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巨人都市  作者: ハネクリ0831


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8/19

全ての始まり とにかく進む

???


イーサンは散弾銃をしっかりと構えたまま、湿った空気を切り裂くように前へ進み続けた。


足元の土は柔らかく、踏みしめるたびに水を含んだ音がする。周囲には見たこともないほど巨大な植物が立ち並び、葉は頭上を覆い尽くすように広がっていた。まるで森そのものが呼吸しているかのように、湿った気配がまとわりつく。


「……なんだよ、ここは」


低く漏れた声は、自分自身に向けたものだった。だが返事はない。


さっきまでいた荒野の乾いた風も、馬車の軋む音も、どこにもない。ただ、異様な静けさだけが支配していた。


イーサンは唾を飲み込み、もう一度叫んだ。


「リャン……! リャンリャン!!」


声は葉の間に吸い込まれ、すぐに消える。反響すらない。まるでこの場所そのものが音を拒んでいるかのようだった。


「おい……どこだよ、返事しろって……!」


苛立ちと不安が混ざった声が漏れる。指は無意識に散弾銃の引き金にかかる。だが撃つ相手も、守るべき対象も見えない。


一歩進むたびに、景色がわずかに歪む。木の幹のように見えたものが、近づけば脈打つ肉のようにも思えた。


「ここ……本当に同じ世界なのかよ」


イーサンは息を整え、もう一度周囲を見渡した。そして、低く、絞り出すように呟く。


「リャン……頼むから、無事でいろよ……」


背後で、草をかき分けるような音がした。


ガサ、ガサ……。


イーサンの身体が一瞬で反応する。反射的に振り向き、散弾銃を構えた。指先に力が入り、引き金の重みがやけに現実的に感じられる。


「……っ」


だが、引き金を引く前に、それは姿を現した。


巨大な影。


一瞬、甲殻類の怪物かと思った。装甲のように硬質な外殻が光を鈍く反射し、無数の足が地面を這うように動いている。空気がわずかに震えるたび、その巨体が土を押し潰した。


イーサンは息を止めたまま、銃口を微動だにさせない。


──撃つべきか?


しかし次の瞬間、違和感が頭をよぎる。


その動きは、どこか見覚えがあった。


「……ダンゴムシ……?」


呟きは自分でも信じられないほど小さかった。


それは確かにダンゴムシだった。ただし、常識から完全に逸脱していた。膝ほどの高さがある巨大な個体が、装甲を軋ませながらゆっくりと進んでいる。


丸まる気配はない。ただ、淡々と、目的もなく這っているだけだ。


イーサンは銃を構えたまま、動けなかった。


ダンゴムシは彼の存在に気づいた様子もない。まるで岩か木の根でもあるかのように、一瞥すらせず、そのまま横を通り過ぎていく。


土を踏む音だけが、やけに大きく響いた。


そして何事もなかったかのように、その巨体は巨大な植物の影へと消えていった。


静寂が戻る。


イーサンはようやく息を吐き出した。


「……なんだよ、今のは」


指が震えていることに気づき、彼は銃を少しだけ下ろした。しかし、完全には下ろさない。


ここは明らかに“普通”じゃない。


そして、その事実が今さらのように重くのしかかってきた。


また、背後で音がした。


今度は先ほどよりもはっきりと、草を踏み分ける気配。湿った土を押し潰す、一定のリズム。


イーサンの身体が即座に反応する。散弾銃を持ち上げ、銃口を音のする方へ向けた。


「……誰だ?」


声は鋭く、荒野で鍛えられた警戒心そのままだった。


一瞬の静寂。


そして――


「撃たないでくれ、私だよ。私!」


聞き慣れた声。


イーサンの目が見開かれる。


「リャン!」


次の瞬間には、彼は駆け寄っていた。勢いのまま、相手の肩を掴み、そのまま抱きつくように引き寄せる。


「無事だったのか……っ!」


安堵と怒りと安心が混ざった声だった。


しかしリャンは、必死に身体をよじって抵抗する。


「やめてくれ、私はそんな趣味はない!」


「ふざけんな、心配させやがって……!」


「いや物理的に近い近い!」


ジタバタとしたやり取りの末、ようやく二人は距離を取り、荒い呼吸を整えた。


湿った異世界の空気の中で、二人は小さな焚き火を囲んでいた。奇跡的に濡れていなかったマッチが火種となり、乾いた枝に炎が移っていく。


パチ、パチ、と小さな音が闇を押し返した。


イーサンは火を見つめながら、ぽつりと呟く。


「……いや、本当にさ。あの時は死ぬかと思った」


リャンは肩をすくめ、火の揺らめきを見ながら答えた。


「確かにな。五体満足で再会できたのが奇跡だ。日頃の行いがいいからだな、きっと」


「そういうことにしておくか」


短く笑い合う。


少しだけ空気が軽くなる。


そのとき、リャンが思い出したように顔を上げた。


「……そういえばな」


「ん?」


「湖から見た景色が、すごかった」


イーサンは眉をひそめる。


「景色?」


「お前、見てないのか?」


「いや……お前を探すのに必死で、それどころじゃなかった」


リャンは少しだけ目を細め、焚き火越しに遠くを見た。


「じゃあ、見に行こうぜ」


そう言うと、リャンはイーサンの手を掴んだ。


驚く間もなく、そのまま引かれる。


「おい、ちょっと待てって――」


「いいから。見ればわかる」


二人は焚き火を背に、巨大な植物の間へと再び歩き出した。

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