ある意味での故郷
日本が誇る聯合艦隊、十数隻の戦艦、戦艦の二、三倍はいる駆逐、巡洋艦。そして先日竣工したばかりと言われている三隻の空母。
その、全部で何隻か数える気もなくなるほどの大艦隊に護衛され、中国を目指す。
沿岸が見えたころ、一際大きな波で大きく船が揺れる同時に前方を行く高速戦艦の艦橋で何かが爆発。それを俺たちが認識すると同時に周囲の艦が一斉に主砲を撃つ。
絶え間なく響く砲撃音と何度も近くに着弾する弾の中、無線機に向かって叫ぶ。
「山本さん!いったいどうしたんだっ」
『長くは話せない、手短に言うぞ。今すぐ百八十度回頭しろ、沿岸はもう奪われている』
「了解だ、全部隊に伝えろ後
「どうした?」
「ま、前の奴ら、ほとんど全部そのまま突撃しています!」
…藍月の野郎、沿岸は大丈夫だと思って元三番隊を前に集めたのが間違いだった。あそこは五番隊並みに血の気が多い。一応、一番奇襲が得意な部隊のはずなんだけどな……
「…仕方ない、戦車部隊。撃ち返せ!」
艦船よりは軽い音が連続して響く。
試作九式戦車 チヤ
大臣から預けられ、ついでに運用試験代わりに投入したまだ欠点おおありの試作機。
まあ、沿岸の砲兵部隊相手の固定砲台なら充分すぎる働きをする。
相手が次弾を装填する前に藍月達の先遣隊が上陸、左右に展開する形で沿岸を奪取し、返す刀でそのまま敵防衛陣地になだれ込む。
行きたくねえと思いながらも本隊が上陸。戦車を輸送艦から降ろし、前進を開始。
「最優先目標は奪還ではなく殲滅だ。占領しないで次に行くぞ」
『『『『『『了解!』』』』』』
そのままの勢いで急造の防衛陣地を食い破り、初期目標の上海を目指す。
そうして、空の色が黒くなり始める頃、上海に到着。しかし、そこには味方の軍勢など存在していなかった。
「……おいおい、完全に要塞化されてんじゃねえか」
「こんなの、どうしろって言うんだよ」
上海近郊。奇しくもあの時と同じルートをたどり到着する。
そこには無数の機関銃陣地、対爆撃機のための対空気銃、そして、中世ヨーロッパの城壁を想起させる要塞壁がそびえたつ。
素人目で見ても玄人目で見ても隙などないように見える大要塞。最早俺たちが知っている上海はない。
ここはもう主要都市じゃなくて、大都市一つの大きさを持った軍事要塞だ。
「…マジノ線かよ」
「なんです?マジノ線って」
「気にしなくていい。まあ、ただの大要塞だよ」
「色々知ってますね、隊長は」
「軽口はいい、攻略法を考えろ」
その時、重いエンジン音と微かなガソリンの匂いが近づいてくる。
……………飛行機の音だ。
「総員対空射撃用意!戦車隊は榴弾を装填しろ」
師団員全員が散開、戦車はできるだけ仰角を取って機銃手が周囲を見回し索敵範囲を広げる。歩兵は爆発に巻き込まれないように距離を取りながらも援護できる範囲で散らばって地上警戒と対空警戒に分かれる。
そして、頭上に現れたそれはここにいるほとんどが見たことのない機体で、疾風のごとく要塞壁に向かっていく。
「…零戦部隊」
「あれが、空母に乗っていた新型機ですか?」
「ああ…今この瞬間、世界にこれを超える飛行機はない」
ただの零戦ではない、爆弾を搭載した、爆装零戦。
その部隊は易々と敵の対空機銃を避け、要塞壁に向かって腹から爆弾を叩きつける。一瞬の閃光と共に数キロ離れているここからでも鼓膜をつんざくほどの爆発音が響く。
反射で歩兵が皆伏せる。顔を上げると、黒煙を上げて崩れる要塞壁と仕事は果たしたと言わんばかりにゆっくりと旋回した零戦が今度は逆方向に向かって頭上を通り過ぎる。
「……すげえ」
誰かがそう呟く、新人が多い部隊は初めて見る航空戦力に目を奪われているようだ。ただ、新人も古参も関係なく航空機の凄さに目を見開いている
雰囲気なんぞ知るか、と言うように元五番隊隊長、阿賀廉也と配下の部隊が突撃。
それと競い合うようにして藍月の部隊が突撃を始める。師団のほぼ半数が移動したことで大きな流れができ、それに流されるように本隊も動き始める。
「いつも通りだ、互いに援護できる距離を維持。味方に当てるなよっ」
「「「「「了解!」」」」」
第二次上海攻略戦は圧倒的優勢のまま開戦した。
解説
・聯合艦隊
日本海軍の最高戦力にして主力艦隊。当時英米と肩を並べるほどの海軍大国であった日本はアジア一、年によっては世界一の海軍力があったと言っても過言ではない。
聯合艦隊はその象徴であり、畏怖、畏敬の対象であった。
・マジノ線
フランスがドイツ国境部に国家予算を数年分かけて建造した大要塞。あまりにも長いため、地下には列車が通り多くの武器弾薬が貯蔵されていた。
今でも残る部分が多くあり、フランス観光ができたらぜひ行きたい
史実ではドイツのベルギー経由により裏に回られ意味が無くなった。
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