真性腐女子の英才教育!
それからは、架恋による教育が始まっていた。
真性腐女子による新米腐女子研修……とでも言うべきだろうか。とにかく日本のBL文化に触れて腐女子属性を開花させたはいいが、クレハドールとライカのあまりにも偏った腐女子観を正しい方向へと矯正させるべく、架恋が動いたのだ。
まずは一番大切なことを教え込む。
それは……
「養殖モノは邪道よっ!」
……ということだった。
「あたし達は限られたゲイ達を最大限に楽しまなければならないのよ。無理矢理洗脳してまで生まれたなんちゃってゲイなんて、天然モノの前では色褪せるに決まってんでしょ。つまり、クレハ達の男人類ゲイ化計画なんてのは、紛い物を増やす冒涜行為でしかないのよ。そんなこと絶対に許さないからねっ!」
だん、とテーブルの上に片足を載せて力説する架恋。その迫力に、クレハドール達は若干気圧されてしまう。
「で……でも! ゲイだったらいいのに、とか思う男の人がいたら? そんな人がノーマルで女の子といちゃいちゃしているのを指をくわえて見てろって言うんですか?」
「そこは妄想の出番よ! その男にだって男友達や男の知り合いがいるはずだからね。たとえば常連の喫茶店とかでそれっぽい店員さんとかと話してたら、そこから妄想を広げることが可能よ! 店員×リーマン! とかねっ!」
「おおっ!」
「なるほどっ!」
「大体美形を片っ端から同性愛者にしてたら、美形の子供が生まれなくなるじゃないの。鷹が鷹を生むことはあっても、鳶が鷹を生むなんてのは奇跡みたいな可能性でしかないんだからね。次世代の美形に次世代の薔薇を託しつつ、今世代の薔薇を愛でる。あたし達はそうやって現実と妄想を広げていくのよっ!」
「何て深い言葉っ!」
「そうですよねっ! 私達のせいで次世代のBLが激減しちゃうなんてことになったら本末転倒ですよねっ! 妄想によって次世代の薔薇を育む! 勉強になります!」
……などという会話が繰り広げられていた。
男人類ゲイ化計画はやめてくれそうだが、精神的な腐り具合はむしろ悪化しているらしい。
その後、街に繰り出して腐女子としての基本スキルを叩き込まれることになる。
「受・受・攻・受」
クレハドール・架恋・ライカの順で人混みを抜けながら、すれ違う男性のBL受攻判別を行っている。見た目とか、雰囲気とかで一瞬で受攻どちらかに向いるかを判別するのである。
まさにスキルと呼ぶに相応しい判別速度だった。
クレハドールは架恋が指さす方を視線で追い、ごくりと喉を鳴らし、ライカの方は指さしに合わせて「はわわわわぁ~~~」などと赤くなっている。早速組み合わせ妄想が行われているらしい。
ごく稀に男性同士がじゃれ合っていたりすると、すぐさまプチ妄想が開始される。
「ああ、あっちは誘い受けね」
「誘い受けっ!」
「強そうですっ!」
誘い受け妄想開始っ!
まさに手玉に取る感じがたまらないといった感じだ。
二次元BLでの楽しみ方はほぼマスターしているようなので、架恋は三次元BL妄想についてのマナーを叩き込むことにしたようだ。
そして三人は架恋や殊巳達が通っている穂波学園へと移動した。
架恋がグラウンドの方を金網越しに、ストレッチ中の陸上部男子二人組を指さす。
「男同士のストレッチってのも、中々エロいわよ」
「そうなの?」
「うーん。普通にストレッチしてるようにしか見えませんけどー……」
「う腐腐腐……二人の会話に耳を澄ませながら、さっき私が教えた三次元妄想スキルを発揮してみなさい」
「…………」
「…………」
言われた通りに妄想しつつ、ストレッチ中の二人組の会話に耳を澄ませる。一応、ギリギリ聞こえる位置にいる。
『ホラ、もっと力抜け。足も開けよ』
『いててて……もう少し優しくしてくれよっ』
『ホントにかたいな。少しずつほぐしてやるから、俺に任せろ』
『うあっ! ちょっ……勘弁してっ! もう駄目だってっ! これ以上は……あっ!』
……………………三次元妄想脳内変換中。
「エ……エロいわね……」
「エロいですね……」
「音声だけだとぶっちゃけナニ中にしか聞こえないでしょ?」
「………うん」
「恐るべし脳内妄想です!」
むしろ恐るべし腐女子脳内妄想変換というべきだろう。
健全なスポーツ少年達が腐女子連中に視姦かれていた……。実質的な被害はないから、まあ、いいのかもしれないが。
しかしストレッチ中の少年二人は寒気くらいは感じているのかもしれない。
続いて舞台は電車の中へと移る。
ちょうど部活が終わって寄り道した学生や仕事が終わって帰宅するサラリーマンなどで混み合う時間帯だ。
勿論腐女子フィルターにより女性の存在は視界にも入らない。
ここで架恋はこっそりと、部活帰りの三人の男子学生を指さした。
一人は背が高く、がっしりとしたバリ攻め系。
一人は平均的な身長で、受け攻めどちらにも対応できそうなリバーシブル系。
そしてそんな二人の中心にいるのが身長百六十未満の可愛い顔立ちをしたバリ受け系。
それぞれがコンビニで購入したらしいジュースを口にしていた。バリ攻め系はコーラ、リバーシブル系はミネラルウォーター、バリ受け系はパックジュース(しかもいちごみるくっ!)を飲んでいる。
「攻・受・攻?」
「いいえ、攻・受・受ですよ」
そしてここで初めてクレハドールとライカの意見が分かれた。
「どう見ても攻・受・攻でしょ? 攻め二人に蹂躙される美少年っ!」
「いいえ! 両手に薔薇の攻・受・受です! 二人からご奉仕される攻めの天下ですっ!」
「………………」
「………………」
腐女子の友情はカップリングで簡単に亀裂が入るらしい。
「こらこら、しょーもないことで喧嘩しないの」
そして架恋の仲裁が入る。
「しょーもなくないっ!」
「そうです! 分水嶺です!」
「バカねー。妄想は無限だからこそ妄想たり得るんでしょ。自分から枠を狭めてどうすんのよ」
「あ……」
「確かに……」
「分かればよし。次に行くわよ」
新米腐女子研修、最終コースは……
ゲイバーだった。
リアルゲイが集まる聖地巡礼。
出てくる頃には……
「はぁ……いいもの見せて貰ったわぁ……」
「本当ですよねぇ……いるところにはいるものですねぇ……」
クレハドール、ライカ共に頬の辺りがつやつやになっていた。二人を連れ回していた架恋も満足そうに頷く。
「これで分かったでしょ。限られた条件下での楽しみ方ってのが」
「師匠と呼ばせてくださいっ!」
「同じくっ!」
そしてライカ、クレハドールの順番に、そんな台詞を口にしていた。どうやらこの一日で、架恋の腐女子スキルに心酔してしまったらしい。
「う腐腐腐……いいわよ。好きなだけ呼びなさい」
「師匠っ!」
「師匠っ!」
こんな感じで、腐女子の師弟関係が成立した。
成立しなくてもいいものが成立してしまった感じである。




