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終わる世界の落とし物  作者: 坂本 ゆみか
2章ルード編
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『なけなしの施し』

 レムリアの「知らない」という言葉に、ルードは小さく息を吐いた。ロムがこの近くにいないことはある程度覚悟していたが、目の前の女性が浮かべている困惑の色は、あまりにも尋常ではなかった。

 ルードは彼女の警戒と混乱を解くため、自分たちが崩壊した別の世界から、転移の門を潜って図らずもここへ辿り着いたといういきさつを、飾らないトーンで正直に話した。

 ルードの話をじっと聞いていたレムリアは、驚きつつもその奇妙な事実を受け入れたようだった。しかし、だからこそ彼女の口から静かに告げられた現実に、ルードたちは息を呑むことになる。

「あなたが探しているロムという人も、ここには来ていないと思うわ。……この世界は、もうずいぶん前に滅びてしまったの。世界中をいくら探索しても、生き残っているのは、もう私しかいないから」

 静かな告白だった。

 ロムはここにはいない。そればかりか、この世界そのものがすでに終わっているという事実。ルードとステルは言葉を失ったが、レムリアはふと、二人の衣服の汚れや体格に目を留め、気がついたように言った。

「エルフはほとんど食料を必要としないけれど……人間であるあなた達は、食料が必要なのではないかしら?」

 その言葉を聞いた瞬間だった。

 ルードとステルの胃の奥が、焼けるように激しく脈動し始めた。

(……そうだ。俺たちは、ずっと何も食べていない……)

 元の世界での命懸けの72時間。そして門を抜けてからの緊張の連続で、精神が飢えを感じる余裕すら奪っていたのだ。門を抜けた瞬間に肉体の傷や打撲は完全に完治していたため、万全の状態に戻ったと錯覚していた。だが、胃袋の中身まで補給されていたわけではない。

 レムリアに指摘されて初めて、自分たちが【3日近く何も食べていない】という過酷な現実に気がついた。自覚した途端、凄まじい空腹感と疲労が一気に二人の身体にのしかかる。

「……待って。今、少しだけ蓄えを持ってくるわ」

 見かねたレムリアが部屋の奥へと向かい、数少ない食料を少しだけ持って戻ってきた。

「本当にいいのだろうか? 気を使わせてしまって悪い。……だが、あんたの分の食料は大丈夫なのか?」

 ルードは申し訳なさそうに、けれど芯のあるフランクなトーンで尋ねた。横にいたステルも、差し出された食料を見つめながら眉をひそめる。

「レムリア殿、好意はありがたいが、見ず知らずの我々にそこまでしてもらうわけにはいかない。あなたの分がなくなってしまうのではないか?」

 ステルもまた、生真面目な戦士としての遠慮を口にする。そんな二人に対し、レムリアは静かに微笑む。

「気にしないで。まだ奥に備えはあるから、大丈夫よ」

 だが、その言葉が「明らかな嘘」であることは、ルードの鋭い観察眼を誤魔化せなかった。

 エルフは食料をほとんど必要としない。だが、それは裏を返せば、生きるために「少量は絶対に必要」ということだ。植物すら生えないこの死の世界で、次の物資のあてなどあるはずがない。彼女が今分けてくれたものは、彼女自身のこれからの寿命を削るに等しい、なけなしの命の綱だった。

 極限の飢餓。そして、自分たちのために命を削る嘘の施しをしてくれたエルフの女性。

 ルードとステルは、手渡されたわずかな食料の重みを、静かに噛み締めていた。




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