空の中
銃声響く地上から離れ、上空。
そこではまた別の銃声と、鉄のぶつかり合う音が響く。
灰色の戦闘機は散開し、その中心では航空機ではありえないような軌道を描く緑の戦闘機が機銃ではなく自身の翼を刃のようにして一機、また一機と灰色を墜としていく。
相手の顔がはっきりと視認できる距離に来たかと思うと、次の瞬間に見えるのは地面。
一発の被弾もなく機銃の雨を避け続け、風を操るかのように自由に軌道を変更。そして上から鉄と緑の色が混じった翼を叩きつけて戦闘機を両断していく。
何とか避け、攻撃を止めることで最大限回避しようとも音速級であるはずの機体に僚機と思われる別の零戦から放たれた機銃弾が突き刺さる。
一機、また一機と穴だらけに、真っ二つになって僚機が落ちていく
無線に響いた怒号も、それを聞く部隊員はいない。
残された一機に、容赦なく零戦部隊が襲い掛かる。
パンサーのパイロットは長い瞬きをし、追いすがる零戦を見て吐き捨てた。
『Fuck You!』
ご丁寧に暗号解読の現場を見て知った日本軍の無線の周波数に合わせ、意味は伝わらないだろうと分かりながらも精一杯憎悪を込めて叫ぶ。
自然と笑いが漏れ、操縦桿を握る腕から力が抜ける。
ノイズ交じりの無線に二十代そこそこだろうだろう青年の声が混ざる。知らない声、恐らく日本側のパイロットだろう。
『Alive!』
「……!!」
生きる。
きっと、生きろ。と言いたいのだろう。イントネーションも、意味も適切ではないと分かる。
だが、腕に力が入る。さっきとは違う大笑いが漏れ、英語初心者の青年に感謝したいほどだが、真っ向から感謝はできない。それは癪だ。
「Yes sir」
短い、ほんの少しの返事。
今度は相手側の無線から微笑のような笑い声が漏れる。
一機のジェット戦闘機が急旋回し、空域から離脱していく。
「…隊長、一機逃しました。俺はもう燃料がないです。追撃はそちらでしてください」
誰にも見られないのをいいことに声だけ真面目の、満面の笑みで無線の先にいる人物へ報告する。
「さて、」
「隼人の馬鹿は生きてるかな」
一機の零戦が、戦場の真ん中に不時着した。
ジェット機の撤退を機に赤坂と藍月が全力で押し込みにかかり、敵軍が瓦解していく。
俺と達城の追撃の方は上手く行っているとはお世辞にも言えず、ほぼ返り討ちに遭っていた。
歩兵と指揮官を乗せ、警備の部隊までついている装甲車に追いつけるわけがなくどんどん距離は離れ、既に点となって走り去っていく装甲車が見える。
「…追撃はやめだ。掃討戦に入る」
『了解』
部下に指令を出し、振り返る。
零戦が黒煙を上げながら不時着したのが見えた。
戦場の中心まで走る。
段々と近づいてくる航空機のシルエット。そこにもたれかかっている人物の顔は見知った顔の一つだった。
「よう、エースパイロット」
「うるせえよ、一尉」
掃討は終了。後は交代で哨戒して敵が残っていたら報告するだけの緩い警戒体制だ。
だからこうやって旧友とゆっくりと話をする機会ができている。
「一尉はやめろ。もう五年…いや六年前の話だ」
「へいへい……そういや、修也はどうした。てめえのとこの副隊長だろ」
黙って煙草に火を点け、そいつと向き直る。
「死んだよ」
「現代じゃ誰に誘われようが断ってた煙草も、それが原因か?」
「………これの原因はストレスだ」
「そうか。一本くれ」
そう言って返事を待たずに煙草を俺の手から抜き取り、零戦の残骸から出ている火で煙草を点ける。
「…いや、逃げろよ」
「馬鹿言うな。こんくれえじゃ爆発しねえよ」
「エンジンや燃料に引火してみろ、俺とお前はここで死んで未来人はみんなパァだ」
「ケケッ」
火が出ていることを何ら気にせずそいつは煙草をふかす。
「四年間何してたんだ?」
「…聞くか?あんま笑えねえ話だぜ」
「聞かせろ。上官命令だ」
「所属が違うだろうが」
「んじゃ先輩命令だ」
「へいへい…といってもあんたらと同じで地獄に放り込まれてただけだよ」
そう前置きして遠くを見つめ始める。
遠い戦場を回顧するように、散った仲間を思い出すように。
四年前・ブルネイ
「俺たちは、いつ帰れるんだろうな」
「気にしたら負けだろ。黙って仕事だ仕事」
これは俺がまだ真面目に軍人をしてた時の話。
ある意味で全盛期、ある意味で低迷期、正しい意味で黎明期の、そんな話。
まずこの物語は、左遷から始まる。
お久しぶりです。
すみませんでした。ぼちぼち再開するので32℃くらいの生暖かい目で見守っていてください。
アークなナイツとタクトなオーパスが面白すぎる。




