星を超えた運命の出逢い?
その後、架恋はクレハドール達のアジトへと招待されていた。
本屋から徒歩十分ほどにある六階建てのマンション。4LDKの家族用マンションは、二人で住むにはやや広めだったが、その分のスペースを溢れんばかりのBLアイテムで埋め尽くされていたので、むしろ狭苦しい印象があった。
「へえー、これはなかなか……」
八畳間の約三分の二という制限がある架恋にとって、ここはまさに宝の山だった。
「いいわね。スペースがあると。あたしもいつか独り立ちしたらこれくらいのマンションに住みたいものだわ」
ぐるりと眺めながら、感心したように呟く架恋。
「あ、架恋さん。座ってください。いまお茶を淹れますから」
「ありがと。えっと、ライカ……だっけ?」
「はい。ライカ・ファランクスです。クレハ姉さまの方はクレハドール・フリーゲンといいます」
「んじゃライカとクレハね。あたしのことはそのまま架恋でいいから」
「はい」
ライカがお茶を淹れている間、クレハドールはじっと架恋を見ていた。
やはり似ている。
双子というのは本当らしい。
「それで? 何を訊きたいわけ?」
クレハドールから口を開く。別人と分かっていても、殊巳と同じ顔というだけで先日のことが思い出されて、穏やかな気持ちではいられないらしい。
「そうねー。じゃ、とりあえずクレハ達の正体から聞かせてもらおうかしら」
「正体――?」
「ただの外国人ってわけじゃないんでしょ?」
「……何でそう思う?」
「勘」
「………………」
「もっと具体的にいうと、あたし達と同じくらいの年齢にもかかわらず、こんな立派なマンションに暮らしていることとか。保護者が一緒に暮らしているようにも見えないし。制服も見当たらないし、学校に行っているようにも見えないわね。にもかかわらず、殊巳と知り合っちゃってるところとか。これらを総合して考えると、どうにもまっとうな正体にはいきあたらないわよね?」
「………………」
「………………」
「ついでにいうと、殊巳が絡んでるってことは、凍澄くんも絡んでる可能性が高いはずなんだけどね。あの子、殊巳の犬みたいなものだし」
「……犬か。確かに」
「犬でしたね」
二人が思い出したのは犬耳尻尾だった。
架恋が言っているのは性格の方なのだけれど、話が通じている以上、問題はないらしい。
「……じゃあ、あたし達は宇宙人ですって言ったら、あんた信じるわけ?」
クレハドールが、いっそ挑戦的に言い放つ。
それに対して架恋は、
「宇宙船を見せてくれたらね」
と応じる。
宇宙人と言えば宇宙船。連想するものとしては至極平凡だろう。しかしだからこそ、それが実現されたときには何よりも説得力がある。
「残念ながら宇宙船はないんです。私達は宇宙船ではなく時空間移動によってこの星に来ましたから」
ライカが補足説明を加える。
「時空間……って、異次元みたいなもの?」
「まあ、そうですね。口で説明するのは少し難しいんですが」
「じゃあ宇宙人じゃないじゃん」
「いいえ。架恋さん達、この星の人達の認識に照らし合わせるなら、私達は間違いなく宇宙人と呼ばれる存在です。私達はこの地球から八十五億光年ほど離れた位置に存在する、『レキサリオ』という星から来ました。宇宙船は使用していません。レキサリオの時空間移動ゲートを使用しています。詳しい技術は開示できませんが、時間と空間を任意で歪曲させることにより、無限とも言える距離を繋ぐことが出来ます。宇宙船を使用するよりはこちらの方が手っ取り早いんです」
「なるほど。『どこでもドア宇宙スケール版』みたいなものね」
「……?」
ライカが首を傾げる。ドラえもんは知らないようだ。
「勉強しなさい。日本の国民的アニメのスタンダードアイテムよ」
「……はい」
頷くライカ。素直過ぎる。
「それで? そのレキサリオ人(?)はクレハとライカだけ?」
「『レキサリオ人』はあたし達だけよ。ただし、レキサリオ製融合型アークドライブがあと二匹、この街にいる」
今度はクレハドールが答える。忌々しげに。また嫌なことでも思い出したのだろう。
「レキサリオの天才科学者、マリセス・アインセルが開発した融合型アークドライブ。そのアインセルシリーズが二匹、あんたの弟である唯樹殊巳と、変態・鐘騨凍澄のもとにいるわ。ことみくんの方は大したことないけど、変態の方は厄介よ。セカンドピース、ティアトリーゼ・アインセルの能力は未知数だもの」
クレハドールの投げやりな解答に加え、ライカが先日の出来事について説明する。
殊巳一人の時は簡単に追い詰められたこと。凍澄が割り込んでからはあっさりと覆され、挙げ句の果てに追い詰められたこと。
その、恥辱の過程を、あますところなく。
融合型アークドライブについての説明も簡単に行った。
噛み砕いて言うと、素人でも魔法が使えるようになる便利アイテム&マスコットキャラクターだと言うこと。
「ふむふむ。つまりど素人の殊巳を追い詰めていい気になっていたところに、凍澄くんが颯爽と現れて、素人にもかかわらずその天才性を遺憾なく発揮して、あんた達はボロ負けしちゃったのね」
