鏡像の自責
大魔剣と聖槍が噛み合い、激しい火花を散らす。
ルードはいつでも次の一撃を放てるよう、全身の筋肉を限界まで緊張させていた。相手は万全の両腕を取り戻した、底知れない実力を持つ槍使いだ。一瞬の呼吸の乱れすら命取りになる。
だが――。
(……おかしい。何かが、さっきまでと全然違う)
得物を通じて伝わってくるはずの、あの広場や地下室で見せていた狂暴な殺気が、この男からは微塵も感じられなかった。
それどころか、男の瞳の奥に宿っているのは、ただ底の割れたような深い虚無だった。その構えには微塵の隙もないものの、ルードの剣を弾き返そうとする意思すらなく、まるでわざと自分を『攻撃させよう』としているかのような、奇妙な無抵抗さが透けて見えていた。
強者同士だからこそ察知できる、言葉なき違和感。
ルードは剣の切っ先をわずかに引き、構えを維持したまま、静かに、しかし真っ直ぐに男の瞳を射抜いて問いかけた。
「……お前、コピーか?」
元の世界を地獄に変えた、知性のタガが外れた鏡像たち。あいつらが自らの正体を自覚しているのか、あるいは言葉を交わす知性があるのかすら、ルードたちには分からなかった。当然、コピーが自らその名を名乗ったことなど、これまで一度としてない。
だが、目の前の槍使いは、寂しげに目を伏せて短く答えた。
「……コピーだ」
その丁寧で落ち着いたトーンの響きに、ルードは息を呑んだ。目の前にいるのは、あの破壊衝動のままに見境なく暴れていた化け物ではない。明確な「自覚」と「知性」を持った、一人の人間としての響きがそこにはあった。
「扉を潜り、この地に降り立った瞬間……脳を焼き尽くしていたあの悍ましい暴力的衝動が、嘘のように消え去っていた。だが……」
そこから先、男の言葉は続かなかった。
男は力なく聖槍を地面に突き立てると、そのまま崩れ落ちるようにして、大小の岩が転がる地面にぽつりと膝を突いた。
「が、はっ……っ……!」
突如として、男が過呼吸のように胸を押さえ、激しく苦しみ始めた。
狂気が抜けて正気を取り戻したからこそ、自らの両手が犯してしまった「何か」の凄惨な記憶が、一気に脳内を埋め尽くしたのだ。言葉にすることすらおぞましい、大切な人たちを裏切り、すり潰してしまったという最悪の自責の念。その記憶のフラッシュバックが、世界最強の戦士の精神を容赦なく引き裂いていく。
男の大きな肩が、血を吐くような悔恨の情で小さく震える。
自分自身を手に掛けることすら、この呪われた肉体が拒絶する。なぜ自分のような出来損ないの偽物だけが、五体満足で生き残ってしまったのか。
「コピーである私が、これ以上無様に生き続けることに、一体何の意味があるというのだ……」
喉の奥から絞り出されたのは、ただそれだけの、血の滲むような嘆きだった。
一番槍としての圧倒的な強さを持ちながらも、その真面目さゆえに、自らの罪の重さに押しつぶされ、ただ死を望むかのように項垂れる背中。
ルードは、男が抱える「語ることもできないほどの深い絶望」を静かに見つめていた。




