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変態と天才は紙一重?

 僕とクードリリエ、そして凍澄とティアトリーゼが腐女子魔法少女コンビ、クレハドールとライカとの一戦を終えた次の日。僕は凍澄の家に招待されていた。


 どうやら凍澄自身も魔法少年スカウトされたのは僕と同じく、昨日の夜らしい。


 お互い右も左も分からない状態なので、ひとまず二人と二匹で現状確認をしようということになったのだ。


 本日は土曜日。ちょうど学校も休みだ。ゆっくり話すにはもってこいだった。


 僕の家……つまり僕の部屋……要するに架恋のBLアイテムてんこ盛りの部屋でそんな話をするわけにもいかず、結局、凍澄の提案により、鐘騨家の凍澄の部屋で行うことになった。


 凍澄の部屋はスポーツ少年らしく、ダンベルなどが転がっていた。しかも一個あたり十キロ……。勉強机には教科書やノートが積まれていて、壁掛けには制服や部活で使用する柔道着が掛けられている。


「あ。ことみセンパイはベッドに座ってください」


 六畳間にベッド、勉強机が置かれているため、少々狭苦しく感じるが、一応は中心にこぢんまりとしたテーブルが置いてあったので、僕は凍澄の発言をスルーしてテーブルの脇に腰を下ろすことにした。


「信用ないっすねぇ。別に襲い掛かったりはしないっすよ。妄想はするっすけど」


「妄想もするなよっ!」


 オカズにされてはたまったものではない。


 そして僕と一緒に来ていた(僕の鞄の中に這入り込んでいた)クードリリエは、凍澄の部屋を物色していたりした。どうやら何かを探しているようだ。


「にゃー? てっきりゲイ雑誌とかあるかと思ってたんだけど一冊も見当たらないにゃ~」


「………………」


 何探してんだこいつはっ!


「隠したにゃ?」


 クードリリエがびしっと、凍澄を指さす。エロ本を隠す男子高校生……ではなくゲイ雑誌を隠す男子高校生というのもなかなか微妙だった。


「隠してないっすよ。俺にはゲイ雑誌なんて必要ないし」


「にゃんとっ!」


 意外なストイック発言にびっくりするクードリリエ。


 しかし……


「俺はことみセンパイのことを考えるだけで粉ふくまでイケるっすからね!」


「聞きたくないっ!」


 ああ……誰か僕に耳栓を貸してくれ……。


 粉ふくまでって、サルじゃあるまいし……。


 そんなやり取りをしていると、凍澄の部屋のドアが開いた。入ってきたのは、銀髪の少女だった。


 年齢は十三歳くらい。肩まで伸ばしている銀髪を揺らしながら、四人分の紅茶を一つずつテーブルに置いていた。瞳は満月のような金色をしている。珍しい色合いだ。


「――誰この子? まさか妹?」


 身体特徴的にそれはあり得ないと思いつつも、他に可能性が考えられないので一応そう訊いてみる。


「ん? いや、こいつティアっすよ」


「ええ――――っ!!??」


 なんと! この銀髪金眼美少女は、ティアトリーゼ・アインセルらしい。


「ちょっ……僕んとこのとかなり違うくねえっ!?」


 僕はクードリリエを掴み上げてティアトリーゼと見比べる。


「にゃにするにゃーっ!!」


 僕の手の中で、じたばたと暴れるクードリリエ。


「ああ。それはクードリリエが人間形態を取っていないだけっすよ。ティア、一旦戻れ」


「はい。マスター」


 凍澄に言われて、ティアトリーゼは発光し、一気にその身体を縮ませる。あっという間に犬のぬいぐるみの形になった。


「………………」


 僕は恐る恐るクードリリエの方を見る。


「ままま……まさかお前も人間形態になれたりするわけ?」


「もちろんだにゃ。省エネと省スペースを考慮してこの形態を維持しているだけにゃ」


「聞いてないぞっ!」


「言ってないから当たり前だにゃ」


「み…見てみたいんだけど……」


 僕はちょっとドキドキぢながらそんな風に言ってみた。もしかしたらティアトリーゼ同様、美少女という線もあり得る。


「お断りだにゃ」


 しかし、クードリリエはあっさりとその要求を拒否した。


「なんでだっ!」


「その必要を感じないにゃ。今ここで人間形態になったところで部屋が狭くなるだけにゃ」


「ケチ」


「にゃんだとーっ!」


 ……ああ、しかしもしもクードリリエの人間形態が女の子、しかも美少女だったとするのなら、かなりの問題があるぞ。僕は女の子、しかも美少女かもしれないキャラを壁にぶつけたり足蹴にしてぐりぐりと踏みつけにしていた最低なキャラに位置づけられてしまう。それは何だかマズいなぁ……。



 まあ、雑談はひとまず置いといて。


 僕達は現状の確認を行うことにした。


 僕の状況と、凍澄の状況は、どうやら随分と似ているらしい。凍澄の方も昨日の夜、突然『魔法少年やりませんか?』的なスカウトをティアトリーゼから受けていたらしい。

 

 そして勿論、僕と同様に断ったらしい。


 まあ、普通はそうだよな。ただし、僕のようにティアトリーゼを投げつけたり踏みつけたりはしなかったようだが……。


 そんな凍澄が何で魔法少年になって、しかも僕のピンチに駆けつけてくれたかというと……


「マスターは……殊巳さんの名前を出した途端、あっさり手の平を返しました……」


 ……と、ティアトリーゼがやや疲れた風に言った。


「あはは。ことみセンパイを助ける役どころってんなら、他の誰かに譲るわけにはいかないっすからね。ことみセンパイと魔法少年仲間っていうのも案外悪くないだろうし」


「………………」


 動機が不純だなぁ……。保身のために魔法少年になった僕も、まあ人のことは言えないのだけれど。

 

