鎮座しているのは、直径3メートルもの圧倒的な質量を持つ『巨大な実』だった。
「……信じられない。本当にお伽話の通り、実が落ちてくるなんて……」
レムリアが呆然と呟き、カゴを握る手を緩めてその巨躯を見つめていた。
ルードは大魔剣から手を離し、警戒を維持したまま、ゴツゴツとした質感を持つ果実の表面へと一歩、近づいた。
「これだけ大きければ、確かに残された人間をしばらく生かすだけの食料にはなるな。……だが、ステル。これ、本当にただの果実だろうか?」
「……いや、様子がおかしいな。ルード、この部分を見てくれ」
ステルの言葉に促され、ルードは実の側面に目を凝らした。
巨大なリンゴのような形状をしたその球体には、表面の質感と同化するように、不自然で精密な『直線の切れ込み』が刻まれていた。さらに、その中央には明確な取っ手――いや、鉄製のノブのようなものが備わっている。
それは、どう見ても文字通りの果実などではなかった。その表面に誂えられていたのは、頑丈な「扉」だ。
「扉……? 嘘だろう、まさかこんなところに」
ルードは息を呑み、自らの記憶の引き出しを激しくひっくり返した。
ひしゃげていく鉄扉。その奥でゆらゆらと空間を歪め、親友の身体を吸い込んでいった、あの亡き魔法使いクラルムが遺した空間魔術のポータル。
「間違いない……。形状は少し違うが、これはあの王城の地下室にあったものと同じだ。……転移扉だよ」
お伽話が語り継いでいた「残された者を救う」という意味の真実が、いま目の前で完全に繋がった。かつてこの世界にいた人間たちは、世界の最期に食料を得たのではない。この扉を使って、滅びゆく世界の外へと脱出したのだ。
「転移扉、か。ということは、この向こうには別の世界が広がっているのだな」
ステルが聖槍を握り直し、静かに扉を見つめる。ルードは深く頷き、力強い眼差しをその鉄ノブへと向けた。
「ああ。この世界をどれだけ探してもロムがいないのであれば、あいつは別の世界へ飛ばされた可能性が一番高い。……だったら、俺たちがやるべきことは一つだけだ。この扉の向こうへ進む。あいつとの約束を果たすためにな」
「異論は無い。どこまで行こうとも、一番槍としてのこの槍が、あなたの道を開くだけだ」
ステルは凛とした調子で答え、ルードの決意を真っ直ぐに支えた。
世界にたった一人残されたエルフの女性が見守る中、二人の戦士は、次なる未知の領域へと足を踏み入れる覚悟を静かに固めるのだった。




