10月31日
「国王陛下、ばんざーい!」
甘い香りと、パイ生地が焼ける匂いが広がっている。街中はくり抜いたカボチャや黒猫のオーナメントで彩られ、小さな子どもたちがシーツを被って走り回っていた。
「待って……っ、アリス!」
「エル、エル! イザベラおばあちゃんがね、キャンディーをくれるって!」
街の隅、小さな石造りの家の前で、子どもたちの列ができていた。列の先には大きなカボチャが気味悪く笑っていて、腰の曲がったイザベラがニコニコとキャンディーを配っていた。
焦れたアリスがエルの手を取った。早く並ばないと、キャンディーがなくなってしまうかもしれない。金色の魔法がかかったキャンディーはとても大きくて、しばらくおやつには困らないだろう。
不気味なカボチャに近付くにつれて、エルは行きたくないと思った。どうしてあのカボチャは不気味なのだろう。ほかのカボチャは可愛く、あるいは元気よく笑っているように見えるのに、イザベラは少しセンスがない……。
「ねえアリス、怖くないの?」
「どうして? おばあちゃんの魔法は本物よ。わたしやママやパパよりも、ずっと上手なの!」
魔法に本物と偽物なんてあるんだろうか。アリスの手をぎゅっと握る。カボチャを不気味に笑わせる魔法よりも、キャンディーをぎらぎらと金色にする魔法よりも、アリスが杖の先から星を出してくれる魔法の方が本物に見える。
「仲良しねえ。はい、どうぞ」
アリスは笑顔でありがとうと言って、エルはぎこちなく笑って、キャンディーを受け取った。
「アリス。ぼくのぶんもあげるよ」
「え! エルはいらないの?」
「ぼく、アリスの魔法がかかったキャンディーが欲しい……」
アリスの手に無理やりキャンディーを握らせて、エルはしゃがみこんだ。イザベラのことは優しいおばあちゃんだと思っていたが、どうしてもこのキャンディーだけは怖くて仕方がなかった。
「エル、顔を上げて」
じっとアリスの靴を見つめていると、柔らかい声と一緒に、小さなキラキラが降ってくる。これだ。エルはぱっと顔を上げて、そして笑った。
幼き日、甘くて苦い思い出。




