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「アリス。あまり目立つ行動は避けて」
「ごめんなさい、ママ」
村からアルアドニスへと戻る途中、アリスは母親に叱られた。今日は少しエルと話しすぎてしまったし、村との接点を持つ配給係は特に、異端思想に染まる可能性で警戒されている。
アリスは時々考える。異端とは、本当に異端なのだろうか?
異端思想に染まるというのは、こういうことなのか。べナルドも元は配給係だった。だったらなぜ、陛下は国民に配給係を任せるのだろう……。
アリスは、アルアドニスで人気の花屋を営んでいる。
色とりどりの花々を魔法で輝かせ、時にはその場でドライフラワーへと変化させたり、手持ちの花瓶にぴったり合うようにカットしたりする。
中にはエルが村で育てた花もあった。彼の作る魔法薬の中には、植物の育成を手助けするものもあったのだ。
(エルが手助けしてくれた、って言ったら、誰もこの花を買わなくなるのかな……)
花が売れるたびに後ろめたい気持ちになる。エルの助けを借りた花の売り上げは、全て差し入れを賄うために使っていた。
「アリスちゃん。このラベンダー、綺麗ねえ」
「イザベラおばあちゃん! 今年は豊作だったんですって」
「おやまあ。どなたが栽培なさったの?」
花屋はあくまで花屋で、全てをアリスが栽培しているわけではない。
なんて答えたらいいのかわからなくて、アリスは黙り込んだ。
国民たちは、追放された異端の家族が何かしらの労働をしているとは知っているものの、具体的に何をしているのかまでは知らされていない。
「秘密の農家さんかしらね」
イザベラはのんびり言うと、ラベンダーの束をいくつか見比べたあと、一番大きい束を選んだ。
「きっと魔法薬の得意な農家さんでしょう。それから、国とは違う、新鮮な空気で育てられているわ」
「おばあちゃんはなんでもわかるのね」
イザベラは、アリスが幼い頃から懇意にしている魔法族だ。背中が曲がって、長い杖をついて歩いている。その杖から放たれる魔法は、酔っ払いの喧嘩をぴたりと止めてしまう強さを持っている。
「農家さんによろしくお伝えくださいね。よかったら、これをどうぞ」
イザベラは、カーディガンの袖の中から本を取り出した。アリスは驚いて目を丸くする。空間をコントロールする魔法は家の中や鞄の拡張に使われたりするが、服の袖のような小さい空間を広げるのはとても高度な技術だ。
分厚くて少しかび臭い本は、どうやら辞書のようだった。アルアドニスの古い言葉は、現代の言葉と似てはいるものの違う言語だ。
「おばあちゃん、どうしてこれを?」
「魔法薬の本の中には、古いものもあるからね」
エルにあげたら、喜ぶだろうか。
ありがとうと微笑むアリスに、イザベラは頷いて、しっかりとした足取りで花屋を後にした。




