今は亡き戦友へ、雛罌粟の花は咲き誇る
話しかけられたような気がして、意識が現実へと引き戻される。
今、どうしてか俺ではなく修也の記憶を見ていた、そのことに違和感を覚えながら振り向く。視界の端に映ったのはあるはずのない雛罌粟とやれやれという風に苦笑いを浮かべる修也、そして、駆けていく俺。
それを見た瞬間、後ろに誰かが立っているような感覚があった。慣れ親しんだ、だが、もう二度と感じることはないと思っていた気配。
『昇進おめでとう。隼人』
『部隊も大分賑やかになるんじゃないか?』
「…お前が居なけりゃ、寂しいままだよ」
『………ごめん』
「いや、今のは俺が悪かった。お前のことだ、ずっと見ていただろ?」
『勘がいいな、相変わらず』
「もういい、今度こそ、ゆっくり休め」
『ありがとう、どうやら僕の未練はこれだったみたいだ…じゃあ、少し長い休暇をもらうとしよう』
そして、その気配は消え去る。振り向かなかったから分からないが、きっと、あいつは笑うことができたんだろう。
俺なんかのために、魂だけ残り続けて、本当に、過保護な奴だ。
――あの日だって、達城を行かせなければ死んでいなかったろうに
「…馬鹿野郎、勝手に死んでんじゃねえよ…」
少し強い風が吹き、赤と白の雛罌粟の花びらが舞っている幻覚を見る、あるいはあいつが最後に何かを伝えたかったのかもしれない。
僕はそこに、確かに笑って前へと進んでいくあいつを見た。
俺もあの世へ行ったら、耳が腐るほどの土産話を聞かせられるくらいには生きよう、そう思って僕も前を向いた。
そして、振り返らずに歩きだす。
あいつと同じように笑って、あいつと同じように胸を張って、あいつがいなくても、俺自身を俺自身が誇れるように、あいつを次見るときは、全てが終わっているのか、それとも――
一九六三年・???
「隊長、達城副隊長が今、息を…」
「ああ、でも、泣くのは後だ」
「…はいっ」
長年付き添ってきてくれた青年士官…もういい年したおじさんになった達城が今、目を閉じた。
互いに短いが険しい道を歩いてきたと思っている。
達城は、最後に笑えただろうか、自分を誇れただろうか、そして、どんな未練があったのだろうか
今となっては知るすべもない。
僕は泣き笑いをしながら自分の銃を抱えた。
人類史に限らず、歴史には大きな転換点がある。
恐竜の絶滅や人類の進化の過程、世界大戦の勝敗、さらに今これを見ているかもしれない君たちの出身地がほんの数センチ違うだけでも歴史は大きく変わるかもしれない。
俺が立っているのはそんな膨大なIFを重ね、ドイツが一次大戦で勝利した世界。
長い年月をかけ、世界は変わる。それを伝えるのはいつも過去の者で、未来の人類はそれを知らない人がいるのかもしれない。
それでも語り続けよう。これは、別の世界から転換点へ送り込まれた三人の未来人の話であるのだから
最後にちょっと伏線に見えるものを書かせていただきました。
あ、ブックマークありがとうございます。
この話で中国戦線・秋田修也編は最終話とさせていただきます。
次回から新章「帝国動乱編」の予定です(予定!!!)




