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巨人都市  作者: ハネクリ0831


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7/20

全ての始まり 水の中でもがく

???


イーサンの視界は、ほとんど何も見えなかった。


上も下もなく、ただ濁った水と砂が渦を巻いているだけの世界。肺に入る空気が一瞬で奪われ、代わりに冷たい泥水が喉へと流れ込んでくる。


「が……っ、あが……っ!」


声にならない音が、泡となって漏れた。


身体は思うように動かない。腕を振っても抵抗はすべて流れに飲まれ、足元はすでに地面を失っていた。


——引きずられている。


どこへ向かっているのかも分からない。ただ、強制的に“下流”へと運ばれていく感覚だけがはっきりしていた。


イーサンは必死に何かを掴もうと手を伸ばす。


だが指先は空を切り、代わりに流木のようなものが腕にぶつかって弾き飛ばされる。


「っ……!!」


衝撃で一瞬、意識が白く飛びかける。


それでも本能が身体を動かす。


息をしようとして、また水を飲む。


もがくたびに、さらに深く引き込まれていく。


遠くで、何かが叫んでいる気がした。


リャンかもしれない。馬かもしれない。あるいは自分の幻聴かもしれない。


「……あがが……っ!」


再び喉から漏れる声は、言葉にならない。


視界の端で、何か黒い影が流れていくのが見えた。馬車の残骸か、岩か、それすら判断できない。


ただ一つ確かなのは——


この荒野の鉄砲水は、人間の意思など関係なくすべてを飲み込むということだった。


濁流の勢いが、少しずつ弱まっていく。


さっきまで身体を引き裂くように押し流していた力が、まるで疲れ果てたかのように緩んでいった。


イーサンの身体がふっと軽くなる。


——浮く。


「っ……!」


本能のまま腕を動かし、水面へと顔を出した。


「ぷはっ……はっ……はっ……!」


肺に一気に空気が流れ込む。冷たいはずの空気が、やけに熱く感じられた。


咳き込みながらも、必死に呼吸を繰り返す。


「はぁ……っ、はぁ……っ」


濁った水の味が口に残っていたが、それでも“息ができる”という事実だけで生き返ったような感覚だった。


視界を確保すると、イーサンはすぐに身体を動かした。


流れの弱い方へ——本能的に岸を目指して泳ぐ。


泥水をかき分けるように腕を動かし、何度も沈みかけながらも、目の前に壁があった

しかし凸凹があり登りやすかった。

足を掛けて

そして壁を登り


「……っ、はっ……!」


そのまま転がるように地面へ這い上がる。


濡れた身体を引きずり、ようやく安全な地面に倒れ込んだ。


そして、そのまま——


大の字になった。


胸が上下する。心臓がまだ暴れている。


「……なんとか、生きてる……」


荒い息の合間に、かすれた声が漏れる。


しばらくそのまま動けなかった。


空を見上げると、雲はまだ重く垂れ込めている。だが雨は少し弱まりつつあった。荒野の暴れた呼吸が、ようやく落ち着き始めたように見える。


どれほど時間が経ったのか分からない。


やがて、イーサンはゆっくりと上体を起こした。


周囲を見渡す。


そして、すぐに気づく。


「……リャン、どこに行った」


声は自然と低くなっていた。


立ち上がり、濡れた服のまま周囲を確認する。だがそこにある景色は、彼の知っている荒野とは違っていた。


地面から突き出すように、異様な大きな植物が群生している。太い茎、異常に広い葉。まるで熱帯の密林の一部を切り取ってここに置いたような、不自然さ。


イーサンは眉をひそめる。


「あれ……ここに、こんなものあったっけ?」


鉄砲水が地形をえぐり、見えなかった地層や種子を一気に露出させたのかもしれない。あるいは、別の場所へ流されてきたのか——判断はつかない。


ただ確かなのは、ここがもう“さっきの荒野”とは違う場所になっているということだった。


イーサンは濡れた髪をかき上げ、息を整える。


そして、低く呟いた。


「リャン……」


返事はない。


イーサンは、まず深く息を吐いた。


濡れた服が肌に張り付き、体温をじわじわと奪っていく。それでも今は、生き延びているという事実の方が大きかった。


彼はゆっくりと視線を落とし、自分の装備を確認する。


指先で腰のホルスターに触れた。


そこには確かな重みがある。


「……ある」


短く呟き、留め具を確かめる。


拳銃は無事だった。泥にまみれながらも、まだそこに“戦えるもの”として存在している。


次に肩へ手を伸ばす。


散弾銃。


革のストラップは濡れて重くなっていたが、破損はない。金属部分を軽く叩き、状態を確認する。


「これさえあれば……」


口に出した瞬間、自分でも少しだけ息が落ち着くのを感じた。


——まだ終わっていない。


イーサンは拳銃を軽く引き抜き、動作を確認するように一度だけ構えた。砂と水で重くなった感触はあるが、致命的な不具合はない。


「大丈夫だ……まだ動く」


散弾銃を背に戻し、周囲を見渡す。


異様な巨大植物が風に揺れ、濡れた葉から水が滴り落ちている。その音がやけに大きく聞こえた。


イーサンは一度だけ目を閉じる。


そして、開いた。


「リャン……生きてるなら返事しろ」


返事はない。


代わりに、風が葉を揺らす音だけが返ってくる。


彼は拳銃の位置をもう一度確かめると、ゆっくりと歩き出した。


彼はゆっくりと立ち上がり、見慣れない植物の間へと足を踏み入れた。



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