「ぐっ……その通りだけど、部外者にそんな風に言われるとなんかムカつくわ……」
「んでもってパンツとサラシを奪われて鉢巻にされたり帽子にされたりした挙げ句、全裸に剥かれたのね?」
「そこまで言わなくていいっ!」
「うえーん。架恋さん容赦なさ過ぎですう!」
「そんでもって欲情する価値もない魅力ゼロの裸体扱いされたのね?」
「うるさーい! 変態相手に欲情されたくないわっ! むしろほっとするくらいよ!」
言いたい放題だった。というか、架恋はわざとやっている節もある。
「ふーん。八十五億光年も彼方からはるばる送り込んできたのがこんな雑魚だなんて、レキサリオって星も深刻な人材不足ね」
「こ……殺すっ! この女! やっぱりあいつらと同類だ! 殺してやるーっ!」
「わーっ! 落ち着いてくださいクレハ姉さま! 滞在先で一般人殺しちゃったら本国強制送還になっちゃいますよぅ! そしたら二度とBL新作には巡り会えないんですよっ!」
「ぐぬぬぬぬ……」
ハンドガンを具現化したクレハドールは、ライカのその言葉に悔しそうに唸る。
とりあえず、プライドよりもBLが優先らしい。恐るべき腐女子根性だ。
「そうそう。雑魚には雑魚なりの役割だってあるかもしれないんだから、怒る暇があったら精進しなさいよ」
「うわーんっ! 架恋さんもマグマにガソリン注ぐようなこと言わないでくださいよう!」
……火に油を注ぐ、と言いたいらしい。
結局、架恋には言いたい放題言われつつも、根掘り葉掘り目的まで洗いざらい聞き出され、話し終わるころにはクレハドールもライカも撃沈していた。
レキサリオのエリート魔法師が、一般人の少女一人に撃沈。
何とも情けない図だった。とてもではないが故郷の仲間には見せられない姿だ。
一応誤解のない様に補足しておくと、レキサリオの魔法師レベルとして、Aランク以上は決して雑魚ではない。
レキサリオの魔法師の平均ランクはDランク。
キャリア組と呼ばれる魔法師達はBランク。
つまり、Aランク以上とは、レキサリオにおいてスペシャルエリートのことを指すのだ。
では凍澄が発現していたSSランクとは一体どの程度かというと、最早伝説に存在していたかもしれない……というくらいに有り得ない話だった。
レキサリオから惑星調査に向かわせる人材は、最低でもAランク以上が求められる。しかしレキサリオにおいてAランク以上の魔法師というのは、魔法師全体でも〇.二パーセントほどしか存在しない。
こればっかりは才能の限界であり、どうしようもない現実である。
そこで新たな技術として注目されたのが、融合型アークドライブシステムである。
クレハドールやライカがしている指輪のように、通常のアークドライブ端末を魔法媒体に使用するのではなく、生体端末を人間に融合させて、補助機能を大幅に引き上げようという試みだ。
マリセス・アインセルが提唱したこのシステムは、生体端末と人間との融合により、魔法師としてのパラメーターを底上げするだけではなく、適合率さえクリアすれば、魔法の使えない一般人でも魔法師としての力を得ることが出来るというものだった。適合率が高ければ、Aランク相当の魔法師としての力を得ることが出来る。魔法師が使用すれば、適合率次第でランクを二つから三つ分飛び越えることも可能になる。B→AAAのように。
だからこそ全く魔法知識のなかった殊巳がいきなり魔法少年としてそこそこ戦うことが出来、スペシャルとも言えるティアトリーゼと融合した凍澄は最強の力を振るうことが出来たのだ。
ここまで長々と説明して、一体何が言いたいのかというと、クレハドールとライカは、決して雑魚ではないと言うことである。相手が悪かっただけで、二人とも立派にスペシャルエリートなのだ。
……結果だけ見れば雑魚呼ばわりされても仕方がないかもしれないが。
「そもそも、何でレキサリオ人が地球に来てるわけ? べつに侵略目的ってわけじゃないんでしょ?」
話を少し聞いただけでも、地球とレキサリオとの技術レベル格差ははっきりしている。侵略するつもりならとっくにされているだろう。
「元々は惑星調査が目的でした。レキサリオは惑星交流が盛んな星です。星を跨いだ異文化交流に力を入れてるんですよ」
「だから、色んな星の色んな文化を取り入れてるわけ」
クレハドール達の現状はともかくとして、最初の目的は真面目な内容だったらしい。
「つまり、色んな星の文化と技術を取り入れることにより、更なる発展を目指している……って話?」
「いいえ。そこまで難しい話じゃないんです。ただ、レキサリオ人は新しい物好きなんです」
「………………」
訂正。真面目なだけではないようだ。調査と銘打っておきながら、本来の目的すらも娯楽性が強い。
「一次調査を終えたあたし達はこのままレキサリオに帰っても良かったんだけど……」
「出会っちゃったんですよぅ」
二人はうっとりとしながら、部屋の中のBLアイテムに視線を移す。
「「日本のBL文化にっ!!」」
そして声を揃えて力説した。
どうやら調査は終わったが娯楽のためにこの星に残っているらしい。




