反乱の指揮者
「…私は君を知らないが、なぜ知っている?」
「簡単な話さ有名人。あんたは帝国派の要注意人物だからな」
「なるほど、動きすぎたわけだ」
「ご名答」
北一輝が一歩進み、拳銃を握る手を上げ、照準を合わせる。人殺しが初めての者特有の迷いは既に消えているようだ。
――狂信者か、それとも覚悟が決まっているか…どっちにしろ、このままじゃ死ぬ
それが分かった瞬間に底の厚い軍靴の音を響かせながら石畳を蹴り、銃剣で拳銃を持っている右腕の腱を切断する。
「ぐっ…!」
たじろいだ隙に軍刀を抜き、追撃を仕掛けるべくもう一度石畳を蹴る。左手の軍刀が一輝を袈裟斬りにすべく右肩に食い込もうとした時、一発の銃声が響いて左手から軍刀がはじかれたように宙を舞った。
「邪魔をするな、三下」
「…そっくりそのまま返すぜ、雑魚助」
地面に倒れている一輝を放置して、銃弾を回避しながらも右手の銃の残弾を全て撃つつもりで乱射する。
弾が切れた瞬間、銃を投げ、相手に銃剣を突き刺す。
発煙筒を地面に投げつけ、視界を遮った隙に軍刀を拾い、腰のホルダーから拳銃を抜いて相手がいるであろう方向へ突進する。
「さよなら」
「…っ」
首筋を切った後、後ろから心臓の位置に拳銃を撃ち込む、隊長的な奴だったのか精神的な支えだったのか他の奴らが一気に統制を失い、突撃を始める。
「指揮官は動けないが…そのあがきが一番やりにくい」
一人だけでの状況では人海戦術で攻められるのが一番対処しにくい、何とか近いやつだけでもと弾切れの拳銃をしまい、軍刀で薙ぎ払うように攻撃する。
「まあ、もう一人かどうかは関係ねえか」
呟くと同時に目の前の奴が倒れる。
間髪入れずに重砲の弾が飛来、俺ごと殺す気と言わんばかりに砲弾が地面に、兵士に叩き込まれる
「すみません師団長。別動隊を始末していたら遅れました」
「おいおい、副官さん。師団なんだから半分くらいに分けてくれよ、死ぬかと思った」
「いいですね、そうすれば俺が師団長です」
「…あいつがいなくなってから冗談言うようになったな、達城」
「壊れた、と言ってください。俺じゃああの問題児共は統率できない」
「だな」
「否定してくださいよ…」
軽口を交わす間にも、いつものメンバーによって相手はどんどん減っていく。
知らない顔の方が多いのを見て、何となく自分の昇格に実感を持つ、今考えることではないとは思うが残っているのは投降したので戦闘は終わったことにはなる
「師団長、一帯の制圧終わりました」
元三番隊隊長の藍月士郎が軽い笑みを浮かべて報告する。笑っている理由は俺が師団長なのがおかしくて仕方ないのだろう。
「ああ、とりあえず北は上に渡そう。俺らの管轄外だ」
「了解。にしても隊長がここら辺全員の指揮官なんておかしいですね」
「全くだ、帰るぞ駐屯地に全員集めろ…反乱鎮圧のねぎらいと二時間遅れの挨拶だ」
修也の銃を死体から引き抜き、穴が開いて煤けた石畳の上をコツコツと音を立てながら歩く。
――背筋に悪寒が走る。修也が死んだとき同じような、酷く冷めた何にも例えられないほどの冷たい、体中が氷になったような感覚。
もしかして、あいつら――
考えるよりも先に後ろの部下を置いて家までの最短距離を突っ切る。家の前に着くと、玄関の鍵穴は壊されて、中に誰かが侵入したことがわかる。
「佐紀!彰!幹太!仁美!」
「あ…」
居間の襖を開けると、四人で固まり身を守っているかのような態勢をした四人がいた。
俺の声で安心したのか四人とも起き上がり、息をつく
「佐紀、何があったんだ?」
「知らない人が、入ってきたの。銃を持った三人組」
「何かされたか?」
問いかけると、四人そろって首を横に振った。
安堵しつつも家の中を見渡すが、本当に何も変わっていない。本当に何をしに来たんだと言いたくなる、銃を持っているなら軍人だろう。組織を洗えばわかるかもしれないが何もされてないなら問題はないか。
……もし見つけたら鍵代は請求する。くっそ、まだローン的なもの終わってねえんだぞこの家。
「まあ、何もされてないならよかった」
「おとーさん」
四人の中で一番小さい、まだ舌足らずな発音をする一番下の幹太が上着を引っ張る。
「幹太?どうかしたのか」
「えっと、さっきの人。あっちにいった」
幹太が指をさした方には開けっ放しの勝手口と、庭へ続く複数の足跡がある。鍵を壊したうえに土足で来やがったらしい。
一応無線で達城に連絡を入れてから立ち上がり、四人にそれぞれ靴を履くように促す。
「え?どこに行くの?」
不安そうに彰が行き先を尋ねる。まあ、普通こんな状況なら不安にならない方がおかしいと思いながら幹太を抱き上げ、仁美にちゃんと佐紀についていくよう念を押す。
「行き先は、うちの師団の駐屯先。家がこんなんだから少し離れた方がいい」
「いつぐらいに帰ってこれる?」
「俺たちがここら辺を安全にしたら帰ってこれるさ」
「じゃあ、すぐ?」
「六月には帰ってこれるさ」
今の日本は不安定すぎるなと思いながら佐紀がまとめてくれていたのだろう荷物を背負って家を出た。
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