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闇から響く通信

ガキィン、と鼓膜を震わせる金属音が響く。

 ルードコピーの放った大魔剣の一撃が、隻腕の槍使いの石突きに弾かれた音だ。その火花が散る乱戦を、ロムは息を殺して見つめ続けていた。

 思考は常に冷静だった。あと数時間はここでやり過ごせる。コピーどもが相打ちになるか、致命的な隙を晒すその瞬間まで――。

『――城の、地下に……』

 突如として、その声は鼓膜ではなく、ロムの脳の奥底に直接響いた。

 ひどく掠れてはいるが、聞き紛えるはずのない、丁寧で落ち着いたトーン。

『王城の地下に、すぐ来てくれ……と。』

 ロムの全身の血が、一瞬で凍りつくような感覚に襲われた。

 声の主は、あの魔法使いだ。自分たちの仲間であり、そして――少し前に、確実に命を落としたはずの男だった。

(死んだはずだ。あいつは目の前で……)

 強烈な違和感と疑念が、ロムの胸を支配する。

 死んだ人間の声が聞こえるなど、この狂った世界では「罠」だと断定するのが普通だ。姿形だけでなく、声や記憶まで模倣するあのコピーどもの仕業ではないか。自分を誘い出すために、死んだ魔法使いの声真似をして呼びかけているのではないか。

(いや、待て。おかしい。コピーが自分を呼ぶ理由がない)

 ロムは瓦礫の隙間から、今なお血を流し合っている地上のコピーたちを凝視する。

 あいつらの本質は、底無しの破壊衝動と攻撃性だ。仲間意識など欠片もなく、目の前に動くものがあれば見境なく襲いかかる。そんな知性のタガが外れた化け物どもが、わざわざ「死んだ仲間の声」を使って、獲物を特定の場所に誘い出すような、回りくどい心理戦を仕掛けてくるだろうか。

 答えは否だ。コピーなら、ロムを見つけ次第、その凶刃を剥き出しにして直接殺しにくるはず。知性的な罠を張る理由も、必要性も、あいつらには存在しない。

(だとすれば、あの声は……)

 本当に生き延びていた本物なのか。あるいは、死の間際に残した時限式の伝言魔法なのか。

 いずれにせよ、あの声にはコピーたちの狂気とは決定的に違う「意図」がある。この泥仕合の戦場に留まり続けるよりも、あの声の主の元へ向かう方が、生き残るための道が開ける可能性は遥かに高い。

「……行くか」

 ロムは決断した。世界崩壊まで、あと二時間半。ただ座して消滅を待つ気は毛頭ない。

 目の前の広場では、ロムコピーが右側の死角を槍で突かれ、狂ったような悲鳴を上げて暴れている。ルードコピーもそれを好機と見て大剣を振りかざした。

 

 完璧なデコイ(目眩まし)だ。あいつらが互いの殺し合いに夢中になっている今なら、自分の移動に気づく者はいない。

 ロムは短剣を腰の鞘に深く収めると、瓦礫の陰から音もなく這い出した。

 右足を動かすたびに、焼火箸を突き立てられたような激痛が走る。顔中に嫌な汗が吹き飛ぶが、声を漏らすことは決して許されない。壁の崩落跡、折れた柱の死角、転がる瓦礫の影――使える遮蔽物はすべて使い、気配を完全に消して進む。

 背後からは、なおも肉を切り裂き合う化け物たちの咆哮が遠ざかっていく。

 ロムは痛む足を引きずりながら、不気味な静寂を湛える廃墟――王城の地下へと続く薄暗い入り口を目指し、闇の中へと滑り込んでいった。


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