『岩肌の迷宮と、小さな兆し』
レムリアの案内のもと、ルードとステルは岩山を緩やかに下り、目的の洞窟へと辿り着いた。
風化した岩肌にぽっかりと口を開けたその入り口は、外の荒涼とした景色とは打って変わり、どこか厳かな空気を湛えている。
「……本当に、水が湧き出ているな」
ステルの言葉通り、入り口のすぐ脇にある岩の隙間から、透き通った水がこんこんと湧き出していた。
ルードは手で水を掬い、喉へと流し込む。冷たい水が、3日近く乾ききっていた喉と胃袋を心地よく潤していった。隣ではステルもまた、無言で、しかし美味そうに何度も水を掬っている。
「助かった。レムリア、あんたのおかげで生き返ったよ」
「どういたしまして。でも、驚いたわ。本当にそんなに長い間、何も食べていなかったなんて」
レムリアは小さく微笑みながらも、人間の驚異的な生存能力に感心しているようだった。
水によってわずかに体力を取り戻した二人は、大魔剣と聖槍をしっかりと握り直し、レムリアを真ん中に挟む形で、薄暗い洞窟の奥へと歩みを進めた。
複雑に入り組んだ岩肌の迷宮を、どれほど進んだだろうか。
不気味な静寂を切り裂きながら進むうちに、通路は突如として広大な空間へと行き着いた。天井が見えないほどに広がった巨大なドーム状の空洞。その中央に、それは佇んでいた。
「これが……『岩の巨木』か……」
ルードは思わず足を止め、見上げる視線の先にある圧倒的な質量に息を呑んだ。
それは、文字通りすべてが「岩」でできた木だった。木の皮の凹凸から、天へと広がる無数の枝葉の細部に至るまで、まるで神がかり的な彫刻家が精緻に彫り上げたかのような、美しくも無骨な姿。
だが、あまりにも巨大すぎた。巨木の周囲には手がかりとなるような足場は一切なく、自力で上へと登ることは不可能な構造になっている。
「真っ向勝負で切り倒せるような代物では無いな。……ルード、見ろ。無数にあるあの枝の先だ」
ステルが鋭い眼差しで巨木の上方を指差した。
ルードも目を凝らし、岩の枝の隙間を注意深く探す。すると、はるか上方の入り組んだ枝の片隅に、かろうじて見える位置にポツンと、実のような小さな物が一つだけ成っているのが見えた。
「あれか……?」
ルードは眉をひそめて呟いた。
お伽話にある「残された者を救う実」にしては、あまりにも小さく、そして頼りない。だが、これだけ枯れ果てた死の世界だ。無いよりはマシだろう。
「……見つけたのは良いが、問題はどうやってあれを取るか、だな」
見上げるほどの高所にある、岩の果実。足場のないこの状況で、どうやってあそこまで手を伸ばすべきか。
ルードとステルは巨木の根元に立ち、その圧倒的な威容を前にして、思案に暮れるのだった。




