3つの道:霊域の戦い
奴が主か?
魔物化はしていない。
周囲の森を操る事が出来る程の霊力も感じない。
だが・・・状況的には完全に黒。
殺すなら―――今が好機。
即座に霊力を練り上げ、火球を放つ・・・が、それはウッドミルにはとどかない。
せり上がった土の壁がそれを阻む。
何を・・・!?
すぐにアンジュに視線を向けるが、彼女は手を振りほどき走り出していた。
「カナック君!戻りたまえ!その男は「先生!!」
一体なんだ!?
今それどころでは・・・!?
声の方に視線を送り、思わず息を飲む。
当然だ。
自分達が来たであろう道は消え、地面から木の根の様な魔物が次々と現れる。
・・・やられたな。
「先生!どうするんですか!?」
差和が叫び、積商はただ静かに指示を待つ。
逃げ道が塞がれたが・・・逃げられない訳じゃない。
塞いだという事は開く事もできるはず。
幸い、魔物達はまだ完全に動き出してはいない。
逃げるなら今が絶好のチャンス。
だが・・・
チラリとアンジュに視線を送る。
彼女はどうにも動きそうにも無い。
このままここに置いていく訳には・・・
深く息を吐き―――指示を出す。
「こうなっては仕方がない。石動姉弟、戦闘を許可する」
2人は即座に返事を返し、薬瓶を飲み干す。
投げ捨てられた瓶が地面に落ちる間もなく―――魔物に向かって走り出す。
「ウッドミル様!?何が・・・どうしてここに・・・!?大丈夫ですか!?」
冷静さを失い、自分でも何を言っているのか分からない。
霊域がツーリスの近くである以上・・・覚悟はしていたのに。
実際にその状況を前にすると、心の準備など何の意味も無い。
ただ狼狽えるだけの彼女に、か細い声が聞こえる。
「また・・・会えて・・・嬉しいよ・・・アンジュ・・・。これは・・・『精霊』が・・・最後に与えてくれた・・・奇跡なのか・・・?」
「ウッドミル様!気を・・・気を確かに!おち、落ち着いてください!」
「慌てる君を見るのは・・・初めてかもな・・・。すまない・・・アンジュ・・・俺は・・・君との約束を・・・っぐ!」
彼は頭を押さえ、呻き声を上げる。
「大丈夫です!ボクを・・・私を見てください!こっちを見て!!」
「あの男が・・・ツーリスに・・・俺は・・・あいつに・・・!」
あの男・・・?
いや、今はそんな事どうでもいい!
・・・そうだ!
サージリスなら何とか出来るんじゃないのか!?
即座に振り返ると、そこには魔物と交戦する3人の姿。
何だ?
どうなってる?
いつ魔物が?
退路がない?
これは・・・
「アンジュ・・・ありがとう」
・・・は?
その言葉を聞き終えた瞬間―――凄まじい衝撃と叫び声。
後方に転がり、耳を塞ぎ、顔をしかめる。
ようやく音が止み、顔を上げると・・・そこには1体の魔物の姿があった。
霊域の深部を目指し、ひたすら歩き続ける。
ところどころに転がる魔物の死体。
無駄な傷は無く、正確に一撃で仕留めている。
その状況を見て、先程感じた霊力が本物だった事を確信。
しかし、腑に落ちない点も多々ある。
何故こいつは・・・魔物を殺している?
自分が造った霊域じゃないのか?
わざわざ殺している意味が分からない。
それに、この中に入ってから霊力を感知する事がかなり困難。
外からは辛うじて分かったが、中に入るとまるで分からない。
さっき奴の霊力を感じたのは入る前だったからか?
身体に纏わりつく嫌な霊力に舌打ちをしつつ、足を進める。
外の状況がまるで分からない。
まぁ、奴等もこちらの接近には気付いていないと考えれば悪くはない。
出発してからそろそろ1時間が経つな。
那智達も動き出す時間だ。
あまりウカウカしている訳には―――っ!?
迫りくる2つの気配に反応が遅れた。
素早く身構え迎撃態勢をとる・・・が、それらはイルバニアの横をすり抜け消えていく。
あれは確か・・・何で?
その姿に見覚えはあったが・・・何故自分を無視する?
自分狙いじゃない?
だったら・・・外の皆を?
・・・どうする?
追うか?
進むか?
暫し考え、再び奥に向かい歩き出す。
確かにあの2体は厄介だが、それ以上に奥にいる奴の方を抑えるべきだ。
少し不安はあるが・・・那智達ならば勝てるだろう。
暫く進み続け、三叉路に辿り着く。
やはりそうだ。
この霊域に見覚えがあるとは思っていたが・・・あの時の霊域とほぼ同じ構造。
あの時のアンジュと同じ方向へ進んでいたが・・・間違いない。
だが、おかしくはないか?
その霊域は浄化したはずじゃなかったのか?
なのに・・・何でここにある?
状況の整理に頭を悩ませていると―――僅かに音が聞こえる。
方角は正面。
・・・悩んでいても仕方ないか。
剣を握りしめ、戦闘準備に入る。
一歩進むごとに聞こえる音は大きくなる。
これは・・・戦闘音?
誰が戦ってる?
いや・・・まさか・・・?
状況の把握が出来ぬまま広間に足を踏み入れた―――瞬間、横の壁に何かが叩きつけられる。
それは予想していた通りだったが・・・予想とは違う展開。
「いったた・・・ん?あれれ?イルバニアさんじゃないですかぁ~!偶然ですねぇ?どうしたんですかぁ?こんな所まで?・・・あっ!分かった!私に会いに―――」
その言葉が終わらぬ前に、イルバニアの一撃が襲い掛かる。
しかし、それは床を砕くだけ。
声の主―――チャリティリィは軽々と躱し、埃を払っている。
「んもう・・・いきなりすぎますよぉ。貴方もそう思いませんかぁ?―――ヘンベルさん」
2人に炎の塊が襲い掛かる・・・が、イルバニアはそれを切り裂き、チャリティリィは水の壁で防ぐ。
目の前のヘンベルは軽く鼻を鳴らし、ゆっくりと歩き始める。
やはり感知した霊力はこいつらか。
だが・・・何故こいつらが戦ってる?
2人を警戒するイルバニアに対し・・・チャリティリィが提案する。
「話したい事も色々あると思うんですけど・・・イルバニアさん?とりあえず、今だけ手を組みませんか?」
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