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精霊憑きの冒険譚  作者: きりくま
変わる世界
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3つの道:大樹の戦い


 大樹へ向かう道中。

 先を歩く彼女の背を眺めていると、積商の声。


 「先生。変じゃないですか?」

 「石動弟君もそう思うかい?確かに少し変だね」

 「・・・?変って何がです?」


 察しのつかない差和は首をかしげる。

 

 「石動姉君はこの状況をどう思う?」

 「どうって・・・順調なんじゃないですか?魔物とは遭遇していないし、ペースは速いし」

 「そうだね。だからこそおかしい」

 「・・・先生ってそんなにアクシデント好きでしたっけ?てっきり私は日和見の事無かれ主義者だと思ってましたよ」

 「酷い言われようだが・・・日和見ではないよ。僕には僕なりの譲れないものがあるからね。過程は多少見逃すが、結果だけは譲る気はない」


 まぁ、それは知ってるけど・・・

 

 「話し戻しましょう?だったら何が変なんです?」

 「君は優秀だが、もう少し視野を広く持った方がいい。石動弟君、答えを1つ」

 「はい、先生。1つは魔物と遭遇していない事です」

 「そうだね」


 んん・・・?


 「・・・別におかしい事無いんじゃないですか?ただ魔物と遭遇していないだけでしょう?運がいいだけじゃ?」

 「かもしれないね。でも、この霊域に入った時は即座に戦闘になった・・・それも何度もだ。しかし、あの休息を挟んでからは一度も戦闘になっていない」

 「だから・・・運がいいだけなんじゃ?」

 「僕達が進んでいるのは真っ当な道では無く森の中だ。視界不良の状況で速度も速く碌に索敵もしていない。君だって赤級の霊域は何度も入っているから知っていると思うが、魔物の数はそれなりに多いし索敵能力も優れている。ここまで何も無いのは・・・少々不思議という他ない」

 「それは・・・私達が向かっているのが中心部から外れた場所だから何じゃないんですか?」

 「それを言ったら村を囲む様に魔物が固まっているべきだろう?けど、実際は各所にいるじゃないか」


 確かにそう言われるとそうかもだが・・・


 「そからもう1つ。距離もおかしい」

 「距離?」

 「地図を思い出したまえ。目標地点までこの速度で歩き続けているはずなのに、未だに辿り着いていない。というか・・・景色にほぼほぼ変化が見られない」

 「・・・幻覚の霊法?」

 「それも一つの可能性だが・・・低いね。霊法だとするとカナック君や僕が気付かないはずが無い。他に考えられるのは?石動弟君」


 積商は小さく唸り、口元に手を置く


 「・・・焦りで道を失っている?」

 「それも一つだ。だが、焦ってはいるがカナック君の霊力は今のところ安定している」

 「だったら・・・何なんですか!?もったいぶらないでくださいよ!って言うか・・・マズい状況じゃないですか!?私達迷子になったって事でしょう!?」


 大声を出す和差を横目に、サージリスは空を見上げる。


 「森が意図的に動いて・・・時間稼ぎをしているとしたら?」

 「・・・はぁ?」


 突拍子も無い言葉に呆けた声が出る。

 

 「先生・・・頭大丈夫ですか?霊法受けてたりしてます?積商!撤退の準備をするわよ!」

 「本当に君は賑やかだね。石動姉君、僕達が霊域に入ってからどれくらいの時間が経つ?」

 「え?えっと・・・そろそろ2時間くらい経ちますかね」


 ここで不意にアンジュが立ち止まる。

 彼女は四方を見回し、不可解な表情を浮かべる・・・が、すぐに元に戻す。


 「こっちです」


 それだけを言い残し、彼女は再び歩き出す。

 呆気にとられる2人の肩を叩き、サージリスは目を細める。


 「彼女自身も何故迷っていたか分からなかったと見える。それにしても・・・随分と厄介な状況になった。石動姉弟君達、警戒は怠らずにいつでも撤退できる心構えでいてくれたまえ」


 サージリスは再び歩き出し、考える。

 この霊域は想像以上に厄介だ。

 恐らく自分達が2つのグループに分かれて行動する事を知っていた。

 先陣の自分達を足止めし、後続が霊域に入ったところを逃がさないつもりか。

 かなり頭が切れるな・・・こちら側に索敵要員を入れなかったのが大きな間違いか?

 ・・・いや、それは関係ないか。

 入れたところで対応のしようがない。

 地理に詳しくそこそこ索敵できるアンジュがいてこうなったんだ・・・イルバニアや那智がいたところでどうにもならなかっただろう。

 かなり後手に回ってはいるが・・・収穫はある。

 ここの霊域―――恐らく主のいる場所はツーリスでは無くあの大樹。

 ここまで自分達の進行を阻むのならそう考えるのが妥当。

 魔物がいなかったのは精霊石の補充をさせない為と考えたらあり得る話。

 まぁ・・・その方がこちらとしても都合がいい。

 村が安全ならば後続の安全は確保できたような物。

 イルバニアと那智が気が付くだろうが、退路の確保に向かったと考えるだろう。

 彼等がここに来るまでの間に浄化すれば問題は無い。

 問題は・・・この情報をどうやって知ったかだ。

 主の索敵能力が常軌を逸しているのか?

 それに、魔物が単体でここまで考えられるか?

 まだ分からない事が多すぎる・・・が、いい予感はしないな。

 と、ここで開けた場所に出る。

 周囲の中でも一際大きな樹。

 太い枝にはツリーハウスの様なものが見える。

 中々の絶景だ。

 呆然と大樹を眺めていると・・・ドアが開く。

 現れたのは・・・誰だ?

 身に覚えのない人影に警戒する横でアンジュの声。


 「・・・ウッドミル様!?」


 駆け出そうとする彼女の腕を掴む。


 「待て、カナック君。少し様子を―――」

 

 その言葉が終わる前に、人影は苦痛に満ちた呻き声を上げる。


 「なるほど。感動の対面・・・と言う訳にはいかないようだ」


 サージリスは霊力を練り上げ・・・戦闘態勢に入る。

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