『一番槍の接触』
「あの高さでは、大魔剣を投げても枝に阻まれるのがオチだな……。ステル、あんたの槍なら届くかい?」
「いや、距離はともかく、この入り組んだ岩の枝の隙間を正確に縫うのは厳しい。下手に衝撃を与えて、あの小さな実が粉々に砕けてしまっては元も子も無いからな」
ステルは冷静に聖槍を見つめ、真面目な顔つきで首を横に振った。
二人があれこれと現実的な手段を模索している間、レムリアはただ静かに、祈るような眼差しで岩の巨木を見上げていた。かつてこの世界の人間たちが残したお伽話。それが本当であるならば、何か別の方法があるはずだった。
「……考えていても始まらないな。まずは近くで調べてみよう」
ステルはそう言うと、引き締まった足取りで巨木の根元へと近づいていった。
精密な彫刻のような、無骨で冷たい岩の幹。彼は戦士としての敬意を払うように、その分厚い岩肌へと静かに、手のひらを触れた。
その瞬間だった。
ズ、ズズ……と、洞窟の底から響くような、重苦しい地鳴りが空間を揺らした。
「ステル、離れろ!」
ルードが瞬時に叫び、大魔剣の柄に手をかける。
だが、それは防衛機構の暴走などではなかった。ステルの生真面目な接触に、あるいは彼の内に秘めた強大な魔力に反応したかのように、はるか上方で異変が起きていた。
「ルード、上だ! 実が……!」
ステルの声にルードが天を仰ぐ。
無数に入り組んだ岩の枝の先、かろうじて見えるほど小さかったあの実が、突如として眩い光を放ち始めた。そして、生き物のようにみるみるうちに膨張し、育ち始めたのだ。
岩の枝を押し退け、へし折りながら、実の質量は爆発的に膨れ上がっていく。
最初は拳大、次は人の頭ほど、そして最後には――直径3メートルはあろうかという、圧倒的な巨躯へと変貌を遂げた。その姿は、まるでこの世のものとは思えないほど巨大な、ひとつのリンゴのようだった。
ミシ、ミシシシ……ッ!
自らのあまりの重みに耐えかねて、実を支えていた岩の茎が悲鳴を上げる。
そして、パキィンと硬い音が響いた直後、直径3メートルの巨大な果実が、自由落下を始めた。
「下がれ、二人とも!」
ルードはレムリアの肩を抱くようにして、ステルと共に巨木の根元から大きく飛びのいた。
ドォォォォォン――ッ!!
凄まじい大轟音と衝撃波が、洞窟の空洞全体を激しく揺るがした。岩の破片と凄まじい埃が舞い散り、ルードは腕で顔を覆いながら、その衝撃が収まるのをじっと待った。
やがて、埃の向こうから、地べたにどっしりと鎮座する『巨大な実』の影が、不気味なほどの存在感を放ちながら姿を現した。




