旅立ちのパッキング
世界の消滅まで、残り時間はあと数時間。
「時間はまだあるが、崩壊直前の世界は空間の歪みが発生しやすい」
ベレルムは、自身の肩にスマートな革製のカバンをかけながら、落ち着いた声で言った。
「何が起こるか分からない。油断せず、できるだけ迅速に動こう。僕の私物で、向こうの世界でも使えそうな機材をこのカバンに移す。手伝ってくれるかい」
それは、内部空間が魔科学で無限に拡張された『魔法カバン(インベントリ)』だった。
「できるだけ急げ」の精神のもと、ロムとベレルムは終始冷静に、しかし目にも留まらぬ速さで研究所の発明品や資材を厳選し、カバンへと詰め込んでいく。ミリーもまた、自分の救急箱を大事そうにカバンの隙間へと差し込んでいた。
カバンに詰め込まれた大量の魔科学兵器や道具のほとんどはベレルム専用であり、圧倒的な個人の武力を誇るロムが頼るようなものは何一つ無い。
ロムの腰には、すでに24時間の練習でその癖を手懐けたあの魔法銃と、龍神の双剣が静かに収まっている。彼には、これだけで敵無しの強さがあった。カバンはあくまで、これからの3人の長い旅路をスマートにするためのインフラだった。
爆発の2時間前(この世界が消える話を聞いてから38時間後)。すべての準備を完璧に終えた3人は、完成した転移門の前に立っていた。
「行こう、二人とも。別世界へ」
ベレルムが静かに扉を開く。
ミリーがロムの服の裾をぎゅっと握りしめ、ロムはかつての親友と、かつての妹の面影をその両脇に感じながら、そして胸に秘めたルードとの約束を果たすため、一歩を踏出した。
3人が扉の向こうへと消えた2時間後――。
主を失った「魔法科学の世界」は、何一つ音を立てることなく、システムがシャットダウンされるかのように、静かに、そして完全に消滅した。




