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「なんだその分厚い本」
「辞書。アルアドニスの古い言語、おじさんはどのくらいわかる?」
先日の物資配給では、アリスと話す時間はとれなかった。前回がそれなりに話し込んでしまったから、今回は怪しまれないようにそうするしかなかったのだ。
配給の中に、以前頼んだ薬草の苗木と種子、それからこの分厚い辞書が入っていた。薬草の箱には、国内で魔法薬を生産するための原材料として納品するよう指示書が入っており、合法的に栽培ができるよう手筈を整えてくれたのだと驚いた。
「何百年も前の言語じゃないか? 今生きてる人間はもう、誰も使ってないだろ」
「そうだよね。アリスがくれたから、魔法族なら使うのかなとも思ったけど……」
静かに眠っているカルラを見やる。カルラは魔法族だが、元々暮らしていた家の中にも、この古い言語が使われたものは見たことがない。
「エルは勉強家だからな。暇潰しにでもどうかって、たまたま家にあったものを差し入れたんじゃないか?」
「せめて、メモか何か挟んでくれてたらな。読んだ後は燃やしちゃえばバレないし」
「それ、今度ちゃんと言ってやれよ。アリスが思いついてないだけだ」
フレディは苦笑する。エルは頭の良い子供だが、ときどき周りの同い年でも同じように考えていると過信する部分がある。
エルは早速、紙切れに羽ペンを滑らせた。聞きたいことは山ほどあった。
エルは幼い頃に追放されてしまったために、本来アルアドニスの子どもが受けるべき基礎教育を受けていない。カルラやフレディが教えてくれたこともあるが、わからないことも多い。
「アルアドニスの法律……それから歴史が知りたいな」
「そんなの知ってどうすんだ? 今が平和ならそれでいいじゃねえか」
「もし異端が国王を倒したら、歴史が変わる」
フレディは言葉を失った。
「おいおい……縁起でもないな」
「そもそも、異端が現れること自体縁起でもないことだよ。今までどれだけの異端がいたのか、興味がある」
「……気持ちはわからなくもないが、知って気持ちの良いものでもないと思うけどな」
そうとは言い切れない、とエルは信じている。
少なくとも自分は、なぜ父さんが異端となったのか知らなければならないのだ。そうでなければ、自分も、母さんも、誰も彼もが報われない。