 そしてレキサリオという星のこと。


 クレハドール達の本来の役割と、現在の逸脱行為。


 その粗筋をクードリリエとティアトリーゼは語った。


「……つまり? 健全な惑星調査のはずが、いつの間にか趣味全開の職権乱用行為に走ってしまっているってことか?」


 僕は話を聞いた後、やや呆れつつもクードリリエ達に問いかける。


「そういうことだにゃ。まあ、レキサリオにもBL文化人気が高くなっているから、完全な職権乱用ってわけじゃないにゃ」


「ロクでもねえ星だな……」


「ん? ちょっと待ってくれよ」


 そこで、凍澄が割り込んだ。どうやら何か疑問があるようだ。


「今の話だと、昨日のお嬢さん達、クレハドール達がやってることってのは、国? 星? 公認ってことだよな? だったら何でティア達が送り込まれてるんだ?」


「それは……」


 クードリリエはやや言いづらそうに言葉を濁す。どうしたのだろう。


 しかしそこはティアトリーゼの方が説明を加えた。


「それはマリセス・アインセル博士の独断だからです」


「マリセスって……確かお前らを創ったっていう天才科学者?」


「ええ」


「でも何で……」


「簡単にゃ」


 今度はクードリリエが答えた。


「マイスターはホモフォビア(同性愛嫌悪)にゃ」


「………………」


「………………」


 どいつもこいつも自分の都合でしか動いていないようだ。


 地球侵略だとか何とか言っていた割に、詳しく聞いてみれば随分とスケールの小さい話だった。


 まあそれでも、世界の危機に変わりはないのだけれど。


 世界とは、世界そのものではなく、個人が認識している範囲のとても小さなものでしかないのだから。


 少なくとも、僕は僕自身の世界を守るためにクレハドール達と敵対しなければならないらしい。


 しかしクードリリエ達にとってはいい迷惑だろう。いくら生みの親の命令とは言え、こんな個人的なことに振り回されているのだから。


「一次調査の際にはマイスターも同行していましたから。あらかじめこの星に存在する私とクードリリエの適合者を見つけ出していたのでしょう」


 計画的過ぎる。


「さすがにティアトリーゼの適合者を見つけたときにはびっくりしていたみたいにゃ」


「そうですね。私自身、適合者が存在するとは思っていませんでしたから」


 ティアトリーゼは犬姿のまま、じっと凍澄を見つめる。その視線に凍澄の方は肩を竦めるだけだった。

居心地が悪かったのだろう。ティアトリーゼの、宝物を見るような目で見つめられることが。

 

 結局のところ、地球→レキサリオへのBLアイテム輸出は止める必要も止める理由もないが、現地人の洗脳行為に関しては違反行為でもあるので、クードリリエ達にも止める権利があるらしい。

そしてクードリリエ達にしか止められないらしい。


 何故なら、レキサリオ人そのものがその違反行為を黙認しているからだ。


 ……ほんっと、ロクでもない星だ。


 そう考えるとクレハドール達の『ローゼン・シュヴァルツ』ってのも、実は結構大きな組織なのかもしれない。むしろ腐女子コミュニティ、みたいな。


 勿論反対派も存在するだろうが、直接的にクレハドール達を止める力を持つのは、融合型アークドライブを開発したマリセス・アインセル博士のみだったらしい。


 ……あれでクレハドール達、意外とエリートらしい。レキサリオの大半の魔法師は彼女達の足元にも及ばないとか……。


 融合型アークドライブが規格外なのか、レキサリオの魔法師がヘボいのか。判断が微妙なところだった。


「つまり僕達はクレハドール達がこの星の人間、男に例の染色体変異弾って奴を撃ち込もうとしたときに行動を起こせばいいんだな?」


「もしくは、撃ち込まれた後の処置、ですね。クレハドールの染色体変異弾に対する抗性プログラムは、既にマスターが組み上げてくれました」


 ティアトリーゼがビー玉のようなものをクードリリエに差し出してくる。緑色のビー玉、いや、宝石なのかもしれない。


「組み上げたって……たった一日で!? いくらなんでも仕事が早すぎにゃいか?」


 クードリリエは信じられないとでも言うように凍澄を見る。


「昨日の戦闘でレキサリオの『魔法』って奴の性質は大体掴めたからな。染色体変異弾のプログラム解析も、あらかじめティアが済ませてくれていたし。俺はちょっと手を加えるだけで良かったんだ」


「それにしたって……」


 こんなあっさりと。脅威の無効化手段を出されると、本当に色々なことが無意味になっている気分だった。どれほどの努力もどれほどの煩悩も、才能の前では無意味なものに成り下がってしまうのだろうか。それも虚しい話だよなぁ……。


「マスターは度し難い変態ではありますが、マイスターに匹敵するほどの天才性を秘めています」


「……度し難い変態ってのは否定しないんだ」


 ティアトリーゼも自分のマスターに対して随分と容赦がなかった。褒めてるんだか貶してるんだか……。


「否定する理由がありませんから」


「……確かに」


 本人が開き直っている以上、周りが否定しても空しいだけだ。


 しかし変態で天才、か。


 何だか酷くタチの悪い存在のような気がする。



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