灰色の群れ
主戦場、その中心に吸い寄せられるように爆弾は落下する。
敵味方関係なく、気づいてしまった兵士が必死に後退する、何故か突撃を続ける藍月。
爆弾が破裂し、中から無数の球体が飛び出す。それは音速級の速さを誇る弾丸となって真下にいる兵士たちに襲い掛かる。何故か突撃を止めない藍月。
体に穴をあけられ、力なく倒れ伏していく兵士。
敵を切り刻む藍月。
……………藍月!?
「なんであいつは突撃を止めないんだよ!馬鹿か!?阿呆か!?戦闘狂か!?」
隣にいた部下の胸ぐらをつかみ、ぶんぶんと腕を振る。
ブーメランが刺さっている気がするが気にしない。
『アハハハハハハ!』
なんだ、ただの狂人か。
最早どうでもよくなって空を見上げていると、先ほどの繰り返しのような光景が目に入る。
「…比にならねえな、クソ野郎」
何十条もの白煙が空を駆け、そこから黒点のような爆弾が降る。
まるで未来の戦場を見ているかのような視界に、思わず笑いが零れる。
「出来た物語じゃねえか。『厄介な敵にはさらに厄介な物を』ってか」
「…冗談じゃねえぞ」
「立て!お前らっ」
戦場全域に響き渡らせるつもりの大声で叫び、それに呼応するかのように野太い雄叫びと馬鹿みたいな歓声が戦場に満ちる。
空気を一杯に吸い込み、無線などいらんと言わんばかりに、猛獣があげる宣戦布告の雄叫びのようにひたすらに叫ぶ。
「さあ踊って見せろ!大好きな死地だぞ!!」
「殺して、殺されて、そして、敵に死に場所を与えてやれっ!」
「俺達が、戦場の主だっ!」
咆哮を全身に受け、走り抜ける。
体は軽い、血を流しまくって死ぬ手前になったから感覚がいくつかトンだのもあるが、何よりも、不謹慎かもしれないが、こいつらと馬鹿騒ぎしているのが楽しい。
戦闘狂、死神、狂人が集まる実質的な懲罰部隊である俺達には、いくつもの皮肉な二つ名がある。
そして、五部隊の隊長たちにはそれぞれ隊員がふざけて付けた、部隊の特色を表す名がある。
修也は蛇遣い
藍月は戦闘狂
四番は血吞み
赤坂は鬼神
そして俺が死にたがり
手足のように部隊を操り、毒のように削り取る
いつも最前線で血を流しながら進路を作る
敵の血を吞むように口を開けそれを肴に戦いに酔う
誰よりも殺し、戦功を挙げる無双の武人
誰よりも早く奥へ突っ込む馬鹿
現在では一人かけているが、隊長戦でこの五人は部隊創設以来各部隊長の座を譲っていない。
勝ったものから部隊を選ぶ。そうしてそれぞれと相性がいい部隊に就任し、隊長副隊長は所属する部隊の名を一番隊、二番隊に変える。
それが、俺が所属する前からずっと続くこのクソみたいな部隊の伝統。
だからこそ、居場所は戦場にある。
最も戦場で身近な神の名を冠した部隊。
『五番、担当区域の殲滅完了。一番を援護する』
『三番、敵援軍を確認。殲滅する』
『二番、仕事終わりました。本営に戻って指揮系統を修復します』
各部隊の連絡兵から続々と報告が上がり、部隊間で戦略的な動きができ始める。
既に爆弾を落とし終えた航空機の群は機銃により地上を攻撃し、先ほどまでではないにせよ兵士が倒れ、伏していく。
鳥のような形の影が戦場を横切る。
それは今見ている物よりもずっと遅く、速度では比べるまでもなく劣っており、たった一機では抵抗すらできないように感じさせる。
灰色の尖った戦闘機が何機も地に墜とされ、何かに斬られたかのような断面をさらす。
「こっちもこっちで、狂ってんなぁ」
「……慎人。まだ死に場所を探してんのか」
灰色の群れが支配する空の中ではよく目立つ深緑、翼の部分は鉛色に輝き、鋭利な刃物のようになっている。
その翼は剣のように相手を斬る。上だったり、横だったり、機銃も駆使し、あらゆる死角をついて相手を墜とす。
明らかにジェット戦闘機がドッグファイトに弱いと知っている人間の動き。
「これ、現代の奴らが見たらなんていうかなぁ…とくにパンサーの開発者」
きっと泣くだろう。
最新鋭の戦闘機作ったつもりが日本軍の旧式に部隊丸ごと壊滅させれそうになっているのだから。
「未来人は規格外でないといけないのかねえ…とっ」
「隙をつく時には声を上げるなよ、来世では気を付けろ」
横から雄叫びを上げて突っ込んできた中国軍の兵士の首に銃剣を刺し、意識を地上に戻す。
当たり前だが、まだ戦闘は続いており、そこら中から銃声が聞こえる。
何をしていたのか見失っているので、頑張って記憶をさかのぼる。
達城、逃げる敵、首相、学良
あ、張学良かもしれないやつか
「行くぞ」
「はい」
「どこだっけ」
「忘れた」
「いいから達城と合流する。そうすりゃ何とかなる」
達城がまともな奴で良かったと、本当に思う。何だかんだ一番まともなのは変わらず二番隊なのだ。
皮肉なことに、まともじゃないやつらはまともな奴がいないと何もできない、それどころか組織として成り立たない。
下は爆発、上は銃弾。
嫌な戦いだよほんとにもう。退役して普通のサラリーマンになりたい
自分の小銃のマガジンを変えながら、そう思った。




