1-4
「ねえエル、この間の魔法薬の本、少し難しくなかった?」
配給係が物資を運んでいる間に、アリスがこっそり耳打ちをした。エルは苦笑いをして、曖昧に返事をする。
アリスは、キラキラ星の魔法や、花吹雪の魔法が得意だった。魔法族にしか使えない、何もないところから美しいものを生み出す魔法。エルはそんな魔法が大好きで、小さい頃は自分にもできるはずだとアリスの杖を奪って泣かせたこともある。
「種類が多くて助かったんだけど、難易度で言えば簡単な方だったよ」
「そうなの? 私も少し読んでみたけど、ちんぷんかんぷん」
「アリス、少しは実用的な魔法も覚えたほうがいいよ。火の扱いとか」
「……わかってるわよ。でも私は、人間族と同じようにマッチを使う方が簡単なの」
何もない空中に向かってアリスが杖を振る。ぱちぱちと小さな火花が散ったが、それはキラキラ星に近い彩りを放って、火付けには役に立たなそうだった。
「アリス、こんなに話していて大丈夫?」
「平気よ。あまり時間は取れないけど、本当はママもパパもエルのこと心配してるんだから……そうじゃなかったら、私をここに連れてきてくれたり、物資に個人的なプレゼントを紛れ込ませたりしないわ」
「え? この本、アリスが選んでくれたんじゃないの?」
アリスは首を振って、ちらりと配給係——両親を見たあと、ウインクをする。
「もっと必要なものがあったら、いつでも言って」
時間だ。エルは名残り惜しく思いながら、慌てて本を捲る。配給係がアリスで本当に良かった。
「魔法薬の基本的な材料がいくつあっても足りないから、自分で育てたいんだ」
「種か、苗ね。狩りの道具も必要? 流石に武器扱いでだめかしら……」
「大丈夫だよ。物資と自然のもので作れるから」
「本当に人間族ってすごいのね。想像つかない」
魔法族には杖と知識を。人間族には道具と力を。アルアドニス国で古くから言い伝わっている役割だ。
「エルなら陛下も倒せてしまうのかしら」
ぼそっとアリスが呟いたあと、両手で口を抑えた。エルは思わず驚いて、アリスの顔をじっと見る。
詳しく聞く時間はもうない。アリスは逃げるように駆け足で馬車に戻って、物資のなくなった荷台に乗り込んだ。




